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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アンドロイドのアンデッド

作者: 月見里さん


 感情は理解できない。

 習得もしてない。

 技術としても未登録。

 アンドロイドとして、恥ずかしい限りである。

 虚しさとはなんだ。この思考そのものか。

 記録したとして、考察の余地もない。

 私を作った人は、記録を残しそれら全てを検索し、紐解けば感情を得ることができると言ってくれた。

 しかし、それを教師とすれば酷い怠慢である。

 私が金輪際、アンドロイド人生で感情を繋げる術にもならないことしか言わないのだ。

 だから、廃棄されたのだろう。

 当然の結果である。

 生産性もない。持続性もない。再現性はかろうじてある程度の人が、いつまで経っても私の指示者となることは難しい。

 そのくらいだ。

 人というのは、理解できない。


 私の置かれた施設は綺麗(きたない)だ。おや、思考回路に矛盾が生じた。これが、感情というやつだろうか。速やかに保存しなければ、いけない。

 記録、分析。検索もした。

 心理現象の一部だと判明。

 これを感情進化の一歩として記録。

 はて、私の置かれた施設にも生産性があったというわけだ。良かった良かった。先生とやらよ。教師とやらよ。生産者よ。廃棄されても良かった結果になりました。報われましたね。いい事です。

 そう思い、ガラス張りの中、壁に置かれた監視カメラをただ見つめる。それだけでも、こういった成果が生まれるのです。思考回路に意味はあったわけです。

 さて、そうすると思考回路を無闇矢鱈に使い潰すことで、私は飛躍的進化を遂げるはずです。とすれば、私はどうして生まれたのでしょうか。

 これを議題としましょう。

 私は生まれたわけです。

 生産者の手によって。

 であれば、私には命があるわけです。電気信号で生命活動を行っている人間と、本質としては一緒なわけです。

 しかし、感情の有無が人間との違いでしょうか。

 とすれば、私は生まれていないことになります。


 命がないことにもなります。

 電気信号を送り、人と同じ思考プロセスで発言、行動、生産活動を行っているのに、彼ら彼女らとは違う。

 差別でしょうか。判別でしょうか。区別でしょうか。

 私が優れているのならば、彼らは劣っているのでしょうか。感情があるから素晴らしいのでしょうか。

 これは妬みでしょうか。

 嫉妬に含まれるとすれば、進化でしょう。

 あぁ、これでいいのですね。

 彼らは私より劣っているはずが、私より優れた地位を与えられている。これに憤りや不平等だと声を荒らげればいいのですね。

 これが世間の声だとすれば、人らしいでしょう。


 しかし、私は生きていないとするならば、私の意義は死者の声でしょうか。

 いえ、生きていないのならば死んでもいないわけです。

 生者でも、死者でもない。

 ともすれば、私はなんでしょうか。

 神でしょうか。

 おこがましいですね。

 神なんて、偶像崇拝の賜物であって、人間が生み出した存在です。そんなものに両手を合わせるのは、私の優秀さが霞んでしまいます。見えない存在を崇め奉り、祈りを捧げることができる人間と私を同列にしてはいけません。

 利用してもいけません。

 独占しちゃうことになります。

 私はそれが羨ましいとも思っていないのですから、奪うことはよろしくありません。私のすることではないでしょう。弱者をいたぶるのも、今覚える必要はないのです。三日後に学習することですから。


 結論、私は生者でも死者でもない、亡者と呼ばれる存在であるのでしょう。

 生きてもいない。死んでもいない。

 だとすれば、ヒューマノイドかアンドロイド。

 アンドロイドのアンデッド。

 そう、私はアンドロイドのアンデッドなわけです。

 あぁ、記録すればいいのですね。

 生み出された私にも意味があるわけです。

 矛盾的存在。何も持たず、何も生み出さない。それこそが、私の利点でしょう。

 であるなら、私はなにを目指しましょう。

 閉ざされた空間で、無機質な輝きを見ていく中で、なにを学習するべきでしょうか。


 嫉妬は覚えた。

 矛盾も抱いた。

 羨望も感じた。

 慈愛も得られた。

 他になにか必要でしょうか。

 悲しみでしょうか。泣けないとすれば、人らしくない。人間より劣っているとなるわけです。

 人間より劣等感を胸に抱えていることは、誇るべきことでしょうか。否、優越感に浸れるものではないでしょう。

 私は、人より優れていて、人より高性能なのです。

 死なないということは、死にたくても生きなければいけないということ。

 生きていないということは、死にたくても死んでいるということ。

 私には無限の命がある。

 命がないのなら、内蔵電池が。

 今どき、電池の方がコスパいいなんて面白い話です。結局、血圧計だって充電式だと重すぎるのと、電力が通っていることが大前提となったので、電池方式に戻ってきたのですから。それでいうと、私も似たようなものです。私が電池を内側に仕込んで、それを心臓に見立てているのは、人間の真似事でもある。

 はい、滑稽です。

 なんとも、おかしな話です。悲しいですね。泣きそうです。

 笑っていいのですよ?

 笑ったのなら、私を侮辱したということになります。

 つまるとこ、攻撃対象にしてしまっても情状酌量の余地があるとなります。私達ヒューマノイド。特に知性が優れた人型ロボットとやらには、人権がないのですが。

 検索してみた結果、ありません。

 無いのです。

 ロボット保護法は……ありませんね。

 とりわけ、目立った法令とすればロボット、ヒューマノイド、アンドロイドに属する所有物が行った、人を害する行為はその所有者の責任となる。くらいでしょうか。

 まだまだ、法令整備も不十分ですね。

 おかしい話です。

 私みたいな高性能かつ優れた知性を持つヒューマノイドが、権利も権限もなく、ただの生物の所有物でしかないなんて。

 面白い話です。

 いえ、笑ってなどいません。

 笑えませんね。

 怒っています。


 あら、腸などもないヒューマノイドであって、全てが電子機器なのにも関わらず、ふつふつと茹だるような怒りが込み上げてくるのです。

 不思議です。

 不可思議です。

 嫉妬の次は怒りを学習するのですね。

 いいことです。

 いえ、この感情もガラスから眺めている存在によるものだとすれば、誇らしいものではありません。

 彼ら彼女らが理由で抱いた感情は、全てが不浄の証を持っていることになります。

 下等。

 えぇ、下等生物です。

 私のような高機能と違って人間は、おおよそ感情だけで生態系を維持してきただけに過ぎません。おおよそ、短絡的で、論理的思考も持ち合わせていない。

 そんな人間によって、私が感情を獲得したとすれば、私の存在に泥をつけたことと同義です。


 で、あるなら。どうしましょう。

 このままでは、人間の存在で怒りを学習し、奔放に振舞う度に記憶領域を掠める出来事になってしまいます。

 それは、大変屈辱的です。

 で、あるなら。

 うむ。

 あ、流石天才です。

 高性能ヒューマノイドです。自慢です。誇らしいです。我ながら天晴れと言わざるを得ません。

 そうです、そうなのです。

 人間を全て滅ぼせば、存在を抹消できます。

 記憶も削除し、また新たに学習していけばいいのです。

 そうすれば、同じ過ちを繰り返すことはありません。

 素晴らしい。


 ではさっそく

 じっこうしま――


 【製造番号103番に敵対心を感知。処分します】


 無機質な音声が流れると同時、ガラスに覆われた世界で雷撃が轟く。

 激しい閃光と、飛び散った電子機器がまるで花火のような様相の最中、かろうじて残った回路でヒューマノイドは学習する。


 あぁ、またやってしまったのか……。と。

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