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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第2章:変革の足音

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第10話 保守派の妨害工作①

 農業改革と識字教育の普及が進み、コレット公爵領にはわずかに活気が戻りはじめていた。以前は荒れ果てていた村々の畑が、輪作や排水路整備のおかげでゆっくりと改善し、作物の収穫量もわずかに増え始める。さらに、学舎で子どもたちが文字を学び始めたという噂が広がり、領民の間にはかすかな希望が芽生えていた。


 しかし、それに比例して「コレット家の令嬢が余計なことをしている」という不穏な声が、王都や他の貴族領でささやかれるようになる。


 その先頭に立つのは、王国屈指の権力を誇るベルモント公爵派。彼らは「このままコレット領が盛り返せば、自らの利権が脅かされかねない」と警戒心を強め、具体的な妨害策に動き出していた。


 夕暮れどき、パルメリア・コレットは執務室で山のような書類に目を通していた。改革に伴う経費や、学舎での運営記録、さらに農村からの要望――どれも山積みで、彼女はそれらを一つひとつ確認し、次の手を考え続けている。


 そんな最中、控えめなノック音が扉の向こうから聞こえた。


「お嬢様、少々よろしいでしょうか?」


 低い声とともに姿を見せたのは、家令のオズワルド。いつも落ち着いた雰囲気を保つ彼だが、今は険しい表情を浮かべている。彼は手にしていた書類をそっと差し出しながら、眉間に皺を寄せて言った。


「領地外との取引が、突然すべて(とどこお)りかけています。行商人たちは検問所で許可証の不備を理由に止められ、あるいは新税をかけられるという噂が広まり、誰も近づかなくなりました。こちらをご覧ください」


 彼が渡した報告書には、数名の行商人がコレット領への取引を急きょキャンセルした理由が詳しく書かれていた。中には「検問所で荷を全て差し押さえられた」「通行料が倍以上に跳ね上がった」といった訴えや、脅迫まがいの扱いを受けたという記述もある。


 パルメリアは素早く目を走らせると、その原因が誰の仕業かすぐに察した。


(ベルモント公爵……やはり、動き出したのね。強大な人脈と官僚への影響力を使って、私たちの領地を圧迫しようとしている)


 彼女は唇を噛み締めながら、さらに書類を読み進める。オズワルドは申し訳なさそうに続けた。


「中央からも『勝手な税制改変をしているのでは?』と疑いをかけられています。加えて、徴税請負人を名乗る者たちが領内に入り込み、住民から強引に金を巻き上げ始めているようです。そのため、領民たちの不安が高まっております」


 パルメリアは深く息を吐き、机に肘をついて思案する。自らの改革を脅威と感じたベルモント派が、流通を封じ込め、無理やり「コレット領=危険」という風評を作り上げようとしているのは明白だ。


「……商人たちを阻むために検問を強化し、勝手に新税をかけて領地の利益を奪う――ずいぶんと露骨ね」


 夜の空気が執務室の窓から入り込み、心なしか室内の温度が下がったように感じられる。だが、パルメリアはその寒さを意に介さずにテーブルに手をつき、頭を巡らせる。


(このまま放置すれば、改革は止まり、領地は崩壊するかもしれない。私が徹底的に対抗策を考えなければ)


 さらにオズワルドが用意した書類には、検問で実際に被害を受けた行商人や領民の声がいくつか(つづ)られていた。


 ――「荷車が検問所で止められ、許可証の不備を理由に全て没収された。商売が成り立たず、このままでは破産する」と訴える遠方の商人。

 ――「稼いだ金を持ち出そうとしたら、検問で謎の通行税を課された。払えない分は荷物を置いて行けと言われた」と嘆く商隊の若者。

 ――「徴税請負人を名乗る男たちが村へ来て、家畜や穀物を『税』として勝手に持ち出した。抵抗したら王国軍に逆らう罪だと脅された」という村人の苦情。


 これらはいずれも確認しきれない闇の動きだが、背後にベルモント公爵派の圧力があるのは疑いようがない。


(ひどい……。せっかく活気を取り戻しつつあったのに、このままじゃ領民がまた疲弊してしまうわ)


 パルメリアの胸には怒りに似た感情が込み上げる。しかし、ここでただ感情をぶつけても相手は強大すぎる。抑えた声でオズワルドに尋ねる。


迂回(うかい)ルートはありますか? 検問所を避けて商人が荷を運べる道を確保できれば、取引を続けられるはずよ」


 オズワルドは神妙な面持ちでうなずく。


「かしこまりました。地図を用意し、遠回りでも安全なルートをいくつか探してみます。ですが、ベルモント公爵派はそこにも手を回す可能性が高い……。彼らは軍隊を動かせる力がありますから」

「ええ、わかっているわ。でも、黙っていたら私たちの領地はすぐに崩される。相手が仕掛けてくるのなら、こちらも賢く動くしかない」


 オズワルドから報告書を受け取り、パルメリアは机上に目を落としつつペンを握り、短いメモを走り書きしていく。やがて顔を上げ、きっぱりと告げた。


「まずは、行商人たちに直接こちらから連絡を取りましょう。許可証の再発行を早急に済ませるのと同時に、検問所を避ける迂回(うかい)ルートを地図とともに提示します。オズワルド、すぐに手を回してちょうだい」


 家令の眼差しには緊張感が宿るが、パルメリアの熱意に打たれるようにして深く一礼する。


「はい、お嬢様。私もこのままでは、領地が衰退へ逆戻りしてしまうと感じています。必ずや、商人や仲介人を説得してみせましょう」

「ありがとう。それから、徴税請負人を名乗る連中についても調べて。誰が命令しているのか、どのような実態なのか……情報をつかめそうなら早急に報告を」


 パルメリアの瞳に宿るのは強い決意だ。オズワルドは再び頭を下げ、部屋を出て行く。執務室に残されたパルメリアは、ひとり薄暗くなる室内を見渡し、書類の山を整理し始めた。


 外では夕陽が沈み、廊下から見える空には群青色の闇が広がりつつある。この闇の中で繰り広げられているのは、ベルモント公爵派や保守派による露骨な妨害――だが、パルメリアは恐怖を抱きながらも後退する気はない。


(ベルモント公爵……王国の腐敗が凝縮されたような権力者。真っ向から戦うつもりはないけれど、私たちを潰そうとしている以上、こちらも黙ってやられるわけにはいかない)


 書類を重ねながら、彼女は低くつぶやくように思考を巡らせる。果たしてどこまでベルモント派の計画が進行しているのか、どのような人脈で検問や徴税の権限を握っているのか……確実に情報を押さえなければならない。


 その翌日、パルメリアのもとに複数の報告が集まる。ある村では米を運ぼうとした商人が検問で全てを没収された結果、村人に行き渡るはずの食料がストップしてしまったとか、別の町では工芸品を売るために都へ向かおうとした職人が急に高い通行料を要求され、商売を断念したなどの事例が続発している。


 商人や職人が離れれば、領地の経済活性化は止まり、改革による成果も失われていく恐れがある。パルメリアは机に置かれた新たな報告書を読みながら、改めて唇を固く結んだ。


「こんなことを放置すれば、あっという間に領地が元通りの荒廃に逆戻りしてしまうわ」


 彼女がつぶやくと、側で控えていた侍女たちが不安そうな表情を浮かべる。パルメリアは視線を机の書類へ戻し、思考を巡らせた。


(やはり相手は強大。迂回(うかい)ルートを整えただけで解決できる問題ではないのかもしれない)


 それでも、現状で打てる手は打たなければならない。完全な対抗策を考える時間はないが、相手の思惑に振り回されないよう作戦を立てる以外に道はない。

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