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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第二部 第5章:再び燃え上がる革命

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第85話 第二の革命①

 新たなる決起の呼び声――それは、まるでかつての革命をなぞるかのような響きとともに、王政を倒した時よりもさらに悲壮な切実さを帯びて、人々の胸に刻まれていた。


 パルメリアが狂信とも呼べる独裁と戦争政策を一方的に続ける中、各地で小さな暴動や抵抗運動が点在し始め、やがてそれらが水面下で連携を図るようになってきたのだ。


 夜陰の路地に貼り付けられるビラ、農村で密かに配られる手紙、都市の裏通りで交わされるささやき――それらが少しずつ繋がり合い、「第二の革命を起こすしかない」というひそかな合意を形成しつつある。


「あの日、王政を倒した時のように、今度はパルメリアを倒さなければ、私たちに未来はない」


 かつて「王政に苦しむ民を救う」という使命を帯びていたパルメリアが、今では民にとっての「圧政者」となり果てているのは、なんとも皮肉でしかなかった。


 ある夜、首都の外れにある廃墟のような倉庫街で、古い扉がきしむ音がした。そこに姿を見せたのは、長いマントを羽織り、顔の半分を隠した男――ユリウスである。かつては「革命のリーダー」と称えられ、王政打倒の立役者の一人だったが、今ではパルメリアとの決裂を経て半ば行方をくらましている存在だ。


 彼を出迎えたのはクラリス。農業・教育・科学の分野で改革を牽引していた才媛だったが、今や独裁を嫌って離反し、地下に潜らざるを得なくなっている。


「こんな場所で会うのは、何度目でしょうか。……危険な賭けになります、ユリウス。保安局の目が光っていますから」


 クラリスは低く警戒する視線をあたりに巡らせてから、ユリウスに近づく。彼女は疲弊しているようにも見えるが、その眼差しには鋭い輝きが宿っていた。


「わかってる。それでも、話さなきゃいけないことがある。……民衆の不満がついに臨界点を越えつつあるらしい。知っているだろう?」


 ユリウスは声を落として言う。実際、王政を倒した後の混乱期に比べても、今の方が遥かに民衆の生活は酷く、さらに外征による戦争が長引いている。


 クラリスは「ええ、もちろん感じています」と短く答え、少し息を詰めたような顔で続ける。


「今まで幾度も小規模な暴動が起こりましたが、保安局がすぐに弾圧してきました。ところが最近は、あちこちで『第二の革命を』という声が出始めています。ビラも多数出回っていて、統一した指導者がいないのに連携を取り合いはじめているようです」

「……みんな『あの頃』の記憶があるんだろうさ。もし王政を倒せたのなら、同じ手段でパルメリアも倒せるって。状況は違うけど、絶望の度合いは王政時代より深いのかもしれないな」


 王政時代、あれほど熱く語り合った仲間が、今や国を破滅へ導く独裁者となるという運命が、どこか悪夢のようだった。


 ユリウスもクラリスも、その結末がどうなるかを考えるたびに胸が重くなる。だが、もう誰もが逃げられない状況だ。


 二人が話をしていると、背後から音もなく近づいた者がいた。振り返ると、そこにいたのはレイナー。彼はパルメリアと幼馴染という立場で、今も政府内部に籍を残しながら、水面下で仲間たちに情報を流してきた。


 冷たい夜風の中、レイナーは吐息をこぼすように話し始める。


「……軍の動きも尋常じゃないよ。外征が思ったほど順調に進まなくなってきているみたいで、周辺諸国が連合軍を結成しそうな動きを見せてる。かえってパルメリアは『今こそ強硬策だ』と叫んでいて、内部の粛清はますます激しくなりそうだ」

「そうか、もう一刻の猶予もないな。民衆は確実に二度目の革命へ突き進もうとしている。俺たちはどう動く?」


 ユリウスが問いかける。レイナーは複雑な表情を浮かべて視線を伏せ、言葉に詰まる。


「僕だって何度も止めようとした。でも彼女の『狂信』はもうどうにもならない。外征が失敗する兆しが見えても、かえって『さらに征服を広げればいい』と信じ切ってる。ほんとに、もはや……救いようがない」


 ユリウスもまた眉を寄せる。


「狂ってるとしか言えないな……王政を倒した英雄が、今度は『革命を起こされる』側になるなんて。俺たちはこれを『革命』と呼んでいいのかどうかもわからないが……民衆がもう限界なのは確かだ」


 クラリスは静かにうなずき、肩を落とす。かつては農業改革や教育の推進に燃えていた彼女も、今は不毛な戦争政策と粛清に利用されるだけの現状を見て、深い絶望を抱いている。


「ユリウス、あなたはどうするのですか? 私はもう決めました。パルメリアを止めるためなら、どんな手段に出ても構わない。研究も何も全部奪われて、民が飢えて死ぬ姿なんて、これ以上見たくないです」

「……俺も今度こそ、やるべきだと思ってる。二度目の『革命』は、悲劇の繰り返しになるかもしれないが、黙っていては国ごと消滅する。死ぬか……戦うか、それしかないだろう」


 ユリウスは覚悟を固めた声でそう告げた。レイナーは唇を噛み、一瞬だけ目を閉じる。心の中には「自分はまだ政府に残ってパルメリアを止めようとしたが、結局は叶わなかった」という無力感が渦巻いている。


「僕も協力するよ。パルメリアを止めるというよりは……『あの頃の彼女』を取り戻したい気持ちもあるけれど、もう遅いんだろうな。ああ……皮肉だね。これは『救い』になるのか、それとも『破滅』なのか」


 レイナーのその言葉は、どこか虚ろだった。だが、三人はこれまでの歩みを振り返りながら、もう後戻りできない現実を認め合う。次に来る大きな波は、簡単には消えないだろうし、その波に飲み込まれるのか、それとも乗り越えるのか――答えはわからない。


 数日後、ユリウスは早速動き出した。都市の下層や農村部へと足を運び、複数の抵抗グループを繋ぎ合わせる役割を果たすためだ。


 かつて革命を指揮した時に(つちか)ったネットワークはまだ完全には消えておらず、彼が少し声をかければ、夜の闇の下に十数人が集まり、さらにそこから数十、数百へと広がる可能性が生まれてくる。


「王政を倒したときは、もっと大勢が一斉に立ち上がって勝利を勝ち取った。今度はどこまで力を集められるか……」


 ユリウスは一軒の小さな納屋で、十数人を前につぶやくように言う。その一人がためらいがちに声を上げた。


「パルメリアの方が、王政より強いかもしれないんだ。それでもやるんですか? 万が一失敗したら、今の粛清なんて比じゃない地獄になる」

「わかってる。でも、諦めたらもっとひどい地獄が続くんだろ? どの道、俺たちには『やる』しか選択肢はないんじゃないか」


 ユリウスはそう言い切ってから、一人ひとりを見渡す。誰もが疲れきった面持ちだが、その瞳にはかすかな決意が輝いている。かつて王政を倒した時と同じか、それ以上に切迫した覚悟がありありと見て取れた。


 そして、新たに手を組んだ集会の代表が告げる。


「軍の中にも不満を抱く兵士がいるらしい。奴らの連絡をうまく繋げれば……ある程度、武器や装備の面で優位に立てるかもしれない」

「そこは慎重にやってくれ。保安局には絶対に嗅ぎつかれないようにな。レイナーが多少は役に立てるはずだから、連絡が必要なら俺を通してくれ」


 こうして、小さな集会が終わり、ユリウスはまた別の場所へ向かう。表向きは姿を消していた彼が本格的に動き出したという噂は、瞬く間に各地に伝わり、かつての「革命のリーダー」が復活したのではと期待が高まる。


 同時に、秘密警察も「ユリウスが帰ってきた」と警戒を強め、捜索を活発化させている。まさに一触即発の状況だ。


 一方、レイナーも政府内部で危険な綱渡りを続けている。外交担当として、周辺諸国との接触ルートを持つ彼は、パルメリアの命令を装いながら外部に物資を調達させ、その一部を地下組織へ流すなどの工作を密かに行っていた。


 ある日、レイナーは大統領府の小部屋で、ひとり書簡を読み込んでいた。海外から密かに届いた情報によれば、「対共和国連合」が本格始動しつつあるらしい。それが外征をさらに泥沼化させ、国内疲弊を加速させるのは明白だ。


「……こうなる前に、彼女を止めたかったけど……結局無理だったね。まったく酷い話だ……」


 レイナーは嘆く。王政を倒した頃、パルメリアと共に新時代を築けると思っていた自分が、今や「彼女をどう打倒するか」を画策しているのだから、なんとも皮肉な運命だった。


 彼は書簡を丁寧に焼き捨て、灰を確かめると、わずかに表情を(ゆが)める。


「クラリスやユリウス……彼らは動いてる。僕も信じていいんだよね? いつか本当に、この国を救えるかもしれないって。いまさら何を言ってるんだか……」


 そう自嘲気味につぶやき、レイナーは次の行動計画を頭の中で組み立てる。パルメリアの監視の目を逃れながら、外部との微妙なパイプを保ち、必要な物資を抵抗組織へ回し、情報をユリウスやクラリスと共有する――そうした危険な綱渡りを続けるしかないのだ。

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