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皇族姫  作者: 春香秋灯
教皇長の皇族姫-戦争万歳-
71/353

妖精の誘拐

 一応、試験をしよう。ということで、女帝となるために、筆記試験です。皇帝が崩御した場合、こういうことをするそうです。皇位簒奪って、簡単にやっていいわけではありませんね。

 この問題作ったのは、ハズスですよね。過去に、解いたことがあります。なので、普通に解けてしまうのです。

 もう、ハズスはわたくしを女帝にする計画を随分と前からたてていたのでしょうね。でも、良心が痛みます。

「これ、わたくし、ハズスに解かされたことがあります」

 終わった後に、数人の皇族との面談で告白してやります。これで女帝になれないのも、まあ、責任が軽くなっていいことです。

「ハズスから聞いている。他の皇族は皇帝として認めないと宣言されている。カイサルから聞いているだろう。シズムがやっているような仕事は、皇族であればいいんだ。だが、筆頭魔法使いは違う。筆頭魔法使いを抑え込むことこそ、皇帝の仕事だ。これまでは、教皇長のカイサルが抑え込んでいたが、これからは、リオネットの仕事だな」

「不満ではありませんか? わたくしは、皇帝の教育を受けていません。シズムみたいに、役立たずかもしれませんよ」

「どうかな。君の話は聞いていると、皇帝向きだ。考え方が平民や貴族とは違う。視点が別にあるのかもしれないね」

「買い被りすぎですよ」

「王都の教皇ズームが言っていたが、君は自己評価が低すぎだ。が、仕方ない。孤児院でも教会でも、底辺という認識で生きていたと聞いている。自信を持て、とはいわない。立場は昔とは違うことを認識したほうがいい。君は、皇族だ。底辺ではない」

「ありがとうございます」

 一応、お礼はいうけど、内心ではそうではない。だって、偽物の皇族ですから。何かあったら、わたくしは存在を消されるはずです。

 皇帝代理カイサルは、ちょっと、わたくしを娘みたいに見ているけど、視点を変えれば、皇帝目線で、きっと、わたくしをこの世から抹殺するでしょう。余計な事を知りすぎて、余計なものを見過ぎていますから。

 複数の皇族と面談して、わたくしは私室に戻ることとなりました。城を歩き回ることは、一人では出来ないので、筆頭魔法使いハズスが外で待っていました。

「はやく、覚えないといけないですね」

「覚えなくていい。行きたい所は全て、私が連れて行ってやろう」

 ハズスはわたくしの腕をとります。口づけが出来るようになってから、ハズスはぐっと距離を詰めてきました。もうそろそろ、皇帝の儀式なのでしょうね。

 年頃の娘としては、恥ずかしいことを考えてしまっているわたくしですが、表面上では平静です。

 しばらく歩いていれば、どうしても、他の皇族に会ってしまいます。

 といっても、皇族教育を受けている、まだ、皇族かどうかわからない子どもたちです。

 すっかり、上下関係が変わってしまった子どもたち。わたくしを責める子どもたちは、すっかり小さくなって、隅っこを歩いています。両親が皇帝代理カイサルに近い位置だろう子どもたちは、堂々と歩いています。

「どこにいっても、同じですね」

 孤児院にいた頃のことを思い出してしまいます。こういう力関係には、身分というものは関係ありません。身分が高くても、平民でも、こういう上下が出てしまうのです。教会でいう平等なんて、嘘っぱちです。

 そうして見ていると、両親が失格紋をされてしまった子どもたちは、荷物持ちをさせられている。

「あなたたち、自分の荷物は、自分で持ちなさい」

 さすがに、注意すると、子どもたちはわたくしを睨み上げてくる。

「元孤児だと聞きました。生まれの卑しい人のいう事など、ききません」

「ですが、荷物は大事にしたほうがいいですよ。孤児ですが、自分の持ち物だけは抱え込みます。だって、盗られることが日常ですから」

「我々は皇族ですよ。そんなことはしません」

「そうですか」

 わたくしは、荷物を笑顔で取り上げてやりました。

「何をするのですか!?」

「ほら、盗られました。もう、あなた方の持ち物ではありません。これは、わたくしの物です」

「泥棒!!」

「違います。盗られたほうが悪いのです。それが孤児です。卑しい孤児なので、これは返しません。両親に言いつけてもいいですよ。わたくしは言ってやります。卑しい孤児だと言われたので、孤児らしく、盗っただけだと。孤児では、こういうことは日常茶飯事です」

「言いつけてやる!!」

 そう言って駆け出していく子どもたち。面談で顔をあわせた皇族の子でないことを祈りたい。

 呆然とするいじめられていた子どもたち。わたくしは、彼らの荷物だけは返す。

「ご両親は見る目がありませんでした。しかし、あなたがたは違います。見る目を養ってください。ついでに、皇帝を目指してみてください。血筋と実力さえあれば、皇帝になれますよ」

「両親が、失格紋なのに?」

「わたくしは元孤児だけど、もうすぐ、女帝ですよ。でも、さっきの子どもたちみたいに、文句を言われるのでしょうね」

「心配ない。私が消し炭にしてやる」

 黙って見ていたハズスが口を挟んできた。

 筆頭魔法使いハズスは、目隠しをしているから、どうしても、子どもたちには怖がられる。目隠しを外せば、全ての人を魅了してしまう美貌なので、隠しているだけに、損をしている。

 子どもたちは、すぐ、わたくしから距離をとる。それと入れ替わりに、わたくしに荷物をとられた子どもたちが、本当に親を連れてきた。

「大人げないことをしないでいただきたい!!」

「元孤児なので、仕方がありません。あなたの子どもは、わたくしのことを卑しいと言いました。子どもがそういうということは、親がそう言っているということです」

「………」

 気まずい、という顔をする親たち。そうなのだ、子どもは親が言ったことをそのまま言ってしまっているだけだ。どれだけ、わたくしの前で取り繕ったところで、子どもは言ってしまうのだ。

「わたくしが女帝となるのはご不満のようですから、ぜひ、皇位簒奪をしてください。わたくしは武力がありませんから、きっと、簡単ですよ」

「そんなこと、考えてもいませんよ」

「では、あなた方のお子様に期待しましょう。きっと、将来は皇族となって、わたくしから皇位簒奪をしてくれますよね」

「ああ、やってやる!!」

 子どもは正直です。親が必死に隠していても、すぐ話してしまいます。

「私は認めない。それ以前に、お前は、皇族ではない」

 そこに、ハズスがとんでもないことをいう。皇族の儀式の前に、暴露したのだ。

 親は真っ青になる。筆頭魔法使いのいう事だ、間違いがない。皇族でない、と言われてしまった子どもは、よくわかっていない様子だ。まず、目の前にいるハズスが何者か、わかっていない。

「ハズスも、冗談がすぎます。ほら、荷物はきちんと、持ち主が持ってください。次、見かけましたら、また、わたくしが盗ってやります」

 わたくしはその場を誤魔化し、荷物を返した。

 皇族でない、とハズスに言われてしまった子は、荷物を受け取って、親を見る。しかし、親はその子を冷たく見下ろしていた。





 その日の夜、ドアをノックされました。夜遅くまで真面目にお仕事をしている皇帝代理カイサルは不在です。筆頭魔法使いハズスはわたくしの向かいに座っています。無視するのかな、と見ていれば、ハズスはドアを開けました。

「あら、このような時間に、どうしたのですか」

 顔を涙やら何やらでぐしゃぐしゃにした子どもがいました。ハズスに「皇族ではない」と親の前で言われた子どもです。

「お前のせいで、追い出されたんだ!! 皇族じゃないから、もう、家族じゃないって!!!」

「でも、血のつながりはあるのですよね。では、帰りましょう」

「部屋に入れてもらえないんだ!!!」

 酷い話です。ハズスに皇族の血筋として足りない、といわれたくらいで、血の繋がった子を捨てるのです。

 必死になって、ドアを叩いたのでしょう。両手が真っ赤になって痛そうです。

「一晩は、こちらで過ごしましょう。明日の朝、カイサルに相談しましょう。それでいいですよね?」

「そうだな、親が捨てたんだ。いいだろう」

 てっきり、追い出すものと予想していましたが、ハズスは子どもを部屋に入れました。まあ、皇位簒奪する、なんて宣言したって、まだまだ子どもです。ハズスもいるので、いきなりわたくしが殺される、なんてことはないでしょう。

 もう、顔も服も酷いものです。ついでに、お腹が空いているのでしょう。お腹を手でおさえています。わたくしが何かいう前に、ハズスが食事を並べます。子どもは何も言わずに、すごい勢いで食べ始めました。

「明日には、ご両親にお話しないといけませんね」

「一度、捨てたんだ。もういらないだろう」

「親がわかっているのですよ。きちんと返すべきです」

「皇族は、そういうのはない。血筋が重要なんだ。同じ子でも、皇族でなくなったら、親は見捨てる。そういうふうになっているし、そういうものを見ている」

「家族だと、幸せになれるものと思っていましたが、そうではないのですね。カイサルに側仕えになってから、そう思います」

 孤児院では、家族は幸せの象徴だった。実際に見るわけではないが、本で読んで、職員から話を聞いて、そう感じたのだ。

 だけど、カイサルの側仕えとなって、カイサルの子どもたちの面談を側で見ていて、そうではない、と思い知らされた。カイサルの子どもたちは、家庭を持って、カイサルの孫を一度だけ見せて、二度と、面談には来ない。その面談でも、「子として、仕方なく、一度だけ孫を見せに来ただけだ」と言い放った。そこまで酷い親子関係だったとは、想像すら出来なかったが、皇族となって関わってみると、想像を絶する親子関係だった。

 カイサルは親らしいことを何一つしなかった、と口にしている。実際にそう感じて、子どもたちは、カイサルのことを嫌って、皇位簒奪されて、自業自得だ、とまで言い放ったのだ。そんな子どもたちをカイサルは無情にも切り捨てた。

 なのに、血の繋がりのない側室の親子のために、カイサルは復讐した。表向きでは、皇帝として、敵国との戦争を勃発するため、と嘯きながら、実際は、側室の親子暗殺に関わった者たちへの復讐だった。復讐相手が、敵国と繋がっていたので、戦争はついでだった。

 がつがつと食べる子ども、落ち着いたのが、思い出したのか、また、泣き出してしまう。

 わたくしが子どもの様子を見ている間、ハズスは子どもの服を用意したり、寝床を綺麗にしたり、と甲斐甲斐しく動いていた。

「ハズスは、子どもには優しいのですね」

 子どもに怯えられているばかりだというのに、ハズスが子どものために色々としているのは、嬉しく感じる。優しいところもあるのですね。

 無言で笑うハズス。何も言わないので、照れているのでしょうか。

 そうして、子どもを湯あみまでさせて、寝かしつけて、とハズスが無言でやっていると、皇帝代理カイサルが帰ってきた。

「お久しぶりです、ヒズム」

 何故か、魔法使い見習いであり、次期筆頭魔法使いのヒズムが一緒でした。本当に、久しぶりです。よく考えれば、皇族となってから、ヒズムに会うのは初めてです。

 ヒズムは軽く頭を下げて、何も言わずに、子どもが眠る寝室に行ってしまう。

「カイサル、実は」

「ヒズムから聞いている。皇族の親が、子を捨てたんだろう」

「そうなのです。ですが、明日には、気が変わっているでしょう。明日、子どもを親に返してきます」

「もう遅い。子どもは親元には戻れない」

「そんな、皇族ではないとハズスが言ったからって、正式な皇族の儀式ではないのですから、それまで、外で生きていく術を教えてあげればいいではないですか」

 カイサルだって、皇族でないとわかっていた側室の子に、外で生きていくための教育を施していた。同じことを皇族でないと言われた子どもにもしてあげればいい、と軽く考えていた。

 これまで親子として、関係を育んでいたのだ。次の日になれば、親だって後悔するはずだ。だから、わたくしは次の日には、子を親元に帰すことが正しい、と考えていた。

「これは、妖精の誘拐だ。もう、あの子は親に戻されない」

「妖精って、どういうことですか?」

「俺と同じだ。あの子は、皇帝となる器があるのだろう。そういう子を見つけると、ハズスはわざと、嘘をいうんだ。この子は皇族ではない、と」

「嘘? だったら、あの子は親元に帰してあげられます。親だって、嘘だと知れば、喜んで受け入れます」

「捨てられた子だ。それを妖精憑きが拾う。これは、妖精の誘拐だ。もう二度と、帰されない」

「意味がわかりません」

「俺の時もそうだった。俺が母の腹にいた頃に、ハズスは嘘をついたんだ。それを信じた母は、生まれたばかりの俺を捨てたんだ。ハズスはそうして俺を拾って育てた。ハズスは親を試したんだ。血のつながりのある子が皇族でなくても育てるかどうか。育てれば、そのままだ。捨てるなら、二度と返さない。血のつながりのある子を皇族でないばかりに捨てるような親は、失格なんだ。そんな所に、皇帝となる皇族を置いてはおけない。だから、俺は生まれた頃からずっと、ハズスに育てられたんだ」

「そんなこと、酷過ぎまず!! あの子は、泣いていました。入れてもらえなくて、絶望して、ここに来て、当たり散らして」

「仕方がない。試されて、失格となったんだ。力ある妖精憑きは、感性が妖精に近い。あの子どもが将来の皇帝となる実力があるのなら、次期筆頭魔法使いヒズムの皇帝だな」

「………」

 言葉に詰まる。だって、目の前に妖精の誘拐によって育てられた人がいる。この人は、皇帝であれ、と育てられ、その正しさを貫き、両腕を失ったのだ。一歩、間違えれば、命だって失っていたかもしれない、そんなふうに育てられて、それを間違いだとは言えない。

 わたくしは、否定出来ない。否定すれば、カイサルのこれまでの人生を否定することとなる。だから、これ以上、言葉が出なかった。

 カイサルは気まずい、みたいにわたくしから顔を背ける。十年ものお付き合いだ。わたくしが考えていることなど、わかっているだろう。

「仕方ない。あの家族には、一度、機会を与えよう」

 珍しく、カイサルのほうから折れた。わたくしは驚いて、カイサルを見返した。

「ただし、皇族である、という情報は伏せる。皇族には、義務がある。それは、帝国を第一と考える、ということだ。子育てもそうだ。将来の皇族を育てるのだ。見極めるための、嘘だ」

「ありがとうございます」

 ついつい、笑顔になる。本来は、カイサルは機会を与えることすらしない。カイサルは筆頭魔法使いハズスの言いなりだ。ハズスが決めたことだから、それに従うのは当然のはずだ。

 どういう気まぐれなのかはわからない。わたくしとのやり取りで気が変わったというわけではない。きっと、何か試したいのだ。

 わたくしとカイサルの言い争いが終わる頃を見計らって、ハズスが戻ってきた。

「カイサル、では、一年後の食事会で」

「いや、もう一度、機会を与える。リオネットがいうように、親の気が変わるかもしれない」

「そうですか。愛しいリオネットがいうのでしたら、もう一度、機会を与えましょう」

「いいのですか?」

 わたくしの願いをかなえるためとはいえ、ハズスが素直に従うのは、なんだが、おかしい。少しは、拒否しそうだ。

「カイサルの時も、数度、機会を与えました。カイサル、いくら私があなたを手に入れたかったといえども、そこまで私は人でなしではありません」

「そうなのか?」

「あなただって、親兄弟とはきちんと話して、今があります。あなたの場合、母親が失格でした。父親は良い家族でした」

「そう、だな」

 わたくしが知らない何かが、過去のカイサルにあったのだろう。家族を知らないと嘯きながらも、家族に関わった経験がないわけではない。だって、同じ皇族なのだから、親兄弟と関わったはずだ。

 きっと、カイサルの兄弟は健在のはずだ。皇族となって一か月近いが、誰がカイサルの血縁かはわからない。カイサルに親兄弟がいるなんて、想像すらしていなかった。そこは、わたくしが孤児だからだろう。

 しばらくして、見習い魔法使いヒズムが部屋から出てきた。

「あの子どもは、寝ましたか?」

「ええ、ぐっすりと眠りました。家族との対面が終わりましたら、筆頭魔法使いの屋敷に連れて行きます。ここでは、気分を害することが多いでしょう。僕が、しっかりと教育し、育てます」

 とても嬉しそうに笑っていうヒズム。

「もし、家族の気が変わった時は、納得できますか?」

 ヒズムが随分と子どもに執着しているように見えるので、心配になった。

「良い家族であれば、それが一番です。しかし、皇族でない、という理由だけで子を捨てる家族であれば、もう返しません」

「わかりました。明日、もう一度、話し合いをしましょう」

 一晩経てば、何かが変わっているといいな、なんてわたくしは神に祈ってしまった。神に祈るのなんて、偽物皇族になってから、初めてのことだった。




 一日経って、わたくしは、皇族ではないと言われた子どもレオンを連れて、家族の部屋に行った。一応、先ぶれは出して、了承は得ている。

 わたくしとレオンだけでは不安なのだろう。まだ、筆頭魔法使いではないヒズムが同伴した。ヒズムにとって、レオンは、将来の大事な皇帝だ。離れたくないのだろう。

 この妖精の誘拐のきっかけを作った筆頭魔法使いハズスは、まだ皇帝代理のカイサルとお仕事に行った。敵国とのやり取りで、色々と話し合いがあるそうです。皇帝は皇帝で、大変です。

 そうして、レオンの家族が暮らしている部屋に行きました。昨日は、レオンの入室を拒絶した部屋ですが、わたくしと一緒だからか、レオンは中に入れました。

 昨日までは、一緒に過ごしていた家族だけど、距離があります。レオンは、きっと、暖かく迎え入れてくれるだろう、と部屋に入る時は笑顔だったというのに、家族の表情と態度を見て、わたくしの横に立ち尽くします。わたくしは、レオンの手を引いて、勧められた椅子にレオンと一緒に座りました。

「突然、すみません」

「いえ、我々はいつでも、女帝の味方です」

 昨日、レオンがわたくしのことを随分と悪く言ったので、レオンの家族はどうにか笑顔で取り繕った。

「レオンのことで、相談に来ました。レオンは昨日、こちらから追い出されたと言っています。本当ですか?」

 まずは、事実確認だ。嘘であってほしい。きっと、レオンは部屋を間違えたのだろう。そう思いたかった。

「本当です。その子どもは皇族ではない。だから、部屋に入れませんでした」

 目の前で、父親がはっきりという姿に、レオンはボロボロと泣き出す。

「そんな、皇族でない、と言われたって、家族ですよ。血の繋がりがあるではないですか」

「皇族でない子を家族とした皇族は、肩身が狭くなるのですよ。実際、レオンのせいで、この子たちは今日から、立場を悪くします」

 憎々しいとばかりにレオンを睨む母親。

「お腹を痛めて産んだ子ではないですか!!」

「他にもいます。この子だけが子ではありません。皇族が必ず生まれるとは限らないので、皇族は子だくさんなのですよ」

 見れば、夫婦の後ろにいる兄弟姉妹たちは、レオンを冷たく見つている。誰も、レオンに近づきすらしない。

「元孤児なので、家族に随分と夢を見過ぎです。皇族でない者は、もう、家族ではありません」

 母親はわたくしを嘲笑う。やはり、わたくしのことを低く見ているのだな、なんて頭の片隅で思うも、そのことは黙っている。今は、レオンのことだ。

「レオン、ここに帰りたいですか?」

「帰りたい。父上、母上、勉強、頑張りますから」

「もう、お前は他人だ。父母と呼ぶな」

「兄上っ!!」

「お前なんか知らない」

 両親の次に兄を呼ぶも、それすらも拒絶される。

 レオンが、実は相当強い皇族の血筋であることを言いたい。だけど、それを言ってはいけない約束となっている。レオンすら、その真実を知らない。

 見習い魔法使いヒズムは、ただ、静かに笑っているだけだ。口出しせず、わたくしとレオンの家族のやり取りを見ているだけだ。頭の中で、点数でもつけていそうだ。こわっ。

「このような不安をあおるようなことをしてくれたのだ。ハズスの口の軽さの責任をとっていただきたいものですな」

「どのようにですか? まさか、皇帝になりたいのですか。でしたら、わたくしからハズスに言ってさしあげます。レオンの父親が皇帝になりたいといっています、と」

「そ、そんなこと、思ってもいない!!」

「わたくしが女帝となるのが気に入らないのですよね。レオンも昨日、そう言っていました。子どもは親の鏡です。家では、そう言っているのではないですか?」

「皇族でない子のいうことを信じるとは」

「あなたがたは、どう思っていますか? ぜひ、本当のことを言ってください」

 わたくしは標的を子どもたちに向ける。子どもたちはついつい、口を開きそうになるが、両親に睨まれ、頑張って口を閉ざす。

「いやしい、元こじのくせにー」

 だけど、まだ幼過ぎる幼児は、笑って言ってしまう。慌てて年長者が口をおさえるが、遅い。

 ものすごく気まずくなるレオンの両親。

「何を言っているのやら」

「いいのですよ。元孤児なのは事実です。それに、身分卑しいことも事実です。事実しかありませんよ。ただ、偶然、発現した皇族、となっただけですから。ですが、今後は、家族の会話は気を付けたほうがいいと思います。子は親の鏡です。親が不利だということも、子は平気で話します。よい経験となりましたね」

 わたくしは作り笑いを浮かべていう。ハズスが、気持ち悪い、という笑顔だが、レオンの両親には安心感があるようだ。ハズス、ほら、この作り笑いは受け入れられていますよ。

 レオンは、もう、家族に拒絶されてしまった現実に、泣き続ける。わたくしは、レオンを抱きしめる。

「では、レオンの処遇は、わたくしのほうで決めてしまって良いですか?」

「皇族の使用人にする、なんてやめてください。目ざわりだ」

「そんなこと、慈悲の心を知るわたくしが、しません」

 貴族で、そういうことをする話を面白半分で聞くことはあるけど。世の中は非情だ。皇族でない、と言われたレオンを使用人にしていじめてやろう、なんていう皇族がいてもおかしくない。

「レオン、今日もわたくしの部屋で休んでください」

「うう、帰りたいっ」

「ヒズム、運んであげてください」

「喜んで」

 ヒズムは宝物でも扱うように、レオンを抱き上げる。レオンは、帰りたい、と言いながらも抵抗はしない。もう不可能だと、気づいたのだ。

「もう、レオンは家族ではないのですね?」

 改めて、確認する。

「しつこいですね。もう、その子どもは家族ではない! 目ざわりだ。さっさと連れて行ってくれ!!」

 つい、昨日まで、わが子の訴えのために、わたくしに噛みついてきたレオンの父親は、レオンのことを見向きもしなかった。

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