鼻と鼻、そっと触れて
夜の公園に、月明かりが優しく二人を照らしていた。透と咲は、鼻をくっつけ合ったり、擦り合わせたりしたことが、なんだか不思議な温かさをもたらしたのを感じていた。二人の距離は、もうほとんどないに等しい。
「ねえ、透……」咲がまた、少し照れながら透を見つめる。「次は……鼻を触り合ってみない?」
透は思わず照れて笑ってしまった。「そんなことしたら、もっとくすぐったくなるんじゃない?」
「いいじゃん、試してみようよ。」咲が笑顔で答えると、そっと自分の人差し指を透の鼻の先に伸ばした。
咲の指が透の鼻にそっと触れる。指先はひんやりしていたが、その感触に透の心はどこかくすぐったく、そして温かかった。透も自分の指で咲の鼻先を軽く触れ返す。二人の指がそれぞれの鼻の先を少し押すと、なんとも言えない柔らかな感触がして、二人は思わず笑い出した。
「鼻ってこんなに柔らかかったんだね!」咲がくすくす笑いながら言う。
「ほんとだ、なんか変な感じだね。」透も笑いをこらえきれない。
そのまま、二人はお互いの鼻の形を指で確かめるように、優しく触れたり、指を少し滑らせたりして遊んでいた。透は、咲の鼻が意外と小さくて、やわらかいことに驚いたし、咲も透の鼻の形を指先でなぞりながら、何度も新しい発見をしているような顔をしていた。
「透ってさ、鼻、あったかいね。」咲がふと小声でつぶやいた。
「咲の指、冷たいよ。」透はくすぐったそうに微笑んで答えた。
二人の指が何度も鼻をなぞるうちに、透と咲の間に言葉では表せない静かな時間が流れていた。鼻先を触り合うだけなのに、どこか心が通じ合うような感覚があった。触れ合うたびに、お互いの存在がじんわりと心に染み渡っていくのを感じていた。
「これ、なんかすごく特別な感じがするね。」咲がぽつりとつぶやいた。
「うん……ずっとこうしていたい。」透もそう応え、もう少しだけ、二人は鼻を触れ合ったまま、月明かりの下で静かな時間を楽しんでいた。