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皇族姫  作者: 春香秋灯
契約紋の皇族姫-真の勝者-
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様々な真実

 すぐに移動、というわけにはいかなかった。妖精殺しの小国代表マリスが待ってほしい、と言ってきたのだ。

「どうせ、今いっても、明日行っても、同じでしょう。あのお子様皇族のことは、諦める気持ちでいきなさい。そこは、神の定めよ」

 皇族エウトを救いたいけど、そこは、冷静なマリスが正論が語る。

「腹が立つが、君の力は役に立つ」

 父カンダラは、苦々しくいい、マリスの提案を受け入れる。

 一晩あるので、アタシは父から離れ、また、ベッドに倒れたキオンの元にいく。

 妖精憑きキオンは、無理をしすぎて、熱を出していた。

「なかなか、治らないね」

「この儀式の欠点は、回復に時間がかかることです。妖精憑きの回復力は化け物です。それを阻害して、契約紋を火傷の痕として残すのです。そのため、アイシャール様でも、二週間は回復に時間がかかりました」

「そんなに!?」

 妖精リンちゃんの説明を聞いて、驚かされる。そんなに長く苦しむのだ。

 キオンは、アタシの側にいる妖精リンちゃんを訝しげに見上げる。

「おかしな奴だな。人形の中に妖精が入るなんて、おかしいぞ」

「そうなの!?」

「妖精が肉体を得るには、神に捧げものをした時だ。だから、妖精が人形という肉体を得るのは、教えに反する」

「おや、よくご存知ですね。まあまあの妖精憑きだけのことはあります」

 キオンの話を肯定するリンちゃん。

「リンちゃん、無理、してる?」

「ですが、真の皇族のお傍にいられる機会のためならば、この程度の屈辱は可愛いものですよ。リーシャ様の側は、とても心地よい。それは、お前も同じでしょう。妖精憑きは皆、リーシャ様の側で安らぎを覚える。さあ、リーシャ様、この男の手を握ってください」

「う、うん」

 リンちゃんって、キオンのことを嫌っている感じだけど、アタシに手を握らせようとするなんて、おかしな感じだ。

 アタシはわけがわからないまま、キオンの手を握る。途端、キオンは恍惚な表情となる。

「ずっと、握っていてくれ」

「それを許すわけがないでしょう。わたくしだって我慢しているのに。さあ、契約紋とリーシャ様が繋がりましたよ」

「意味、わからない」

「わたくしにはわかります。そのまま、しっかりと握っていてくださいね」

 リンちゃんはキオンの背中に触れる。まだ、火傷が治りきっていないから、リンちゃんが触れるだけで、キオンは苦痛の表情となる。

「契約紋は完璧です。リーシャ様を絶対的な主として、契約が発動しています。リーシャ様が触れることで、契約紋が強く作用しています。ここに、回復を与える」

 一瞬のことだった。キオンはあれほど苦しんでいたというのに、顔色まで良くなっている。

「離せ!!」

 リンちゃん、怪我人であるキオンの手を力いっぱい叩いた。そうとう、痛かったようで、キオンはアタシの手を離した。

 キオンは信じられないように叩かれた手を見る。

「背中が、治った?」

「わたくしは、最高位妖精ですよ。アイシャール様がいなくても、お前の傷を上手に治すくらい、簡単です。ただ、痛みを受けることは、大事な儀式です。それを省略することは、ありがたみが半減してしまいます」

「なんだそれは!?」

 怒りで立ち上がるキオン。本当に、背中の火傷は痛くなくなったんだ。アタシは、ついつい、背中を確認したくて、服をめくってやる。

 皇族エウトが見せてくれた契約紋が、キオンの背中にそれらしく火傷の痕として残っていた。

「年頃の娘が、そんなことするんじゃない!!

 顔を真っ赤にしてキオンはアタシから距離をとった。

「子どもの頃は、裸で川遊びしたじゃない」

 今更だ。たかがキオンの背中に、何か感じることなんてない。

 アタシがこれっぽっちも感情を揺らしていないから、キオンは脱力する。

「それよりも、教えてほしいの。母さん、どうして死んだの?」

「………」

「妖精憑きの皆がアタシに優しいのは、皇族の血筋だから、と思っていた。でも、父さんの話を聞くと、そうではないよね。アタシは、瓜二つというほどではないけど、母さんに似ている。罪悪感から、アタシに優しくしてたんだよね」

「………そうだ」

 とうとう、キオンが折れた。もう、アタシは、妖精憑きの小国の男たちとは結婚を申し込まれても、全て断ってやる。



 母ナーシャが二人目の子の出産には、隙が出来る。出産はとても苦しむのだ。それを勘違いして、夫カンダラの妖精が暴走してしまうといけないから、と離された。実際、リーシャの出産の時にあったので、カンダラは納得して外したのだ。

 そうして、カンダラの妖精の保護を失くしたナーシャは、出産を終わらせた途端、殺害された。

 その殺害も、卑怯きわまりなかった。妖精憑きは自らの手を汚すことを嫌い、ただの人にやらせたのだ。

 ただの人だって、最初は拒絶した。人殺しは教えに反する、と。それを妖精が支配する森へと行かなくていい、という条件を出した。しかも、罪悪感があるだろうから、小国を出て、近くの小国に行くまでの足がかりまでする、というのだ。

 その条件に乗った複数のただの人は、出産で力尽きていたナーシャをめった刺しにした。

 そして、カンダラが気づいた時には、ただの人は小国を出てしまった後だったという。



 アタシはキオンから距離をとった。キオンは全てを話してしまったので、もう、アタシに手を伸ばしたりなんかしない。

「まさか、そんな卑怯な方法で、ナーシャを殺すだなんて、どこまでも腐った奴らなんだ」

 怒りで目をギラギラと黒く光らせる妖精殺しの小国代表マリス。真実を知って、キオンにまで、憎悪の目を向ける。

「ナーシャが何をしたというんだ!? 自分たちに都合の悪いことをいうから、邪魔になったんだろう。何が神の教えだ。もっとも、教えに背くような考えをしているのは、貴様ら妖精憑きの小国だ!!」

「………そうだ。俺たち王族は、救いようがない罪を犯した」

「それを知っていながら、お前はリーシャに結婚を申し込んだのか。恥知らずめ!!」

「っ!?」

 言われるままだ。キオンは、こんなことにならなければ、生涯、隠して、アタシと夫婦になっていたかもしれない。

「ねえ、いつ、母さんにアタシを守れと言われたの?」

「俺は、止めに行ったんだ。だけど、終わった後だった。だけど、ナーシャは生き返った。生き返って、俺に言った。そして、また、死んだんだ」

「もう二度と、アタシに結婚なんて申し込まないで」

「………ごめん」

 謝られても、意味がない。

 妖精憑きの小国の平和は、全て、見せかけだった。

 いや、父も、キオンも、必死に、アタシと弟リウだけは、幸せにしようとしたのだ。戦争さえ起こらなければ、その見せかけの平和にアタシとリウはいただろう。





 次の日、アタシは着替えさせられた。それを見て、アタシは一抹の不安を感じた。

「この、派手な服は、筆頭魔法使いの服みたい」

 そう、アイシャールが普段から着ている服に似た感じだ。

「これは、道具の一族と、妖精殺しの一族、そして筆頭魔法使いの力を使って作られた特別製の布だ。これには、妖精封じだけでなく、様々な加護が織り込まれている。聖域化した材料を使って作り、筆頭魔法使いの魔法を施し、二重三重の施しをしたため、完成に一か月もかかった」

 妖精殺しの小国代表マリスの説明は、とんでもなかった。

「そんな貴重なものをアタシの服にするなんて」

「今後は、これが筆頭魔法使いの服に使われる予定です。これは、試作品。本来は、筆頭魔法使いの服は、筆頭魔法使い自身が一から作るものです」

「こんなに大変なものを一人で作るの!? そんな、全てをこなせるような人なんていないのに」

「筆頭魔法使いになれる妖精憑きは、才能の化け物です。この程度、出来て当然ですよ。これが作れるようになって、初めて、一人前です」

「アイシャールも、これから作るの?」

 アイシャールはまだ、弟リウから受けた怪我に苦しんでいた。

「もう、彼女は筆頭魔法使いではいられないでしょう。話では、妖精を半分、殺されてしまったと聞いています。ですが、彼女が持つ知識は貴重です。今後は、賢者となって、後進の育成をすることとなります」

「そうなんだ」

 マリスに説明されて、アタシは残念に感じた。ずっと、アイシャールは筆頭魔法使いでいるものと、アタシの中では決まっていたのだ。だって、皇帝イーシャの筆頭魔法使いは、アイシャールだけだ。そうでないといけない。

 イーシャはというと、アイシャールの看病のため、仕事は他の皇族に押し付けてしまった。アイシャールの側にずっとついている。

 アタシが着替えた姿に、ナリスは前から後ろからと確認して、満足そうに頷く。

「完璧です。さすがナーシャの娘、何を着ても似合いますね。今後は、わたくしがリーシャの服の制作をさせてください。ぜひ、あなたを着飾りたい」

「それは許さない」

 父カンダラがナリスの首根っこをつかんで、アタシから引きはがした。

「リーシャに服を贈るなど、どういうつもりだ!? 私が生きている内は、絶対に許さん」

「勘ぐりすぎです。わたくしはただ、ナーシャの娘のことは、わたくしも娘のように思っているだけですよ。身代わりではありません」

「どこまで本当か、わかったものではない。離れなさい」

 父はナリスのことを物凄く警戒している。しかも、いつもの穏やかさがかけらほどもない。

 でも、アタシを見る時は、表情を緩める。

「確かに、リーシャは何を着ても似合うな。だが、男から迂闊に服を貰ってはいけない。いいね」

「う、うん」

 笑顔だけど、纏う空気が怖いよ、父さん。

「キオン、では、私とリーシャを飛ばしてくれ」

「わたくしも行きます。妖精殺しの御業は役に立ちますよ」

 ナリスは離されるものか、とアタシの腕をとる。

「わたくしも置いていかないでください!!」

 人形についた妖精リンちゃんまで、アタシにしがみ付いてきた。

 アタシはというと、父さんの腕にしがみついた。そうしないと、置いて行かれそうだ。

 どんどんと増えていくので、キオンは黙って様子見をしている。まだ増えるかも、なんて警戒していた。

「これで全てだ。頼む」

「わかりました」

 父カンダラに言われ、キオンは母が使っていた道具を作動させた。

 道具は本当にすごい。瞬きしている間に、妖精憑きの小国の入口に到着した。

「おかしいな」

「確かに」

 だけど、いつもとは違うようだ。妖精憑きである父カンダラとキオンは、異変を感じ取っていた。

 だけど、警戒は怠らない。小国の人たちに見つからないように、気配を探ったり、妖精を惑わしたりして、中心へと行く。

「誰も、いない?」

 どこまで行っても、住人がいない。人の気配一つしないのだ。

「妖精はどうですか?」

「野良の妖精すらいない。いや、一か所に妖精が集まっている。そこだろう」

 その方向を見る。

「え、そっち、城とは逆なんだけど」

 妖精が集まる場所は、妖精憑きが大勢いるだろう場所だ。それほどの人が一か所に集まれる場所は、王族が暮らす城だ。

 なのに、全く違う方向にいるという。何か罠かも、なんて思うけど、父カンダラも、キオンも警戒一つせず、そのまま行ってしまう。

 妖精憑きの感覚がわからないアタシとナリスは、ただ、付いていくだけだ。

「ねえ、リンちゃん、大丈夫なの?」

 妖精はわかるかも、と小声で聞いてみる。

 リンちゃん、人形に憑いているくせに、顔を真っ青にして黙り込んでいる。何か、とんでもないことが起こっているんだ。

 そうして、行った先は、アタシの見知った家だ。

「アタシの、家、なんだけど」

 アタシが生まれ育った家だ。

 父カンダラも、キオンも、家の前で立ち止まり、そのまま動かない。

「父さん、罠じゃない?」

「ここから、リウの妖精を感じる。リウがいる」

「しかし、この妖精はまた、大変なことになってるな」

 何が起こっているのか、わからない。だけど、キオンは家から距離をとる。

 アタシはよくわからない。ほら、妖精は見えないし、感じないから。だから、平然とそのまま家に入っていく。誰も、アタシを止めない。

 中に入れば、食卓だ。そんな広い家じゃないの。そこに、リウがいる。

「エウト!?」

 なんと、リウの向かいで、エウトが座っているのだ。思わず、アタシはエウトを抱きしめてしまう。

「離れろ!! 鬱陶しい!!」

「エウトだ!! どうして無事なの?」

「まるで、死んでいるみたいな言い方だな」

「そう、言われたから」

 エウトはアタシを押し離した。

「誰に言われた?」

「妖精殺しの小国代表ナリスに」

「アイツ、後で覚えていろよ」

 怒りに顔を歪めるエウト。

 だけど、アタシは心配で、エウトの体を触った。

「やめろ!! この痴女が!?」

「違う!! 怪我をしてないか、確かめてるだけだよ。痛いとこ、ない?」

「痴女に襲われてる」

「ひどい!?」

 エウトはいつもの調子だ。

「お姉ちゃん」

 恐る恐る、のように、エウトの向かいにいるリウがアタシを呼ぶ。

 アタシは、エウトにしたようにリウの体を触った。怪我をしていないか、どこか痛いところはないか、確かめた。

 リウは少しくすぐったそうな顔をするだけだ。怪我も何もない。良かった。

 そして、間髪も入れずにリウの頬を引っぱたいた。

「女の人の顔に怪我させるなんて、そんな最低な男に育てた覚えはない!!」

「で、でも、国王が、あの女はお姉ちゃんを誘拐した悪者だって」

「悪者だったの?」

「………違った。ごめんなさい」

「アタシに謝ってどうするの。リウがやったことが、アイシャールを泣かせたんだよ。男だったら、顔の怪我は名誉の勲章と笑っていられるけど、女は、恥なんだよ。アイシャール、怪我の痛みよりも、顔に残る傷に泣いていた」

 アイシャールの顔の傷は、見せてもらったけど、酷いものだった。魔法使い複数での治癒も、妖精の塗り薬でも、アイシャールの顔の傷は治らなかった。

 リウの力は、全てを破壊しつくした。騙されたといえども、簡単にふるっていい力ではない。

「妖精を使って、人を傷つけてはいけない、と教えを受けたでしょう」

 それ以前に、妖精憑きの小国では、幼い子供の頃から、そう教え込んでいた。ちょっとでも、妖精の力で悪さをすれば、酷く罰を受けるのだ。

 教えとは反することを国王から命じられたというのに、リウはやってしまった。そこは、許してはいけない。国王だけが悪いわけではない。甘言に揺れたリウも悪い。

「そこまでにしてやれ。あのジジイ、リウに妖精を狂わせる香を使って、洗脳までしてたんだ」

「そうだけど」

「許してやれ、リーシャ。リウももう二度と、こんなことしない、と僕に約束してくれた」

「うん、約束する。エウト、もう二度と、妖精を悪用しない」

「リウ?」

 なんだか、おかしい。リウは、エウトに随分と素直だ。

 リウはアタシにいつもべったりだ。他人が近づいても全て拒絶していた。同じ年頃の子ども相手でも、無視する。

 なのに、リウはエウトと笑顔で話している。しかも、エウトのいうことを素直に受け止めている。

「リウ、どうしたの? エウトと、どうして、こんなに仲良しなの?」

「僕、エウトと友達になったんだ」

 曇りのない目でいうリウ。

 訳が分からない。アタシは混乱してしまう。アイシャールが大怪我して、帝国は大変なことになっている。もう一度戦争だ、と準備まで始めているのだ。

 なのに、実際に妖精憑きの小国に来てみれば、最強最悪と警戒されている弟リウは、皇族エウトと仲良くしている。

 警戒しながら入ってきた父とキオンも驚いていた。

「さすが、ちびっこ皇族。最悪な状況も乗り越えてしまうか」

 最後に入ってきたマリスは、無事なエウトの姿を見て、そう呟いた。

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