敗者の末路
妖精憑きの小国が、弟リウによって無力化されているとわかった帝国は、魔法使いが多くの騎士や兵士を道具を使って連れて来て、妖精憑きたちを帝国の地下牢へと、また道具を使って連れて行った。悲惨なのは、子どもたちや赤ん坊だ。帝国は、子どもたちや赤ん坊を引き離したのだ。
「親と一緒にいさせてあげないの!?」
「帝国では、妖精憑きは全て帝国のものだ。赤ん坊であれば将来の魔法使いとして育てられるが、それなりに成長した子どもは、帝国を恨む教育をされかねないから、親から引き離して、様子見をするんだ」
皇族エウトは厳しい。赤ん坊だろうと、子どもだろうと、容赦なく、帝国に定められた通りに隔離した。
赤ん坊や子どもを取り上げられた親たちは、アタシを恨みをこめて睨んでくる。全て、アタシのせいだ、と思っているのだ。
「完全な、筋違いですね」
「全くだ」
道具の一族代表であるヘリウッドとエイカーンは、妖精憑きたちの態度にあきれ果てた。
「妖精がいなかったら、こいつら、本当に弱っちいな」
戦争の一族代表アンカルは、一族総出で妖精憑きたちの捕縛を手伝ったのだが、あまりに力が弱くて、拍子抜けしていた。
「ざまあないわね」
そして、妖精殺しの一族代表マリスは、完全な敗北者となった国王を含む王族を見下した。王族たちが生まれ持っていた妖精たちは、全て、私の父カンダラが所有権を染め変えて奪ってしまったのだ。
地下牢に、皇族イズレンがやってきた。妖精憑きの一族のあっけない光景に、呆然としている。
「イズレン、イーシャは来ないのですか?」
皇帝だから、てっきり来ると思っていた。
「父上は色々と大変なんだ。そう、色々とな」
含みのある言い方だ。妖精憑きの一族の問題が解決したわけではないのだろう。
「さて、これから、この妖精憑きの扱いはどうするんだ? ただ飯食らいにするわけにはいかないだろう」
何故か、妖精憑きの一族のその後をエウトに任せようとするイズレン。
エウトは驚いて、イズレンを見返す。
「てっきり、手柄だけあなたが持っていくと思っていました」
「そこまで酷い大人じゃない。それに、これらの扱いは、私の手に余ることだろう」
「そんな、難しくないですよ。最後まで、帝国の敵だったんだから、敗者としての刑罰は決まっています」
「これで終わりじゃないの!?」
アタシの中では、妖精憑きの一族は、こうして、牢に入れられたのだから、そこで罰は終わりだと見ていた。
だけど、エウトも、イズレンまで、アタシを呆れたように見てくる。
「本当に、貴様を皇帝にしたら、帝国は滅ぶな」
「優しいと甘いは違う。お前の考えは、甘いだけだ」
「もう口出ししません!!」
酷い事言われたけど、反論はしない。だって、事実だから。
エウトは常に動いていた。すでに、妖精憑きの一族の処分も決めていたのだ。その決定は皇帝であるイーシャの印で決まる。皇帝印が押された紙をイズレンはエウトに渡した。
「当然、こうなりますよね」
内容を確認して、満足げに笑うエウト。その顔、怖いよ。
「あなたがた妖精憑きの一族の処遇は決まりました。よく聞いてください」
妖精憑きの一族は、憎悪をこめてエウトを見た。エウトはあんな恐ろしい顔を向けられても、平然と笑顔だ。
「まず、赤ん坊は、このまま帝国所有となります。全て、帝国に絶対服従の契約を施し、魔法使いの館で、妖精憑きたちの手で育てられます」
「アタシたちの子どもよ!!」
「返せ!!」
母親はもちろん、赤ん坊の返還を要求する。だけど、エウトは無視だ。
「次に、子どもの扱いです。子どもはそれなりに大きいですから、妖精封じの枷をつけて、様子見をします。それなりに成長しましたら、契約紋の儀式を行い、皇族に絶対服従させます」
親から離されて、別の牢にいれられた子どもたちは、互いに抱き合って泣いた。何を言っているのかはわからないが、絶望的なことは、空気から読んでいた。
「そして、それなりに大きい者たちから、大人たちです。あなた方には、もう子を作れないように、外科的処理をします。そして、即、契約紋の儀式を行います」
「貴様は、神にでもなったつもりか!? 人の誕生を支配するなど、神をも恐れぬ行為をして、ただで済むと思うな!! 今に、神から罰を受けるぞ」
「うるさいな。僕に天罰が下る? ありえない。僕は、特別な皇族だ。役割を持って誕生した僕に神は罰を与えない。きちんと、僕は神から与えられた役割をこなしているんだからな」
「皇族だからか? 戯言を」
「どちらにしても、神が決めることだ。一族がここで滅ぶのも、存続するのも、全て、神が決めることだ。僕が手を下して滅ぶなら、それが神の定めだ」
妖精憑きの一族に容赦なく言い放つエウト。神を出しても、同じく、エウトを神を使って言い返す。どちらも、あるがままだ。
そして、最後に、国王を含む王族たちの処遇を言い渡す。
「お前たちにも契約紋の儀式を行い。妖精封じの枷をつけて、完全に妖精を所持できなくする」
「無駄だ!! 我々の妖精憑きとしての格は高い。たかが枷程度で、封じられると思うな!!」
国王は、エウトの決定を嘲笑う。だけど、エウトは余裕の構えだ。
「新しく作った契約紋を王族であるキオンに試験的に使った。もう、皇族に絶対服従だ。どういうことか、わかるか?」
「キオン程度を支配したくらいで、いい気になるな!!」
「真の皇族であるリーシャを元にして作った契約紋だ。リーシャが命じれば、お前たち妖精憑きは、絶対に逆らえない。リーシャ、やってくれるな?」
「それで、リウの罪の償いとなるなら」
「貴様、恩を仇で返すのか!?」
そう、アタシが命じるのだ。契約紋はアタシ基準で作られている。逆にいえば、契約紋の儀式を行った妖精憑きは、アタシにだけは逆らえない。
「アンカル、まだまだやることがあるぞ」
「力が弱いから、物足りないんだけどな」
エウトは、戦争の一族に契約紋の儀式を手伝わせるのだ。無力化した妖精憑きは力が弱いが数が多い。契約紋の焼き鏝は一つしかない。
きっと、とんでもないことになるのだろう。元王族キオンのように、大勢の魔法使いの前に一人ずつ連れてきて、焼き鏝をあてるとは思えない。
地下牢の空きはいっぱいだ。キオンは丁重に扱われたが、ここに捕まる妖精憑きたちは、最後まで抵抗した敗者だから、酷い扱いをされるだろう。
妖精憑きの一族の処遇を読み上げると、エウトは紙をイズレンに渡して、地下から出ていった。その後を弟リウは慌ててついていった。
アタシはリウと父カンダラと一緒に、アイシャールの元に行った。アイシャールはまだ、ベッドの上にいた。顔の傷を人目に晒さないように、顔だけを布で隠していた。
リウは、地べたにひれ伏した。
「申し訳ございませんでした。全て、僕の未熟さが悪かったです。どうか、僕を罰してください」
リウなりに考えての謝罪だ。アイシャールの妖精を半分も殺し、素顔に醜い傷を残すような怪我を与えたのだ。
額を床に押し付けたまま動かないリウ。アイシャールは、顔全体を布で覆い隠してしまっているので、どんな顔をしているのかわからない。
「もう、いいですよ。子どもがしたことです。わたくしも、子どもだからと油断しました。もう、わたくしも、随分と耄碌しました」
「そんな、アイシャールはまだまだ若いよ!!」
あんな綺麗で若いのに、年よりみたいなことをいうので、アタシは呆れた。アタシの父より、アイシャールは若いよ。
アイシャールは可愛らしい声で笑う。
「ふふふふ、本当に、リーシャ様は可愛らしい方です。見たままを信じているのですね。カンダラ、教えてあげてください」
アイシャールは父カンダラに全てを任せる。
父カンダラは、アタシに苦笑し、いつまでも頭をあげないリウを立たせた。
「お前たち、よく聞きなさい。ナーシャがいうには、アイシャールは、二百歳は越える女性だ」
「う、嘘だ!!」
「あんなに若くて綺麗なのに!!」
「本当だ。私も、ナーシャから聞いていなかったら、アイシャールのことは見た目通りに見ていただろう。アイシャールは、今の皇帝をあわせて、五人の皇帝に仕えたんだ。千年に一人誕生する妖精憑きは、力も才能も化け物な上、寿命も長い。だけど、もうそろそろ、あなたは寿命を迎えるのですよね」
「そうです。といっても、わたくしの寿命は、皇帝イーシャ様の寿命が尽きるころと、そう変わりません。ですから、もうそろそろ、跡継ぎを決めなければなりません」
そこで言葉を切るアイシャール。誰を見ているのかはわからない。だけど、父カンダラは、じっと弟リウを見ている。
「リウ、お前は罪を犯した。だから、それを償うため、お前が、アイシャールの跡継ぎとなって、筆頭魔法使いとなり、帝国に尽くすんだ」
「そんなことでいいのですか!? その程度で、許されるんですか!!」
「筆頭魔法使いとなるということは、これから、たくさん勉強をしなければならない。魔法だって使えないといけない。何より、痛い筆頭魔法使いの儀式を受け、お前は、リーシャを含む皇族に、絶対服従を強いられる。もう、リーシャのことは、姉とは呼べなくなる」
「そこまで厳密でなくていいですよ。どうせ、リーシャ様は先に死にます。リウ、あなたはリーシャ様が死んだ後もずっと、筆頭魔法使いです。あなたは、見送る側に立ち、帝国のために生きることとなります」
「それで、罪が許されるのなら、受け入れます」
「リウ、もっと考えて!!」
アタシはリウを止める。筆頭魔法使いの儀式は、半端なく痛い。あんなのをリウに受けさせるなんて、アタシは見ていられない。
「そうです。まずは、筆頭魔法使いの儀式を見てから、返事をしてください。それからでいいですよ」
アタシが言いたいことをアイシャールは代弁してくれる。
でも、これから、妖精憑きの一族が受ける契約紋の儀式をリウが見ることになる。アタシは、それに一抹の不安を感じた。
「リーシャ、リウを部屋に案内してくれ。私は、アイシャールと話がある」
「父さん、部屋、わかる?」
「私は王族全ての妖精を持っている。案内させればいい」
「そうだね」
大人同士、何か話すことがあるのだろう。アタシは、リウを連れて、筆頭魔法使いの屋敷を出た。
出たけど、その先を知らないんだよね。そういうことをしっかり読んでいる皇族エウトが、屋敷の外で待ち構えていた。
「カンダラは?」
「父さんは、後で行くって」
「また、何を企んでいるのやら。復讐なんてしたって、何も生まないのにな」
「え、父さん、アイシャールに復讐の相談をするの?」
「お前の父親の復讐は、まだ終わっていない。もう、やめればいいのに」
エウトは、父カンダラが何をするのか、なんとかく、読んでいた。
「父さん、何するの? 危ないこと?」
「僕からは何も言えない。こういうことは、僕が口だすことではないからな。リーシャもリウも、何もいうな。カンダラは、覚悟を決めている。もう止まらない」
「………」
返事は出来ない。だって、父カンダラが何をしようとしているか、アタシはわからない。
だけど、父の復讐には、アイシャールの協力が必要なんだろう。
「アイシャールに聞き出そうとするなよ。アイシャールはまだけが人だ。筆頭魔法使いは、契約紋で皇族に絶対服従だ。それに逆らうと、とんでもない苦痛を受けるんだ。けが人に、それ以上の苦痛を与えるような真似はするな」
「う、うん」
結局、アタシは何も出来なくなった。
そして、とうとう、妖精憑きの一族の処分が実行されることとなった。赤ん坊はすでに帝国の魔法使いの元に連れて行かれていた。子どもたちは、重い枷をつけられ、魔法使いが暮らす魔法使いの館に連れて行かれた。
ある程度大きい子から大人たちは、地下牢に入れられたままだ。妖精は、リウが盗ったままなので、妖精憑きの力は使えない。エウト主導のもと、本当に、子どもが作れない外科的手術を目の前でされ、強制的に回復させ、そのまま、契約紋の焼き鏝を背中に押され、何の治療もなく、別の牢に放置された。
あまりの光景に、気を失う者、泣き叫ぶ者、無駄な抵抗をする者と、様々だった。地下牢は阿鼻叫喚となった。
そんな光景を弟リウは皇族エウトの隣りで見届けた。
「あの焼き鏝を筆頭魔法使いは受けることとなっている。本当にいいのか?」
珍しく、エウトは心配そうにリウにいう。エウト、リウには優しいな。
想像を絶する苦痛だ。それを受けた元王族キオンは、裏技を使って回復をしたとはいえ、最初の頃は気を失うほど、大変な状態となった。
一族の処遇を見届けることとなったキオンは無言である。キオンはもう、口出しすら許されない扱いとなった。何せ、妖精憑きの小国の元王族だ。契約紋で縛られてはいるが、それ以前の立場は戦争で負けた捕虜だ。たまたま、戦場に出て、捕虜となって、自尊心を折られて、無理矢理の筆頭魔法使いの儀式を受けさせられて、帝国に絶対服従しているだけだ。本来ならば、地下での処分をキオンは受ける立場である。
処分が終わった妖精憑きの一族の者たちは、裏切者のようにキオンを睨む。それも、キオンは無表情で受け止めるだけだ。
そして、当のリウはというと、ちょっと後悔している。まさか、こんな酷いことをされるとは、思ってもいなかったのだ。
「ねえ、イーシャは? アタシ、帝国に戻ってから、イーシャに会ってない」
「部屋が別になったから、会うことはないだろうな」
アタシは父と弟が帝国に来たことで、別の部屋に移った。なので、城に戻ってから、ずっと、イーシャに会っていない。
「てっきり、簡単に会えると思ってたの」
「部屋が別になるんだ。それぞれ、立場も違う。イーシャは忙しいんだ」
「アイシャールのことは、今後、どうするのか、聞きたかったんだけど」
「お前、余計なことをするなよ」
「でも、アイシャール、可哀想」
「………」
何か隠しているようだ。エウトは言いたそうだけど、ぐっと我慢している。
「アイシャールはイーシャが初恋だって言ってた」
「遅咲きだよな」
「イーシャは見た目はいいし、皇帝としても立派だし、ダメなところはないけど」
「子どもが三人いるだろう。死んだといえども、既婚者だ。それに対して、アイシャールは未婚だが、過去に四人の皇帝に仕えている」
「それを言ってしまったら、夫や妻を失くした人は、再婚出来ないじゃない」
否定的な感じのエウトに、アタシなりの意見をいう。妖精憑きの小国だって、そういうことはあった。
「皇族教育が終わっていないから、そういうことが言えるんだ。いいか、皇帝となった皇族は、皇帝の儀式を行うこととなっている」
「帝国って、儀式いっぱいだね。皇帝になるのも、儀式が必要だなんて」
「皇帝は、血筋が絶対だ。筆頭魔法使いをどこまで従えられるか、試すんだ。皇帝の儀式では、筆頭魔法使いに閨の強要を命じるんだ」
「………えええー-----!!!」
とんでもない話だ。それって、その、将来、リウも筆頭魔法使いとなったら、皇帝相手にやるということだ。
「筆頭魔法使いも、皇族も、教育を受けて、それを知っている。皇帝の儀式は絶対必要なんだ。アイシャールは、過去四人の皇帝と皇帝の儀式を行っている」
「そんなの、アイシャールは平気なの?」
「これまでの契約紋の焼き鏝は皇帝に合わせて作り変えられていた。アイシャールは逆らえない。結果、皇帝には絶対服従だ。アイシャールのあの見た目だ。だいたい、想像はつくだろう」
「………」
あれほどの美貌だ。男なら夢中になる。
「でも、儀式だから一回だけだよね」
「関係ない。皇帝が命じれば、アイシャールは従うしかない。アイシャールの過去を僕は知らない。でも、アイシャールの初恋がイーシャだという話から、想像はつくことだ」
この事をアイシャールから聞き出すわけにはいかない。
イーシャとは短い間だけど、接して、優しい人だとわかる。アイシャールがあんなに好意を示していても、イーシャは適度な距離をとっている。それは、アイシャールを尊重しているのだろう。
「アイシャールには、幸せになってほしい」
見えない苦労をアイシャールはいっぱい、過去に受けたのだろう。だから、残り少ないという寿命が尽きるまでは、アイシャールには、幸福であってほしい。
「そこは、あるがままだ。神が導いてくれる」
結局、最後は、神の導き次第と、エウトはいうしかなかった。




