惨劇は繰り返される
とうとう、食事会当日となった。女帝リオネットは、最後に入室である。私は、表向きは皇族未満だから、先に行くべきなんだよね。なんと、偽装ようの席まで準備してるんだって。
皇族と認められた者たちは、血筋順だ。皇族未満は、年齢順なんだって。よくわからずに座っていたけど、思い返せば、確かにそうだ。
普段は、リオネットの庇護を受けてます、という表向きの体をとっているので、リオネットと行動している。筆頭魔法使いヒズムとは、人の目がある所では一緒にいないようにしている。
今日は、リオネットという庇護すらなしで、私は食事会の部屋まで一人で行くこととなる。だけど、さすがに一人は可哀想、なんて思われたのか、皇族カイサルが一緒だ。
「もう、慣れたか?」
「慣れたって、何が?」
カイサルと私、あまり話すことがないのだ。だから、こうやって話すのは、物凄く久しぶりかもしれない。だから、カイサルは、おかしな事を聞いてくる。
「ほら、家族と離れてだな」
「もう慣れました。あとは、頑張るだけです」
カイサル、話をふるのが、物凄く下手だな。私は仕方なく、カイサルにあわせてやる。
私とカイサルが部屋に入れば、一気に静かになる。そりゃそうだ。どちらも、訳アリだ。
カイサルなんか、身内まで見捨てる残虐非道ぶりだ。一年前の皇位簒奪で負けた側に関わっていた皇族たちは、体の一部を斬りおとされ、背中に失格紋を焼き鏝で押され、筆頭魔法使いの守護を失ったのだ。それが一目でわかるように、席順は皇族未満より下にされている。その子どもたちだって、席順を実際に見てしまうと、気分が良いわけではない。
私はというと、一年前に、亡き筆頭魔法使いハズスによって、皇族でない、と嘘をつかれたのだ。真実を知っている皇族は、女帝リオネット、皇族カイサルくらいだと思うけど、もっといるのかもしれない。皇族カイサルは私と同じようなことをされ、家族に捨てられたという。その事を知っている皇族はいるだろう。カイサルに近い年齢の皇族が、物言いたげに私を見るけど、口に出さない。この嘘は、私を育てるに相応しいかどうかを確かめるための、私の家族へ与えられた試練だ。
私の席順は、一応、皇族未満の所にある。年齢順で、問題ない位置だ。
「あの元孤児の女を泣きついて、まだいるんだな」
席につけば、早速、私への攻撃がくる。言葉だけなので、無視する。けど、後で報告だな。身分とか、そういうのがわかっていないのだ。今の皇族教育の教師が悪いのか、それとも、こんな口を許してしまう漁師が悪いのか。
私が無言で座っていると、調子に乗ってくるのが子どもだ。私も一年前までは、こんな感じだったなー、なんて他人事で見ていると、机の下から、足を蹴られたりする。
「痛いんだけど」
「何のことだ?」
とぼける皇族未満の子どもたち。仕方がないので、やり返してやる。思いっきり、蹴ってやった。
ここに、体術の修練度が出てきた。私はかなりしっかりと鍛えあげられていた。本気でやってやれば、相手はかなり痛い目にあう。
「こいつ、皇族でないくせに、僕を蹴った!!」
泣いて、椅子から転げ落ちて叫ぶ皇族未満の子ども。うわ、かっこ悪っ。
「皇族でない奴が、生意気だ!!」
なんと、隣りの奴まで手を出してくる。目に見えることなので、私はその手を握って、捻り上げた。
「お前たち、わかっているのか? 私が暴力をふるっても、妖精の仕返しがこない、ということは、お前たちも皇族でない可能性が高い、ということだぞ」
そう言われて、これまで私に攻撃してきた皇族未満の子どもたちは、私から距離をとる。ここで、皇族でない、と証明されてしまっては、大変なことになるからな。
私に腕を捻り上げられて、痛い目にあわされているとなるの奴は、半泣きだ。抵抗しても、痛いし、私には妖精の復讐がこないから、絶望でしかない。一年前の私を見ているようだ。そうしていると、保護者がやってくる。
「私の息子を離せ!! 皇族でないお前が、こんなことをして、許されると思っているのか!?」
「リオネットが保護している子どもに、手をあげて、ただで済むと思っているのか?」
親が出てきたのだ。親みたいなものも出てくる。カイサルが、私の隣りに立って、相手の親に言う。
皇族最強の血筋のカイサルは、皇族の中での格は最上だ。そんなのが私の味方についたのだ。誰も口答えなんて出来ない。
私は、泣くしかない皇族未満の子どもを解放してやる。
「私に攻撃するのはやめていただきたい。皇族の儀式前に、皇族でない証明をしたくないでしょう」
「このっ」
「私はリオネットとカイサルに保護されています。彼らがいう通り、私は皇族の儀式を受けるまでは、ここにいる子どもたちと同じ、皇族未満の皇族です。それは決められたことです。それが気に入らないのならば、皇帝となって、その決め事を変えるべきです。ここで吠えている皇族たちは、その決まり事を変えたいようなので、これから、皇位簒奪をするようですよ、カイサル」
「そうか。では、俺がリオネットの代理となって、受けてたとう」
私はカイサルを利用して、その場にいる全員の皇族どもに喧嘩をふっかけてやる。
これには、皇族全てが黙り込む。私に痛い目にあわされた子どもの味方をした保護者なんか、真っ青だ。皆、この保護者から離れていく。
「そ、そんな、ただ、そいつは、皇族では」
「この決まりを俺の代では変えなかった。必要だと思ったからだ。リオネットも同意見だ。それに口答えするというのなら、皇帝となって、変えるがいい。さあ、剣を抜け!!」
カイサルの気合に、保護者は腰を抜かす。近くにいる、ちょっと気の弱い子どもなんて、大泣きだよ。
私は椅子から立ち、腰を抜かした保護者の前に立つ。
「なっさけないなー。おい、お前たち、私にいうことがあるだろう」
私は保護者を嘲笑って、振り返る。私を蹴ったりした皇族未満の子どもたちは、私から顔を背けて震える。
「カイサル、足を蹴られたんだよ。私がいるのが気に食わないんだって。痛かった」
「仕方がない。皇族は簡単に謝罪をしてはいけないからな」
「そうだった」
その話が出てくると、見るからに、皇族未満の子どもたちは安堵する。そう、謝罪って、難しいんだよね。皇族同士でも、格の差はあっても、ないようなものである。
「カイサル、ありがとう。また、いじめられたら、助けてよ」
「大人が出てきたらな。ガキ同士は、ガキ同士で解決しろ」
「わかった」
これで、私と子どものやり取りに、大人の皇族は誰も何もできなくなった。
そして、改めて、私が席につくと、もう、誰も、何も言わず、机の下から蹴ったりすることもなかった。
女帝は最後に入室である。皇族が集まると、カイサルが女帝リオネットを連れて来るため、一度、部屋から出ていく。
カイサルという最強の後ろ盾が部屋からいなくなると、次に来るのは、私の両親だ。
「お前がここにいるのは、我々、家族の恥だ。すぐに出て行け」
「リオネットとカイサルには、絶対に参加するように、と言われています」
「皇族でないお前は、ここにいる資格はない。出ていけ!」
もう、力づくである。私は抵抗もせず、父上に引きずられていく。
だけど、カイサルの仕事は早い。父上が抵抗しない私を引きずっている所に、カイサルはリオネットを連れて戻ってくる。
「何をしている?」
「その、この子どもが、調子が、悪いというので」
「そうなのか?」
「調子悪くなりたいけど、なれなくて、すみません」
父上の苦しい言い訳を叶えてあげたいけど、無理だ。だって、私は本当は皇族だ。病気しないんだよ。
リオネットは部屋を見回して、私の父上を見て、表情を歪める。無言で、私を父上から奪い、私を引っ張って、リオネットの隣りの席に、私を座らせる。
「ここで、大事な発表をします。レオンは、ハズスの悪戯で、皇族でない、と嘘をつかれました。本当は、この中の誰よりも皇族の血が濃く、皇帝となる才能がある子です!!」
リオネット、とうとう、口止めの魔法が解かれたんだ。私が皇族だと話せるのが、とっても嬉しそうだ。話せるから、晴れ晴れとした顔をしている。
突然の発表に、皇族たちも、皇族未満たちも、静かになる。そして、しばらくして、私を見る。私は誰にも目を合わせない。
「なんと、そうか!! レオンは私の家族の誇りだ!!!」
我にかえった父上が、私の元にやってきて、抱きしめようとする。もちろん、私はさっさと席から離れ、カイサルの隣りに移動する。
「レオン、ほら、また、一緒に暮らそう」
「今更、何言ってるの、あんた」
一年間、散々、私のことを、恥だ、と言い続けたくせに。私は呆れたように父上を見る。
「れ、レオン、知らなかったのよ」
母上までやってくる。私はカイサルを盾にする。まだ子どもだから、大人のカイサルはいい盾になってくれる。
「レオン、悪かった!!」
兄弟姉妹までやってくる。
「私の皇帝から離れなさい!!」
そこに、別の扉から入ってきた筆頭魔法使いヒズムが、私を抱き上げた。
「穢れた手で、私の皇帝に触れるな!!」
「筆頭魔法使いのくせに、生意気な!!!」
「カイサル、あの男を殺せ!!!」
ヒズムが怒り、皇族カイサルに私の父を殺すように命じる。
「お前たち、いつから、皇帝になった? 筆頭魔法使いは、皇族より上だ」
カイサルは剣を抜き放ち、切っ先を私の父上に向ける。
父上は、残念ながら、頭も体も弱い男だ。こんな場でも、丸腰でやってくる。偉そうな態度をとっているが、何も出来ない男だ。
「だ、誰かっ!!」
母上は仲の良い皇族に助けを求めるが、誰も目を向けない。それどころか、カイサルとそう歳が変わらない皇族たちが剣を抜き放ち、私の家族に切っ先を向ける。
「妖精の誘拐を知らないとは、愚かだな。祖父母から聞いていないのか?」
どんどんと追い詰められていく私の家族。だけど、諦めていないので、私を縋るように見てくる。
「レオン、助けてくれ!!」
「家族だろう!!!」
「悪かった!!! 知らなかったんだ!!!!」
口々に私に言ってくるが、私は無視する。見ていると、辛いので、ヒズムの胸に顔をうずめる。そうすると、ヒズムは嬉しそうに笑って、私を強く抱きしめる。
「あれらは、私の皇帝の家族としては、失格です。せっかく、リオネット様が、あんなに機会を与えたというのに、それを無駄にしたのは、お前たちです」
「皇族だと知っていれば!!」
「皇族ではない、と言われても、皇族の儀式まで大事に育てる家族こそ、本物の家族です。お前たちは、偽物だ。私の皇帝を盗もうなど、許されない。リオネット様に言いましたよね。皇族は子だくさんだ、と。そうです、皇族はたくさんいます。お前たち家族がいなくなっても、困らない」
カイサルは容赦なく、私の父上を斬り殺した。それに続くように、私を取り戻そうとした家族を立派な皇族たちが殺していった。
凄惨な食事会となり、リオネットは真っ青になって震える。一年前も、こんな酷い食事会だったのだ。いくら、覚悟していたとはいえ、受け止められるわけではない。
私はヒズムの腕から離れ、リオネットの元に行く。
「リオネット、無理しないで、部屋に戻ったほうがいい」
「ですが、わたくしが、この場で言ってしまったばかりに」
ぼろぼろと涙を流すリオネット。勢いで言ってしまったことをリオネットは後悔している。
私は、ヒズムを睨む。ヒズムは嫣然と微笑んでいる。こいつ、本当に酷い男だな。
「リオネットは悪くない。ヒズムが、そうなるように、魔法をかけたんだ」
私はリオネットだけに聞こえるように言う。
「そ、そんな」
「リオネットは悪くない。後で、ヒズムは叱っておく。もう、ここから離れたほうがいい」
リオネットが離れなくても、気分を悪くした皇族たちは、その殺戮の場から逃げだしていく。こんな所、むしろ。リオネットは離れたほうがいいんだ。
「レオンも一緒に離れましょう。あんなもの、見てはいけません」
子どもまで容赦なく殺すカイサルは、笑っている。確かに、子どもが見ていい光景ではないな。
「私の家族の最後だ。最後まで見ないといけない」
どんどんと外に逃げていく関係ない皇族たち。そんな中、泣いている子どもが数人、残った。その子どもたちは、私の弟妹だ。幼過ぎて、親がいないと、動けないのだ。
私を取り返そうと向かってきた家族たちは、もう動かない。カイサルは、まだ、生き残り、動けない幼い私の弟妹に向かっていく。
「や、やめてください!!」
止めに行こうとするリオネット。だけど、それを私は抱きついて止める。こうなるとわかっていたから、リオネットをこの場から離したかったのだ。リオネットは、どうにかして、幼い子を助けようとしてしまう。
リオネットは、私が怖がっていると思い込んで、拒めない。私が抱きついたままだと、私の幼い弟妹を助けに行くことは出来ない。
カイサルは私の意図をよく理解している。リオネットが動けないうちに、泣いて動けない私の弟妹を斬り殺した。
そして、今年も、食事会は中止となった。
憔悴した顔のまま寝ているリオネットを見て、私はベッドを出た。どうせ、ヒズムが魔法で、リオネットを眠らせている。こういう時、皇族でないリオネットを宥めるのは楽だ。いざとなったら、ヒズムの魔法を使えばいいのだから。
寝室を出れば、酒を飲んでいるカイサルと対面することとなる。泣いているリオネットを私が慰めている時はいなかったというのに。
私が睨んでいると、カイサルは苦笑する。
「悪い。昔から、リオネットが泣くと、動けなくなるんだ」
「私の代わりに、汚れ役をやってくれたので、許してあげます」
「一年で、随分と皇帝になったな」
すっかり、家族の情をなくした私の言動に、カイサルは表情を曇らせる。自らの過去を見たのかもしれない。
私はカイサルの近くに座り、カイサルが飲み干したコップに、酒を注いだ。
「一年も、恥だ、と言われ続ければ、家族の情も消える」
リオネットは、しつこいくらい、私と家族を元に戻そうとした。私だって、最初の頃は、戻れるかも、と期待していた。だけど、二か月、三か月と拒まれ続け、面と向かって、恥だ、なんて言われ続けると、悟ってしまう。
家族よりも、他人のほうが、本物だ。
リオネットは他人の上、元孤児だ。私のことなど、どうにかする必要なんてないのだ。なのに、リオネットは、私を家族の元に戻そうと、必死に呼びかけてくれた。私が家族の元に戻れば、リオネットは夜の護衛を失うというのにだ。
なのに、血の繋がりのある家族は、皆、私が皇族でない、という理由で拒み続けた。それどころか、恥だ、と吐き捨てたのだ。それなのに、私が皇族だと知ると、気持ち悪い笑顔を貼り付けて、私を取り返そうとしてきた。思い出しただけで、気持ち悪かった。
帝国では、赤ワインは罪の象徴だ。なのに、カイサルは今日に限って、赤ワインを飲んでいる。いつもは、白ワインなのにな。
「それ、美味しい?」
「大人になるとわかる。うまいぞ。だけど、赤ワインだから、安いんだ」
「なんで、帝国で、赤ワインなんか作ってるの? 赤ワインは罪の象徴だから、好んで飲む人はいないじゃん」
「いざという時に、必要になるからな。安い扱いだが、それでも、必要なんだ。作りたくなくても、作らなければならないんだ」
「飲みたくないなー」
「うまいぞ」
笑うカイサル。この人は、酒だったら、何でも美味しいんだろうな。そんな気がする。リオネットに聞いたのだが、教皇長のくせに、昼間から酒を飲んでいたという。酒は飲む、借金はする、と酷い聖職者っぷりに、リオネットは苦労したとか。
俺の前に、真っ赤なブドウの果実水が置かれる。うわ、私にも、飲めというのか。
私はイヤそうな顔をするのだが、カイサルは無言で威圧してくる。仕方がないので、飲んだ。
「美味しい!!」
「ヒズムが作ったんだ。魔法使いはすごいよな。この瓶だって、状態保存の魔法がかかっているから、常にいい状態のまま保存されているんだぞ。よく冷えてるだろう」
「冷えてる!!」
これは止まらない。私とカイサルは、互いに注ぎあいながら、瓶一つを空にする。
「これで、私も天涯孤独の身だ。ある意味、孤児だな」
「確かに、親兄弟はいなくなったな。しかし、親戚がいるだろう」
「私を拒絶した親戚だけどね。誰も、私を受け入れてくれなかった」
私が家族から見捨てられたばかりの頃、私は一人、親戚を訪ね歩いた。どこかにもぐりこんで、家族を説得してもらおうとしたのだ。だけど、皆、私だと知ると、私の体を押して、堅くドアを閉ざした。
次に頼ったのは、友達だ。朝は、仲良く離していた友達は、皆、私を見るなり、体を乱暴に押して、『平民が近づくな!!』と言い放った。
そして、最後にたどり着いたのが、リオネットの所だ。リオネットは、責める私を優しく受け入れてくれた。リオネットは、私が皇族だと知らずに、受け入れてくれたのだ。
「ヒズムがいう通りだ。皆、本物ではなかった」
家族も、親戚も、友達も、皆、本物ではなかった。
「たまたまだろう。俺の時は、そうじゃなかったと聞いてる。母だけが拒絶して、他の家族は俺を育てようとしたんだと」
「えー、それ、本物じゃん」
「母が受け入れなかったから、結局、ハズスが俺を育てたんだ。本物の家族から離されて育てられたんだぞ。気づいた時には、本物の家族は、他人だ」
「乳母とかに育てさせれば良かったのに」
たった一人でも拒絶されても、他の家族がいいというのだから、育てさせれば良かったのに。そう思ってしまう。
「そういう話も、ハズスから提案されたんだ。だが、母は私を拒絶するあまり、殺そうとした。結果、引き離すしかなかったんだ」
「え、母親を引き離せば良い話じゃない?」
聞いていると、カイサルの母親だけが失格だ。だったら、カイサルの母親を引き離せば、解決ではないか。
「俺もそう思ったが、ハズスはそうではない。人の心とは、そう単純ではないのだと。私の母を引き離しても、円満にはならない。俺が母親を失わせた、と家族の心の傷として残ってしまうだろう、とハズスに言われた」
「そもそも、ハズスのせいなのにな」
「そこは、ハズスなりのこだわりだ。最高の所で、俺を育てたかったんだ。俺の家族は、最高ではなかった」
「それで、私の家族みたいに、皆殺しにしたんだ」
「していない。俺が皇族だと公表した時、最後まで抵抗したのは母だけだ。母を除く家族は、俺を取り返そうなんてしなかった。むしろ、母を止めていた。結果、母だけ、当時の皇帝に殺された」
「残った家族には、何か言われたりしなかった?」
「ない。母を除く家族は、わきまえている。皇族としても、立派な人たちだ。それ以前に、もう、俺のことを家族とは見ていなかった」
「そうなんだ」
そう言うしかない。私とカイサルでは、まず、成り立ちが違う。
カイサルは生まれてすぐに捨てられた。だから、家族を知らずに育った。
私は、それなりの年齢まで家族と過ごしていた。
だから、お互い、理解が出来ない。ただ、そういうものだ、と受け入れるしかない。
「はやく、皇帝になって、リオネットを楽にしてやってくれ」
気の毒な女帝のために、カイサルはそういう。
私が皇帝となるには、色々と手順を踏まないといけない。一番、良いと言われるのは、皇族の儀式である。その時に、私が皇帝並の血筋を証明できれば、皇帝になれる。
もう、私はヒズムから次の皇帝だと言われている。あんな食事会を見たのだ。文句をいう皇族はいない。あとは、リオネットが皇帝位の譲渡をすればいいだけだ。リオネットは、偽の皇族だ。幼い私を守るために、女帝に立っただけだ。その時になれば、喜んで、リオネットは皇位を私に譲渡する。
でも、リオネットのその後の問題は解決していない。この目の前でリオネットのことを心配している男は、自由となったリオネットを殺すだろう。
「私が皇帝となるまで、カイサルは元気でいてよね。ほら、リオネットの後ろ盾がなくなっちゃうと、大変だ」
それ以前に、それなりに高齢なんだよな、カイサル。
年齢のことを言われ、カイサルは私を睨む。
「聞いたぞ、ヒズムから。リオネットのこと、好きなんだってな」
「もう、あいつ、どこまで話すんだよ!? 言っておくけど、こんなの、ちょっとした病気だ。大きくなったら、そういうのも消えてなくなるよ。もう、そういう話はやめてほしい!!」
やっぱり大人だ。すーぐ、話を反らすよ。私は仕方がないので、乗ってあげた。




