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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第三部 第2章:閉ざされた未来

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第106話 冷徹な拒絶①

 王宮や貴族院からの誘いがますます強まるなか、パルメリアはそれらを一貫して「冷たく」突っぱね続けていた。周囲には当惑の色が日に日に広がり、やがてその戸惑いは「なぜ彼女はそこまで拒むのか」という怒りや非難、失望へと姿を変えはじめている。


 かつての彼女であれば、領地改革はもちろん、国政への提言にも積極的に関わっていたはずなのに、今では「興味がない」と断り、まるで無関係を貫こうとする。そのあまりの拒絶ぶりに、誰もが目を疑うようになっていた。


 この噂は公爵家の屋敷内に留まらず、あっという間に王都中を駆け巡る。かつて才覚を評価され、領地経営でもいくつもの改革を成功させた「パルメリア・コレット」が、なぜ今さら国政への協力を拒否するのか――。


 ある者は「まだ体調がすぐれないだけでは」「きっと何か大きな悩みを抱えているのだろう」と憶測し、またある者は「急に傲慢になった」「国を見捨てるつもりか」と批判する。そんなさまざまな声が、日を追うごとに増幅していく。


 王宮の一角にある大臣たちの会合でも、彼女への諫言(かんげん)や説得をどうすればうまく運べるかが議題にあがっていた。


「どうして彼女はこんなにも冷たい態度を取るのか」

「領地改革を成功させた実績のある才女だと聞くが……噂ばかりなのか?」

「いいえ、実際に彼女の助言を受けた領地では多くが改善されているという話ですよ」


 そうした議論が飛び交い、結局は「実力があるのは確かだが、当の本人にやる気がないのであれば仕方ない」という結論で終わることが多かった。しかし、このまま放置すれば国が傾きかねないという危機感を持つ者も少なくないため、なんとかパルメリアを説得したいという声が根強い。


 だが、パルメリア本人は、そうした周囲の動きをどこか遠くから見下ろすように受け止めながら、まったく態度を軟化させる気配を見せなかった。ここしばらくは、屋敷に引きこもって必要最低限の外出を避けており、過去のように広い世界へ自ら足を踏み出す様子は皆無だ。


 公爵家の廊下でも、彼女を訪ねようとする人々が慌ただしく行き来している。使用人からは、「お嬢様は応接室にいらっしゃいます」とか「自室にこもっておられます」と案内を受けるが、呼び出しに応じるかどうかは彼女自身の気分次第だ。それまでは拒み続け、けっきょく多くの訪問客が不満げな面持ちで帰っていく。


 いったいどうして、ここまで周囲を突き放すようになったのか。誰もその理由を具体的には知らない。ただ言えることは、パルメリアがあまりにも(かたく)なで冷たいという事実だけだ。


 かつて、彼女を直接知る一部の友人は言う。「以前の彼女ならば、王都に呼ばれて喜んで出向き、領地の改善案を堂々と提案していたはず」と。そんな思い出話があちこちで語られるほど、かつてのパルメリアは明るく、積極的に国の未来を語っていたらしい。ところが今では、「私なんかに救う力はない」と言わんばかりに周囲を拒み、過剰な期待にうんざりした表情を隠そうともしない。


 公爵家の廊下を歩く侍女たちも、時折小声で話している。「お嬢様に何があったのかしら……。昔のままなら、あの笑顔で『お役に立てるなら』と動かれたでしょうに」「ええ、本当に。最近はいくら頼まれても、『興味がない』と一蹴するばかりで……」などと、言葉尻には困惑がにじんでいる。


 屋敷にいる公爵も「娘に何があったのか」と何度となく問いただそうとするが、パルメリアは「疲れているだけ」「体調が悪い」と短く返すのみで、具体的な説明を一切避ける。公爵が「国が危機だというのに、どうしてそこまで関わりを拒むんだ」と本気で心配そうに問うても、彼女は目をそらしながら「私には関係ないことよ」と突っぱねる。


 そうしたやり取りが続くにつれ、周囲の人々の間には不穏な空気がじわじわと広がっていた。かつてのパルメリアを知る者ほど、その変化にショックを受けているのである。誰もが密かに「今の彼女はまるで別人だ」と疑問を口にするが、当のパルメリアにその声が届くことはない。


 ある日、知人の伯爵令嬢が、もう一度パルメリアを訪ねてきた。先日顔を見せたときも冷たくあしらわれてしまったが、なおも彼女の変貌を信じたくなくて、再度屋敷を訪れたのだ。ところが――。


「パルメリア様、今日こそは何かお話を伺えますか? 王宮でも大変な噂が広がっていて、私、とても心配なんですの……」


 懇願するようなその声も、パルメリアは「そう、でも私は元気よ」と短く切り捨てた。令嬢の愛想の良い微笑みが、みるみる悲しげな表情に変わっていく。


「……そ、そうですか……。でも、王宮から要職へのお誘いが何度も来ているそうで……昔は、あれほど皆を導いてくれたのに、どうして今はすべて……」

「興味がないの。ごめんなさい」


 パルメリアは、やや苛立ちがにじむ口調で言い放つ。令嬢は唇を噛みしめ、絶句したまま一歩退く。あまりにも冷酷とも言える言い草に、「どうしてこんなにも冷たいのか」という問いが喉元まで上がるが、それを口にすれば余計に彼女を刺激してしまうだろうと思い、令嬢は小さく頭を下げるだけだ。


「……すみません、また改めますわ。ごきげんよう……」


 令嬢が去っていった後、パルメリアは応接室の椅子に浅く腰掛け、腕を組んだまま黙り込む。室内は重い沈黙に包まれ、使用人すら近づこうとしない。まるで、そこだけが空気を凍らせたかのような雰囲気だ。彼女はわずかに肩をすくめ、平然とした態度を装いつつ、胸の奥に鈍い痛みを覚えていた。


(誰かに何を言われようと、私はもう動かない。かつての私がどうだったかなんて、どうでもいいわ。私はもう誰も救えないし、そんな力なんてないもの……)


 そう自分に言い聞かせるように目を伏せる。確かに前の人生では多くの人々を率い、革新的な革命を推し進めたかもしれない。だが、最終的には多大な血を流し、自ら処刑台で朽ち果てた――そんな惨劇を二度と繰り返したくはないのだ。


 しかし、「拒絶」にも限界があるというもの。こうして彼女がすべてを撥ねつけ続けることで、王都や周囲からは失望と非難の声がより大きくなっている。「傲慢な公爵令嬢」「人々の期待を踏みにじる冷血女」などという、辛辣(しんらつ)な批判も少しずつささやかれはじめた。


 友人たちもひそかに屋敷を訪れては、「パルメリアに一体何があったのだ」と口々に問いかけるが、彼女は会おうとしないか、会ったとしても冷たい態度で「何もない」と一蹴する。領地や改革についての質問が上がっても、「自分には関係ない」「興味がない」と返事をするだけ。かつて積極的に行動していた頃のパルメリアを知る彼らにとって、その態度は到底理解しがたい。


「もう、あのパルメリア様には戻らないのかしら……」

「あれほど活発だった彼女が、どうしてこんなにもひどく冷たくなってしまったのか」


 そんな嘆きや失望の声を耳にした侍女たちは、公爵家内でも不穏な空気が漂っているのを肌で感じ取っていた。どうしても「お嬢様が変わってしまった」という表現にならざるを得ないほど、その態度は硬い。あまりに冷めきっており、再三の説得にも応じない。


 やがて、ある大臣がこの屋敷を訪れた際、今度は公爵自身が娘に対し、半ば声を荒げるように言葉をぶつけた。


「パルメリア! 周囲がどんなにお前に期待しているか、理解しているのか? 以前なら、お前は『領地を良くするために』と力を惜しまず発揮していたじゃないか。なのに、なぜ今は……!」


 そのときのパルメリアは、まるで何かのスイッチが切れたかのような目を向け、平然と答えた。


「お父様、おっしゃりたいことはわかるけれど、私は興味がないと申し上げたでしょう。皆が期待していようが、私には関係ないわ」


 公爵は娘の態度に、明らかな苛立ちをにじませて唇を結んだが、これ以上問い詰めても答えが返ってこないことは重々承知している。彼女の瞳には確固たる拒絶の意志が宿っていて、「軟化」という選択肢を認めていないように見えた。


 このやり取りを近くで見ていた家臣や大臣が、互いに困惑の表情を浮かべる。王宮では「パルメリアこそが国の進路を示す救世主のような存在だ」という議論が盛り上がっているというのに、当の本人は一切動かず、親すらも近づけないという現状。


 この態度を目の当たりにして、大臣のひとりは思わずつぶやいたという。「本当に、彼女は国を捨てるつもりなのではないか」と。言い換えれば、それは「国や人々に対する冷徹な拒絶」に映ったのだ。そんな言葉がじわじわと拡散し、やがて多くの貴族や官僚の耳に届くことで、彼女への評価は失望や非難へと変わっていく。


「彼女には人々を救う力があると評判だったのに、なぜそれを使おうとしないのか?」

「王宮の要請を断り続けるなんて傲慢だ。いくら公爵令嬢とはいえ、国を見放すにもほどがある」


 さらに、一部の改革派の若手貴族からは激しい非難も飛び出す。「彼女こそ改革を実現する力を持っているのに、動かないのは身勝手だ」という声だ。それに対して保守派の一部は「パルメリア・コレットが動こうが動くまいが、たいして変わりはない」と揶揄(やゆ)する始末。どちらにせよ、誰もがパルメリアの態度を不可解かつ冷たく感じていた。


 屋敷には、一時的に激怒した来客が押しかけたこともある。自分の領地が火急の事態にあって、どうにか対処法を教えてもらいたいと必死になっている者だ。しかし、パルメリアはそれにも「私が関わる気はない。お帰りください」とあっさり返すだけ。結果として、その領主は「これほど必死に頼んでいるのに、あまりにも冷たい」と憤慨して帰っていったという。


 こうした「冷徹な拒絶」が積み重なれば、それまでパルメリアを(した)っていた者たちも次第に失望に染まるのは自然の流れかもしれない。彼女が断固として心を動かさない以上、誰かが説得を続ける意味も見いだせないのだ。


 王都でも、「彼女にはもう何を言っても無駄だ」「昔のような快活な令嬢ではなくなってしまった」という意見が支配的になっていく。中には「彼女はすべてを知りながら国を見捨てているのでは」と憶測する者もいるし、「実は病んでいるのではないか」と憐れみを口にする者もいる。とにかく、さまざまな噂が飛び交う中で、パルメリアの評判は複雑に揺れていた。


 そんな空気は、当然ながらパルメリアの耳にもかすかに届いている。屋敷の廊下で使用人たちが小声で話すのを偶然聞いてしまったときもあった。「お嬢様がどうしてあんなにも冷たいのか、私たちにはわかりませんね……」「ええ、昔は笑顔であいさつを返してくださったのに」などと嘆かれるたび、彼女は胸の奥で小さく痛みを覚えながら、それでも表向きはまるで感心がないように振る舞う。

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