表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇族姫  作者: 春香秋灯
影皇帝の皇族姫-皇族の中の皇族姫-
8/353

愚かな皇族もどき

 部屋に戻る時は、スイーズがついてきてくれたけど、途中、孫のメフィルが邪魔してくれた。

「お祖父様、お話があります!」

「お前のように、わきまえない者には用がない。邪魔だ」

「お父様、メフィルとお話してください」

「あなた!!」

「今すぐ、そこをどかなければ、それなりのことをする。私はな、ライオネルに勝つため、今も鍛えているんだ」

「まだ、あの最悪な魔法使いのことを諦めていないのですか!?」

「当然だ。狂皇帝の時は先にやられたが、今度こそ」

 もう、全くもって、話がわからない。わたくしはさっさと部屋に逃げたい。だけど、目の前で家族が喧嘩している。その方向は、違う方向へと向かっている。

「この、貧乏貴族のせいね!! お祖父様を誘惑するなんて、卑しい女ね!!!」

「そういうことを言ってしまえるお前のほうが卑しい女だ。ラスティはな、むしろ、家族を大事にしろ、と私を窘めてくれたぞ。それなのに、お前たちはラスティを悪くいう。優しさなど、欠片ほどもないな」

「だったら」

「だから、お前たちには失望した。私は、ラスティのような娘や孫が欲しかった。お前たちは失敗作だ」

 わたくしはそれを聞いて、力いっぱい、スイーズの手を振り払った。

「失敗作なんて、言ってはいけません!!」

 家族のことだけど、わたくしは口出ししてしまう。

 スイーズは物凄く驚いていた。わたくしが怒っている理由がわからないのだろう。

「わたくしはいつも、あの偽物の叔父家族に、失敗だ、出来損ないだ、と散々、言われました。それを言われると、本当にそうなんじゃないか、と思ってしまいます。負けず嫌いだから、わたくしはそうはなりませんでした。でも、全てがわたくしみたいに負けず嫌いなわけではありません。そう言われて、そう思ってしまう人がいます。そう思ったら、その人は、何をやっても失敗してしまいますし、出来損ないのままになってしまいます。他人が言った言葉に縛られてしまうのです。

 スイーズは聞きましたよね。ハイムントは誉めてないのか? と。ハイムントはいつも誉めてくれます。わたくしを正しい方向へと上手に導いて、そして、わたくしが頑張ったんだ、みたいに言って、誉めてくれます。

 家族なんだから、そんなこと、言わないでください。わたくしには、頼る家族はいません。気づけば、一人です。ライオネルやハガル、ハイムント、そして、スイーズは優しくしてくれます。でも、家族だったら、無条件で優しくしてもらえます。それが、羨ましいです」

「だったら、私と家族になろう。私を選べば、守ってやれるぞ」

「あなた!?」

「これほど素晴らしい事が言える女を逃してはいけない。お前たちは逃しても痛くも痒くもないが、ラスティは違う。そなたは、私が出会った女の中で、最高の女だ」

「そうですか。では、私との面談も取りやめましょう」

「ハガル!?」

 そこに、賢者ハガルがにこにこと笑って入ってきた。

 それまで、わたくしに熱い視線を向けていたスイーズは、途端、ハガルへと向かっていく。ハガル、見た目はよぼよぼのおじいちゃんだけど、スイーズには、違う風に見えているのかもしれない。

「ハガル、違うんだ!! 私はまだ、そなたを諦めたわけではない!!!」

「本当に、目を離すと、とんでもないことになっていますね。ラスティ様、私とハイムントが部屋まで送り届けましょう」

「ハガル!?」

「ライオネル様からのご命令ですよ。ほら、あなたは家族団らんでもしてなさい」

 ハガルはスイーズのことを冷たくあしらって、さっさとわたくしの手を引いて先を進んでいく。ハガルと一緒だと、なんと、きちんと証明された皇族たちが、道を譲ってくれる。ちょっと邪魔しようものなら、怒られているよ、若い皇族たち。

 そうして、遠回りをして、やっと与えられた部屋に戻ってみれば、大変なことになっていた。

 なんと、皇族直属と思われる使用人数人が拘束され、転がされているのだ。

「ライオネル様からの贈り物です。好きにするようにと」

「好きにって、どういうことですか?」

「あなたの伝言を潰し、部屋の準備を怠り、と色々とやってくれました。それを命じた皇族もどきどもは、牢屋行きとなりました」

「だったら、彼らはちょっと減給とかでいいではないですか」

「皇族の順位を見誤った者たちです。皇帝の命令を蔑ろにしたのです。本来ならば、処刑ですが、ここは、ラスティ様の皇族教育に使うこととしました。どうしますか?」

「………」

 誰か、優しい世界に守ってください!! ここぞとばかりに辛い現実を突き付けられて、わたくしは目の前が真っ暗になる。一貴族で、こういうことすることはなかったな。

 縋るように見上げてくる使用人たち。いや、ここでわたくしが間違った判断をすると、ハイムントが腐った判定しちゃうのよ。ハイムントを見るのが怖い。

「貴族的には、まあ、紹介状なしの解雇ですね」

 主の命令に従えない使用人なんて、紹介状なしだ。紹介状がないと、次の雇用先を見つけるのは困難になる。使用人って、基本、誰それの紹介状を持っていることが、信用度を高くするのだ。

「でも、あなたたちのような使用人を野放しにしてはいけないの。妖精の罰さえ受けなけれなければいい、という甘い考えをする人は、きっと、どこに行っても同じ過ちを犯してしまうわ。だったら、あなた方は貧民となって、一生、城で下働きとなりなさい。もう、家族にも会えません。あなたがたの家族には、あなたがたは亡くなったと知らせます」

 わたくしは、男爵領での、領民が貧民へと向ける不信感を見ている。これはきっと、生き地獄だ。

 使用人たちは、処刑されないことに喜んでいる。現実を知って、絶望するのは、これからすぐだ。貧民となった途端、ちょっと前まで仲間だった使用人たちは手のひらをかえす。逃げたって、家族は絶対に受け入れない。家族で貧民が出たと知られたら、その一家は終わりだ。知らずに受け入れたりすれば、家族に恨まれることとなるだろう。

 ハイムントを見てみれば、悲し気な顔をする。これはまた、違う答えを望んでいたんだ。間違えてしまったか。

「もう、僕は必要なさそうですね」

 ハイムント的には、合格点以上の答えだった。でも、わたくしは喜べない。だって、他人を不幸にする答えだ。

「いえ、まだまだ、ハイムントに教えてもらわないといけないわ」

「辛かったら、頼りになる皇族に投げ捨てるのでもいいですよ」

「スイーズのことですか?」

「あの方は、ライオネル様がいなかったら、皇帝となれた男ですよ。血の濃さがわずかに足りなかったと聞いています」

 つまり、皇帝としての能力は、ライオネルとスイーズは同じということだ。

 そこまで出来る男だとは知らなかった。確かに、スイーズを選べば、わたくしは大事にされる。こんな心の痛いこと、全て、スイーズが秘密裡にしてくれるだろう。

「皇族の恩恵を受けているのだもの。出来るようにならなくちゃ」

 でも、両親を失ってから、わたくしは一人で頑張ってきた。今更、頼り方や甘え方がわからない。





 明日は最後の食事会となるお知らせが届いた。きちんと手紙だ。良かった、やっとまともな対応になった。

 部屋は、というと、そこはもう、後手なので、ハイムントがお断りした。何故か?

「膿は出しきっていません」

 部屋の準備を追加されることをハイムントは恐れた。一体、どんなことをされるのやら。

 そうして、城の散策を諦めて、大人しく部屋で引き籠っていると、今度は、来客である。

 ハイムントが相手を確かめると、ものすごく不機嫌になる。あ、皇族のダメなほうが来たんだ。

「もう、入ってもらってください」

「そういうと思いました」

 ハイムントはこういう時は、わたくしに従ってくれる。

 許可すれば、メフィルを含む皇族の女性たちだ。わたくしと歳が近い子もいれば、十代になるかならないかの小さい子もいる。多いな。

「これまでのお詫びもかねて、お茶会にご招待したいの」

「わたくし、お茶会の作法はこれっぽっちも知りません。無作法となりますので、貴族間でのお茶会もお断りしています」

 これは、本当の話だ。わたくしが皇族となってから、繋がりを持とうとする貴族からお茶会のお誘いを貰うのだが、全て、同じような理由で断っている。

 表向きはそうだけど、裏では、気持ち悪いからだ。だって、亡くなった両親の友達、とか、知り合い、とか、幼い頃に会った、とか、そういうことを書いてはいるけど、今更だ。わたくしが辛くて苦しい時は、これっぽっちも助けてくれなかったというのに。

 ものすごく冷たい話だけど、仕方がない。良い口実なので、ここでも使う。

「せっかく、同じ皇族となったのですから、お友達となりたいのです」

「よくわかりませんが、お茶会にご一緒すれば、お友達になるのですか? でも、わたくしの偽物の従妹は、随分とお茶会に参加していましたが、誰も助けてくれませんでした。きっと、お茶会程度では、お友達にはなれないのですね」

「全てというわけではありませんよ。気の合う人がいれば、それから仲良くなれます」

「わたくしが城に入るのは、わたくしが成人してからです。まだまだ時間があります。その時までには、立派な皇族としての心得を身に着けますので、その時にしましょう」

 絶対に部屋から出てはいけない。明日は最後の食事会だ。それさえ終わらせれば、さっさと領地に引き籠るつもりだった。

 どうしても、部屋から引きずり出したいのだろう。笑顔だけど、微妙に引き攣っている。もう、諦めればいいのに。

 苦難の道をこれっぽっちも歩いていない皇族だ。すぐにわたくしへの愛想笑いなんてなくなる。

「ハイムント、話があります」

 わたくしなんて無視だ。わたくしはそれでもいいけど、ハイムントはそうではない。なんと、メフィルからの話に答える気がないのだろう。全く見てもいない。

 メフィルはそれでも、ハイムントの目の前に立つ。

「ハイムント、わたくしの教育係りになってください。わたくしも、お祖父様のような、立派な皇族になりたいのです!」

「僕はラスティ様の教育係りとなったのは、ライオネル様のご命令です。まず、順序を守ってください。僕に言ったって、命令は変わりません」

「だったら、ライオネルに頼んでみます」

「無理ですよ。ライオネル様のご命令ですが、実際はハガル様です。ライオネル様はハガル様のご命令は絶対に従います。僕も、ハガル様のご命令には従います」

「おかしいです! ただ、貴族の中に発現した、というだけで、この女は、わたくしの母や祖母よりも、それどころか、皇妃様よりも上だなんて!?」

 ぼろぼろと泣き出すメフィル。サラスティーナもそうだけど、簡単に泣けるなんてすごい。しかも、理由がとっても下らない。

 貴族だった頃、泣いても無駄だ、ということはいやというほど思い知らされた。感情的に泣いてしまうことだってある。過去のことを思い出せば、やっぱり泣いてしまう。

 でも、地位とか、色恋とか、そういうことでは泣けない。だって、生き抜くために、この二つは意味がない。生き抜くためには、どこまで身を削れるかだ。そういう世界でわたくしは生きていた。

 だから、わたくしは笑ってしまった。それを見て、メフィルは怒って、わたくしに手をあげた。

「ラスティ様になんてことを!?」

 ハイムントはわたくしの頬に触れて、怒りでメフィルを睨んだ。メフィルはそれにはひるまず、わたくしを見下ろす。

「聞いたわよ。偽物といっても、それまでは血の繋がっていると信じていた叔父と従妹を追い出したんですってね。血も涙もない女ね」

 わたくしは、ハイムントを押しのけて、メフィルの頬を思いっきりひっぱたいてやった。

「痛いじゃない!! 何するのよ!!!」

「ちょっと表面上のことを聞いて、知った口をきかないでください。あなた、食べられるという草を生で食べたことがありますか? 血の繋がりがあると信じていた叔父や従妹に暴力をふるわれたことがありますか? 階段から突き落とされたことがありますか? してもいない借金のせいで借金取りに暴力をふるわれたことがありますか? その上等な服を繕ったり洗ったりしたことはありますか? ないでしょう。だって、この城で、当然のように使用人たちを顎で使って、高笑いしていただけですもの。皇族教育を優秀な成績をおさめたって、外のこと、何一つ知らないでしょう。熱さも、寒さも、飢えも、苦しさも、痛さも、これっぽっちも知らない。わたくしの体を見たら、将来の夫は驚くでしょうね。傷だらけですもの。

 それで、あなたたちは何を知っているの? 誰から、どういうふうに聞いたの? ぜひ、教えてください」

 わたくしは椅子に座って、残念な皇族どもを見上げる。変なプライドだけは高いから、タチが悪いのだ。

 言い返せないメフィル。別にわたくしの過去に同情しているわけではない。この女は、格下と思っているわたくしに暴力をふるわれて、怒っているのだ。そんなバカ高いプライドなんか、これっぽっちも役に立たないのよ。

 誰も、わたくしが言ったことは想像も出来ない。何もわからない。だって、経験がないし、そういうことを知る機会がないのだ。だけど、わたくしの気迫に恐れおののいているだけだ。

 そうして、しばらくして、メフィルは勝ち誇った顔をする。

「なんだ、あなた、もう、体のほうは、男性経験があるのね。はしたない」

「お帰りください。今回のことは、ライオネルに報告します」

 ここまで黙っていたというのに、とうとう、越えてはいけない所を越えてきた。皇族だから、何でも許されると思うなよ。権力を振りかざすなら、その上の権力で叩き潰すしかないのだ。

「ちょっと、話が違う!」

「こんなことになるなんて」

「わたくしは関係ありません!!」

 メフィルに賛同しちゃった残念な皇族たちは、さっさとメフィルを見捨てて、部屋から逃げ出していく。

「ハイムント、名前、教えてくださいね」

「もちろん、お教えしますよ」

「ハイムント!! どうして!?」

 最後まで、メフィルはハイムントだ。わかっていないな、この子。

「メフィル、ハイムントは、身の程をわきまえない人は嫌いなんです」

「あんただって、身の程をわきまえない、貴族じゃない!?」

「わたくしは、何度も助かる機会を与えました。身の程をわきまえていますから。だから、告げ口していません。あなたが勝手に失敗しただけです。本音をいいます。わたくしは、領地に戻りたい。皇族は帝国のために生きなければなりません。でも、わたくしは一貴族としてずっと生きてきました。人生のほとんどがそうです。なのに、いきなり皇族ですよ。考え方はそう簡単には変えられません。でも、皇族としての恩恵を受けてしまったので、きちんと役に立たないといけません。この恩恵は、当然ではありません。何かと交換です。ライオネルが結婚相手を決めたら、そうするしかありません。そこは、貴族と変わりません。領地経営と同じです。身を切らないといけません。

 あなたは、違う形で身を切りました。あなたの失敗は、他の皇族の皆さんの良い勉強となったでしょう。良かったですね、役に立ちましたよ」

「罠にはめたのね!? さすが、貧乏貴族は、やることがえげつないわ!!」

 いつまでも平行線だ。メフィルは一生、わたくしがいっていることを理解できない。それどころか、反省すらしない。

 しばらくして、メフィルの母親と祖母が部屋にやってきた。逃げていった皇族たちから話を聞いたのだろう。真っ青になって、暴れるメフィルを連れ帰っていった。

「ラスティ様、手紙を書く準備が出来ました」

 出来る教育係りは、仕事がはやい。なんと、この部屋に押しかけてきた皇族の一覧表まで作ってくれた。もう、わたくしが書くことって、ないんじゃない?





 夜はさすがにハイムントも、護衛のサラムとガラムも部屋から離れる。そうなると、物凄く不安になる。

 明日で食事会は終わりだ。これが終われば、わたくしは領地にさっさと帰れる。いつかは城が帰る場所になるというが、きっと、わたくしは一生、生まれ育った領地が帰る場所だ。

 眠れない夜を過ごしていると、ドアが開く。時々、ハイムントやサラム、ガラムが巡回しているので、そうだと思っていた。

 でも、その日は違った。複数の足音が部屋に入ってきたのだ。

 真っ暗な中で、わたくしはベッドから動くが、知らない部屋なので、すぐに転んでしまう。そして、無理矢理、おさえこまれていた。

 触れられた感触が男だとわかる。これには、わたくしは身の危険を感じた。でも、どうしようもない。複数で、手や足をおさえこまれている。

 そうして、わたくしの服を乱暴に手をかけた。

「それ以上はいけない」

「若ですら、手をだしていないというのに」

 サラムとガラムの声だ。途端、わたくしの上から誰もいなくなった。

 わたくしは手探りで灯りをつけた。そして、見てしまう。

 わたくしとそう歳が変わらない者はから、成人した者まで、複数の男たちがいた。ぞっとする。

「近づいたら、死にます」

 わたくしはすぐ、窓を開けはなって身を乗り出す。うわ、高いよ、ここ。楽に死ねそう。

「ラスティ様!?」

「いつだって、死にたかった!!」

 皇族となる前、何度も死のうと考えた。それはそうだ。生きているだけで辛いのだ。血の繋がりなんて、なんの役にもたたない。

 血の繋がりのあるという叔父家族は、財産を食いつぶして、借金を全て、わたくしに押し付けた。

 借金取りは酷いものだ。体を売れ、なんてせまってきた。もちろん、短剣で脅してやった。

 領民だって酷い。わたくしが辛い目にあっているというのに、見て見ぬふりだ。これ以上は苦しい、と言っている領民たちは、三食しっかりと食べていて、わたくしよりは幸せそうだ。

 だから、邸宅の一番高いところから落ちて死んでやろう、なんて毎日考えていた。

「守ってきたのよ! わたくしは身売りなんてしてない!! 穢されるくらいなら、純潔のまま死んでやる!!!」

 大丈夫、飛び降りれる。

 いつも怖かった。だけど、その日は飛び降りれた。

 だって、その先に、影皇帝が笑って立っていた。

 飛び降りるわたくしをどうにか捕らえようと、男どもが手を伸ばしてくる。わたくしは選ばない。お前たちみたいな男なんて、お断りだ。

 魔法だろう。ふわりと浮いて、わたくしは、影皇帝の腕に抱き留められた。

「捕まえた、私の皇族姫」

「もう、離さないでください」

 わたくしは影皇帝の胸で泣いた。





 皇帝ライオネルの仕事ははやい。まだ明け方だというのに、皇族だけでなく、皇族もどきも全て、集められた。なんと、赤ん坊までいる。

 わたくしは、ある意味、不審者である影皇帝に抱きしめられたままだ。影皇帝は嫣然と微笑むと、男女問わず、見惚れる。

「なんということだ。あの美貌と同じものを見ることとなるとは」

 スイーズが影皇帝を見て、呆然と呟く。

 スイーズだけではない。影皇帝の素顔に、驚いているのは、全て、ハガルの皇族の儀式を受けた者たちだ。

「お前たちは、皇族の儀式を受けたいのだな。だったら、受けさせてやろう。ハガル、すまないが、皇族の儀式を行ってくれ」

「仕方がありませんね。まあ、筆頭魔法使い候補はまだまだ見つかっていませんから、課題を残すのは、先でいいでしょう」

 男女問わず、人を惑わす美声に、皇族の儀式を乗り越えた皇族たちは歓喜に震える。

「ハガル!」

 スイーズは嬉しそうに呼ぶ。

 そこにいたのは、わたくしが知る老人の姿をしたハガルではなかった。

 影皇帝は確かに美しい。しかし、体を鍛えているので、男性的な方に偏っている。

 しかし、その人は、美しい曲線を持つため、男とも女とも、見えてしまう。そして、見る人によって、その美しさは変わるのだろう。

「父上、その姿は久しぶりですね」

「ステラを亡くしてからずっと、この姿になっていませんからね。スイーズ、近づいてはなりませんよ。あなたを殺したくない」

「ハガル、あなたは美しい」

 影皇帝は、スイーズが魅了されるほど美しいハガルのことを父上と呼んだ。

 老人の姿のハガルなら、信じない。でも、男も女も魅了する美しい姿をするハガルは、確かに影皇帝の血縁だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公まともかと思ってたら覚悟キマってていいなあ。 [一言] 登場人物主人公以外こわいなあって思ってた中で、メフィルちゃん人間ぽいなあと思ってたけどあまりにも先が暗い・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ