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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第二部 第2章:強権と孤独の狭間で

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第60話 恐怖の支配①

 強権体制が加速する新政府のもと、街を覆う空気は日を追うごとに息苦しさを増していた。王政が崩壊し、革命の熱狂がまだ残っていた頃は、人々の顔に希望や活気が見られた。しかし今、首都の大通りを行き交う人々は互いに警戒するかのように視線を避け、道端で長々と会話を交わす姿はほとんどない。


 どこか肌寒い風が吹き抜けると、それにつれて人々も一層歩みを速める。その姿は、まるで自らが「違反者」や「反乱分子」と見なされることを恐れているようでもあった。


 ある朝、首都中央の大広場には市民がぽつぽつと集まり始めていた。かつてはここで露天商が立ち並び、子どもたちの笑い声や行商人の呼び声が響き、時には大道芸人が芸を披露して拍手喝采が起こるような活気ある場所だった。


 しかし今、その面影は薄れている。広場を包む空気はどこか殺伐としており、多くの露店が撤去されて閑散とした地面をのぞかせていた。随所には警備隊が立ち、鋭い眼差しで往来を見張っている。


 半ば崩れかかった噴水の縁に腰掛けていた青年が、隣にいる友人に声をかけた。声はすっかり抑えられて、低く絞り出すようだった。


「……なあ、聞いたか。最近、保安局が組織を拡大して『疑わしき者』を徹底的に洗い出してるって噂……。下手なこと言うと、すぐに捕まるらしい」

「ああ。しかも今は、『反政府の動きが疑われる』ってだけで家宅捜索されることもあるとか……。噂だと、旧貴族とつながりがあるんじゃないかって濡れ衣を着せられた人が投獄されたって話も聞いた」


 友人は周囲を警戒しながらさらに声を落とす。その横では、旅の行商人らしき男が、大荷物を抱えて立ち尽くしていたが、警備隊の視線を感じて急に視線を下に向けた。


 そんな様子を傍観していた老婆が、一人こぼすように語る。


「王政のころも酷かったが、今はそれ以上かもしれないねえ……。噂じゃ、反乱分子を一括りに逮捕するっていう大統領令がまた出るって聞いたよ。怖いねえ……。何が反乱かなんて、私らには見分けもつかないってのに」


 若い青年たちはそれを聞いて顔をしかめ、広場の片隅でうなだれる。


 すると、どこからともなく衛兵の足音が近づき、人々は一瞬で話を打ち切った。あたりに漂うのは重苦しい沈黙。まるで「自分の言葉が明日への禍根になるかもしれない」という恐怖が、道行く者たち全員を支配しているかのようだった。


 その日の昼下がり、警備隊の詰め所から「新たなる大統領令」が官報に掲載されたという報が広場に伝わると、広場に集まっていた人々はざわめき立った。


 すでに「非常事態宣言」が下されている中、再び追加される形のこの命令は、一言で言えば「反乱分子」の定義を大幅に拡大するものだった。噂によると、旧貴族だけではなく、商人や農民でも「少しでも王政の復活を望んでいる・あるいは政府に従わない恐れがある」と判断されれば、それだけで逮捕対象となり得るという。


「これじゃ、無実の人まで巻き添えだろう……」

「それに、なんてあやふやな基準なんだ。『王政復活を望む恐れ』とか、『政府に従わない恐れ』とか……結局は当局のさじ加減ひとつじゃないか」


 広場に集まった商人たちの間では、そうした不満がひそやかに語られた。


 しかし、ただ一言「おかしい」と公に言うことすらためらわれるのが今の首都の現実。彼らは誰かが聞いているかもしれないとビクビクしながら、小声で言葉を交わすのみだった。もし密告されれば、たとえ根も葉もない嫌疑であっても、数日のうちに警備隊に踏み込まれるという事例がいくつも耳に入っているのだ。


「一体、どうしてこんなことになっちまったんだ。王政が終わって、みんなもっと自由になれると思ってたのに……」

「口に出すな。……下手に『自由』なんて言葉を使ったら、今は危険なんだよ」


 仲間に制止され、男性は口をつぐんだ。彼の頬には汗が伝い落ち、閉ざされた空気に押しつぶされそうな顔をしている。遠巻きに見ていた通行人も、まるでこちらの会話に気づかないふりをして足早に去っていく。


 街の至るところで、市民同士の談笑が極端に減っていた。それどころか、家族や親戚間でも政治の話を避けるようになったという噂すらある。


 最も人々を震え上がらせているのは「密告制度」の存在だ。王政時代にも密告はあったが、今はそれを遥かに上回る頻度で用いられ、処罰が行われているという。


 ある夕暮れ時、宿屋の前に立っていた旅の男二人が交わす会話があった。


「……聞いたか? あそこのパン職人が『王政派とつながりがある』って告発されて、あっという間に逮捕されちまったらしい。まだ若い男だというのに」

「いや、あれはどうも密告したのが隣のパン屋らしいぞ。同業者同士の競争が激しくてな……怪文書で無実の嫌疑をかけさせたって話だ。まあ、真偽はわからんが」


 男たちは口調を落としているものの、周囲に人影が動くと会話を止めて互いに目を合わせる。まるで「あまり大きな声で喋ると次は自分が狙われるかもしれない」と悟っているようだった。


 彼らが立ち去ったあと、宿屋の女主人がそっと顔を出し、誰もいないのを確認してから一人ごちる。


「こんな世の中になるなんて……革命のときは喜んだけどねえ、まさかこんな形で恐怖が蔓延(まんえん)するだなんて。ああ、商売上手な人ならこの状況を利用してのし上がるんだろうけど……うちはただ、お客さんをもてなして暮らしたいだけなんだよ」


 その声に嘆きが混じるも、彼女はすぐに頭を振って店の中へと消えた。どこで誰が聞いているかわからない――その意識が彼女の肩を竦ませ、重々しく床を踏みしめさせる。


 実際、王政時代の名残を持つ旧貴族たちは、数多くが「反乱分子」として一網打尽にされていた。警備隊の捜査は容赦なく、夜明け前の急襲は日常茶飯事となる。どこかの私邸で密談が行われているという密告があれば、即座に動員された兵士たちが扉を蹴破り、中にいる者たちを連行していく。


 もっとも、王政の腐敗に加担していた悪質な貴族も確かに存在するため、最初は多くの市民も「当然の処罰だ」と拍手喝采していた。しかし次第に、明らかに冤罪と思われる事例や、過度な財産没収、恣意的な逮捕が横行するようになると、さすがに人々は不安を拭えなくなった。


 ある貴族の令嬢は「遠縁に王族の血筋がある」という理由で連行され、行方がわからなくなったという噂も広がっている。彼女がどうなったかを誰も知らず、ただ(おび)えるばかりだった。


「逆に言えば、こうして恐怖を植え付けることで政府への抵抗を減らしているんだ。パルメリア閣下も本気なんだろうよ」


 街角で衛兵同士が交わす何気ない一言が耳に入り、住民たちはさらに怯えた。革命という大義のもとに権力が集中し、それを強く行使する大統領がいて、その下で保安局や警備隊が動く――そうした構図が固まってきた今、誰もそれを止める術を持たない。


 一方、その中心にいるパルメリア自身は、執務室に山積みとなった報告書と逮捕命令書を前に、黙々と決裁を下し続けていた。


 旧貴族派に限らず、反政府勢力と見なされる者の動向が逐一記録された書類は膨大で、彼女はそれを一つひとつ確認しながら「必要であれば逮捕、もしくは資産凍結」のハンコを押す作業をこなしている。


「閣下、先日の夜間捜索によって逮捕された者たちのうち、何名かは審問の結果『冤罪』の可能性が高いとの報告もございますが……。どう取り扱いますか?」


 若い官吏が恐る恐る尋ねた。彼の声にはためらいがあり、こうした誤認逮捕が増えている現状を気に病んでいるのは見え見えだ。


 しかしパルメリアは視線を書類に落としたまま、小さく息を吐いて答える。


「冤罪と言える確証がないのなら、暫定的に拘束を続けるしかないわ。……今は混乱の最中。軽々に釈放して、再度紛争を起こされたら取り返しがつかないでしょう?」

「ですが、報告を読む限り、確かに彼らは旧貴族と繋がりがないとも……」

「『とも限らない』わ。あるいは巧妙に隠している可能性だってある。いい? 今は一時的に強権を振るわざるを得ないの。この体制を整えなければ、王政の残党たちが息を吹き返して市民を苦しめるだけ」


 官吏はそれ以上何も言えなかった。上司であるはずのパルメリアを前にして、「これはおかしい」とは口にできない。彼の目にはわずかな恐怖と戸惑いが混じっていたが、パルメリアはそこに目を向けないふりをした。


(私だって、本心では誰かを虐げたいわけじゃない。でも、これをしなきゃ国を守れないなら、私が憎まれても仕方ない)


 王政を倒し、新たな国を作る――その決意が、いつしか「強権の行使」を正当化する言葉に変わっている自分に、彼女も薄々気づき始めていた。しかし立ち止まれば、国全体がどうなるか想像すると、ためらうわけにはいかないのだ。

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