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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第二部 第4章:破滅への道

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第83話 改革の虚像①

 首都の大通りに面した巨大な掲示板には、いつもなら物価や街の催し事などが貼り出されているはずだった。だが今、その大部分を占めているのは「国の改革が進んでいる」という官報の布告――大文字で「共和国の新時代」と書かれ、華麗な装飾に彩られた宣伝文が貼り付けられている。


「布告:改革の恩恵、全国へ――

 新設の兵器工場を核とし、近隣地域に仕事を提供!

 軍用道路の拡張で人と物資が活発化!

 国の繁栄は、我らの勝利により保証される!」


 遠巻きにその布告を読んでいた数名の市民が、小声でささやく。


「『兵器工場を核とした仕事』だってさ。これでまた軍需産業が盛んになり、物価は上がる一方ってわけか」

「それに『軍用道路』って、要するに前線へ物資を運ぶための道でしょ。民の生活が豊かになるなんて書いてないじゃないか。結局、戦争を続けるための『改革』ってことさ」


 だが、その会話を長々と続けることは許されない。すぐ(そば)には保安局の制服を着た若者が何気なく立ち、耳をそばだてているのがわかる。市民たちは慌てて口をつぐみ、そそくさとその場を離れた。


(王政が倒された頃は、農地改革や教育制度の拡充なんかが話題になっていたのにな。今じゃ兵器工場と軍用道路ばかりだ。いったい、いつになったら俺たちの生活は良くなるんだ……)


 そんな嘆きが、小さく心に渦巻くだけで、誰も声を上げられない。新聞や演説では「対外戦争による栄光」「軍の発展が経済を潤す」と盛んに謳われ、パルメリアはさらに強硬な態度で「新しい改革」を押し出していた。


 大広場の一角。演説用の台が設けられ、そこにパルメリアが登壇する。取り巻くのは保安局員と軍兵士たち。その威圧的な警備のもとで、民衆は遠巻きに耳を傾けるしかない。


 パルメリアは、艶やかな軍装をまとい、王政時代では考えられないほどの豪勢な装飾品まで身につけていた。もはや「革命の英雄」ではなく、「独裁を体現する女王」のような姿だ。


「皆さん、聞いてちょうだい。ふふっ……この改革は、私たちの国を世界の頂点へ導く大いなる一歩なの。新設の工場で雇用が生まれ、軍用道路の拡張によって物流が活発化するわ。これこそ『勝利』がもたらす恩恵よ。私たちが恐れる必要はない。外征は順調に進み、敵国の圧政から解き放たれた人々も、私たちの正義を称えてくれている……ふふっ、そう、全てはうまくいっているの!」


 大仰(おおぎょう)な言葉に、民衆は呼吸を殺したまま耳を傾けるしかない。保安局員たちが睨みを利かせているため、下手に疑問を口にすれば粛清されかねない。実際、ここ数日だけでも「改革を批判した」との理由で連行された者がいるという噂が絶えない。


 演説の終わりに、一部の官吏や取り巻きが拍手を送るが、それはまるで強制されたかのようにどこか空虚な響きを伴っていた。王政を倒した頃のような熱狂や希望は、そこには存在しない。


 首都郊外にある新たな工場の建設現場。そこでは大勢の労働者が朝から晩まで汗を流しているが、周囲に漂うのは鉄の臭いと、重苦しい空気。


 工場の外壁には「革命の成果」「国の進歩を象徴する新技術拠点」と大きく掲げられているが、実際に生産されるのは砲弾や銃剣の材料、それに装甲車の部品などといった軍事物資ばかり。


 ある労働者が小声で愚痴る。


「こんな危険な金属加工ばかりやらされて、賃金は雀の涙だ。昔の王政でもこんなに酷くはなかったのに、結局『改革』って何なんだ……」

「黙れ、保安局に聞こえたらどうする。命が惜しくないのか」


 近くにいた仲間が慌てて口を封じ、二人は互いに視線を交わす。かつては革命に期待していた人々が、いまは恐怖に押し黙らざるを得ない。そうして彼らはひたすら軍需品を作り続ける。疲労と危険の中で、賃金の一部は戦費として天引きされ、過酷な労働には終わりが見えない。


 同様に、国中の橋や道路が急ピッチで整備されている。しかし、その多くは前線へ素早く兵員と物資を輸送するための軍用路だ。


 新設された巨大な橋が報道され、「民の利便性が向上する」と謳われても、実際にそこを行き来するのは軍や保安局の車両ばかり。一般の人々は検問に阻まれ、通行が制限されることさえある。


「俺たちの税金で作った橋だってのに、なぜ通れないんだ? 俺はただ、商品を運びたいだけなんだが……」


 そう食い下がる商人に、検問所の兵が渋い顔で答える。


「通れるには通れるが、検査と通行料を支払え。すべては軍の安全保障が最優先だ。疑わしい物資があれば没収だぞ」


 商人は歯噛みして立ち尽くすが、逆らえば粛清の対象になるかもしれない。こうして、「公共工事」が実際には軍と保安局の独占利用であり、民が恩恵を受ける機会はほとんどないという矛盾が繰り返される。


 かつて革命で共に戦った仲間の一人、レイナーは今でも外交を担う立場にある。だが、周辺諸国との交渉がほぼ破綻し、内政面も形だけの「改革」に終始している現状を見ているうち、彼の胸には暗い苛立ちが募っていた。


 官邸の一室で書類を眺めつつ、レイナーは苦い表情を浮かべて独り言のようにつぶやく。


「これだけ 『改革』を掲げているのに、ふたを開ければ軍需工場ばかり。農業や教育は後回しで、戦線の拡大を強化するためのインフラ……。こんなの、いったい誰のための革命なんだ?」


 答えはない。保安局員が控えめな足音で近づいてくる気配を感じ、レイナーは口を閉ざす。


 パルメリアは 「国の発展」を言い張るが、その実態は兵器や兵力輸送の増強でしかない。レイナーはもはやどの国からも「信用ならない政権」と見られ、外交チャンネルは途絶しつつある。


 彼の苛立ちは、どうしようもない行き場のなさと相まって、心を焼き付けるばかりだった。


 レイナーは街中の視察に出ようと考えたが、どこへ行っても保安局の厳重な監視が付きまとう。やがて、軍用道路の改修現場に差しかかると、大勢の労働者が埃を舞い上げながら作業しているのを目にする。そこに並ぶ看板には「共和国のインフラ整備が順調に進行!」と力強い字が踊っていた。


(ふふっ……とパルメリアが笑うのが目に浮かぶ。まさに「順調」に見えるかもしれない。しかし実際には、ここは軍や保安局が通るための道じゃないか。住民が自由に行き来できる道なんて、どこにある?)


 内心でそうつぶやきながら、レイナーは土埃を払う。すると見覚えのある若い官吏が近づいてくるが、その顔には疲労とやるせなさがにじんでいた。


「レイナー様……実は、住民の負担があまりに大きく、作業員のほとんどが徴用されてしまっています。文句を言えば保安局に連行されるため、皆黙って働くしかありません」


 官吏の声には悲壮感が混じる。しかし、レイナーは首を振ることもできず、小さく息を呑むだけ。


「わかっている……だが、言葉を下手に口にすればあなたも危ない。大丈夫だ、すぐにはどうにもならないが、僕から伝えられることは伝えてみる」


 そう告げたものの、レイナー自身がそれを信じているわけではない。パルメリアに意見したところで、「外征こそ最優先」と返されるに決まっている。今さら彼女が他の道を認めるはずがない。


 結局、この道も「兵力移動と物資輸送」が目的であり、住民にとっての利便性は考慮されていない。公に「自由な通行」と宣伝しても、検問や軍事利用が優先されているからだ。あくまで「改革の看板」としての体裁しか持たないのである。

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