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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 最7章:新時代の幕開け

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第50話 新時代の幕開け①

 大規模な革命を経て王国が崩壊し、新たに生まれた「共和国」には、いまだに混乱や未知の課題が山積みだった。それでも、パルメリア・コレットが初代大統領に就任してから半年が過ぎると、かつてのような不穏な空気が少しずつ和らぎ、人々の顔にかすかな笑みが戻り始めていた。


 かつて壮麗な庭園と数多の衛兵に守られていた王宮は、今では「共和国議事堂」として再利用され、大胆に改装されつつある。天井に施された金箔の紋章や、国王の肖像画がかかっていた壁は取り除かれ、代わりに全国から集まる人々の声を受け止めるためのスペースが生まれた。


 廊下を歩けば、各地の代表が議論を重ねるために行き来し、かつて貴族のみが通された扉を当たり前のように農民や商人が通過していく。王政時代にはまるで想像もできないような自由で活発な雰囲気が、かつての王宮を覆っていた。


 まだ国の全てが完全に安定したわけではない。地方では旧貴族の影響が根強く残り、王制復活を唱える者も一部にいる。それでも、多くの村や都市では、革命を成し遂げたパルメリアたちに共感し、「自分たちの手で国を動かす」ことの喜びを実感し始めていた。


「ここに意見を伝えれば、大統領が目を通してくれるんだろう? じゃあ、農業用水路の整備をお願いしたいよ。前は貴族に言っても聞いてもらえなかったからなあ」

「俺たちも学校を作りたい。子どもたちが文字を学んで、もっと良い暮らしを実現できるようになってほしいんだ」


 首都の中央広場付近で、そうした声が自然に飛び交うようになった。政府役人も、「ぜひ提案書をまとめてください」と笑顔で応じ、議会にかける段取りを説明する。かつては封建的な支配の象徴だった王都が、いまやにぎやかな交流の場へと変貌しつつあるのだ。


 パルメリアの周囲には、戦いの中で築いた絆を強みに、要職を担う仲間たちが集まっている。


 レイナー・ブラントは外務担当として諸外国との外交に奔走し、かつての「王太子」ロデリックは、いまや名誉職に甘んじることなく、ただの「一市民」として国政へのアドバイザーを務め、かつての人脈を活かして各方面と折衝を重ねている。


 ユリウス・ヴァレスは内務と治安をまとめ、旧勢力の残党による騒乱を未然に防ぎ、住民たちの生活を守ろうと奮闘中だ。情熱だけでなく、パルメリアから学んだ「作り上げる」姿勢で国の安定に寄与している。


 ガブリエル・ローウェルは国防軍司令官として、かつての王国軍を再編し、「民を守るための組織」へと変えていくことに心血を注いでいる。王室の私兵だった面影を払拭し、国民からも信頼される軍を作るという使命感に燃えていた。


 この四人がともに共和国を支えながら、パルメリアへのそれぞれの想いを胸に秘めている状況は、かつての「傲慢な貴族令嬢」というイメージからは想像もできない特異な構図だ。


 パルメリアは政治を最優先にしつつも、彼らとの会話や小さな気配りを忘れない。日々の激務の合間に、「あなたがいるからここまでやってこられた」と感謝を伝えたり、彼らの悩みを聞いたりもしている。


 革命後の議事堂は、かつての王宮の大広間を仕切って作られた。本来ならば客をもてなすために使われていた場所が、今や各地の代表が集まるメインホールとして機能していた。円卓を囲むように席が配置され、そこでは農民や職人、商人など多様な立場の人々が意見を交わしている。


 その円卓の中央席に、パルメリアがすっと腰を下ろすと、慣例だった華美な衣装とは違い、動きやすいシンプルな服装で堂々と議事を進行する。


「皆さん、今日の議題は『教育改革と義務教育の推進』です。これまで各地方に学舎を建ててきましたが、より多くの子どもが文字や計算、政治の基礎を学べる制度を整えたいと思っています」


 かつての王国では、貴族子弟しか満足な教育を受けられなかった。だからこそ、パルメリアは農民や商人の子どもが当たり前に学べる仕組みを整えたいと考えているのだ。


 その提案を聞いた地方代表者たちの間からはいろいろな声が上がる。予算面や教師の人材不足、遠隔地へのアクセスなど、課題は多い。けれども、誰もが「教育は大切だ」と理解しているからこそ熱心に議論は進み、協力して乗り越えようという機運が高まっていた。


 一方、首都から少し離れた地方都市でも変化は着実に広がっていた。戦乱で荒れ果てた村々や街道は、義勇軍と地元民が協力して修復し、供給路が回復することで市場に活気が戻る。かつては税の取り立てに怯え、収穫を隠す者も多かったが、今は「税金をどう使うか」を自分たちで話し合えると知り、積極的に生産や流通を拡大しようという動きが生まれつつある。


 クラリスが中心となって取り組む科学技術の推進や、医療体制の整備も、緩やかにではあるが前進している。作物改良や輪作のノウハウがさらに普及し、地域の特産品や交易を活性化させる計画も進行中だ。


 ただし、旧貴族や保守派の残党による妨害も続き、ユリウスたちの内務・治安部署は忙殺されている。しかし、人々が新しい時代を望む声は大きく、反抗や偽情報が蔓延しても、もはや大きな潮流を止めることは難しくなっていた。


 そんな中、パルメリアはたまに訪れる静寂の中で、ふと自分自身を振り返る。大統領就任後、夜遅くまで公務に追われるのが当たり前になり、ほとんど私生活の時間がない。だが、戦火に荒れた国を少しでも早く立て直すためには、やるべきことが山ほどあるのだ。


 ある晩、執務を終えて自室に戻ったパルメリアは、机の上に置かれた花束に気づいた。淡い色彩の野花が、素朴ながらも優しい香りを放っている。あの四人のうち、誰が送ってくれたのかはわからないが、どこか彼女の心を温かくしてくれる。


 ふと笑みを浮かべながら、その花を手に取る。前世で会社員だった頃には、こんな贈り物を受け取る機会など想像もできなかった。それが今や、多くの人から敬愛や感謝、あるいは恋の気持ちまでも向けられている。


 「悪役令嬢」の破滅エンドを避けたいという理由だけで必死になっていたあの頃の自分からは、はるかに遠い場所に来てしまったのだと、しみじみ思う。だが、後悔はまるでない。むしろ、この世界と仲間たちへの感謝しかないと言ってもいい。


「まだやりたいことが山ほどある。だけど今は……ほんの少しだけ、この香りを楽しんでもいいわよね」


 そうつぶやいて、彼女はそっと目を閉じる。花の香りとともに、レイナーの柔らかな微笑みやユリウスの情熱、ガブリエルの静かな誓い、ロデリックの穏やかな笑みが脳裏をよぎる。いつか、誰かと想いを結び合う時が来るのだろうか――そう考えると、ふと頬が熱くなるのを感じる。

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