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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第二部 第2章:強権と孤独の狭間で

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第59話 強権の影②

 一方、旧貴族派や反対派が水面下で活発な動きを見せるたび、大統領令により強化された治安機関が速やかに検挙・処罰を行っていた。


 この「強力な治安維持体制」は、表向きは民衆を守るためという名目だが、実際には少しでも政府に批判的な意見を述べた者が「無理やり」囚われる事例が増え始めている。


 例えば、ある若い商人が「こんな高い税率は王政時代と何も変わらないじゃないか」と酒場でこぼしただけで、密告され、翌日には保安局が家宅捜索に入ったという噂が流れた。これが事実かどうか確かめるすべもなく、市民はますます沈黙を余儀なくされる。


 「国のために仕方がない」と言い聞かせる者も少なくない。特に富裕層や旧商人層には、「新政権に従っていれば安全だろう」という安堵すらある。だが、それを横目で見ながら不満を抱える下層の人々は、声なき声で「結局、新政権も王政と似たようなもの」と嘆息するのみだ。


 こうした空気の変化を感じ取りながら、パルメリアは毎晩執務室にこもり、膨大な命令書に目を通す。押印を行うたび、胸の奥でかすかな痛みが広がるが、手を止めるわけにはいかない。


(民を助けるつもりが、こうして怖がらせてばかり……でも、混乱を放置すればもっと悲惨な未来が待っている。私が汚名をかぶるなら、それでいい。――革命を成し遂げた以上、国の崩壊なんて絶対に許せない)


 夜遅くにランプの灯りが揺れる執務室で、彼女はほとんど休息を取らず、脳裏を埋め尽くす報告と対策に向き合い続ける。ときおり、ユリウスやレイナー、さらには護衛騎士のガブリエルの顔が浮かぶが、彼らとすれ違い始めた距離を意識すると、胸の奥に影が落ちる。


(私がこんなに孤独を感じる日が来るなんて、王政を倒したあの瞬間は考えもしなかった。――あのときは、みんなが笑顔で革命を祝福してくれたのに)


 朝を迎えるたび、新たな大統領令が官報に掲載される。「旧貴族残党の資産没収を円滑に進めるための特別条項」「過激派の取り締まり要領の簡素化」……どれも「国を守るため」として正当化されているが、それらが集まるほど、政府とパルメリア自身の権限は比類ないほどに膨れ上がっていく。


 こうして事実上、議会は「承認機関」としての役割を失い、国家運営のすべてをパルメリアが掌握する構図が明確になりつつあった。


 その変化を皮肉げに見つめるのが、一部の古参官僚や議員だ。彼らはかつて王政を批判し、「貴族の横暴から民を救おう」と革命に協力した。しかし、現実は「今度は大統領という『王』が誕生したのではないか」と思わざるを得ない光景になりつつある。


 もちろん、そう感じていても声を上げる者はほぼいない。保安局の監視と、粛清の可能性があまりに大きな抑止力となっているのだ。


 王政を倒したとき、「革命万歳」と拳を突き上げて喜び合った者たちのうち、かなりの数が今は静かに距離を置いている。


 ある者は「こんなはずじゃなかった」と嘆きながら地方へ戻り、ある者は「パルメリアは変わってしまった」とつぶやきつつ政界から身を引いた。


 行きどころを失った彼らの口には、「もはや俺たちの理想は彼女の中にない」というやるせない言葉がにじむ。


 パルメリアを最後まで擁護しようとする人々もいる。「彼女がやっているのはあくまで『非常時の緊急措置』だ。正義の女神として国を救うためだ」という意見だ。だが、それに同意する者は日を追うごとに減り、むしろ「王政が終わっても、また専制が始まっただけ」という失望が広がり始めている。


(彼女は本当に民衆のために戦った英雄なのか、それとも新たな独裁者になりつつあるのか?)


 やがて、王政時代に「(かたき)」と思われていた貴族が軒並み処罰され、その財産が没収される事件が相次ぐ。もちろん、真に腐敗した貴族がいればその処罰に文句はないが、疑わしき者までも容赦なく粛清されることに不安が募る。


 さらに、反対派の農民リーダーが「過激思想」の疑いで捉えられたという報告が届くたび、周囲は誰一人異議を唱えられない。こうして次第に「異論を言えない」雰囲気が醸成され、人々は「平穏」を得るために沈黙を選ぶようになる。


 パルメリア自身は、その結果を知るたび苦い想いを抱きながらも、行動を止めることはできない。


(誰かが矛を収めれば、内乱が広がるかもしれない。私が強権を振るわなければ、さらに多くの血が流れる)


 その思い込みが、彼女をさらなる権力集中へと駆り立てている。


 革命で生まれたはずの「自由な言論」は、非常事態宣言と大統領令の連発によって日ごとに(ちぢ)んでいく。


 街角の市場では、物売りたちが互いを探るように小声で交わす程度の会話しかなく、かつては活気に満ちていた雑踏がよそよそしく感じられる。誰が密告者になるかわからない――そんな空気が、薄暗い路地に停滞している。


「どうする? 大統領が本気で私たちを監視しているなら、迂闊(うかつ)に政治の話なんてできやしない……」

「まあ黙ってりゃいいのさ。下手に騒ぎを起こして粛清されたら元も子もないからね」


 こんな会話が市場の片隅で聞こえたかと思うと、二人の男は顔を見合わせ、すぐに会話を打ち切って散っていく。その姿を見かけた周囲の客たちも「聞かなかったことにしよう」とばかりに足を速める。


 こうして誰もが黙りこみ、やがて疑心暗鬼と無関心が広がっていく。


 パルメリアは夜遅くまで執務室の灯を消さず、「大統領令」の草案や施行報告を確認している。


 廊下には、彼女の護衛騎士ガブリエルが無言で立ち、時折部下に指示を与えている。その背には重たい苦悩がのぞき、かつての「主君への誓い」がこういう形で試されるとは思いもしなかったことに揺れていた。だが、彼もまた、今の危機的状況を打開するためにはパルメリアの強権が必要だと信じたい気持ちを捨てきれない。


 そんな周囲の視線を受け止めながら、パルメリアは書類を読み込むたびに「仕方ない」と自分に言い聞かせる。


(私がここまで権力を持つことになるなんて、王政を倒した頃は考えもしなかった。でも、今この国を守れるのは私しかいないんだから、後戻りはできない)


 書類の端に目を移すと、「王政時代より個人の権力が強大化している」という皮肉めいた言葉を耳にしたことが頭をかすめる。かつて自分が激しく批判した王室と貴族たちが振るった横暴に、自分が似てきているのではないか――そんな疑念が脳裏をよぎるたび、パルメリアは必死に首を振って思考を振り払う。


「これはあくまで、一時的な『非常時の措置』。いずれ混乱が収まれば、私は権力を返上する。そう、自分で決めている……本当に、それを実行できるかしら?」


 独り言のようなつぶやきが、夜の執務室に落ちる。その言葉を聞く者はいない。


 やがて、冷えたコーヒーを(すす)りながら、彼女は懸命にペンを走らせる。徹夜続きで体は悲鳴を上げているが、弱音を吐ける相手がもういないのを知っている。


 こうして大統領令が連発され、議会が形骸化していく共和国では、政府内部からさらに強硬な取り締まりを求める声が高まっていた。


 パルメリアが首都を監視し、地方への軍派遣を強化し、旧貴族や反対派の財産剥奪を進める姿に、「血の粛清」の悪夢を重ねる者もいる。それでも、多くの人は反論しない。それがどれほど危うい道であっても、今は彼女の「強い力」にすがるしかないのが現実だという空気が広まっているのだ。


「また大統領令か……私たちは、意見を言うために革命をしたんじゃなかったのか……」


 とある議員が小さく嘆きつつも、声には出せない。下手に反論すれば、自分が処分されるかもしれないと恐れている。それが今の共和国の「自由」の実態だ。


 パルメリアは立ち止まることなく前進を続ける。


 かつて王政を倒した革命の瞬間、国中が喝采を送った「英雄」が、今は武力と法令を背景に権力を一手に集め、その意思を押し通す指導者へと変貌しつつある。


 それを「正義」だと信じる者も、「新たな専制」だと恐れる者もいて、民衆は何が真実かを測りかね、黙して従うか、密かに逃げるかの二択に迫られている。


 夜深い時間、パルメリアは最後の書類にサインを終え、静かにペンを置く。薄暗い窓の外には、街の灯りがまばらに瞬き、人々の眠る首都を一望できる。


(私はこの国を守るために、王政と戦った。それが、今はこうして人々を黙らせ、力で抑え込む立場になるなんて。――でも、もう戻れない)


 彼女はそんな独白を噛み締めるように口の中で転がし、椅子の背に身を預ける。疲れと孤独が押し寄せる中、それでも明日からの仕事を考えれば、眠る時間さえ惜しく思える。


 こうして、「非常事態宣言」から続く一連の動きは、パルメリアの強権を不可逆的に固め始めていた。


 王政を倒した直後の熱狂と希望が嘘のように薄れ、代わりに街には沈黙と畏怖(いふ)が色濃く漂う。「何も言えない空気」が急速に浸透し、革命の理想や自由への期待はいつしか人々の胸から離れていく。

 そして、その背景には彼女の強い決意――あるいは執念――が存在する。


(これが私の選んだ道。「強権の影」が深くなるのはわかってる。でも、国が崩壊するよりは、よほどマシだわ)


 パルメリアはもう一度目を閉じる。議会が機能を失い、彼女が絶大な力を握り始めたこの現実が、来るべき運命の扉を開き始めているのかもしれない――それでも進むしかない、と。


 もはや彼女自身も、その先に待ち受ける結末を確信できてはいない。


 こうして、かつての革命の輝きと理想は彼女の背後でかすみ始め、民衆の間には「強権」への不安だけが広がっていく。これこそ、新たな時代を導くと信じた「英雄」が作り出してしまった真実の世界。まだ共和国の歴史は序章であるにもかかわらず、その影は深く、重く、国中にしみわたっていくのだった。

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