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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第二部 第7章:革命の果てに

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第97話 残された傷跡④

 そうして皆が国を動かす中で、レイナーやユリウス、クラリスは否応なくパルメリアのことを思い出す。


「もし彼女が生きていれば、今のこの状況をどう見ただろうか」――


 独裁へ傾倒していった彼女には、粛清も戦争も必要な犠牲としか映らなかったのだろう。しかし、一方で王政を倒した革命の最初期には、確かに「民衆の自由と平等」を謳い、輝いていたパルメリアの姿があった。


 そのギャップを受け入れるのは苦しい。それでも、彼女が完全なる悪だけではなかったと知っているがゆえに、救えなかった悔恨は一層深い。


 クラリスは新設の医療拠点で、ふと漏らす。


「彼女がもっと早く気づいてくれたら、こんなに多くの命が失われずに済んだかもしれない。だけど、私たちもそれを止める力がなかった。結局、こうやって多くの血と涙を流す結果になった……」


 ユリウスは黙って目を伏せる。レイナーは唇を噛みしめたまま、言葉を発しない。やがて誰かが低い声でつぶやく。


「彼女が残したものは、何だったんだろうな……」


 答えは出ない。だが一つ確かなことは、王政を倒した革命がもたらしたものは、希望と破滅の両方であり、パルメリアという存在もまた「英雄」と「独裁者」の二面を宿していたということ。


 その是非を一言で割り切るのは不可能だ。だからこそ、この国に生きる人々は、いま一度自らの手で歴史を動かしていかなければならない。


 暫定政府は「復興委員会」の活動を拡充させ、さらに「臨時議会」を整備し始めた。そこに農民や商人、職人、学者など多様な人材が参加できるよう呼びかけている。まだまだ規模は小さく、国の大半が混乱しているが、これまでの「上からの支配」とは違う道を求める象徴として、じわじわと支持が広がっているようだった。


 どれほどの時間がかかるかは、誰にもわからない。年単位、あるいは十年単位の歳月を費やしても、過去の傷が癒える保証はない。それでもユリウスは言う。


「今、始めなければ、ずっと同じ道をぐるぐる回るだけだから」


 レイナーもうなずき、「僕たちが成し遂げられなくても、誰かが引き継いでくれる。大事なのは、この国がもう一度、血の革命や独裁に(おちい)らないための基盤を作ることなんだ」と力を込める。


 クラリスもまた、「私たちが去った後の世代に、研究や教育を安全に続けられる環境を残したい。王政も独裁も越えて、いつか本当の自由を手に入れた社会を作ってほしい」と微笑む。それはどこか儚げな笑みだったが、強い信念を感じさせる光を宿していた。


 パルメリア処刑後から数週間、まだ朝焼けが淡く街を染める頃、首都の瓦礫(がれき)の上に立っているユリウスの姿があった。少し離れた場所ではレイナーとクラリスが連れ立っている。


 夜が明けると同時に、一瞬冷たい風が吹き抜け、独裁者のいない世界の現実を突きつける。しかし、あの日の出来事を忘れられる人など、この国には一人としていない。


 ユリウスは遠くを見つめながら、かすかにつぶやく。


「今この国には、取り返しのつかない虚しさが残ったが、それでも歩まねばならない」


 レイナーはその背中に近づき、小さくうなずく。


「うん。僕たちは、もう後戻りはできない。王政も独裁も通り過ぎた先に、どれだけ深い闇が待っていても、進むしかないんだ」


 クラリスは穏やかなまなざしで二人を見つめる。


「いつかきっと、私たちの努力が報われる時が来るって信じたいわ。ガブリエルが、そして……パルメリアが流した血を、本当に無駄にしないためにも」


 その言葉に、ユリウスもレイナーも、それぞれに胸の奥で何かが震えるのを感じる。かつての仲間たちが選んだ道は違えど、すべてがこの大地に染み込み、今後の糧となる――そう信じるしかない。


 こうして「第二の革命」は、独裁者パルメリアの処刑によって確かに幕を下ろした。しかし、その後には膨大な傷跡と、いまだ晴れない不安が広がっている。


 復興委員会や臨時議会が今後どこまで機能し、どのように民衆の願いを吸い上げるかは未知数だ。けれど、レイナー、ユリウス、クラリスたちの決意は固く、ガブリエルやロデリックの悲劇を胸に刻みながら「もう二度と同じ過ちを繰り返さない」と誓っている。


 その思いが、やがてはこの国を再生へ導く一筋の光になるかもしれない。もっとも、先行きは険しく、問題は山積している。粛清の傷、戦争の爪痕、国論の分裂、経済の破綻(はたん)――どれをとっても一朝一夕に解決できるものではない。


 だが、深い闇を知ったからこそ、今の彼らは光を見失わない。かつて革命を信じ、独裁を打ち砕いた激情も悲壮感も、すべてはこの先の未来を築くための原動力となる。


 王政でも独裁でもない、民衆が自ら作りあげる政治と社会――その道は遠い。でも、遠いからこそ歩み始めるしかない。失われた命や仲間の想いを抱えながら、一歩ずつ前に進むのだ。


 ――朝日がさらに昇る。瓦礫(がれき)が照らされ、崩れかけた建物の影が長く伸びる。人々が目を覚まし、厳しい一日の労働へと向かう。そこには悲しみや倦怠もあるが、同時に小さな連帯や思いやりも生まれつつある。


 「革命の果て」に到達しても、世界は止まらない。パルメリアが去った今、この国は再び大きな転換点を迎えている。荒廃と絶望の中にも、新たな可能性が芽吹くと信じ、主要な登場人物たちはそれぞれの手で未来を描き始めるのだ。


 深い悲しみを伴った虚脱の空気のなか、それでも人は生きている。そして生きる限り、次の瞬間には何かを成していくことができる――。それこそが、革命後の世界に訪れた唯一の救いかもしれない。


 こうして、パルメリアがいなくなった国には、形容しがたい喪失感と混乱の只中にありながらも、かすかな再生への兆しがある。レイナー、ユリウス、クラリスは、仲間を失った痛みや自らの過ちを胸に抱き、それでも歩み続ける。


 多くの血と涙を流したからこそ、これから先は何としても同じ(てつ)を踏まない――その誓いだけが、彼らを前へ駆り立てる原動力となる。ガブリエルやロデリックの姿はもうないが、彼らの喪失は無駄にできないからだ。


 国中の人々もまた、王政と独裁の二つの支配を経験し、今は未曽有(みぞう)の苦境に立たされているが、そこからこそ本当の自由を模索し始める。自分たちの意思で生き方を選び、助け合い、議論し合いながら、新しい時代を築く。


 果たしてその先に何が待つのか。確かなことは、今のところ誰にも分からない。だが、夜明けを迎えた廃墟の首都には、朝日を受けて静かにたたずむ人々の姿がある。虚ろな瞳ながらも、もう一度だけ希望を探そうとしている――そんな風にも見える。


 もう「英雄」も「独裁者」もいない世界で、どこへ向かうのか。それはこの国の人々が自ら選び、進んでいくしかない道である。二度と王政や独裁の惨劇を繰り返さぬよう、すべての悲劇を背負いながら、歩を進めるほかに道はない。


 この国がかつて目指した「革命」は、多くの血と(ごう)を抱えて終焉を迎えた。だがその先に、新たな未来がほんの少しだけ見え隠れする。そう信じる者がいる限り、荒れ果てた土地にも芽吹きは訪れるのだ。


「二度と同じ過ちを繰り返さない」


 それがレイナー、ユリウス、クラリスらの誓いであり、彼らの新しい物語は、ここからゆっくりと動き出すことになる。パルメリアが(のこ)した数々の疑問と深い傷は、そう簡単には消えないが、だからこそ光を求めて歩く価値があるのだろう。


 ――そしてこの朝の光が、淡く薄紅色に染まる空へと向かう。首都の廃墟の上に一筋の陽光が差し、瓦礫の間から伸びた小さな雑草の葉先を照らす。それはささやかでも確かな「新生」の象徴のように見えた。


 国全体が寄り添い合い、助け合い、かつての王政でもなくパルメリアの独裁でもない、新しい制度と文化を育てられるのか――その問いに答えを出すのは、これからの歴史だ。


 しかし、希望はまだ消えていない。失われた多くの命と流された血の重さを痛感したからこそ、人々は再び立ち上がれる。その明日を信じる意志こそが、革命の終焉と同時に始まる、この国の本当の物語なのである。

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