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皇族姫  作者: 春香秋灯
契約紋の皇族姫-契約紋-
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捕虜

 次の日から、アタシは心を入れ替えた。アタシは、見ていないことが多い。頭悪いから、すぐに甘い言葉に流れてしまう。

「同じ国で育ったというのに、その妖精憑きは随分と警戒心が強いな」

 一通りの事情をアイシャールから聞いた皇帝イーシャは呆れている。

「被害妄想だな。帝国全土を侵略って、何もいいことがないのに」

 皇族イズレンまで珍しく呆れている。

「妖精憑きだから、自尊心が高いんだろう。妖精憑きが生まれる一族、というのが、神に選ばれたとでも思いあがってるんだろうな。もう、そういう態度だ」

 皇族エウトは目の前にいたので、断言する。

「そんなことない!! 国では、あるがままなんだから。皆、力のないアタシに優しかったし」

「わかる。リーシャのことは、ただの人である私でも優しくしたくなる」

 アタシの反論に、簡単に同意するイーシャ。でも、それはアタシの身の上だけだ。妖精憑きの小国への評価は変わらない。

「彼の物の見方は、為政者としては正しい。ただ、情報が足りてない。我々は最初、話し合いを設けた。海も、山も、中央も、我々の申し出に承諾し、帝国となったんだ」

「これまでは、バラバラなのに、今更、どうして、帝国に統一するの?」

「たまたまだ。まず、あれほどの数の小国が存在した理由から話さないといけないね。元々、あちこちに散らばっている小国は、帝国領の領主だったんだよ」

「え、嘘」

「本当だ。物凄く大昔だよ。帝国はね、大きすぎたんだ。だから、分割統治をしていた。だけど、帝国では手に余るから、帝国から切り離したんだ。それが、あれほどの小国の始まりだ」

「………」

 それは、本当かどうかわからない話だった。



 帝国はもとは大きな大国だった。帝国は皇族を中心に、いくつかの役割を持つ一族が存在していた。そうして、隣国からの侵略戦争を凌いでいたのだ。

 しかし、帝国はともかく広く大きい。辺境まで手が回らない。そこで、帝国は分割統治をすることにした。役割を持つ一族にまかせたのだ。帝国は、最強の妖精憑きだけを抱え込み、隣国からの侵略戦争に集中した。

 そうして、分割統治が、小国へとなり替わっていった。

 帝国は、隣国との国境に接してしたため、小国が興っても、気にしなかった。あるがままだ。帝国の役割は、帝国領を隣国から守ることである。そのための壁役だった。

 しかし、隣国はどんどんと力をつけてきた。帝国の被害が大きくなってきたのだ。帝国最強の妖精憑きは、いつも生まれるわけではない。そういう存在がいない時は、人の力で戦うのだ。そういう歴史を繰り返しているが、小国は帝国の役割をすっかり忘れてしまっていた。帝国が隣国からの侵略を防いでいるのに、小国たちは平和を享受していたのだ。

 それに怒りを覚えたのが先の皇帝である。先の皇帝は、この理不尽な現状に怒り狂い、内戦を始めたのだ。それが、戦争の始まりである。



 嘘としか思えない話だ。

「嘘っぽいだろう。だけど、書物が残っているんだな。皇帝と、それなりの役割を持つ皇族は、そういう古書を読むことになるんだ。そうして、帝国の皇帝の心がけを身に着けさせられる」

「でも、国ではそんな話」

「忘れてしまったんだろう。そういうものだ。こう話したって、言われたさ。勝手にやってるだけだろうって。帝国の聖域を乗っ取られたら、もう後はないというのにな」

 力なく笑う皇帝イーシャ。

「イーシャも、戦争を経験したことがあるのですか?」

「あるよ」

 だから、小国たちに、怒りを持っているのだ。小国たちにとっては、勝手にやっていることだ。だけど、帝国は役割だから戦争をしている。やめるわけにはいかないのだ。

「あの戦争は、色々とありすぎて、忘れられないよ。あの戦争のせいで、私は一皇族から皇帝になったんだ」

「もしかして、皇帝が亡くなったんですか?」

「そんな感じかな」

 言い方が微妙だ。何か隠しているけど、アタシはそれ以上、聞き出さなかった。誰だって、言いたくないことがある。

「小国が派生してしまったのは、皇族の支配力が落ちた、ということもある。今でこそ、技術により、帝国最強の妖精憑きを支配しているが、それがない時は、大変だったという。ともかく、ご機嫌とりだ。だから、他の一族から、見下されたんだ」

「その、真の皇族が、誕生しなくなったから、ですよね」

「そう。随分と勉強は進んだね。だから、帝国としては、真の皇族の誕生を待つしかなかったんだ。それなのに、私の両親はナーシャをどこかに捨ててしまった」

「もし、母ナーシャが真の皇族でなかったら、戦争は起きませんでしたか?」

「いや、戦争は起こしたよ。私は戦争する」

 アタシが思ってもいない方向へと話は転がっていく。

 この戦争、真の皇族を手に入れるために始めた、とエウトに教えられた。

「キオンがいう通り、侵略戦争を目的に、母さんは捨てられたの!?」

「違う。アイシャールはああいったが、私のために、理由つけをしてくれただけだ。私はナーシャを探していた。真の皇族なんて、どうだっていい。理由がないなら、暴君となって、ナーシャを探すだけだ」

「どうして、今なんですか。死んでいるかもしれないのに」

 随分と時間が経っていた。探すには、遅すぎる。

 穏やかに笑うイーシャ。アタシはある意味、責めている。今更だ、と。

「ナーシャが捨てられた頃は、力がなかった。一人前の皇族になっても、力がなかった。皇帝になったばかりの頃は、力がなかった。今更、ナーシャを探せる力を手に入れただけだ。遅いけど、力があるんだ。悪あがきしただけだ。小国を取り込む気はなかった。だが、話を聞いてみると、なかなか、大変なことになっているから、だったら帝国領に戻っておいで、と提案したら、乗ってきたんだよ。役目ある一族たちは、国を統べることの大変さを今更、気づいたんだよ」

「………」

 信じていいかどうかわからない話だ。アタシはもっと、疑うべきだろう。

 だけど、イーシャは嘘を言っていない、と信じたい。だって、母ナーシャが死んだと聞いて、泣いたんだ。アタシがそう言うまで、イーシャは母が生きていると信じていた。

「きっかけはナーシャだ。生きている内に探してやれなくて、可哀想なことをしてしまった。私はこの城でぬくぬくと守られて生きていた。ナーシャは、右も左もわからない所に捨てられて、酷い事ととなっていただろう。そう、いつも考えて、泣くしかなかったんだ。私にとって、ナーシャは、私のなけなしの良心だ。あの妖精憑きはある意味、正しい。私はそんなにいい人ではない」

「でも、アタシには優しい」

「君は、大事に育てられたんだろう。人を疑わない。そんな君をここに閉じ込めて、大事に守ってあげたい」

 それは、母ナーシャの身代わりかもしれない。イーシャには、アタシが必要だ。

 イーシャはアタシを優しく抱きしめてくれた。





 キオンに言われて、逃げてしまったが、アタシはもう一度、捕虜となった人たちを見に行くことにした。キオンのことばかり見ていて、アタシは他の捕虜たちのことに目を向けていた。

 皇帝イーシャに言われるまで、捕虜はいないと思っていた。ほら、アタシが投降して、戦争は終わったのだ。その後、捕縛された人がいるとは思えなかった。

 だけど、実際は、その後、人形がいなくなった後、生き残った人たちは投降したのだ。人形では話が通じないが、同じ人ならば話が通じるだろう、とひれ伏して、投降したという。帝国側は、戦争が終わった、というよりも、休戦したようなものなので、投降した彼らを捕虜として王都に連れ帰り、情報を吐かせたのだ。

 アタシは、優しく、ただ、世間話でもするみたいに、妖精憑きの小国の話を普通にはした。だけど、肝心なことは話していない。そのことに、皇帝イーシャはいつか気づく。気づいた時、アタシはさすがに、見捨てられちゃうかな。

 そう考えながら、アタシは皇族エウトの案内で、捕虜がいる牢獄に連れて行かれた。そこは、普段、帝国の犯罪者も捕らえられている場所だ。

 必要最低限の物しかない。確かに、ベッドなんて贅沢なもの、置かれてもいない。皆、地べたに転がって、アタシとエウトをじろじろと見ていた。

 最初、連れて行かれたのは、辺境の小国から出された兵士たちだ。別の小国なので、アタシは彼らのことがわからない。だけど、唯一の女であるアタシを皆知っている。

 アタシが普通に牢の外にいるのを見て、嘲笑った。

「女だから、その体を使って、取り入ったのか!?」

 覚悟していたわけではない。そう言われるだろう、とエウトに先に教えられた。本当に、そうなって、アタシはエウトを見下ろしてしまう。アタシよりも年下で、弟と同じ年頃だというのに、人の機微をここまで読み取るエウトは、一体、どんな教育を受けたのだろうか。

「皇帝に、話します。きちんと、国に戻れるように」

「皇帝の娼婦か!!」

「お前だけは人形を避けたよな」

「最初から、裏切っていたんだな!!」

 否定はしない。ここで下手なことを言っても、彼らには言葉は届かない。

 アタシの前にエウトが立った。

「それぞれの国の話はよくわかった。今、お前たちがいた国とは交渉中だ。こちらとしては、お前たちにこれ以上の尋問はしない」

「ガキが何言ってるんだ!?」

「こう見えても、今回の戦争の指揮者だ。人事権も、お前たちの今後も、全て僕の手の平だ。別に、お前たちの国を滅ぼしてもいいんだぞ。全て、僕の判断で決まる。口に気をつけろ」

 一気に静かになる捕虜たち。

 まさか、そこまでのことを考えているなんて思ってもいなかったアタシは、エウトの横に座り込んで、同じ目線で話しかける。

「エウト、子どもがそんな怖いこと言ってはいけない。そういうことは、イズレンにまかせればいいのよ」

「アンタをあんなに悪く言った奴らだ。これくらい言ってやるのは、子どもらしいだろう」

「子どもはそんな難しい言葉なんか使わない!! リウだって、もっと単純な単語しか言わないんだから!!!」

「そこら辺のガキと一緒にするな。僕はイズレンよりも優秀なんだ。こんなこと、僕で十分だ。イズレンなんかいらない」

「そんな、イズレンに対抗意識持たなくてもいいじゃない。イズレンは大人なんだから、甘えればいいのよ。そう、アタシに甘えればいいの。いくら悪く言われたって、大丈夫よ」

「っ!?」

 そこが囚人や捕虜が見ている前といえども構わず、アタシはエウトを抱きしめる。ちょっと抵抗するけど、すぐに大人しくなるエウト。可愛い。

 呆然とアタシとエウトを見下ろす囚人たちをアタシは睨み上げる。

「あなたたちも、子どもにこんなこと言わせるようなことして、恥ずかしくないの!? 大人は、子どもの模範になってあげなといけないの」

「すっかり、そっち側だな」

「知らなかったんだけど、アタシの母さん、皇帝の生き別れの妹なんだって。アタシが母さんの娘だから、投降したら、戦争やめてくれるって約束してくれた。捕虜側に行きたいけど、ダメだって。だから、こっち側で出来ることする。何をすればいい? 出来るかどうかわからないけど、やってみるから」

「………悪い、知らなかった」

「言ってた。情報が足りないから、行き違いが起きてるって。国王たちが何を考えているのかなんて、知らない。言われるままに、アタシたちは戦場に出ただけ。どうして、この戦争が起こったのか、国に帰ったら聞いてみてよ」

「そう、だな」

 落ち着けば、皆、話が通じる。だって、この侵略戦争の理由をアタシは皇帝イーシャに聞くまで知らなかった。

 だいたい、母ナーシャの消息を探しているだけだ。使者を出して、それぞれの国と話していたという。別に、知らないなら、そのまま知らないで、使者を返せばいいのだ。

 それなのに、これは戦争になった。何かがおかしい。アタシたち下っ端の知らない所で、何か動いているのだ。

「もう、離せ!!」

「もう少しこうしてたかった」

 弟リウによく似た抱き心地だというのに、皇族エウトはアタシを力いっぱい押し離した。エウト、見かけによらず、力が強い。

 そういうやり取りを目の前にされるので、捕虜たちはちょっと和んだようだ。

「悪かったな、チビ」

「俺たち大人が、もっと、落ち着いて対応しないといけないことだったな」

「こんな小さいガキに当たって悪かった」

「………」

 すっかり子ども扱いされるエウトは、居心地悪い、みたいな顔を見せる。

「アンタの側にいると、調子が狂う」

「それ、時々、言われる」

 国でも、同じようなことをいわれた。幼馴染みキオンだってそうだ。

 次に向かうのは、アタシと同じ国から出された捕虜たちだ。皆、アタシとは狩りでも一緒に行動しているから、顔見知りである。

 恐る恐る、とアタシは彼らの前に立つ。一応、エウトの後ろだ。ごめん、エウト、君は本当に将来はいい男になるよ!!

 皆、アタシを見て、最初は驚いていた。続いて、皇族エウトを見て、何か考え込んでいた。

「久しぶりだな、リーシャ。元気そうで何よりだ」

「ごめん、アタシ、薄情で、皆が捕虜になってるなんて、思ってもいなかった」

「お前を探しに戻ったんだよ。死んでるにしても、生きているにしても、確認しなきゃいけなかった。それで、捕まった」

 もの言いたげにアタシを見ている皆。

 あの気持ち悪い人形が撤退して、生き残ったみんなは、アタシのために戻ったのだ。そこで、まだ残っていた帝国軍に囲まれて、大人しく投降したという。

「キオン、すごい怪我してたぞ」

 見せられたんだ、キオンの姿を。だから、投降したんだ。妖精憑きであるキオンが傷だらけで捕虜となっているのだ。皆、諦めるよね。

「お前だけ、何してた?」

 さっきは怒鳴り散らされた。だけど、ここでは落ち着いた声で聞いてくる。そっちのほうが、怖く感じる。

「アタシ、何も知らなかった。アタシの母さん、皇帝の生き別れの妹なんだって。だから、アタシだけ、捕虜扱いされていない」

 物凄い音をたてて、鉄格子が蹴られた。その音に、アタシは顔をあげる。

「お前だけ、いつも特別扱いだな」

「そんなこと」

「知らないだろう。あの国では、俺たちただの人は、足手まといなんてものじゃない。生かされているだけなんだ。獲物をとってきても、その程度、という目で見られる。慈悲じゃない。仕方なく、分け当たられている。足りなくなると、俺たちただの人は、何も与えられない」

「そんなことっ」

「お前だけだ。何故か、お前だけは、与えられる。しかも、皆、お前だけに与えるだけ与えるんだ。料理も、洗濯も、水くみだって、お前だけは妖精憑きどもがこぞってやっている!!」

「………そうなんだ」

 言われるまで、ここに立つまで、知らなかった。アタシは、足手まといだから、仕方なくやってもらっていると思っていた。

 助け合っていると見ていた。だって、誰も何も言ってくれない。

「父さん、優しいから。母さんのことも、愛してたし」

 言い訳だ。実際、アタシは妖精憑きたちから、色々と恵んでもらっていた。申し訳ない、と遠慮しても、押し付けるようにくれるのだ。

「俺たちただの人は、お前と同じように、妖精憑きから生まれたんだ。だけど、家族すら、俺たちがただの人だというだけで、冷たく扱う」

「そんなっ!?」

「お前は知らないんだ。あの国の本当の姿を。俺たちは、常に監視されている。お前に何か余計なことを言わないようにな。今ならわかる。お前は、あの国でも特別なんだと。それが、ここに来て、やっとわかった。お前は、皇族なんだな。血筋が違う」

 全て、知っていた。彼らには、アタシが何者で、どういう立場かも、知らされていたのだ。

 エウトを見る。エウトはアタシに目を合わせない。きっと、アタシが辛い思いをしないように、先に、彼らを諭してくれたんだ。

「なあ、リーシャには、あの国はどう見えてたんだ?」

「あるがままだと思っていた。教えを守って、のんびりと時を過ごして、そんな平和な国」

「妖精が暮らす森に、ただの人を狩りに出すような妖精憑きの国だぞ。妖精憑きでさえ、あの森には入れないという。ただの人である俺たちは、あの森で随分な目にあっていた。お前は知らないだろうが、お前が狩りの仲間に入る前までは、あの森はただの人に対しても、随分なことをしてくれた。死人が出ることも普通なんだ。なのに、お前が参加するようになってから、あの森は、安全になった」

「妖精憑きのリウだって、普通に入ってたよ。夜、一番、危ない時でも、アタシの側にやってきた」

「何かがあるんだ、お前たちには。俺たちただの人は、もう、あの国には戻らない」

「そんな!?」

「お前も戻るな。あの国は、おかしい」

「でも、父さんとリウが」

「皇帝の姪なんだろう。皇帝に頼め。俺たちは、お前のお陰で、生き延びた。恨んでない」

 まさか、感謝されるとは思ってもいなかった。

「アタシのせいで、戦争に出たんだよ!!」

「見てみろ、皆、生き残った。他の国の奴らは随分と死んだのに、俺たちは生き残った。あの人形どもな、何故か、俺たちを避けたんだ」

「………」

「キオンがやれたのは、たぶん、お前を奪おうとしたからだ。今なら、そう思う。俺たちはただ、お前の安全を気にしながら、人形を回避しようとしていたんだ。ただ、それだけで、人形は俺たちを避けた」

 鉄格子の隙間から手を伸ばして、アタシの頭を優しくなでてくれた。





 アタシはエウトの案内で、アイシャールの元に行く。待っていてはいけない。

 アイシャールは、相変わらず、イーシャのことが大好きで、側で仕事していた。アタシが行くと、笑顔である。

「リーシャ様、ここまでご足労いただかなくても、呼んでくだされば、はせ参じましたよ!!」

「アイシャール、ありがとう!!」

 アタシはアイシャールに抱きついた。偉い人がいっぱいいる所だけど、そんなの無視だ。今すぐ、しないといけない。

「あら、わたくし、こんなに嬉しいことされるほどのことをしましたか?」

「アタシの友達を助けてくれた。聞いた!!」

「あら、口の軽い男たちだこと」

 やはり、アイシャールがしたのだ。アタシを見つけてすぐ、命令を変更したのだ。アタシに関わる人たちに危害を加えないように、あの気持ち悪い人形に命じたのだ。

 いつから、アイシャールがアタシという存在に気づいていたのかはわからない。だけど、妖精憑きは人の想像を超える力がある。きっと、アタシが人形と対面した時に、アイシャールはアタシの存在に気づいていたのだろう。

 出会った時、まるで初めて会ったような言い方だ。それは、アイシャールなりの立場あってのことだ。

 アイシャールは抱き返してくれる。

「言ったではありませんか。あなたは、あなた自身が思っている以上に尊い方なのですよ。あなたの幸福は、我々妖精憑きの幸福です」

「でも、それはアイシャールも幸せにならないといけない。アイシャールが幸せになることが、アタシの幸せだよ!!」

「まあ、そんなことを言われるのは、初めてです!! 嬉しい」

 アイシャールには、言葉に出来ないほどいっぱい、感謝して、返さないといけない。そう思い知らされた。

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