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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第二部 第4章:破滅への道

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第83話 改革の虚像②

 首都の大統領府にある政務室。そこにはパルメリアが執務室とは別に設けた、いわば「戦時統制」のための会議スペースがある。大きな机に各部門の長が集まり、軍事・保安局・経済官吏が一堂に会していた。


 パルメリアは地図を眺めながら、薄く微笑む。


「見て。この道路と工場ができたからこそ、私たちは外征を続けられているわ。ふふっ……これこそ『私の改革』の成果じゃない?」


 周囲の官吏たちが一斉にうなずき、「大統領の仰るとおり」と唱和する。だが、その顔にはどこか影が差している。誰もが「民の暮らしに貢献しているとは言い難い」と心の底で思っていながら、口には出せないのだ。


「次はさらに工場を増設し、武器の生産を強化するわ。反対する者がいれば、保安局が適切に対処してくれるでしょう。……ふふっ、誰も文句なんて言わないわよね?」


 「ふふっ」という笑いに、官吏たちは恐怖を抱く。パルメリアの目は既に理性的な光を失い、狂信に近い執着で「改革」という名の戦争体制を押し進めている。


 この会議では誰も否定的な意見を言えず、むしろ積極的に軍需に合わせた施策を提案していく。農業改革や教育拡張の話題はかき消され、土地の再編も戦略物資の供給を優先させるためのものにすり替わっていく。


 会議が終わり、パルメリアはひとり政務室に残った。机の上には、一連の「改革進展」の報告書が積まれているが、そのほとんどが兵器工場の生産量や軍用道路の完成率を示すデータに過ぎない。


 ふと彼女は一枚を手に取り、目を細める。


「わかっているわ、こんなのは『本当の改革』じゃない。だけど、仕方がないの……勝利をつかむために、今はこれが必要なの。国民には負担を強いているけれど、それを乗り越えれば私たちの未来は開けるのよ。ふふっ……そう、これは『正義』の形なのだわ……!」


 彼女自身、ここまで軍事優先の国家にするつもりはなかったはずだ。だが、粛清と外征を止めれば、自分が築いた体制が崩れ、再び混乱と反乱に飲まれると信じ込んでいる。もはや撤退という選択肢は彼女の頭の中になく、実際、保安局の連中も「さらに強硬策を」とささやいていた。


(私が王政を倒したのだから、最後までやり遂げるしかない。皆が幸せになるには、多少の犠牲は仕方ないわ。ふふ……私が頑張れば、それで解決するの。誰にも邪魔させない。誰もが従っていればいいのよ……!)


 その思考にはもはや狂気が混ざっている。ほんの少しでも揺らぎを見せれば、全てを失う――そんな恐れが、彼女をさらに「改革の虚像」へと固執させているのだ。


 首都の一角では、戦勝を称えるポスターや「改革は順調」というスローガンが貼られている。しかし、その紙が剥がれ落ちた下には、王政時代の古い布告が顔をのぞかせることもある。


 それを見てある市民が嘆息する。


「王政と変わらないどころか、あの頃より酷い。重税や戦争のために、俺たちは疲れ果ててる。『改革』なんて言葉、もう聞きたくないよ」


 周囲を見回すと、保安局の視線がありそうで、彼は急いで口を閉ざす。こうして、みんなが自分の思いを押し殺し、表向きには「改革は素晴らしい」と拍手するしかない。そんな異常がこの国の「日常」になっている。


 一方、レイナーは大統領府の一室に閉じこもり、各地から届く報告に目を通していた。戦局は拡大し、国の財政は火の車だという。にもかかわらず、パルメリアは「さらなる外征」と「改革の推進」を並行して行うと宣言している。


 そこでふと、旧友のクラリスがかつて残した研究や計画書――農業技術や義務教育の制度改革など――が目に入る。それらは今や埃をかぶって放置され、まったく手をつけられていない。


(こんな形で終わるなんて……革命のころ、みんなで希望を語り合ったあの日々は、いったい何だった?)


 思わず書類を握りしめ、レイナーは苦悶の表情を浮かべる。しかし、パルメリアに進言しても「今は戦時下。余計な事業にかまけてる暇はない」と切り捨てられるだけだろう。かといって、彼が声を上げれば保安局の疑いを買い、粛清されるかもしれない。


 この国は、まるで巨大な暴走機関車のように、「改革」とは名ばかりの軍需体制を突き進み、刹那(せつな)的な戦果と虚飾にしがみついている。どこかで止めなければ破滅が来るとわかっていても、誰も止める術を持たない。


 ガブリエルの司令部には、時折「新設の工場が稼働し、兵器や補給品が増産されている」という報告が届く。それを受け取るたび、彼は胸に重いものを感じる。「改革の名で作られた兵器が、さらなる流血を生む」という矛盾――かつて守りたいと願った国が、どれほど血の道をたどるつもりなのか、まるで光が見えない。


「司令官。どうやら大統領府は『新しい改革が功を奏し、兵器の供給が安定している』と宣伝しているようです……」


 副官が悲痛な面持ちでそう告げるが、ガブリエルに返す言葉はない。彼はただ、深く息をつき、机上の書類に目を落とす。そこには現地住民の抵抗や、略奪による被害が増えている旨の報告が並んでいる。


「……これほどの犠牲を払って手に入れる『改革』とは、いったい何なのだろうな」


 ガブリエルが小さくつぶやいた言葉に、副官は何も答えず、静かに頭を下げて退室する。お互い、痛いほど理解しているのだ――この問いに答えられる者など、いないのだと。


 さらに外征が拡大すれば、戦場は他国の主要都市にまで及ぶだろう。拠点や補給路となる橋や道路は「改革の成果」と呼ばれるが、その背後では死や蹂躙(じゅうりん)が渦巻いている。保安局員は「抵抗があれば容赦なく殲滅(せんめつ)せよ」と迫り、ガブリエルら国防軍は逃げ場を失う。


 パルメリアが遠征軍を見送る際、「ふふっ……あなたたちなら必ず勝てるわ。全ては革命の理念を世界に広めるため」と笑うたびに、その笑みの奥で何かが狂っていることを誰もが感じながら、誰も言葉にできない。


 こうして外征と粛清とが止まらないまま、戦費と人命を(むしば)んでいく。しかし、民衆には「勝利が近い」「新時代はもうすぐ」と宣伝され、実態を知る者は保安局の陰で沈黙を余儀なくされる。


 このようにして、パルメリアが掲げる「改革」は、あくまで外征を正当化し、軍備と粛清を推し進める道具として機能していた。農業や教育、医療などの本来の改革案は放置され、国民にとっての豊かな生活は遠のくばかり。それでも政府はプロパガンダを駆使し、堂々と「私たちの改革は成功しつつある」と誇示する。


 民衆の目から見れば、それは虚飾に満ちた絵空事にすぎない。だが、保安局による徹底的な監視と弾圧があるため、それを指摘できる者はいない。抵抗すれば「裏切り者」として粛清されるか、あるいは外征の前線に送られる運命が待っている。


(このままでは、いったいどうなるのか……革命で勝ち得たはずの自由は、いつの間にか「戦争」と「独裁」に侵食されて、もう戻らない。外征が盛り上がれば盛り上がるほど、改革は見せかけの虚像になっていく)


 レイナーもガブリエルも、そう感じながらも何もできないでいる。おそらく他の残された仲間も同じ思いだろう。かつて夢見た改革は、兵器工場や軍道として(ゆが)んだ形でしか残っていないのだ。


 パルメリアは「これこそが国の未来のため」と狂信を深め、「ふふっ……私に従えばみんなが幸せになれるわ……!」と微笑みながら、さらなる外征を呼びかける。そうやって勝利を積み重ねさせる一方で、国は疲弊し、飢餓や疑心暗鬼、そして無数の死が蔓延(まんえん)している。


 ――こうして「改革の虚像」は国全体を包み込み、外征が一層激化していく流れに拍車をかける。名ばかりの進歩や開発が「軍事力の強化」にしか繋がらない状況のなか、民は口をつぐみ、官吏は従うしかなく、わずかに残った良心を抱く者たちはただ胸を痛める。


 あの頃、王政を倒して手に入れたはずの自由や発展への希望は、今や血と飢餓の深淵へと続く狂気の道を飾る幻影にすぎなかった。何もかもが破滅へまっしぐらに進むこの国で、「改革」という言葉だけが空しく踊り続ける。


 結局、それらが虚像に過ぎないと理解しても、すでに退くことは許されない。粛清と保安局の恐怖が全てを支配し、レイナーもガブリエルも、そしてまだ生き残る民も、押し黙って従うしかない。外征の拡大と共に改革を謳い続けるパルメリアの姿は、かつて彼女が憎んだ王政以上の独裁者へと変貌しているのだから。


 その道が破滅であることを、誰もが――おそらくパルメリア自身も――心の片隅では感じている。けれども、この独裁の歯車を今さら止める術はない。「改革の虚像」を掲げながら、国はなおも激しい炎の中へと進み続けていた。

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