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皇族姫  作者: 春香秋灯
契約紋の皇族姫-一族-
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妖精殺しの一族

 最後に残るは、妖精殺しの一族だ。この一族の存在は、禁忌だけど、重要視されていた。

 妖精は決して善な生き物ではない。悪戯もするし、それが過ぎて、人が死ぬこともあるのだ。そういう悪さをさせないための技術を持っているのが妖精殺しの一族だ。

 時には、妖精を殺すことも出来るという妖精殺しの小国は、後ろ暗い存在だ。妖精憑きの小国にとって、妖精殺しの小国は罰当たりである。だけど、妖精殺しの小国が持つ技術は必要悪だ。その技術が使われているのが、地下牢だと教えられた。

 悪さをした妖精憑きを罰として閉じ込める地下牢は、道具の小国と妖精殺しの小国が力をあわせて出来たものである。どちらが欠けても完成しなかった、妖精憑きを封じる地下牢。

 きっと、帝国の筆頭魔法使いの屋敷の地下にある地下牢も、同じなのだろう。道具の小国だけが出来ることではない。妖精殺しの小国の技術があってことだ。だから、あの城では、妖精憑きの小国の王族であるキオンすら、力を封じ込められてしまい、大人しくせざるをえなかったのだ。

 辺境の小国代表がいる部屋に入る。いつも警戒しているのか、先に入るのは、妖精のリンちゃんだ。だけど、入ってすぐに、アタシに抱きつくように出てくる。

「この世の悪いものを全てあてはめたような男がいます!!」

 ここまで怯えるのは初めて見た。リンちゃんは人形に憑いているといえども、妖精だ。妖精が恐れるって、すごい人なんだ。

 アタシは背中に縋りつくリンちゃんを感じながら、中に入った。

 全身、真っ黒な服を着た、男とも女とも言える人が座っていた。とても背が高いから、男かな? なんて見てしまう。

「相変わらず、男なのか、女なのかわからないヤツだな」

 あまりにアタシが遅いので、押しのけて、皇族イズレンが入ってきた。

「リーシャ、こいつは、妖精殺しの一族代表マリスだ」

「よろしく」

 嫣然と微笑む妖精殺しの一族代表マリス。男かと思ったけど、声は女性だ。どっちなの!?

 アタシは、じっとマリスの胸を見る。あの服、胸があるかどうか、わかりづらい。

「わたくしの性別が気になりますか?」

「はい、とっても」

 正直に答えると、マリスは大人の余裕のように笑ってくれる。

「秘密です。わたくしは、そういう存在でなければいけませんので、男とも女とも教えるわけにはいきません」

「そっと、教えてください。内緒にします」

「わたくしの性別を知った者は、男も女も、殺すこととなっています。さすがにあなたを殺すと、戦争となってしまいますので、ご容赦ください」

 アタシはマリスから距離をとった。たかが性別くらいで、人を殺すなんて、マリスもただの人ではない!?

「からかうのはそこまでにしろ。ほら、リーシャ、座りなさい。面談はマリスで最後だ」

「妖精憑きの小国代表とは、まだ、話がついていないのですね。あそこは、自尊心の塊だ。妖精憑きとしての一番悪い部分が助長してしまっている」

 マリスはタバコの煙をふかした。途端、リンちゃんは部屋の端に逃げる。

「それはやめてください!? 気持ち悪い!!」

「おや、あなたは妖精憑きですか? 確かに、綺麗ですよね」

「リンちゃんは、人形に憑いた妖精なのです」

「あら、これは失礼。それでは、この煙の忌避感はすさまじいでしょうね。妖精様に大変、失礼いたしました。知らないことでしたので、ご容赦ください」

「許します」

 マリスが椅子から立って、きちんと頭を下げたからか、それとも、態度がきちんとしているからか、リンちゃんはあっさり許した。

 マリスはタバコを消して、窓を開けて、あの煙を外に追いやったけど、窓は開いたままだ。

 リンちゃんはアタシの横に座って、べったりとくっついて、睨むようにマリスを見ている。許したけど、警戒はしている。

「今回は、わたくしで良かったですね。先代であれば、妖精は部屋に入るのも拒絶したでしょう」

「どうしてですか?」

 見ても、アタシは何も感じない。だけど、リンちゃんは物凄く感じているようで、ただ、マリスが話しただけで、嫌悪感を顔に出す。

「我ら王族の中でも、国王となる者は、妖精を排除し、殺す体となります。先代の体は、妖精にとって、完全な毒なのです。体臭も、吐く息も、さらには、血液でさえ、妖精には毒です。それは、妖精憑きに対してもです。妖精憑きは、妖精の感覚を共有してしまいますから、どうしても、忌避してしまいます。結果、代々の国王は、妖精憑きに嫌われてしまいます」

 素敵な笑顔で、可哀想だな、なんて思ってしまうことをいうマリス。ただの人には、マリスは悪く見えない。でも、妖精リンちゃんには、マリスは嫌悪する存在なのだ。それは、気の毒だ。

「先代は、今、どうしていますか? 他の小国代表の方々と同じように、引退して、ゆっくりと国で過ごしているのですか?」

「死にました」

「ご、ごめんなさい」

 笑顔でいうマリスに、アタシは知らないとはいえ、言ってしまったことに謝る。マリスが笑顔でも、聞いてはいけないことだった。

「知らなかったのですから、謝罪しなくても良いですよ。戦争が終わってすぐのことですし、知らなったことでしょう」

「ですが、小国が集まっている場で、使者の方が、体調が悪いようなことを話していました」

 その場に、アタシもいた。体調が悪いと言っただけだが、アタシが想像している以上に、酷い状態だったのだろう。まさか、死んでいたなんて、思ってもいなかった。

「あなたは、優しいですね」

「いえ、優しくはない。戦争が始まる前は、他の小国と同じく、あなたの国を蔑んでいました。決して、いい人間ではなかったです」

 世間知らずで、閉じられた世界で生きていたアタシにとって、妖精殺しの小国は、禁忌の国だ。神の使いである妖精を殺すことが出来るなんて、神への冒涜とすら思っていた。

 だから、話を聞かなくても、妖精殺しの小国が、帝国に下った理由はわかる。

「妖精殺しの小国は、あまりにも悪く言われ過ぎたから、帝国に下ったんですね」

「いえ、私怨です」

「え? そうじゃないのですか!?」

 使者だって、悪く言われて腹が立った、みたいなことを言っていた。だから、てっきり、そうだと思った。

「あの思い上がりの妖精憑きの小国を滅ぼすために、帝国に下ったのですよ」

 とんでもない私怨だった。




 先代は、先がもう長くなかった。毎日のように血を吐き、苦しんでいたという。だけど、妖精殺しの業を身に着けているため、どうすることも出来なかった。

 ある日、たまたま、妖精の薬が巡ってきた。妖精憑きの小国は、毎年、決まった数の妖精の薬を恵みをくれる小国たちに分け与えていた。そうして、妖精憑きの小国は、食べる物を確保してきたのだ。

 妖精殺しの小国である。恵みなんてない。だけど、妖精の悪戯で困っていた小国を助けたところ、たまたま、妖精の薬を分け与えてくれたのだ。

 妖精の薬は万能薬だ。あらゆる病を癒し、骨折だって一瞬で治してしまうほどだという。それほどのものが巡ってきたのだ。先代にどうか、と皆、勧めた。

 先代は、これはいざという時の薬にしよう、と固辞した。国王が、独占して良い薬ではなかった。

 飲もうとしない先代に、王族たちは一計を案じた。薬を飲み物に混ぜたのだ。

 少しずつ混ぜて、飲ませた日から、先代は血を吐かなくなった。自らを妖精の毒にしたため、寝ても覚めても苦しかったというのに、それはなくなったという。

 妖精の薬で、完全回復は誰も望んではになかった。身を削る行為である。神に逆らうような役割だから、そんな大それた望みは持たなかった。

 ただ、先代には、安らかな死を与えてやりたかった。

 そこで、妖精殺しの小国は、恵みを与える小国に混ざった。

 だけど、妖精殺しの小国の恵みだけ、突き返された。

「妖精殺しを生業とするような国から恵んでもらうほど、困っていない」

 そう言われ、妖精殺しの小国は怒り狂った。妖精の困りごとは、全て、妖精殺しの小国が解決することが、当然となっている。そういう役割りなのだから、仕方がない、と皆、納得している。

 だけど、好きで、こんな汚れ仕事をしているわけではない。

 それからすぐに、帝国が手を差し伸べてくれた。帝国は、先代の状態が手遅れなほどだとわかっていながら、無償で妖精の薬を渡してくれた。




 アタシは言葉も出ない。謝罪なんて、してはいけない。そんな安っぽい言葉で、この場を治めてはいけない。いくらバカなアタシでも、わかる。

「あまりのことを言われて、わたくし自ら、妖精憑きの小国に頭を下げに行きました。わたくしはすでに次の王でしたから、行くしかありませんでした。それが、さらにいけなかったのでしょう。すでに跡継ぎとして、体も作り変えていましたから、妖精憑きの小国に入ることも許可が下りませんでした。そして、どうにか他の小国に頼み込んで、手紙を渡してもらいました。その返事が、これです」


 報いを受けよ


 アタシは涙が止まらない。妖精は決して慈悲の生き物ではない。だけど、こんなのはあんまりだ。

 今ならわかる。妖精殺しの小国は、必要悪だ。手に負えない妖精憑きに罰を与えるのは、同じ妖精憑きだろう。だけど、それがいない時は、妖精殺しの小国に頼るしかない。そういう必要悪がないと、妖精憑きの気分一つで、世界は変わってしまう。

 あまりに泣くので、マリスが綺麗なハンカチを差し出してくれる。慌てて、皇族イズレンが出してくれるけど、遅い。アタシはマリスのハンカチを受け取った。

「泣かなくていいのですよ。これは、我々が選んだ道です。実際、悪いこと、一杯していますよ。例えば、妖精憑きの売買も、我が小国が取り仕切っております」

 涙が止まった。確かに、悪いことしてる。

「ですが、それは仕方のないことです。我が小国が出る前までは、妖精憑きの取り合いで、内戦まで起きた始末です。いらぬ争いを回避するため、我が小国が必要悪となって、妖精憑きを奪い、管理したのです。ついでに、思いあがった妖精憑きを教育し、正しい心根を持つように育てました。今、小国のあちことにいる妖精憑きたちは、しっかりとした心根を持った者たちです。それも、先代から始まったことです」

「素晴らしい、人、なのです、ね」

 亡くなった後に、その偉業を聞いてしまうと、本当に罪悪感しかない。

 先代は、本当に素晴らしいひとだった。せっかくの万能薬も固辞し、他の小国のために悪者になって妖精憑きを集めて教育し、平等に広げたのです。

 だけど、妖精憑きの小国は、表面上のことだけを見て聞いて、知った気になって、蔑んだ。アタシだってそうだ。帝国に連れて来られる前までは、アタシは妖精憑きの小国の国民だ。妖精殺しの小国を表面だけしか知らないので、蔑んだだろう。

「ですから、私怨で帝国に味方しています。今、妖精憑きを封じるための道具を道具の一族と一緒に開発しています。絶対に、妖精憑きの小国を滅ぼしてみせます」

「滅ぼすしか、ないのですか?」

「戦争をするわけではありません。言いませんでしたか? 筆頭魔法使いは、妖精憑きの小国を奴隷に落としてみせる、と」

「あれ、ちょっとした勢いで言った言葉ではないのですか!?」

 筆頭魔法使いアイシャールと妖精憑きキオンの口論で、そういう話が出てきた。

「本気です。わたくしたち、妖精殺しの一族も、道具の一族も、そして、戦争の一族も、妖精憑きの小国を奴隷に落とすために、手を結んでいます。それほど、妖精憑きの小国は、恨みを買っているのですよ」

「そんなっ」

 アタシが想像している以上に、恨みは大きかった。アタシの前では、好意的な態度だった。だから、大丈夫、なんてアタシは意味もなく思いこんでいた。

 実際は違う。その内面は、憎悪でいっぱいだ。アタシに優しいのは、何も知らないからだ。ただ、言われるままに教えを受けてはいたけど、帝国に連れて来られ、考えも改めた。

 何より、妖精憑きの小国で、ただの人の扱いが酷いことを捕虜を通じて知ったのだ。

 恨み事なんで出ない。同じ仲間なのだ。なにより、妖精憑きの小国でのただの人の扱いを聞いて、改めて、妖精憑きの驕りを思い知ることとなり、さらに、憎悪を募らせたのだ。

「あなたは、随分と慈悲深い子ですね。あなたのような人ばかりでしたら、妖精憑きの小国は、誰からも愛される小国となったでしょう」

「こんなのばっかだと、搾取されて、終わりだ」

 だけど、イズレンの意見は違った。

「どうして、そんな意地悪言うのですか!?」

「父上も言っただろう。貴様が皇帝となったら、帝国が滅びる、と。嘘を見抜けない、人を疑えない、全ての人を善人と思い込んでいる、そんな奴を皇帝にしたら、政治はめちゃくちゃだ」

「………」

 その通りだけに、アタシは項垂れるしかない。そうです、アタシが皇帝になったら、間違いなく、帝国は滅びます。ごめんなさい。

 それを聞いたマリスは楽しそうに笑う。

「あははははは、久しぶりに、面白いものを見た!! イズレンもまた、男なんだな」

「当然だ、私は男だし、野望だってある。必ず、皇帝になってみせる」

「聞いたぞ。皇族リーシャの夫が、次の皇帝だってな」

「嘘です!!」

 どこまで広がっているの!! アタシは強く否定した。とんでもない話だ。

「それを抜きにしても、あなたは魅力的な女性です。男には気を付けないといけませんよ」

「わかっています。甘い言葉で近づいてくる男は裏がある、とエウトが教えてくれました」

「あのお子様も、やはり、男なのですね。しっかりとしている」

「そうです、エウト、アタシよりも物事をよく知っているの。いつも教えられてばっかり。アタシのほうがうんと年上で、エウトはアタシの弟と同い年なのに」

「弟がいるの!? その子は妖精憑き?」

「そうです。アタシにべったりなので、アタシが戦争に出る時に、妖精封じがされた地下牢に閉じ込められていたので、きっと、今も妖精憑きの小国にいます。エウトは、アタシの父と弟を連れて来てくれる、と言っていました」

「万が一の時は、わたくしが力になりましょう。わたくしはまだ未完成といえども、妖精殺しの御業を持っている唯一です。必ず、力になります」

「もう、そんなの、いりません。あるがままです。そういう力がなくても、きっと、解決出来ます。そういうふうに、神が導くものだ、と亡くなった母が言っていました」

「天才ナーシャですね」

「母を知っているのですか!?」

 母のことをこんな親し気に語られるとは、思ってもいなかった。

「ナーシャは、ただの人でありながら、妖精憑きの小国を自由に出入りできた人です。時々、夫を引き連れて、我が国にも来ていたのですよ」

「嘘っ!?」

 信じられない話だ。だって、ずっと閉じ込められていると思っていた。家に帰れば、必ず、母ナーシャはいたのだ。

「ナーシャはとても頭のいい女性でした。我が国に来ては、色々と知識を分け与えてくださりました。妖精憑きの教育にも、ナーシャが関わっていました」

「どうやって!?」

「妖精憑きの小国では禁忌とされていた道具を使って、夫を道連れにしていましたよ。もう、ナーシャの夫はナーシャの言いなりでした」

 どんどんと知らない母の姿を知ることとなってしまう。

 父によって家に閉じ込められ、囲われていた母ナーシャ。見方によっては哀れだけど、そこに幸福を感じているようだった。

 だけど、実際は、惚れこんだ父を利用して、道具を使い、小国の外に出ていたという。

「どうして、そんな危険なことを」

 一歩間違えれば、母は小国から追い出されることとなってしまう。母ナーシャだけ国外追放され、アタシと父さんだけが小国に残ったかもしれない。

「ナーシャは、小国を出て暮らすつもりだったのですよ。そのための足がかりを妖精殺しの小国に求めました。ほら、我が国であれば、妖精憑きの小国は手が出せません。だからでしょう」

 追放されても構わなかったのだ。追放されたら、アタシと父を連れて、出て行っていた。

「身重になってからは、ナーシャは国に来なくなりました。それから、ぴたりと音信不通となってしまったので、何かあったとは思っていましたが、まさか、亡くなっていたとは」

「弟の出産は、なかなか難産だったといいます。妖精憑きの力を持ってしても、母を救うことは出来なかった、と父に言われました」

 出産で死ぬなど、思ってもいなかった。妖精憑きの小国だ、そんなこと起こるはずがない。

 だけど、母ナーシャは死んだ。弟リウの出産は、妖精憑きの想像を越えるものだったという。

「アタシ、母さんの死に目も見てないんです。あまりの姿だから、見せられないって、言われました」

「そうだったのですね。ナーシャが亡くなったことは、本当に残念です。こういうと買いかぶり過ぎだ、と言われそうですが、ナーシャが生きていれば、戦争も起こらなかったと思います。円満に、事を終わらせてくれたでしょう。そういう力をナーシャは持っていました」

「母さんが生きていたら、エウトのように、色々と教えてくれたかな。アタシ、ここまでバカじゃなかったかも」

 まさか、ここで、母を惜しむ言葉を聞けるとは思ってもいなかった。それも、母の隠された能力の素晴らしさからだ。

 すこし、しんみりとなった所で、外が騒がしくなった。

 礼儀もなにもかもすっ飛ばして、ドアが乱暴にあけられた。

「リーシャ様!! 急いでアイシャール様に会ってください!!!」

「え、でも、アイシャールはエウトと一緒に城の外に行っている、と」

「大変なことになったのです。早く!!」

 アタシの腕をとろうとする男に、アタシは距離をとる。エウトからは、ともかく気をつけろ、と言われていつので、警戒していた。

 舌打ちまでする男の前に、妖精殺しの小国代表マリスが出る。

「女性の腕を許可なく触れようとは、礼儀に反しています。まずは、事情を説明しなさい」

「貴様には関係ないことだ!!」

「無礼なことをいうな!! この人は、神から与えられた役目持ちの一族の長だぞ!!!」

 皇族イズレンが怒鳴った。それには、男もひれ伏すしかない。

「皇族がいるなど、申し訳ございません!!」

「リーシャも皇族だというのに、とんでもない態度をとったな」

「もう、そんなことはいいです。何があったのですか。もう、エウトは戻って来たのですか?」

 アイシャールがいるということは、エウトもいるということだ。二人で城を出たと聞いている。

「いいえ、アイシャール様ただ一人です。ともかく、呼んでいます」

「アイシャールがリーシャを呼ぶことはない」

 だけど、イズレンがアタシを部屋から出すことを許さない。

「そんなことを言ってる場合ではありません!! アイシャール様が大怪我を負ったのですよ!?」

「そんなバカな。千年に一人誕生する、最強の妖精憑きだ。どんなことをされても、怪我なんて負わない」

「イズレン様は、皇帝陛下の元に行ってください!! ともかく、一大事なんです」

 何か起こっているのは確かだ。この男は、どうにかアタシとイズレンを動かしたい。

「では、わたくしがリーシャ様に付き添いましょう。こう見えても、体術も剣術も一通り身に着けています。並の騎士には負けませんよ。暗部だって、退けてごらんにいれましょう」

「マリス、すまない」

 イズレンは仕方なく、アタシの身柄をマリスに預け、部屋を出ていった。

 男は、案内の役割を持っている。苛立たし気にアタシを睨む。あれだ、アタシは外で発現した皇族だから、まだ、受け入れられていないんだ。

 そんな男をマリスは一瞬で蹴り倒し、踏みつける。

「お前、礼儀がなってない男ね。別にお前なんて必要ないのよ。ここには、義体に憑いた妖精がいるのだから、妖精に案内してもらえばいいのよ」

「こんなことして、ただで済むと思っているのか!?」

 無言で、男の喉を踏みつけるマリス。そのまま、男は動かなくなった。

「マリス、どうして!?」

「こういう汚れ仕事は、わたくしの役目です。あの男一人死んだとしたって、別に大したことではありませんわ。責任追及されても、気にしないでください。悪名こそ誉め言葉です」

「かっこいい!!」

 人が一人、死んだかもしれないというのに、アタシはマリスに感動してしまう。アタシももう、戦争やら何やらで、おかしくなってしまっていた。

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