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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第2章:変革の足音

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第12話 揺れる評判②

 ある日の夜会、王都の社交サロンでは上品な音楽が流れ、貴族やその取り巻きが軽口を叩き合っている。そんな華やかな一角で、ドレスを身に纏った貴婦人たちがパルメリアの名前を話題にしていた。


「聞いた話によると、ベルモント公爵派ですら彼女を下手に挑発できないらしいの。何か大きな証拠を握っているとか」

「とんでもなく抜け目がない娘だと聞くわ。美しい見た目に惑わされると痛い目を見そう」


 やや(おび)えた視線を交わしながら、彼女たちはグラスを交わす。


 そこへ、別の貴婦人が「まあ、でもコレット領を少しは立て直しているって噂もあるわよ」と挟むと、他の者が「それが本当ならやり手ね。そんな(したた)かな相手は近づくべきではないわ」などと言って笑い合う。


 その場にいた若い公侯子弟の一人が、「手を出したら、反撃されるかも」と冗談めかして言うと、誰もがまるで冷たい刃物でも見たかのような目をして、話題を変える。


 こうして、どこまでが事実でどこまでが噂か分からないまま、パルメリアは「危険な令嬢」という評価を宮廷内で固めつつあった。


 対照的に、コレット領では日々活気を帯びる農村の様子が話題になり、そこでは「お嬢様ならきっと何とかしてくれる」という希望の言葉が交換されていた。


 学舎で文字を習う子どもは増え、畑での収穫に少し余裕が出れば、近隣の村同士で協力し合う動きも見られる。先日は、罹災した農家に他の村から支援物資が届いたという報告もあった。


 村の広場では、ある老人がこう語る。


「昔はコレット令嬢といえば、社交界で華やかに遊び回るだけの人だと思っていた。ところが今じゃ、私らの畑にも足を運んでくれて、きちんと話を聞いてくれる。あんな貴族は初めてだ」


 別の中年男性が、深くうなずいて言葉を継ぐ。


「俺も初めは怖かったんだが、話してみると真剣に耳を傾けてくれるんだよ。確かに冷たい印象もあるが、それは根っから冷酷ってわけじゃなく、覚悟を持っているからなんじゃないか?」


 そうした噂は瞬く間に村々へ伝わり、「公爵令嬢は恐ろしい存在じゃなく、私たちを守ろうとしてくれる味方だ」という認識が急速に広がっている。


 そのギャップこそが、貴族社会と領内の評価を真逆に引き裂いていた。


 表向き、パルメリアは周囲の噂を気にかけているそぶりを見せない。だが、その内心には、「貴族社会でどんな噂が流れているのか」「領民がどんな期待を抱いているのか」をしっかり把握していた。


 夜、執務室で書類を整理しているとき、彼女は自らに言い聞かせるように思う。


(宮廷で「抜け目のない危険な令嬢」と呼ばれようが、領民が「頼りになるお嬢様」と思ってくれるなら、それでいい。噂なんて当てにならないし、結果こそが全てを語る。私は改革を続けるだけ)


 実際、保守派が彼女を危険視していることは都合がいい面もあった。変に近づいてくる小物貴族が減る分、彼女にとっては作業に集中しやすい側面がある。それに、相手が過剰に警戒してくれれば、それだけ奇襲をかけるチャンスを狙いやすいとも考えている。


 もっとも、改革を続ければ続けるほど、命を狙われる可能性が高まるのは事実だ。保守派にとって、パルメリアは「現体制を揺るがしかねない存在」として脅威となり得る。実際、暗殺未遂の噂も(ちまた)でちらほら聞こえてくるし、侍女や家臣の中には彼女を案じて「お気をつけください」と繰り返す者も多い。


 それでも、パルメリアは止まるつもりはなかった。彼女は自らの意志でこの道を選んだ以上、何があろうと前に進むと決めている。


 屋敷の廊下を歩く時、護衛騎士たちの視線を感じることも増えたが、それを鬱陶しいと思わず、「私を守ろうとしてくれる味方がいる」と心強く感じていた。


(命の危険はあるかもしれない。でも、それを恐れていては領地を変えることなんてできない。私にはもう後戻りの道はないわ)


 そんな思いを胸に、彼女は廊下を渡り、また一日分の報告を処理するため執務室へ向かう。


 同時に、真っ向から協力を申し出る者たちも増え始めていた。学舎をもっと広げたいという知識人、農業改革に賛同する若い領民、あるいはパルメリアを(した)う商人たち――みな、彼女の理想に共感し、「悪い噂など信じられない」と言って力を貸してくれる。この流れは彼女にとって大きな支えであり、保守派への対応を進める後押しにもなっている。


 こうして、貴族社会では「危険な令嬢」とささやかれ、領地では「頼りになるお嬢様」と(した)われるという真逆の評判が同時に膨れ上がっていく。


 パルメリアにとって、それはもはや慣れたもの――噂や誤解がどうあれ、彼女が目指す「改革の成功」こそが最終的な答えだからだ。結果を出せば、多くの人がその価値を認めざるを得ない。それが何よりも重要なことだとわかっている。


(どんなに噂が渦巻こうと、私のするべきことは揺らがない。成果を示し続ければ、やがて誤解は解けるか、私が危険な存在でも、領地にとっては必要な存在だと証明できる)


 彼女はそう独白しつつ、日々の執務や村の視察に勤しみ、改革を一層推し進めようと意気込む。


 公爵領内の雰囲気は、以前のような暗い空気から明るさを取り戻し始め、村の人々が自発的に動く姿も増えている。学舎には近隣の集落からも子どもが集まり、耕作法の改良を試してみたいという問い合わせも絶えない。


 執務室の窓辺から星空を仰ぎ見ながら、パルメリアは思いを巡らせる。宮廷で広まる自分への不穏な噂。領内で高まる期待と尊敬。どちらも彼女が望んでコントロールできるものではなく、偶然の産物のように膨張している。


 けれど、結果的にそれは「必要な衝突」と「確かな支え」の両輪を作り出してくれているとも言える。もし彼女がどちらの評判も気にせず歩みを続けるなら、いずれ大きな対決が起こるかもしれないが、その時には領内が十分にまとまっていれば、逆風にも耐えられるだろう。


 やがて夜が更け、屋敷に静寂が戻ったころ、パルメリアは机に向かいひっそりと新たな計画を書き留める。噂などどうでもいい。最終的には「結果」がすべてを物語るのだ――そう確信しているからこそ、彼女は今夜もまた筆を止める気配がない。次なる一手を準備しながら、領民の笑顔を思い描き、そして王都で渦巻く噂を意に介さず。


 成功しようが失敗しようが、結局は自分が決断した以上、誰かがとやかく言う筋合いはない――彼女の瞳に宿る強さが、そう告げているようだった。

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