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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第二部 第4章:破滅への道

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第79話 短期的な戦果②

 さらに侵攻軍の現地報告が徐々に入ってくるにつれ、砦以外の集落や農村までが「制圧対象」となり、抵抗があれば粛清、従わなければ略奪や暴行が横行していることがわかってきた。


 しかし、こうした真実は国内では伏せられ、報道されるのは「現地の人々が共和国軍を歓迎している」というプロパガンダばかり。


「異国の民は、王侯貴族の圧政に苦しんでいました。我々が解放し、彼らが手を取り合って喜んでいるのです!」


 新聞の見出しにはそう踊るが、その裏で、実際には村々が燃やされ、住民が財産を奪われ、「反乱の可能性あり」とみなされて処刑された者も少なくないらしい。


 ガブリエルの部下には、その光景を目の当たりにして精神を病んだ兵士も出ているが、国防軍内でそれを口にすれば「指揮を乱す行為」として粛清される可能性が高く、皆が黙りこむしかない。心の中で罪悪感を抱えながらも、「これが革命の意志だ」と自ら言い聞かせる兵たちの姿は痛々しいほどだった。


(どの口で「解放」などと言えるのか。この血と惨劇は、いったい誰のためのものなのか……)


 多くの兵士や現地住民がそう思っても、口に出せない。国内に戻れば保安局に捕らえられ、侵略地では誤解を恐れて弁明すら許されない――息苦しい沈黙だけが、世界を覆い始めていた。


 外征開始からしばらくが経ち、実質的には初期の作戦が成功していると評価される時期に差しかかっていた。短期的には複数の(とりで)を落とし、幾つかの戦場で勝利を収めたことで、パルメリアはますます自信を深めている。


 しかし、レイナーは外交面で完全に孤立した状況を知り、ガブリエルは軍の内部崩壊が近いと感じていた。二人とも、かつて同じ革命の夢を見た身として、パルメリアと「革命の理想」の食い違いに、やりきれない思いを抱えているのだ。


「ガブリエル、最近の戦報は何だい? 本当にうまくいっているのか?」


 レイナーは廊下でガブリエルに話しかける。周囲に保安局員がいないか、ちらりと確認する様子が物悲しい。


「……表向きには勝利だが、その実態は略奪や虐殺だ。しかも周辺諸国が連合を結成しつつある。いずれ大軍で押し返されるだろう。それなのに、パルメリア様は『更なる進撃』を命じている……」


 ガブリエルの声には、自分への苛立ちと絶望が混ざっている。どうすることもできないと悟りながら、彼はそれでも最悪の事態を避けようと奔走しているが、保安局の厳重な監視の下では限界がある。


「やはり……。けれど僕はパルメリアに何も言えない。反対したら、みんなが粛清される。……それでも、同胞が、そして異国の民が血を流すのを黙って見ているなんて」


 レイナーの声はかすれていて、限界が近いことがうかがえる。二人の会話はそこまで。保安局の兵が曲がり角から現れ、そちらをちらりと見てにじり寄ってきたため、彼らは急ぎその場を離れるしかなかった。


 侵略開始からまだ数週間も経たぬうちに、いくつもの(とりで)や領地が「解放された」と報じられ、パルメリアは民衆の前で再び壇上に立つ。前回とは打って変わって、今回は自信に満ち、狂喜にも近い表情を隠そうともしない。


「ふふっ……聞いてちょうだい。私たちの軍は、想像以上の速さで隣国の防衛線を突き崩し、大きな成果を上げています。王政を倒した私たちこそ、真の正義を担う者――この先も勝利を重ねるでしょう」


 彼女の足元には、保安局の精鋭がずらりと並んでいる。民衆はか細い拍手を送るだけで、本心からの賛同は感じられない。だが、パルメリアは気に留める様子もなく、無関心の空気さえ「恐怖に従う忠誠」と解釈しているのかもしれない。


「私たちは正義を広げるために戦っているの。たとえ血が流れようとも、それは未来のための犠牲。ふふっ……理解できない者は愚かだわ。私を疑う者は、粛清されても仕方ないのだから」


 壇下の官吏や兵士が喝采を送ると、民衆の一部も形だけの拍手を合わせる。しかし、その瞳には暗い影が宿り、むしろ不安と恐怖を強めたように見える。いまや「反体制的」と疑われるだけで粛清の対象になることを皆が知っているのだ。


 戦果を喧伝し、国内を「勝利ムード」に染め上げようとするパルメリアだが、実際には征服地での抵抗が激化しており、周辺諸国の連合が本格的に動き出すのは時間の問題だった。


 ガブリエルが軍からの報告を集め、執務室でパルメリアに進言する。


「現在、複数の拠点を押さえたものの、各地でゲリラ的な抵抗が増えています。食糧や弾薬の補給路も不安定。長期戦になれば、我が軍は持久力に欠けるかと……」


 それでも彼女は地図を睨みながら、目先の拡大路線を変えようとしない。


「ふふっ……短期決戦で主要都市を落とせばいいのよ。相手の体制が崩れれば、民衆は私たちを『解放者』として受け入れるはず。そうすれば、補給も自然に確保できるじゃない」

「たとえそうだとしても、敵対する連合が動けば、一気に劣勢になります。そちらへの対策は……?」

「大丈夫。私たちの軍は強いわ。革命を乗り越えた精鋭ばかり。あの頃の弱い王国の軍と同じにしないでほしい」


 パルメリアは力なく微笑み、机にペンを走らせる。その笑みは相変わらず狂信めいている。


 隣でレイナーが目を伏せ、「これが続けば、国際的には完全に孤立して……」とつぶやくが、パルメリアの耳には届かないようだった。保安局の幹部は口元を(ゆが)めて微笑み、ガブリエルはただ沈黙するしかない。


 戦線をさらに拡大しようとする中、略奪や住民への暴行事件が横行しているという報せが後方へ届き始める。しかし、それを真剣に取り合う空気はない。むしろ保安局は「あくまで抵抗勢力の摘発」であり、「民衆の協力を得るための必要な措置」だと強弁しているのだ。


「住民が財産を守りたいと考えるのは自然ですが、もし彼らが反乱に加担すれば、再び敵が勢力を取り戻すことに。粛清は避けられません。ふふっ……これが私たちの『正義』なのです」


 誰も、その言葉に疑問を挟めない。挟めば即座に「反逆者」となりかねないのが、この独裁の現状だ。元は同胞を助けるために軍に入った兵士たちも、疲労と恐怖で疲弊しきっている。


 こうして、「短期的な戦果」に浮かれたまま征服地での略奪を放置し、相手の抵抗をむしろ煽る形になっていることを、国内では誰も公に語れない。表向きは「快進撃」と「民衆解放」の言葉が一人歩きし、真実は封印されていくばかりである。

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