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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第二部 第6章:独裁者の末路

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第92話 狂気の果て②

 パルメリアは血走った瞳を見開き、乱れた髪を振り乱している。頬はこけ、口元は引きつったようにゆがんでいた。見る影もないほどやつれながらも、その双眸には異常な光が宿っている。


「……ふふっ……誰……? 私の邪魔をしようというのね。……ああ、なんだ……あなたたちか……」


 その声にはもはや情愛も余裕も感じられない。背後には数名の親衛隊員と思しき者が倒れ込んでおり、彼女が自ら手を下したのか否か、部屋には濃厚な血のにおいが漂っていた。


「……パルメリア!」


 ユリウスが低く呼びかけると、パルメリアはびくりと肩を震わせ、(いびつ)な笑みを浮かべる。


「あははっ……そっか、ユリウス。あなたも私を裏切るのよね。ふふっ……みんなが、私を裏切るのね。……いいわ、構わないわ。どうせ、私に従えないのなら、皆殺しにしてやるのが……私の革命よ……!」


 その言葉に、レイナーは胸を(えぐ)られるような痛みを覚えつつ、足を踏み出す。


「もうやめろ、パルメリア。これ以上の血を流して何になる? ……君の革命は、誰を救うためのものだったんだ……!」


 するとパルメリアは鋭く剣を振り上げ、今にも斬りかかるような姿勢をとる。だが、体力が限界に近いのか、腕が震えていて、まともに構えられない。それでも瞳には狂気の炎が燃え盛り、鼻先で嘲笑を漏らす。


「ふふっ……私を倒せると思うの? この私が、どれだけの重責を背負ってきたか……あなたたちには分かるはずないのよ! 民を守るために、どれだけ血を流したと思ってるの? 誰も理解しようとしなかったわ……みんな私を見捨てるのよ……!」


 吐き捨てられる言葉には、「転生者」としての孤独や苦悩が絡みついているのかもしれない。しかし、今となっては仲間たちも、その内面を理解する余裕はない。


 ガブリエルが一歩進み出て、剣を構えながら叫ぶ。


「パルメリア様……お願いですから、剣を納めてください! まだ、手遅れでないなら――」

「黙れ……!」


 パルメリアは弱々しくも鋭い眼差しをガブリエルに向ける。


「ガブリエル……。ふふっ、あははっ……あなたまでも、私に逆らうのね。あんなに忠誠を誓ったくせに……。でも、いいの……どうせみんな私を裏切るんだから。結局、私ひとりが全てを背負うしかないのよ。ならば……あなたが散ろうが関係ない。私は最後まで、この国を守り抜くわ……!」


 腕を振りかざそうとするが、やはり力が入らないのか、一瞬よろめく。レイナーはとっさに駆け寄り、その腕を押さえるように止める。


「パルメリア……もう終わりだ。君の独裁は、国をさらに破滅へ導くだけだ……! 頼むから……降伏してくれ!」


 しかしパルメリアはそれを聞くどころか、押さえつけられる腕を必死に振り払おうとする。その口から漏れるのは、まるで呪詛のような罵りの言葉と、虚ろな笑い声――。


「ふふっ……誰も……誰も私を分かってくれない! 私がこんなにも……こんなにも苦しんで戦ってきたのに……あははっ……! 許さないわ、あなたたちを……絶対に許さないんだからっ……!」


 その瞳からは大粒の涙があふれ出ている。もはや理性を失った姿に、ユリウスも声を詰まらせる。かつて、王政を倒すときに見たパルメリアは、誰よりも強く、希望を体現する存在だったはずだ。


「どうして……どうしてこんなふうになってしまったんだ、パルメリア……」


 ユリウスの声は震える。後悔と悲しみ、それから怒りさえ混じっている。多くの命を奪い、多くの悲劇を生んだ張本人を、いまだ「仲間」と呼べるのか。理性では否定しても、心がそう簡単に割り切れない。


 ガブリエルはその場で剣を下ろし、かつて誓った騎士道の象徴ともいえる動作――膝をつくようにして、パルメリアを見つめる。


「……パルメリア様。私の忠誠心が嘘だったわけではありません。ずっと、あなたを守るために戦ってきたつもりでした。――でも、結果はこんな惨状になってしまった……。どうか、剣を置いてください。これ以上、誰も殺さないでほしい……」


 パルメリアは荒い息を繰り返しながら、その場で瞳をぎらつかせる。唇からは血の気を失ったような青ざめた色が見え、頬はこけて骨張っていた。


「ふふっ……あははっ……何をいまさら、奇麗事を……。どれだけの血を私に流させて、今さら止まれって? ……止まれるわけないでしょう……! 皆殺しにしてでも、私は革命を完遂するのよ……! ふふっ、あはははははっ……」


 もはや狂信以外の何者でもない笑い声が、執務室の壁に反響する。その声はヒステリックでありながら、同時にどこか空虚でもあり、聞く者の心を冷え切らせた。


 クラリスはそれを見て、思わず涙を浮かべながらレイナーにささやく。


「……どうすれば、あの頃のパルメリアに戻ってくれるの……? 今の姿を見たくなかった……」


 彼女の言葉に答える者はいない。答えられる者など、もういないのかもしれない。


 だが、そんな悲嘆の間にも、パルメリアは剣を握り直し、ユリウスやレイナーから少し距離を取るように身体を(ひるがえ)そうとする。視線は泳いでいるが、そのまま突きかかるつもりなのかもしれない。


「……みんな、離れろ! あまり近づくと危険だ!」


 ユリウスが周囲の兵たちに呼びかけると、確かに兵士たちは身構えるものの、パルメリアの憔悴した様子に戸惑いも隠せない。


「ふふっ……あははっ……私を倒そうというの? なら、やってみなさいよ。私は……私はこの国を守るためなら、何もかも犠牲にするわ……!」


 彼女の叫びは低く震え、床に落ちた書類の山を荒々しく蹴散らす。血生臭い空気をかき回すようなその動作に、誰もが言葉を失う。どんなに説得しようと、彼女は今、深い狂気の迷路に閉じこもっているかのようだ。


 けれども、その剣はやはり重く、パルメリア自身も限界に近いと感じられる。呼吸は荒く、瞳には涙が浮かんでいる。愛する国を救おうとしたはずが、どうしてここまで破滅的な道を歩まねばならなかったのか――彼女の心中は暗闇の嵐が吹き荒れているようだった。

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