戦争の一族
「最初は、誰にしますか?」
面談の順番まで、エウトは決めてくれなかった。そこは、アタシの判断だ。
「イズレン、誰が一番、優しそうですか?」
「優しそうって、小国の王族は、それなりに一癖も二癖もあるぞ。そういうものを基準にするな。皆、優しそうに偽装出来る」
やっぱり、皇族と同じで、小国の王族たちは、皆、実は怖いんだ!!
泣きそうになっているので、イズレンは呆れたように溜息をつく。
「わかったわかった。まずは、戦争の一族からにしよう。あそこが、一番、裏表がない」
「本当に!?」
「戦争バカだからな」
どこにいっても、戦争の一族は戦争バカと呼ばれる。
一昔前、今の皇帝イーシャが一皇族だった頃、帝国は内陸に向かって戦争を始めた。一番最初に向かったのは、中央の小国群だ。中央が一番、帝国から近かったこともある。
中央の小国群には、遥か昔、帝国の最強の鉾と呼ばれる戦争の一族が王族となった小国があったからだ。
戦争を仕掛けたら、血気盛んな戦争の一族だった小国は、喜んで挑んできた。戦争の一族は、一人で帝国の兵士百人という力を見せたという。あまりにも強すぎて、帝国は中央への征服を後回しにしたという。
それほどの小国の国王だ。どんな人なのか、アタシは緊張して、面談の場所にイズレンの案内で行った。
中に入れば、随分と若い人がいた。あれ、もしかして、イズレンとそう変わらないくらい若い?
アタシは、妖精憑きの小国の国王がおじいちゃんだから、かなり年上を想定していた。だから、こんな若くて、これっぽっちも悪意のない笑顔を向けてくる人が出てくるなんて、思ってもいなかった。
「初めまして、先日、皇族になりましたリーシャといいます」
「………」
「?」
「………俺と、結婚してくれ!!」
いきなり、両手を握られて、結婚を申し込まれた。
無言で、イズレンとリンちゃんが、戦争の小国の国王? にげんこつをお見舞いした。
「リーシャ様に気安く触るなんて、羨ましい!!」
リンちゃんは、変な理由で激怒した。そうか、アタシに触りたかったのか。可哀想なので、握手してあげたら、喜んだ。
「父上に殺されたいか!?」
イズレンは違った方向で激怒していた。
「いってぇな、いいだろう。和平の証してさ」
「皇族は血筋重視だ。皇族の血なんてこれっぽっちも流れていない貴様に、リーシャを嫁がせるわけがないだろう!! また、戦争勃発したいのか!?」
「たく、親父が勝手に戦争やめちゃうから、俺、戦争出来なかったんだぞ。むしろ、戦争したい」
最悪な国王だ。戦争の小国の国王のあまりの発現に、アタシは距離をとる。
「人殺し好きな人、嫌い」
戦争で、一方的に蹂躙される光景を見ているので、この男の気持ちは理解出来ない。だから、蔑むように見てしまう。
アタシの嫌いは、相当、この男には堪えたようだ。物凄く困っていた。強がって、そのまま戦争のことを言い続けるかと見ていたら、そうではなかった。
「お、俺の国は、強いヤツが一番、もてるんだけどな」
「強い、と、戦争は違う。アタシの父さんは、妖精憑きの小国一強いけど、喧嘩なんかしない、優しい強さだ。ただ強い力を見せびらかすのは、暴力と同じだって、父さんは言っていた」
「………そうなんだ」
戦争がいいものと思い込んでいたのだろう。アタシが蔑むから、男は反省する。
「この男は、戦争の小国の新しい代表アンカルだ」
「アンカルです。よろしくお願いします」
皇族イズレンが仕切りなおしてくれたので、どうにか自己紹介が終わった。アンカルは、素直に頭を下げた。
「それで、どうすれば、アンタと結婚出来るんだ? なにを捧げればいい?」
「聞いていたか? 皇族は外に出さない」
「そこを何とか。和平として」
「そういう帝国の仕来りだ。それを曲げることはない。皇族は終生、帝国の城だ」
「なあ、アンタはそれでいいのか? 俺だったら、いろんなトコ、連れてってやるぞ」
イズレンでは話にならないので、アタシに直接言ってくるアンカル。
「別に、今のままでも構わない。あるがままだから」
「妖精憑きの教えか!? くっそ、あいつら、どこまでも俺たちをコケにしやがって!!」
アタシの背景とかは聞いているのだろう。アンカルはアタシの生まれ故郷に恨み事を吐き出す。
「何故、あなたは、妖精憑きの小国を嫌うの?」
まずは、そこからだ。今回、主要の小国は、妖精憑きの小国を嫌って、帝国に下ったと説明された。そのせいで、辺境の小国たちが戦力を出し合って、戦うこととなったのだ。
色々と言いたいことがあるのだろう。アタシが妖精憑きの小国出身であることも、何かしら、引っかかっている。だけど、アタシが本当に、かけらほども何も知らないので、怒りをおさめてくれた。
「アンタ、戦争に出たんだってな」
「アタシ、ただの人だったから、狩りとかしか出来なかったんだよね。だから、戦争に出たけど、役立たずだった。あなたがたは物凄く強いって、エウトから聞いた。昔々の戦争では、帝国軍をあなたの小国だけで退けたって。
「そう、俺たち戦争の小国は、一騎当千だ!! 昔は、妖精を封じる道具や、妖精殺しの小国が力を貸してくれたから、妖精憑きを退ければ、帝国軍なんて、大した敵じゃなかった」
「それなら、降伏しなくても良かったじゃないですか。そのまま戦えば、辺境への進軍はなかったのに」
恨み事ではない。ただ、そう思って、普通に言った。だけど、受け止め方によっては、恨み事に聞こえてしまう。
妖精の小国の代表アンカルは、机に拳をぶつける。
「俺たちは、戦う気があった。だけど、道具の小国が先に降伏しやがったんだ。道具の小国から、妖精封じの道具の支援がなくなった」
「借りていたのですか?」
「あったが、古い道具だ。新しい道具のほうがいいと思って、頼んだら、その時には、道具の小国は帝国領になっていた。道具の小国ってのは、海側と山側にある。その両側から進軍され、目の前は帝国軍だ」
「古い道具は壊れていたのですか?」
「わからん。ただ、俺たちでは使えない。使えるのは、妖精憑きだ」
道具の小国は、海と山にある。その二つの小国から、これまでは妖精憑きを封じる道具だけでなく、妖精憑きも借りていたという。戦争の小国では、何故か、妖精憑きが生まれなかったので、他の小国から借りるしかなかったのだ。
今回の戦争が勃発した時、戦争の小国は、海側と山側に助力を願った。しかし、その頃には、両側は帝国軍に下っていた。
そこで、頼るのは、辺境の小国である。辺境の小国は、戦争の小国が中央で戦っているため、平和だった。しかも、妖精憑きが生まれることがあるという。だから、妖精憑きを貸してほしいと頼んだのだ。
「妖精憑きは、生まれることが奇跡だ。そんな簡単に貸し借りするものではない」
なんと、辺境の小国は冷たかった。盾として戦っていた戦争の小国の頼みを聞き入れなかった。
「アンタたちは戦争が好きなんだろう。良かったじゃないか」
しかも、戦争の小国をバカにするようなことまで言われた。それには腹をたてたという。
「俺たちは妖精憑きを出せないが、ほら、妖精憑きの小国に頼めばいいだろう」
それでも我慢して頼み続ければ、辺境の最奥にあるという妖精憑きの小国の交渉を手伝ってくれる小国が出てきた。それに望みをかけて、妖精憑きの小国に頼み込んだ。
「我が国は、そもそも、道具を使うことを禁じている。そして、教えにより、妖精憑きの力を戦争で使うことは出来ない」
「このままでいけば、辺境も戦争になってしまうぞ!? 帝国は、妖精憑きを戦争に出している。我々ただの人では、妖精憑きにはどうしても勝てない!!」
「それもまた、あるがままだ。勝つのも負けるのも、神が決めたことだ」
「アンタたちのこの小国だって、戦場になるぞ!!」
「ここはならない。ここは、妖精の絶対的な加護がある。帰ってくれ。この地は、妖精の地だ。戦争好きな教えに反する者が来ていい場所ではない」
あまりの言葉に、戦争の小国は、怒りを通り越して、呆れた。
話せば、また、怒りを思い出すのだろう。戦争の小国の代表アンカルは、手が白くなるほど拳を握りしめる。
「他の小国は、俺たちの国が好き好んで戦争をやってるっていうんだ」
「ごめんなさい」
「アンタは悪くない!! だって、アンタは、戦争に出ただろう!!!」
「アタシは、戦争に出る前までは、あなたたちの国を悪くいう小国と同じ考えだった。勝手に戦っている、好きでやっている、戦争を楽しんでる、と思っていた。でも、戦争に出てわかる。あんなの、好きでやることではない。楽しくない。だって、人が死ぬんだもん。いいことじゃない。あなたたちは、仕方なく、前に出て、戦ってくれたんだよね。ありがとう」
本当は、お礼をいうべきなのだ。戦争の小国は、他の小国のための盾のような働きをしてくれていた。戦争は無傷ではすまない。死人がいっぱい出ただろう。
それは、帝国側だってそうだ。帝国は、別の敵国から、帝国から切り離された小国の盾となって戦争をしていたのだ。そういう役割だった、という話を聞いた。でも、勝手にやってる、なんて言っていい事ではない。
「やっぱり、結婚しよう!!」
アンカルはまた、アタシの手を握って結婚を申し込んでくる。
「ダメに決まってるだろう!!」
「羨ましいことしないでください!!」
そして、アンカルはイズレンとリンちゃんに思いっきり頭を叩かれた。
それでもアタシの手を離してくれないので、アタシからアンカルの手を外した。
「もう、結婚の話はうんざりです。何かというと結婚結婚って、軽すぎ。妖精憑きの小国でも、いっぱい、申し込みがあったけど、すぐに流れてってるし。どうせ、あなたもそう言って、すぐに結婚の話は流れるのよ。もう、うんざり」
小国にいた頃から、結婚話が次から次へとなくなっていった上、幼馴染みキオンは、母の脅しのような言いつけでアタシを守っていた、なんて告白されて、猜疑的になっていた。いくらアタシはバカでも、もう騙されない。
「一目惚れなんだ!!」
「なおさら、嘘くさい!! 元は小国の王族が、一目惚れだなんて安っぽいのは、絶対に騙しです。きっと、領地に帰ったら、婚約者とかいるでしょう!?」
「う、確かに、そうだが、婚約解消する!!」
「家と家同士の婚約をそんな簡単に解消するような男、猶更、信用出来ない!! 一目惚れで申し込むんだから、きっと、また、別の女に目移りするに決まってる」
もう、最悪なことばかり思いつく。それもこれも、結婚話が全て流れたせいだ。
「リーシャ、随分と色々と話すが、どこで仕入れたんだ、そんな偏った知識」
イズレンがあまりにもアタシが警戒心をむき出しにしているので、驚いていた
「アタシが暇だと言ったら、エウトが最近はやりの大衆小説を持ってきてくれたんです」
「また、随分なところから仕入れてきたな」
「もう、すごかったんですよ。一目惚れだからって、婚約者を蔑ろにしたりする男が最低最悪だ、とエウトに言われていたの」
「エウトの入れ知恵か」
「エウトは悪くない。アタシは、ともかく騙されやすいから、色々な本を読んで、多方面に学ぶべきだ、と言ったの。毎晩、読んだ本の内容を現実と照らし合わせて説明してくれて、わかりやすかったです」
「………」
心底、呆れたように見てくるイズレン。エウトは頭がいいんだから、間違ってない!!
完全に拒絶しているアタシに、アンカルは半泣きだ。でも、婚約者までいる立場なんだから、ここで甘い顔してはいけない。
「男女関係なく、好きな人の幸せを喜ぶことが大事だって言ってました。アタシの幸せは、アンカルにはないので、お断りです」
「待ってくれ。絶対に身ぎれいになって戻ってくる。もう一度、機会がほしい」
「機会って、どれくらいですか!? だいたい、アタシの変な噂を聞いて、結婚を申し込んだかもしれないじゃないですか」
「噂なんて知らない!?」
「アタシと結婚する人が次の皇帝だって噂があると、エウトが言ってましたよ」
「それは聞いたな」
「ほら!!」
やっぱり、アンカルも、帝国の皇帝になりたいんだ。アタシはもう、アンカルには警戒心しかない。
側でアタシとアンカルのやり取りを聞いていたイズレンは頭を抱える。
「どうして、こんな事になった!? エウト、どこまで裏工作してるんだ!!」
「イズレンまで、エウトのことを悪く言わないで。エウトは、アタシがバカだから、心配して、色々と知識を授けてくれたの。お陰で、役に立ったじゃないですか。アンカルは、要注意人物です」
「俺はただの戦争バカだから、皇帝なんて無理だ!!」
アンカルが強く否定したって、遅い。アタシの側に来る男は、どうしてこう、ろくでもないヤツばっかりなの。
「さすが戦争バカですね。言い方が悪い」
リンちゃんを抱きしめるように、まだ近づこうとするアンカルから遠ざけて、嘲笑った。
アンカルはしぶとかった。ともかく結婚の話を前向きに考えてほしい、と土下座までしてきたのだ。だけど、アタシはお断り。
「アタシは、父さんと母さんみたいな夫婦になりたいの。父さんと母さんの結婚には、不幸はなかった。あなたは婚約者を不幸にしている。そんな結婚は、猶更、お断り」
そこまで言ってやれば、アンカルは下がってくれた。
「絶対に円満な婚約解消してやる!!」
でも、まだまだ諦めていない。さっさと走り去っていった。きっと、そのまま領地に戻って、話し合いをするのだろう。
「円満の婚約解消はないな」
イズレンは暗い笑顔で言い切る。
「どうしてですか?」
「あの男の婚約者は、あの男が好きで、親に願っての婚約だ」
「家と家との繋がりとかではない?」
「そういうものだ。中央の小国群は、互いの国の王族とかを嫁がせたりして、団結力を繋いでいたんだ。あの男の婚約者も、そういうものだ。むしろ、熱烈に尽くしていた婚約者だ。一目惚れごときで婚約解消を申し出たと知れば、大変なことになるぞ」
「アンカル、最低」
アンカルは、その婚約者から、無償の愛のような恩恵をいっぱい受けていた。それをアタシに一目惚れした程度で婚約解消しようというのだ。一番、ダメなヤツだよ、それ。
「問題ない。帝国からも、この婚約は後押ししてやろう」
暗い笑顔でいうイズレン。楽しそうだな。
こうやって見ていると、イズレンとエウトはよく似ている。悪だくみが顔に出ちゃうよね。
でも、エウトは、悪い顔は最初、隠していた。アタシがそれを嫌がったので、その顔を隠さなくなっただけだ。
イズレンは、最初からアタシを見下していた感じがあったので、本音が顔に出てしまっていた。その延長で、隠したりしなかった。
だけど、皇帝イーシャは常に隠している。物腰は柔らかで、常に穏やかに笑っている。アタシの前だけかな、なんて思って見ていたけど、そうではない。あの恐ろしい筆頭魔法使いの儀式でも、穏やかな笑顔も、あの柔らかい物腰も変わらなかった。話し方だって、とても穏やかだ。内容は全然、穏やかじゃなかったけど。
イーシャこそ、皇帝の器というべきだ。そして、エウトもまた、皇帝の器の持ち主だ。アタシがそれを崩したけど、その前までは、イーシャのように、鉄壁だった。きっと、将来は、立派な第二のイーシャになっちゃうんだろうな。
そうなると、皇帝になりたいイズレンはどうなるの?
「ねえねえ、イズレンは、皇帝になりたいって、エウトが言ってたんだけど」
「貴様の下らん噂は嘘だと知ってる」
蔑むように見られてしまう。イズレンはアタシに警戒しすぎだ。
「そういうのは抜きで、皇帝になりたい?」
「皇帝になりたいんじゃない。父上のような立派な人になりたいんだ」
「素敵!!」
父の背中を見て育ったのだろう。イズレンの言葉に、アタシは感動する。
「そういうのって、いいね。アタシも母さんみたいな素敵な母親になりたい、と思ってる」
「なんだ、母親になりたいのか。小さいな」
「あれ、イズレンって、母親をバカにしてる? そういうこというと、いざ、妻をとった時に、大変なことになるよ。父さんは言ってた。女を甘く見てはいけないって。だいたい、女がいないと、子どもだって生まれないんだから」
「男もいないと、出来ないよな」
「別に、女が偉いと言ってるわけじゃない。女を蔑むのは良くない。女は、痛い思いをして子どもを産むんだよ。運が悪いと、死ぬことだってあるんだから。命がけで、お腹の命を守るんだから。そういう強さを理解してあげなきゃ」
「その分、男は働いて、女子どもを守ってやっている」
「どうやって? 子育て参加してるの? 金とか出して、育てた気になっていない? 男が働いていられるのは、家と子どもを女が守っているからだよ。でないと、働きにも行けないじゃないか」
「そ、それは、ただの人の話だ。皇族はそうではない」
「聞いたよ。子育て、使用人に投げっぱなしなんだって。女も産みっぱなしがほとんどなんだってね。でも、だからといって、全ての女を蔑んでいい理由にはならない」
「偉そうに。子どもを産んだわけではないだろう」
「産んでないけど、育ててる。母さんは弟のリウを産んで死んだの。アタシが育てたんだから」
自尊心の塊のような男だ。アタシの過去を表面上では知っているはずなのに、アタシが口にして、失敗した、みたいな顔をするイズレン。
でも、イズレン、女に対して、随分と猜疑的だ。これは、女関係で何かあったんだな、と大衆小説にあった。
小説の中なのに、現実にも照らしあわされてしまうなんて、大衆小説って、バカにはできないな。今回のことで、心底、そう思い知らされた。




