家族ごっこの終わり
皇族の儀式の準備が、リオネットの最後の仕事となる。ずっと忙しそうにしているリオネットと、一緒の就寝も、今日で最後だな。
今日で最後だからか、リオネットは思いつめた顔をして、寝室にやってくる。まさか、最後は思い出を、なんて小説みたいなこと言わないよな!?
意識してなかったのに、リオネットを見ていると、意識しちゃうよ!! 私も若者だ。色々と元気なんだよ。
リオネットは、私の隣りに座るも、寝ない。私は寝てるけどね。ほら、私は暇だから、先に来て、ちょっと寝てたんだよ。リオネットが部屋に来たから、起きただけ。
「明日もはやいし、寝たら?」
今更、話すことがないので、就寝を進める。もう、明日には、リオネットはただの偽物の皇族だ。その後のことは、まだ決まってなかったりする。
そこまで考えて、私は体を起こした。そうか、リオネット、明日以降、どうなるか、不安なんだな。
「心配するな。リオネットには、ものすごい恩がある。リオネットを殺すようなことはさせない」
死を恐れていると思った。私の中では、リオネットの口封じはない。まだ、解決策は見つかっていないけどな。
「リオネットは、女帝でなくなったら、何がしたい?」
「したい、こと?」
「そうそう。私は皇帝となるんだぞ。相談にはのる。全て叶えられるわけではないがな」
「レオンは、わたくしのこと、家族と思っていますか?」
「姉だと思っている」
笑ってしまう。リオネットから面と向かっていわれて、私は当然のように、そう答える。そうとしか思っていないのだ。
あまりに普通に、間髪も入れずに答えるので、リオネットは驚いた。あれだ、ヒズムに色々と言われ過ぎたんだな。
「ヒズムのいう事なんて、信じなくていい。だいたい、私がリオネットを異性として好きだったのは、子どもの頃の話だ。よくある、病気だ。今では、リオネットのことは、姉だ」
「姉とは、いつまでも、一緒のベッドで就寝するものではないでしょう」
「本当にな。だけど、姉だから、手だって出していない。それどころか、朝までぐっすりだ」
「そ、そう、ですね」
言われて始めて、リオネットは、納得する。異性として意識していたら、とっくの昔に、リオネットは私に手を出されている。私だって、若いんだ。そういう欲がある。
「他に、何か心配ごとでもあるのか? もう、眠いんだけど」
「レオンは、寝るのが早いですね。夜更かししないのですか?」
「夜更かしする目的がない。どうせ、明日からは皇帝だ。皇帝って、忙しいんだろうな」
「わたくしは大変でした。でも、レオンは片手間でしょうね。カイサルもそうでした」
カイサルのこととなると、リオネット、ちょっと女の顔をするな。なるほど、こういう顔をハズスが好んだのか。確かに、いいのかもしれない。
ま、私には、どうだっていいけどな。リオネットは姉だ。姉に何か感じることはない。
私は再び横になって、リオネットの背中を見上げる。よくよく見れば、リオネット、色気のかけらもな夜着だな。私は絶対に、リオネットと間違いは起こさないな。
「明日からは、部屋も、別々ですね」
「ここで暮らせばいいだろう。行き先が決まるまで、ここで引きこもっていればいい。ここはな、それなりに安全に出来てるから。ずっと働きづめだったんだ。休んでいていいんだぞ」
「………孤児院で、孤児たちの世話をしたいです」
初心に戻るような願いをされてしまう。リオネット、どこまでも働きたいのか。
「そんな、働くばかりではなくてさ、旅行に行きたい、とか、美味しいものを食べたい、とか、そういう娯楽みたいな願い事はないのか?」
「なんですか、それ」
「っ!?」
首をかしげて聞き返されてしまって、私は絶句する。リオネットは、経験豊富なわりには、世の中のこと、実は何も知らない。
私だって、市井で人気のある本を読んだりして、色々と知った気になっている。そんな私でも、色々と思いつく。
なのに、リオネットは、それなりに裕福な平民ですら思いつくようなことを知らないのだ。
リオネットの後ろに、今な亡き最強の妖精憑きハズスを見たような気がした。
ハズスは恐ろしい男だ。皇族カイサルを生まれる前から皇帝とするために、妖精の誘拐までして、手元で育てた。そして、皇帝であれ、という生き方を普通にして、戦争を起こす、ただこれだけのために、カイサルの両腕と片目を失わせたのだ。それすら、カイサルは当然のこと、と今も思っている様子だ。皇帝の座を退いていても、帝国のためであれば、身内をも切り捨てた。
リオネットもまた、ハズスの教育を受けている。ハズスは幼いリオネットに、骨の髄まで、とんでもない教育をしたのだろう。一目惚れだ、とか言ってはいるが、それは、過程でしかない。ハズスはカイサルと同じような教育をリオネットにも施したのだ。
将来の明るい展望なんで、これっぽっちも見ていない、薄気味悪い女が目の前にいた。悪いが、こんな女を私は愛することはないな。
ある意味、カイサルとリオネットはお似合いだ。ハズスによって育てられ、教育された二人は、似たところがあるのだろう。
私はリオネットを抱きしめ、また、横になった。
「は、離してっ」
「私が子どもの頃は、そう言っても、離してくれなかっただろう。そして、眠ったら、物凄い寝相で、酷い目にあったな」
「そんなことっ」
「寝ているのだから、知らないだろう。何度か、私はベッドから蹴り落とされたんだ」
おかしいんだ。壁側で私は寝ていたというのに、気づいたら、ベッドから落とされていたんだ。本当に、どうしてこうなったのか、わからない。しかも、リオネット、壁にべったりくっついて寝ていた。
「そんな、姉に対して、妙なことはしない。どうせ、今日もベッドから落とされるんだ」
「そんなこと、しません!!」
「寝ているから、知らないんだ。私はこれまで、リオネットが傷つくと思って、黙っていてやっただけだ。なんて姉思いな弟なんだ。感謝しろ」
「もう、離れてください!! 実際は、姉でも弟でもないでしょう。こんなのは、誤魔化しです」
「いいではないか、それで。明日からは、他人なんだし。今日までは家族でいたい。カイサルもさ、一緒に寝てくれれば良かったのにな。私からお願いしたのに、断れたんだ」
リオネットと二人っきり、というのは、最初の頃は意識しすぎていたので、私はカイサルを道連れにしようとしたのだ。だけど、カイサルは断ってきた。
「あの年頃の娘と寝る父親はいない」
もっともな事を言われてしまった。いや、だけど、私がいるから、許されただろう。どれだけ、カイサルはリオネットに弱いんだよ!!
リオネットが抵抗したって、もう私には勝てない。私の腕っぷしは、カイサルを超えたのだ。戦争では、それなりに活躍しよう。ほら、皇帝となるから、頑張らないと。
しばらく、ちょっと暴れたり、とかしても、リオネットは諦めて、大人しく眠った。リオネット、寝つきがいいんだよな。
そして、やっぱり、私は寝相の悪いリオネットに蹴られた。もう、この女と就寝する苦行は、今日で終わりだ。
十年に一度の皇族の儀式は、戦々恐々である。何せ、ここで、皇族となるか、皇族未満と呼ばれて市井に落とされるか、決まるのだ。
私は一応、まだ皇族未満ということで、皇族の儀式を受ける側に立っていた。私は決まりきっているので、一番最後である。
こういう待ちの列、だいたい、自己主張が出来ない奴が後方だ。私の前は、皇族ランセルだ。ランセル、珍しく緊張している。
「ランセル、大丈夫だ、これで死ぬことはない」
元気づけようと後ろから言ってやったのだが、ランセルに睨まれた。そうだな、私は皇族決定だが、ランセルはまだ、皇族かどうかわからないんだよな。
そうして、順番は進んでいく。もう、阿鼻叫喚だ。同じ血筋であるのに、皇族でなくなった者が出てくる。
そして、ランセルの番だ。
「跪け」
もう、小さい声だよ。命じている、なんて感じじゃない。
筆頭魔法使いヒズムはぴくりとも動かない。それを見て、ランセルは真っ青になる。
「ランセル、もっとはっきりと言え。そんなの、命令になってないぞ」
「し、してる」
「してない。お前のは、ただ言ってるだけだ。いいか、命じるんだ。ヒズム、私の靴を舐めろ」
私は手順をすっ飛ばして、ヒズムに命令する。ヒズムは、背中にとんでもない苦痛を受けたのだろう。顔を歪ませて、私の前に座り込み、靴を舐めた。
「そこまででいい」
どこまで舐めるんだよ、お前!! 抵抗したわりには、随分とやってくれるな!!! 私が慌てて止めてやると、ヒズムは顔を真っ赤にして、私から離れた。イヤなんだよな、私の靴を舐めるのは。ねえ、そうだよね!!!
後で、ヒズムには色々と聞いてやろう、なんて思いながら、私はランセルをヒズムの前に立たせる。
「ほら、大きな声で命じろ」
「ひ、ひざま、ずいて」
「違う! 跪け!!」
やば、私の命令で、ヒズムが跪いちゃったよ。これは、ダメだ。
ランセル、大事な大事な儀式だというのに、ヒズムに命じることが出来ない。もう、半泣きだ。ここにきて、ランセルの欠点が出る。
ランセルは、優しいんだ。人に命じることなんて、出来ない。だから、この皇族の儀式を超えるのは、ランセルには難しいんだ。
「まあ、いいでしょう。合格としましょう」
「そんなの、不公平だ!!」
不合格となった者たちは、ヒズムの言葉に不満の声をあげる。それはそうだ。ランセルは、ヒズムを跪かせていない。
「あなたがたは、勘違いしています。筆頭魔法使いは、皇族を感じるのですよ。この儀式は、視覚的に納得させるために行っているだけです」
「それじゃあ、私は」
「残念ながら、不合格です。あなたが命じても、僕は跪かない。そういうことが、稀にあります。ランセルは、一皇族として、レオンを支えてくださいね。成績優秀ですから、期待しています」
「は、はい」
ランセルは顔を真っ赤にして頷く。ヒズムな、見た目はいいんだ、見た目は。かっこいいし、綺麗だからな。女にもてるんだけど、男だってよろめいちゃうことがあるんだよな。
ランセルはそこで終了だ。皇族の血筋の濃さはわからないけど、ランセルは皇族であることは、ヒズムによって認められた。
だけど、ふと、私は心配になる。リオネットは偽の皇族だ。ハズスがただ単に、リオネットを女帝にして、皇帝の儀式をするためだけに、リオネットを皇族にしたのだ。儀式だって、ハズスはわざと靴を舐めて、通したのだ。
私はヒズムを見る。ヒズムは私のことが大好きだ。私の喜ぶことをやってあげたい、なんて常に考えているだろう。そんな私は、ランセルと友達になりたいな、なんて考えているのは、ヒズムだって気づいている。
ランセルが皇族か、そうでないのか、そこの所は、後で問い詰めればいいか、なんて軽く考えていた。
そうして、皇族の儀式は無事、終了である。あとは、女帝リオネットは、帝位を退き、皇帝位を私に譲渡するだけである。
「長かったなー」
ついつい、口に出てしまう。十年近い年月をかけた。十年はいらないよな、なんて思ってしまうが、そこは、大事な区切りだ。リオネットも、やっとお疲れ様である。
なのに、この場で、カイサルが剣を抜き放ち、その切っ先を私に向けてくるのだ。
「え、何? もしかして、こんな所で、訓練するの? もう、やめてよ」
冗談じゃない。一応、私は帯剣しているが、抜かない。
だけど、容赦なく、カイサルは私に真剣をふるってきた。それには、私も避けるしかない。
「ふざけるにも、程があるぞ!!」
「ふざけていない。代理戦争だ」
「はあ!? ふざけるな!! 譲位と決まってるじゃないか!!!」
「俺の中では、そうではない!!」
悲鳴があがる。まさか、こんな所で、皇位簒奪が行われるなんて、誰も思っていなかった。リオネットだって、想像すらしていなくて、真っ青になって震えている。
私は上手に避けて、そこら辺の机やら椅子やらを犠牲にして逃げる。よりにもよって、カイサル、妖精殺しの剣なんかで攻撃してきやがったよ!! 悪いけど、私が持っている剣は、そこら辺の普通のやつだ。まず、武器だけで負けが決定だ!!!
もう、皇族とその不合格の奴らが邪魔だ。さっさと出ていってもらいたくて、わざと、そいつらのトコに突っ込んでいく。そうしていくと、どんどんと人がいなくなってくれる。
部屋はもう、悲惨だ。机も椅子も、壁だって傷つけられて、後片付けが大変だな、なんて使用人の皆さんに同情してしまう。あ、金もかかるよね。新品に交換だよ。
「ちょこまかと逃げるな!! その腰にあるものは、飾りか!!!」
「飾りだよ!! お前が持っている業物なんか、持ってくるわけないだろう!!!」
「え、そうなの?」
カイサルの中では、私も妖精殺しの剣を帯剣することが決定事項らしい。ちょっと驚いているカイサル。
「カイサル、やめてください!! 譲位します!!!」
リオネットはカイサルの腕に縋りついて叫んだ。だけど、その言葉を聞く観衆はたった一人、逃げ遅れたランセルと、筆頭魔法使いヒズムだ。
ヒズムは、この戦いには手が出せない。皇族同士の戦いだから、見ているしかないのだ。だけど、笑ってるよ、こいつ。こうなること、知ってたな!?
「リオネットは下がっていなさい。お前は、女帝のまま、そこにいればいい!!」
「約束が違います!! レオンが皇帝となるに相応しい年頃になるまで、という話です。もう、これ以上、耐えられません!!!」
ボロボロと泣き出すリオネット。リオネットが泣くと、カイサルは動けなくなる。その隙をついて、私はカイサルが持っている剣の柄をつかんだ。
油断していたが、やはりカイサルだ。簡単に武器を手放してくれない。私とカイサルで武器をどうにかしようと、腕やら足やらを攻撃する。そうして、私たちはリオネットから離れる。
なのに、リオネット、止めようとやってくるのだ。このバカ女!! 武器持ってる奴には、近づいちゃいけないんだよ!!!
「ランセル、リオネットをどうにかしろ!!」
ランセルは真っ青になって震えるも、私に命じられて、動き出した。ランセルは、命じることは出来ないけど、命じられると動けるんだよな。
「いや、離して!!」
ランセルに抵抗するリオネット。ランセル、頑張れ!! 一応、男なんだから、女のリオネットにだけは負けるんじゃない!!!
「よそ見をするな!!」
そして、よそ見をしていた私は、呆気なく足を払われ、無様に倒れてしまう。その瞬間を逃さず、カイサルは私の心臓を狙って、剣を振り下ろす。
咄嗟に、私は帯剣した剣を横に払った。妖精殺しの剣の刃でないところにぶつけると、互いを弾きあって、反れた。あとは反射で私は転がって、カイサルから距離をとって立ち上がる。
「こわっ! むちゃくちゃ、こわっ!!」
反射で行ったことだが、後でものすごく怖くなる。一歩間違えれば、私は死んでたからな。
カイサルは妖精の目を使い過ぎたのか、膝をついて、苦痛に顔を歪める。その姿には、何か恐ろしいものを背負っている感じだ。
「カイサル、もう休め。こんなことは、もうしなくていいんだ!!」
カイサルはずっと、戦っていた。だから、止まれなかった。だから、私がカイサルを止めるしかなかった。
カイサルは妖精殺しの剣を構えるも、もう切っ先が揺れている。ただ、強い意志だけで握っているだけだ。
私はカイサルの横から走り寄る。カイサルはもう、正面しか見えていない。私はカイサルの横から体当たりして倒し、剣を握っている手を踏みつける。そうして、やっとあの物騒な業物が手放されたので、私は取り上げる。
「もう、お前の老後は、私がみてやる。大人しく、眠れ!!」
私はカイサルの首を強くたたいて、気絶させた。
代理戦争と、カイサルが宣言なんかしちゃったので、リオネットは牢屋に入れることとなってしまった。ついでに、カイサルもだ。あいつは何やるかわからないから、拘束具つきだよ。もう、大人しく寝てろ!!
「こうなるって、わかってたなら、教えてくれよ!!」
早速、私は筆頭魔法使いヒズムに文句をいう。こいつ、最後まで笑顔だったよ。
「僕が育てた皇帝です。この程度のこと、乗り越えられます」
「心臓に悪いんだよ!! もっと、こう、平和に行きたいな、平和に。お前さ、ハズスみたいに、完璧な皇帝は育てない、とか言ってたよな?」
「そうです。だから、あなたは今、生きています」
あ、話が通じない奴だ。もう、こいつ、後で、無理難題なこと命じて、痛い目にあわせてやる。
「それで、皇位簒奪されてしまったリオネットと、それに関わったカイサルはどうしますか?」
「私の皇帝としての最初の仕事がそれか!? 戦争が良かったな、戦争が!!!」
よりによって、身内だよ。血が繋がっていないけど、家族みたいに長いこと過ごしてたんだよ、あの二人とは。
これも全て、ヒズムの中では計算通りなんだろうか、なんて見てしまう。こいつも、ハズスのこと悪く言えないよな。お前だって、十分、歪んでるよ。
「戦争が良かっただなんて、知りませんでした」
「いや、戦争は良くないけどね。カイサルとリオネットを裁くよりは、戦争のほうが、遥かにましだな。さて、どうしようかなー」
大問題だ。だって、カイサルは処刑と決まっているのだ。
カイサルは、皇位簒奪を一度されてしまっている。一度目は、体の一部を斬りおとされて許されるのだ。だけど、二度目は処刑と決まっている。あいつ、死にたいのなら、リオネットを道連れにしないでくれ!?
「カイサルは処刑ですね」
「待って!! ちょっと、考えるから!!」
「通例です。カイサルは処刑、と」
「やだ、決定みたいに書類作らないでぇえええええ!!!」
いい年齢だけど、私はヒズムに泣きついてやる。こういうのって、かっこ悪くてもやるしかないのだ。
「そんなふうに泣きついたって、通例ですから、変わりません」
「わかった、処刑方法をあれにしよう。皇族専用の牢に入れてくれ」
「あの、緩やかに死ぬ牢ですか。確かに、ある意味、処刑ですね」
皇族の処刑、実は面倒臭い。だって、筆頭魔法使いの保護があるのだ。だったら皇族や処刑すればいいじゃん、とか言われそうだけど、それが出来る皇族って、いるほうが珍しい。だいたい、今までは、カイサルがやってたんだよな。カイサルいなくなったら、皇族を処刑する奴いないよ。
「リオネットはどうしますか?」
「体の一部を斬ればいいんだろう。まかせろ、私がやってやる」
「出来るのですか? 好いてる女ですよ」
「姉だから。そういう気持ち、もうないから」
「一応、私が見届けますからね」
「立派にやってやるよ」
そうして、私は、リオネットの長い髪をばっさりと斬ってやった。
「卑怯ですよ!!」
「煩い!! 体の一部を斬ったのは事実だ!!! ほら、証明だ。これで、リオネットへの罰は終わりだ」
アホっぽい方法で回避する私。その方法に、文句をいうヒズムだが、ダメとは言えない。だって、髪だって、体の一部なんだよ。
そうして、儀式は終了である。リオネットは、長い髪がなくなって、呆然としている。
「リオネット、頼みがあるんだけどさ、きいてくれる?」
「わたくしで、出来ることであれば」
「リオネットなら出来るって。カイサルの老後の面倒、みてくれ」
「………えっ?」
「ほら、私はカイサルの老後の面倒をみる、なんて宣言しちゃったけどさ、皇帝の仕事で忙しいからさ、みてやれないんだよな」
「宣言って」
「聞いてた奴が二人もいる」
私はヒズムと皇族ランセルを引っ張ってくる。皇位簒奪の場に最後まで残っていたのは、この二人だ。
「き、聞き、ました」
自信もって言ってほしいな、ランセル。それじゃ、言わされてるみたいなじゃないか。
「言ってましたよ。確かに聞きました。僕が、レオンの言葉を聞き逃すわけがありません。聞きました」
自信満々に言ってくれるヒズム。言い方が気持ち悪いよな、お前。
「カイサルが投獄される牢は、食べることも飲むことも、全て忘れる。だけど、誰かが補佐してやれば、食べることも、飲むことも出来るんだ。忘れるだけだ。あの牢に入れば、カイサルも、やっと休めるだろう」
死ぬまで皇帝であれ、と育てられたカイサルは、止まれない。
「カイサルのことは、よろしく頼むよ。たまに、見に行くから。あー、でも、まずは戦争だから、しばらくは行けないな。ランセル、悪いけど、リオネットの監視役についてよ。戦争、行かないんだから、いいよね」
「あ、ああ」
ランセルは命じられれば、頷いてしまう。残念ながら、友達になるのは、長い道のりだ。
「レ、レオン!! ありがとう!!!」
リオネットは、涙をボロボロ流しながら言った。
ちょっと、色々と同時進行で書いていましたので、ここで終了です。やった、円満っぽい終わり方しましたよ。
さて、次は、契約紋の基準とされる皇族姫リーシャのお話です。だから、今回、リーシャの話をちょっと出しました。なぜ、リーシャの血筋を基準にして、皇族の血筋としたのか? 皇族自体にも、意味があります、ということを書ければいいな、と思っています。
では、応援、よろしくお願いします。励みになります。




