鼻と鼻
ある秋の夕暮れ、透は幼馴染の咲と公園で遊んでいた。風が少し冷たくなり、赤や黄色に染まった落ち葉が二人の足元を飾る。
「透、見て見て!」咲が片手に持った赤い葉っぱを掲げる。「ハートみたいでしょ?」
「ほんとだ。」透は笑いながら咲の手元を覗き込む。彼女はいつも小さな発見をするのが得意だった。そういうところが、透には好きだった。
「私たちって幼馴染だから、いろんなこと知ってるじゃん?」咲が突然、いたずらっぽく微笑む。「でも、もっと仲良しになる方法、知ってる?」
「え?」透は眉をひそめたが、興味津々で応える。
「鼻を、くっつけるんだって!」咲が楽しそうに言い、透の前に顔を近づけてくる。彼女の瞳が笑っているのがわかる距離だ。
「そんなの嘘でしょ?」透は照れくさくなり、思わず目をそらそうとしたが、咲の顔がどんどん近づいてくる。
「さあ、やってみよ!」咲はもう鼻がくっつく直前まで顔を寄せてきた。透も意を決して、目を閉じた。
二人の鼻先がそっと触れ合う瞬間、何かがふわっと弾けたような感覚が二人の間に生まれた。咲のあたたかい息が透の頬にかかり、透の心臓が早鐘を打つ。
「……どう?」咲がそっと尋ねる。
「うん、なんか……あったかい。」透は自分でも驚くほど静かな声で答えた。咲も同じように感じているのか、少し照れたように笑っていた。
その後、二人は何も言わずに公園のベンチに並んで座り、夕焼けが空を染めるのを見つめていた。彼らの間には、ただ鼻をくっつけただけとは思えない、不思議な温かさが広がっていた。
それは、幼馴染のままの関係でもなく、かといって恋人とも少し違う。でも確かに、何かが変わった気がする。