道具の一族
次は、海側と山側にいるという、道具の小国の代表に会うこととなった。元は二つに別れた一族なんだけど、元は一つなんだって。今回、帝国の領地となることで、両国は元の一族に戻るために、婚姻するという。だから、面談は、両国の代表二人だ。
部屋に入れば、べったべったの男女を見ることとなる。
「可愛い女性ですね」
物凄く清楚華憐な人がアタシを見ていう。いえいえ、あなたのほうが可愛いですよ。
「どこがだ。お前のほうが、可愛い」
海の男!! みたいな人が、アタシたちを目の前にして、口づけなんかしている。いいな、そういうベタベタなの。
「お前たち、そういうのはやめろ!!」
一番最後に入った皇族イズレンが机を叩いて叫ぶ。
両国の代表二人は、驚いたようにイズレンを見る。そして、アタシと妖精リンちゃんを見て笑う。
「イズレン殿が怒っているだけですが」
「あの!!」
アタシはついつい、口を挟んでしまう。まじまじと清楚華憐な人を見てしまう。
「見た目はとても綺麗な女性ですが、声は男ですね」
「そう、私は男です。私は山の道具の小国ヘリウッドです」
「では、こちらは」
「ボクは女だ。海の道具の小国エイカーンだ。アンタは、あの妖精憑きの小国出身の皇族なんだってな」
ヘリウッドはただ女のように微笑んでいるだけだけど、エイカーンはアタシのことを探るように見てきた。
戦争の小国の代表であるアンカルから、それなりに色々と言われた。アタシ自身には好意的だったから、控え目だったろう。
海と山の小国の代表は夫婦になるという。何か一物があるのは、海の道具の小国エイカーンを見るとわかる。アタシが妖精憑きの小国にいたことは、蟠りを感じてしまうのだろう。
アタシは二人の真向いに座らされる。今回の面談は、アタシが中心だ。アタシの皇族としての勉強のために、皇族エウトがわざわざ作った席だ。きちんとしないといけない。
「アンタのことは、エウトから聞いてるよ。世間知らずの箱入り娘だって」
「そんなことない!! 森に行って、獣を狩ったりしたし、捌くことだって出来るんだから」
エイカーンがエウトに言われたままのことを言っただけだけど、アタシは強く否定してやる。血なまぐさいことだって出来るんだから。
エイカーンだけでなく、ヘリウッドも、目を丸くして、しばらく、固まった。そして、二人は互いの顔を見て笑いあう。
「そうか、獲物を捌くことが出来るか」
「生き物を仕留めることも出来るんだね」
「仕留めるのじゃなくって、捕まえるんだけど。下手なの、弓」
言ってて、恥ずかしくなる。もう、かっこ悪いよね。獣を狩るといったって、素手だよ、素手!!
それを聞いたエイカーンとヘリウッドは大笑いだ。
「ふふふふ、面白い!! あの、教えで凝り固まった妖精憑きの小国出身とは思えない」
「はははははは!!! あのいかにも選民意識に凝り固まった妖精憑きの小国と言わなければ、そこら辺の平民じゃないか」
すっかり、アタシへの蟠りとか、そういうものがなくなった。かっこ悪い狩りを暴露したんだけどね。もう、顔が真っ赤になっているのがわかる。変な自尊心は捨てよう。
「あー、笑った。アンタ、いい子だね。でも、世間知らずだ。外では、妖精憑きの小国がどう見られてるか、全然、知らないだろう」
「恥ずかしながら、知りません」
好意的になると、エイカーンは優しく言ってくれる。アタシはそこは受け止める。アタシは、ある意味、世間知らずだ。
妖精憑きの小国では、それなりに物事を知っている。だけど、そこから外に出れば、本当に何も知らない。妖精憑きの小国を悪く言われるのを聞くことなど、ちょっと前のアタシは思ってもいなかった。
「アンタがいいたいこと、わかる。別に、アンタは悪くない。アンタって、ほら、妖精憑きじゃないんだってね。他の捕虜から話を聞いたけど、妖精憑きの小国では、ただの人の扱いって、本当に酷いもんだとわかった。もし、アンタさえよければ、妖精憑きの小国への復讐、手伝ってやるよ」
「そんなこと望んでない!! アタシは、そんなに悪い目にあってない。父さんも、弟も、アタシには優しい。他の妖精憑きだって、今はそんな酷いことしてこない。皆、アタシには優しい。戦争に行く時も、生きて帰ってこい、と言われた」
「………聞いた通り、アンタだけは、特別なんだね」
エイカーンは、アタシよりも年上で、色々と背負っているのだろう。お姉さんみたいだ。アタシのことを優しく見てくる。
だから、それ以上、悪く言っていいものかどうか、迷っていた。見た目はかっこいい男だけど、内面は可愛い女性だ。
だけど、清楚華憐な見た目のヘリウッドは違う。見た目とは正反対で、厳しい人だ。
「知らないことは、ある意味、罪ですよ。きちんと知るべきです。妖精憑きの小国の驕りをあなたは妖精憑きの小国出身の皇族として、受け止めるべきですよ」
「そんなこと言わなくても」
「甘いですよ、エイカーン。その甘い所は、私だけに向ければいいのですよ」
嫣然と微笑んで、ヘリウッドはエイカーンの頬に軽く口づけする。もう、甘々だ。見た目は逆だけど、内面はあっている。ヘリウッドは大人の男性だ。
「我々、道具の一族はどういう存在か、ご存知ですか?」
「妖精の力で動く、便利な道具を作る一族、とは聞いてる」
「簡単にいうと、そうです。ですが、妖精の力で動く道具は、そこらの材料でいいわけではありません。その材料を手に入れるために、我々の先祖は、海と山に別れたと思われます」
「どうしてですか?」
「あなたは、妖精憑きの小国では、道具の材料は、どのように得ていると教えられましたか?」
「聖域を壊してる、と教えられました。だから、その、道具は良くない、と」
「まず、そこからが違います」
ヘリウッドの話はこうだ。
海と山には、一部、生きた物が聖域化している所があった。
海では、砂浜だ。そこで育ち成長し、そして死んだ物は、聖域と同じものとなった。それは、どんどんと増え、積み重なっていくため、増える聖域と呼ばれていた。
山では、一つの山が聖域だった。そこに生える木々は聖域化していた。そこでは実りは得られないが、聖域と同じ働きのする何かが実っているという。洞窟に入れば、その奥には、金属の元があり、それもまた、聖域化しているという。
これらを見つける前までは、確かに、多すぎる聖域を壊していた。しかし、その必要がなくなったため、道具の一族は、その二つを領地とし、守っていたという。
帝国は、あまりに広すぎるため、支配が行き届かないことから、領地だけでなく、一族との縁も切り離されることとなってしまった。そのため、道具の一族は、海と山に引き離さることとなった。間に帝国を挟んでいたので、知らない内に、繋がりが切れてしまった。それも、帝国という中間役がいなくなり、海と山は別の一族、別の小国となり、それぞれの小国群の代表となったのだ。
そんな話だった。なんだか、嘘のような話だ。
「そんな、同じ一族なのに、互いが互いのことを別に認識するなんて」
「あの子ども皇族に聞いた時は、冗談かと思いました。あまりにも、滑稽です。ですが、現実に、海と山は、互いを別の一族と感じていました」
「ボクも、あの子どもに言われるまで、道具作り自体、海だけがやっていると思っていたんだ。それが、山もやっていたなんて知って、驚いた」
「でも、道具は必要だから、それぞれ、共同で作ったりするでしょ」
互いに同じ道具作りをするのだ。どうしても、被ってしまったりする。そういうことを道具を必要とする小国から聞くだろう。
道具だってタダではない。金が物で交換だ。そういう話を聞く。だったら、二つの道具の小国がいるなら、安いほうとか、良いもののほうとか、そうやって、選ぶだろう。
「中央の小国で、商売が上手なトコがあるんだよ。そこに全部、投げてたんだ」
「私たちは、ただ、役割から道具を作っていただけです。その先には興味がありません。道具を作ることは、伝統を繋げることです。我々は、それを途絶えさせないようにしているだけですよ」
教えと一緒だ。海も山も、それを過去から未来に繋げるために、道具を作り続けているだけだ。それが神から与えられた役割だ。
「どうして、戦争では、帝国の軍門に下ったのですか?」
今の皇帝イーシャになってから、真っ先に帝国に下ったのは、海の小国と山の小国だ。そのせいで、中央の小国も戦う前に、帝国に下ることとなった。
逆に言えば、海の小国と山の小国が、中央の小国と一緒に戦っていれば、今も戦争は続いていただろう。それほど、この三つの小国群は、厄介だ。
話を聞けばわかる。人に対する戦力は中央にいる戦争の小国が持っている。一人で百人力と言われる実力のものがたくさんいるのだ。人対人では、帝国は不利だ。
だったら、妖精憑きである魔法使いを出せばいい。妖精憑きは、人では勝てない。だけど、それらを封じるのが、道具だ。海と山には、道具の一族がいる。妖精憑きを封じる道具だって作っているだろう。それを使えば、魔法使いの神がかりな力も封じられたはずだ。そうなると、妖精憑きはただの人以下だ。妖精憑きの小国では、妖精憑きは妖精に頼りきっていて、体を鍛えない。それは、帝国も同じだ。妖精が使えなくなったら、妖精憑きは戦争の小国に一方的に蹂躙されるだろう。
バカなアタシでもわかる話だ。負けないわけではない。だけど、海と山の小国は、帝国に下った。
海の小国代表のエイカーンは、ちょっと困ったように笑う。見た目は男前だけど、内面は可愛らしい女性だ。アタシに聞かせるのは、可哀想、なんて思っているのだろう。
そういう時は、見た目は清楚華憐だけど、中身は男前の山の小国代表のヘリウッドだ。
「我々は、道具作りに誇りを持っている。さらに、道具は人々の生活を豊かにしている。だけど、それは妖精憑きあってのことだ。便利な道具は、どうしても妖精憑きの力が不可欠なんです。だから、我々は再三、妖精憑きの小国に、妖精憑きの派遣を要求してきました。人から生まれる妖精憑きは、そこまで多くありません。全ての小国を満たすほどは生まれないのですよ。そのため、小国同士で、妖精憑きの奪い合いが起こり、人が死ぬことがありました」
それは、こんな話だった。
長年、妖精憑きの誕生の不安定で苦しい状態となった小国群。皆、便利で豊かな生活をしたいから、人から生まれた妖精憑きを誘拐することまで起こっていた。
妖精憑きを売買することまで起こっているので、それに危なさを感じた海と山の小国は、一案する。妖精憑きが安定的に生まれる小国が存在する。そこから、各地の小国に派遣されれば、そんな危ないことをする者はいなくなるだろう、と。
同じことを考えていた両国は、中央の商売が上手な小国を中間に置いて、妖精憑きの小国と交渉したのだ。
「外は危険すぎる」
確かに、妖精憑きの売買をするような人がいる。そう言われてしまったので、戦争の小国に護衛につくことを頼んだ。もちろん、戦争の小国は喜んで引き受けてくれた。
「若者は出せない。万が一、外に血が流れるのは困る」
女や男を使って、誘惑されるかもしれない。それで、妖精憑きがいなくなることも恐れるだろう。若いほうがいいが、年寄りでもいいだろう、と妥協した。
「年寄りは、長い旅は大変だ」
ずっと小国で閉じた世界にいたのだ。だから、多くは望まず、最低限、妖精憑きの力が届く所に道具を設置して、分け合うようにしよう、と各地の小国を説得までした。
「聖域を材料にして作られた道具は、教えに反する」
結局、これを最後に、妖精憑きの小国は交渉を断絶した。
散々、人に希望を与えておきながら、最後に教えを前面に出して断るやり方に、アタシは声も出ない。だって、酷い。
アタシは、妖精憑きの小国で暮らしていたから、道具なんて使ったことながい。道具というと、妖精憑きを罰する地下牢と妖精封じの道具くらいだ。あとは、あるがまま、生活をしていた。不便だけど、教えだから仕方がない、とアタシは思っていた。便利な道具の話は、聖域を壊して作られる恐れ多い産物だ、なんて教えられていた。
だから、最初、帝国で道具が使われているのを見て、驚いた。聖域を壊して使っている道具は便利だけど、教えに反するものだ。
だけど、使っている者たちは、笑顔だ。過剰に使われているわけではない。必要最低限だ。
妖精憑きは火だって水だって、自在だ。だけど、ただの人は、神の恵みや摂理に頼るしかない。そういう、最低限なものに魔道具や魔法具が使われていた。
別に、暑い夏に冷たい氷を食べるわけではない。寒い冬にお湯をふんだんに使うわけではない。ただ、最低限のものを魔道具や魔法具に頼り、あとは、あるがままだ。
妖精憑きはわからない。だって、常に妖精によって守られ、与え続けられているのだ。
妖精憑きは、病気をしない健康体だ。怪我だって、すぐに治ってしまう。一か月眠らなくても平気だ。食事だって、実は一か月とらなくても、問題ない。妖精憑きにとって、それらは嗜好品のようなものだ。あればいいかな、程度だ。
アタシは、不便と便利を両方、経験している。妖精憑きの小国では不便を経験した。妖精憑きは、水浴びなんて必要ない。だって、汚れない。だけど、ただの人はそうではない。だから、冬だって冷たい水で体を洗う。そうしないと、妖精憑きたちに、汚い、と罵られる。だから、病気になる。すると、妖精憑きたちは、穢れている、なんて罵ってくる。病気になるのは、教えに従わない何かがあるから、なんていうのだ。
だけど、便利な経験をして、それなりに知識を得れば、妖精憑きの小国は不公平で成り立っていると気づかされる。帝国も、他の小国も、便利を分け合って、公平にしている。だけど、妖精憑きの小国は、妖精憑きだけは恵みを享受し、ただの人には何も与えないのだ。
「ごめんなさい」
そう言うしかない。アタシは両方を経験して、妖精憑きの小国に居た者として、謝罪するしかない。
「別に、アンタは悪くない。アンタは王族でも何でもない、ただの人だと聞いた。よくわからないけど、アンタは何かあるんだろう。他の捕虜が言っていた。特別扱いされたって。それは、皇族だからかもな」
「そうではないだろうな」
海の小国代表のエイカーンの意見に、皇族イズレンは否定的だ。
アタシも、エイカーンの意見に頷きそうになる。皇族って、実はよくわからない。だけど、アイシャールのアタシに対する態度は、ちょっと行き過ぎだ。そういうのが、妖精憑きの小国でも、アタシに起こっていたと思っていた。
「幼い頃は、リーシャは妖精憑きの子どもたちにいじめられていたと聞く。そこが矛盾する」
「え、子どもって、男? 女?」
「男ばっかり。女の子は、アタシのことを遠巻きで見てたくらい」
「………」
アタシがエイカーンの質問に答えると、エイカーンとヘリウッドは顔を見合わせて、苦笑する。
「それは、あれです、子ども特有の、好きな女の子をいじめるやつです」
「女が敬遠したのは、アンタが男に持てすぎるからだ」
「髪引っ張られたり、虫投げつけられたり、泥水ぶっかけられたりしたよ!?」
「男は子どもの頃、やっちゃうんだよ。大人になると、それが原因で、好きな女の子に嫌われる。妖精憑きといっても、所詮は人だな。どこも一緒だ」
アタシが受けた仕打ちをエイカーンとヘリウッドは軽く笑った。そんなこと言われても、過去の所業は、アタシにとっては、許せないものばかりだ。
「可愛いから仕方がない。子どものころも、相当、可愛かったのでしょうね。ですが、そんな男は相手にしてはいけません。好きだから、なんて免罪符みたいに使ってくるような卑怯者です」
「うん、相手にしない。もう、忘れる」
「そうそう!! もし、万が一、そいつから来たら、ボクたちの道具で痛い目にあわせてやるよ」
「帝国には、妖精憑きの魔法使いがいっぱいだ。私たちの道具と帝国の魔法使いの前には、妖精憑きの小国など、敵ではありません」
エイカーンとヘリウッドは慰めてもくれる。
「理解出来ん!!」
ところが、イズレンだけは納得いかない。
「好きな女に酷いことするなんて、理解出来ないな。大事だったら、好かれるように接するべきだろう」
「男って、バカなんだよ」
「そう、ほとんどの男は愚かでバカなんです」
イズレンの疑問なんて、理屈ではない。エイカーンとヘリウッドは、頭が悪いんだよ、で全て済ませてしまう。
「なんだそれ!? 妖精憑きのくせに、子どもがそこまでバカなのか。嫌われるばかりじゃないか」
でも、イズレンは納得できない。理屈でないから、受け入れられないのだ。
「アタシも、納得いかない。受けたアタシはこれっぽっちも嬉しくない。むしろ、思い出すだけでも、気持ち悪い。結婚まで申し込んできて、ぞっとするばっかり」
「その結婚話は、どうなった?」
「全部、流れたよ。確かに、頭おかしい。申し込んできた奴ら、みんな、子どもの頃、アタシに散々なことしてきたんだから」
「アンタがただの人だから、そうしていいと考えたんだろうね。そういう教育されたんだよ。だから、結婚だって、やってやる、みたいな感じなんだろう。流れて良かったな」
エイカーンから言われて、ふと、気づく。
だいたい、相手から結婚を申し込まれる。だいたい、親経由だ。アタシに直接じゃない。そして、父さんからアタシに聞いてくる。アタシは、正直に子どもの頃の話をするわけだ。でも、父さんの立場もあるから好きにして、なんていう。そして、すぐに結婚話は流れる。
父さんは、アタシのために、結婚話を全て断ったんだ。過去のこともあるけど、相手の態度も悪かったんだろう。エイカーンがいう通り”結婚してやる”みたいな感じだったのかもしれない。
それに引き換え、直接、アタシに結婚の申し込みをした幼馴染みであり、妖精憑きのキオンは立派だ。親を経由せず、アタシの意見をしっかりと尊重している。そこに、母さんとの過去さえなければ、きっと、アタシはキオンとの結婚を今、考えていただろう。
アタシが急に静かになったから、心配そうにエイカーンとヘリウッドが見てくる。アタシは慌てて笑う。
「アタシ、家族には恵まれてるね」
「そうだな。妖精憑きの小国でも、しっかりした妖精憑きがいるんだな。会ってみたいよ」
「うん、自慢の父さんだよ」
父のことを誇りに思えた。




