貴族に生まれた皇族
一週間って、長い。食事会は続く。といっても、毎日ではない。食事会には色々と準備が必要なので、いつ頃、と決まっている。それ以外は、自由時間みたいなものだ。
わたくしは、部屋に閉じこもっていても息苦しいので、城の散策をすることにした。
「ハガルにぜひ、お礼を言いたいのですが、大丈夫でしょうか」
「筆頭魔法使いの執務室にいますね」
「わかるの!?」
「一応、魔法使いですから」
ハイムントに聞けば、賢者ハガルの居場所までわかるという。魔法使いって、すごいわ。ついでに、恐ろしい。気を付けよう。部屋の中でだらけていたら、きっと、ハガルにばれるわ。
わたくし一人ではどこにどう行けばわからないので、ハイムントの案内で行くこととなった。
「ハイムントは、貧民街で暮らしているのに、随分と城に詳しいですね」
「僕は特別です。僕の妖精の目は、特殊ですからね。魔法使いたちの良い研究材料です」
「それって、まさか、ハイムントのお父様は、ハイムントを実験台にしたということですか!?」
「………」
失言だと気づき、ハイムントは黙り込む。わたくしがそのまま、話を聞き流すと思ったのだろう。しかし、わたくしはそうならない。
たぶん、わたくしの常識とハイムントの常識はずれている。だから、こういうことが起こるべくして起こったのだ。
「酷いお父様です。実の息子を実験台にするなんて」
「母上と同じことを言いますね」
「当然です! よく考えたら、五歳の子どもの片目を抉るなんて、非常識ですよ」
話された当時は、誘拐事件で頭がいっぱいいっぱいになっていたから、そのまま聞き流してしまったが、今、考えると、とんでもない話だ。
「僕も父上も、考え方がずれています。別に、気にしません。ですが、母上とラスティ様はずれていないので、怒るのですね。怒ってくれて、ありがとうございます。嬉しいです」
「誰も怒らないのですか? その、ライオネルはどうなのですか」
「あの方は、口出ししません。皇帝とは、そういうものです。僕の片目が将来の帝国のためなら、それまでです」
「………だったら、わたくしは女帝にはならない。もう、女帝になれ、なんて言わないで」
「はい」
嬉しそうに笑うハイムント。どこに喜ぶ要素があるのか。本当にわからない。
そうして、案内をされている先で、またも、皇族の儀式が終わっていない皇族たちが立ちふさがる。本当に、いい加減にしてほしい。
「どちらに行くのですか?」
メフィルがハイムントにきく。わたくしは無視か。いいけど。
ところが、ハイムントは答えない。蔑むようにメフィルを見ている。これには、メフィルがたじろいだ。最初は、確か、ハイムントもメフィルには好意的だったように見えた。
「ハイムント、答えなさい」
「………」
「賢者ハガルの所に案内してもらっています」
わたくしが代わりに答えると、途端、メフィルがぎこちない笑顔を向けてくる。
「それならば、わたくしがご案内しましょう。ハイムントは忙しいでしょう」
「ハガル様に呼ばれています。絶対に来い、と妖精使って命令されています」
やっと口を開いたと思ったら、ハイムントは目に見えない妖精を使って、約束を取り付けていた。すごいな、妖精。
「でしたら、わたくしたちもご一緒していいですか? ぜひ、ハガルとお話したい」
「あなたがたは、城にいるのですから、いつでも話せるでしょう。どうして、今、ぜひ、話すのですか。いくらだって話す機会は過去にありました。今更、ハガル様の貴重な時間を煩わせることをしないでいただきたい」
「たかが皇族の犬に、どうして、気を使わないといけないんだ!?」
「………」
冷たく見返すハイムント。ハイムントの逆鱗にいくつか触れているのだろう。わたくしはそれが何か、わからない。最初は好意的に接していたメフィルにさえ、ハイムントは冷たい。
「ハガルをそんなふうに呼ぶのはよくないわ。相手は、年長者よ。そこは、敬わないといけないわ」
「確かに、そうだな」
未熟な皇族たちのさらに向こうから、かなり高齢な皇族がやってきた。
「お祖父様!!」
メフィルが嬉しそうに駆け寄る。メフィルにとって、強力な味方なのだろう。
ところが、メフィルの祖父である皇族は、メフィルの手を払って、わたくしの前に立つ。
「ハガルには随分と会ってもらえない。どうだろう、ご一緒して良いかな?」
とても人の良い笑顔でわたくしに聞いてくる。迷う。ハイムントを見てみれば、ただ、笑っているだけだ。この人は、大丈夫そうだ。
「わたくし、実は約束を取り次いでいません。もしかしたら、門前払いされてしまうかもしれませんよ」
「大丈夫です。妖精を使って、約束は取り次いでいます」
「だそうだ」
「………」
妖精、すごいわ。もう、隙がない。
メフィルの祖父は、わたくしの横に立つ。メフィルはまた、祖父の手をとる。
「お祖父様!!」
「お前たちは、皇族教育をしっかり受けたのか? 今、自分たちがどういう立場か、わかっているなら、ラスティの前に立つことはない」
「でも、その女は、元は貴族です。ただ、皇族の血筋が強く出たからって」
「お前たちは、親からどう話を聞いている? 私はしっかりと言い聞かせたつもりだったが、平和呆けしたのだろうな。一度、魔法使いから痛い目を見るがいい。その時は、生き地獄だろうがな。
さあ、行こう」
メフィルの祖父は、孫の手を冷たく払い、わたくしの手をとる。
皇族の儀式を受けた上、立場な上のこの男の前を立ちふさがる者はいない。わたくしは手を引かれて先に進んだ。
振り返れば、皇族の儀式を受けられない皇族たちは、わたくしを憎しみをこめて見てくる。メフィルなんか、顔を醜くゆがめる。従妹だと思っていたサラスティーナのことを思い出した。
妖精の約束だったけど、ハガルは好意的に迎え入れてくれた。
「おや、スイーズ様もご一緒でしたか。何か御用ですか?」
「そんな顔をするな。ライオネルとは普通に会うというのに、私のことは避けるな。私はしっかりと皇族の仕事をしているじゃないか」
「お陰様で、ライオネル様のお仕事も減りました。ありがとうございます」
「そう思うなら、たまには会ってくれ。会うだけでいい」
もの言いたげな目で見るメフィルの祖父スイーズ。なんだか、空気がおかしく感じるのは、わたくしの気のせいかしら。
ハガルは手慣れた動作で茶と菓子をだす。
「ハガルの淹れてくれたお茶は、美味しいですよね。わたくし、試行錯誤したのですが、こんな風には淹れられません」
「城に入れば、毎日でも淹れてさしあげますよ」
「………」
すごいな、圧が。ハイムントは何事かあると、城に入れたがるけど、ハガルもなんだ。
「そういえば、自己紹介をしていないね。私は、スイーズ。孫どもが、随分と迷惑をかけたね」
「まだ、城というか、皇族のことをよくわかっていませんので、こうなっても仕方がありません」
「惜しいな」
スイーズはなんともいえない目でわたくしを見つめてくる。そこに、何か怖いものを感じて、わたくしはすぐ、目を逸らす。
「スイーズ様、相手はまだまだ、子どもですよ」
「私も若かったら、妻に迎えたな。あの皇族もどきには勿体ない!」
うわ、皇族もどきって、ハイムントだけが使っているわけではないんだ。
わたくしは、とんでもないことを言われているというのに、違う事に気を取られていた。そして、しばらくして、気づいた。
「え? 妻??」
「ラスティは随分と出来た人だ。時が時ならば、引く手あまただろうな。ハガルに気に入られているから、尚更だ」
「またまた、大袈裟ですよ。見てください。わたくし、胸も………ぺったんこで」
言っていて、落ち込む。生活状態が良くなったけど、この胸はきっと、永遠にぺったんこだな。その予感がする。
「最初の頃に比べれば、随分と美しくなった。ハイムントは随分と愛情をかけているな。見ていてわかる」
「え、そんな、照れます!」
美しい、なんて、言われたことがない。両親でさえ、可愛いだ。
「もう、妻とは別れて、ラスティと再婚しよう」
「いけません」
どさくさに紛れて、とんでもない求婚をされるも、ハイムントが間に入って止めてくれた。良かった、止めてくれて。どうすればいいか、皇族教育でもわからない。
「私の妻は、子どもの教育に失敗した。その結果が、あの孫だ。使えん皇族の女は退場させる。血税の無駄だ」
スイーズもまた、立派な皇族だ。皇帝ライオネルと同じ考え方をしている。話を聞くと、恐ろしくなる。わたくしには、こういう考え方は出来ない。
わたくしが怯えているのが見てわかるのだろう。スイーズは優しい顔を見せる。
「そなたは、そのままでいい。恐ろしいことは、私が全て、秘密裡にしてやろう」
「いけません」
「ハイムントには関係がないだろう。皇族の結婚は血筋だ。ラスティへの求婚は、これから激しくなるぞ。次の食事会では、ライオネルが話すだろう。ラスティは皇族の中で、最重要人物だ」
「だからです。皆、公平な立場に立ってからですよ。選ぶのは、ラスティ様です。その他の皇族は、選ばれる側です」
「………あの、どうして、そうなるのですか? わたくし、何も聞いていません」
「ここで話すと、きっと、逃げられてしまうだろうから、話せない。ハガル、話してはいけないだろう?」
「ライオネル様がお話します。ラスティ様、イヤならイヤと断っていいですからね。ラスティ様が一番よい相手を選べばいいですから。ラスティ様に不埒なことをする輩が出たら、私なり、ライオネル様なり、ハイムントなり、そこにいるスイーズに言えばいいです。しっかりと秘密裡に始末しますから」
「言いません!!」
とんでもないな、ここは。笑顔で、真っ黒なこと言ってくる。わたくしに対しては好意的なのに、わたくしを除くその他には恐ろしい。
スイーズは、きっと、孫のメフィルにも冷たそうだ。それは、可哀想に感じる。
「スイーズ、メフィルにはもっと優しくしてあげてください。せっかく、家族なのですから」
「皇族には、そういうものはない。そういう情を持つ者ほど、皇族として出来が悪くなる」
「………わたくしは、亡くした両親のことは今でも大好きです。だから、皇族としては、出来が悪いのでしょうね」
「そなたの価値は、そういう所ではない。苦労をしたのだろう。だから、他人のことを思い遣れる。あれらはな、他人を思い遣れる気持ちすらない。皇族には家族はないが、帝国のことを考えなければならない。あれらは、自分たちが第一で、帝国のことはこれっぽっちも考えていない。だから、皇族もどきと影で呼ばれるのだよ」
「でも、わたくしはたまたま、ハガル様の目に入っただけです。彼らは、皇族の儀式を受けることが出来ないだけで、皇族ともそうではないとも、はっきりとしていません。それを蔑むような呼び方をするのは、卑怯です」
「そこは、神と妖精の導きだ。そなたは、神と妖精の導きにより、皇族となった。この世は、全て、神と妖精の導きによって良くも悪くもなる。それも、その人自身の努力と運だ。彼らは、努力をしたのかな? 皇族という血筋に胡坐をかいて、皇族と認められたそなたを元貴族だからと蔑んでいるだけだ。
こう、偉そうなことを言っているが、私はハガルによって、目を醒まされたから、今がある。あれほど、ハガルには逆らうな、と言い聞かせてやったのに、私の愚かな妻は、子どもたちを甘やかしたんだろうな。すまない、ハガル」
「………皇族が、おいそれと頭を下げてはいけませんよ」
ハガルは、スイーズを軽く注意する。スイーズはそのことに苦笑する。
「ラスティ様は、今日は、どういった御用ですか?」
「あの、いつも、お菓子をいただいているので、お礼を言いに来ました。ありがとうございます」
「毎日、あの菓子だと、飽きるでしょう。他にも色々と、作れますよ」
「あのお菓子がいいのです。正直に言います。最初は、あのお菓子がたくさんあれば、しばらくは飢えないな、と思っていました。ごめんなさい」
「いいのですよ。ラスティ様は、他の食事は残しましたが、あの菓子だけは完食した、とライオネル様から聞きましたので、その後の食事は、ラスティ様にあわせました」
「え? もしかして、今日の食事も、ハガルが作ったものなのですか!?」
「羨ましい」
スイーズが本当に羨ましそうにわたくしを見てくる。
確かに、味付けが同じような感じだ。ハガル、色々と作れるのね。すごい。
「ラスティ、私を選んでくれたら、幸せにしよう」
「ハガル様の食事が目当てですね」
「そなたは、人誑しの才能がある。早めに、決めた方がいい」
「もう、誉めないでください。誉められるのには、まだ、馴れていません」
「おやおや、ハイムントは誉めないか?」
「いえ、もう、いつも誉めてくるので、大変です。一貴族の頃は、貶されるばかりでしたから、余計ですよ」
「………なるほど。もう、そういう悪い過去は忘れなさい」
大人は、ともかく、包容力がある。ただ、話しているだけだというのに、絆されそうである。間にあの綺麗な顔のハイムントがいるから、どうにか、落ち着いていられる。まずい、免疫がないわ。
「いえ、忘れません。それがあってのわたくしです。覚えていて、同じようなことをしないようにします。それが、大事です」
あの偽物の叔父家族との経験が、今のわたくしだ。ちょっと意地悪されたって、気にしない。
わたくしは、ちらっとハイムントを見る。なんだかんだ言って、ハイムントはこの城にきてからずっと、わたくしを守ってくれている。護衛として連れて来たサラムとガラムはずっと部屋にいるだけだ。城の中はわたくしもサラムもガラムも不案内だから、どうしてもハイムントが護衛の代わりとなってしまう。
「私の皇族姫が困っています。まずは、ライオネル様の話が終わってから、口説いてください」
そうして、ハイムントはここでも、わたくしを助けてくれる。
「わかったわかった。では、私は帰ろう。久しぶりにハガルと会えて良かった。あまり断るようなら、ラスティを使うぞ」
「仕方のない方だ。この距離を保ってくださいね」
「わかった」
わたくしのために、ハガルはスイーズと定期的に会う約束なんてしまう。
スイーズが出ていくと、これでもか、という深いため息をつくハガル。
「ご、ごめんなさい。ハガルに迷惑をかけてしまいましたね」
「いつかは、こうなる運命だったのですよ。どうせ、私よりも先に死ぬ男です。適当に相手をします」
言い方が、なんだか、すごい。見た目はスイーズよりも先にハガルが死にそうなんだけど、そうではないのだろう。
ハイムントが言っていた。ハガルは見た目通りの年齢ではないと。わたくしは、歴代の皇帝のことすら知らない。皇族教育には、そんなこと出てこない。貴族の学校だったら出てくるかもしれないけど。
「あの、ハイムントはハガルとお約束があるそうですね。わたくし、邪魔ですよね」
「嘘ですよ」
「………え?」
「皇族もどきどもが煩いので、ああ言っただけです。本当に、気持ち悪い女だ」
心底、蔑むようにいうハイムント。この男がこんな顔をするのは、初めて見た。
「メフィルはただ、ハイムントのことが好きなだけですよ」
「そのようですね。ですが、僕は今回のことで、嫌いになりました」
「どうしてですか?」
「僕は、立場をわきまえていない人は嫌いです。あの皇族もどきどもは、私の皇族姫に随分な口をききました」
「皇族もどきなんて呼ばないでください! ただ、皇族の儀式をしていないだけです。ハガル、どうか、彼らに機会を与えてあげてください。わたくしだけ、その恩恵を受けるのは、不公平です。彼らには、皇族の儀式を受ける権利はあります」
「スイーズが言った通り、神と妖精の導きです。彼らは、もっと、機会はありました。それを逃したのです。どうして逃したのか、彼らはわかっていない」
わたくしの願いに、ハガルは拒否する。願いだから、命令ではないのだろう。だから、ハガルの様子は普通だ。むしろ、彼らに対して冷たい。
わたくしには、こんなに優しいのに、皇族から生まれた彼らには、ハガルも、ハイムントも、スイーズも、冷たい。
「ラスティ様はお優しい。だから、気をつけなさい。帝国は弱肉強食です。油断すると、食べられてしまいます。皇族同士の争いには、私の妖精は動きません。相手は集団ですよ」
「気を付けます」
そういうしかない。わたくしはもしかしたら、普通に歩いているのは危ないのかも。ハガルに言われて、初めて、そのことに気づいた。
そして、二回目の食事会は、わたくしの運命をとんでもない方向へと動かしてくれた。
今回も、食事会の案内をどこかで止められていたようだ。お迎えに来た皇帝ライオネルと、メフィルの祖父スイーズがそれを知って、激怒した。
「あの皇族もどきども、処刑するか」
「妻も消そう。役立たずだ」
「………」
怖い怖い怖い怖い!! もう、領地に帰りたい!! そして、城には入りたくない!!!
今回は皇帝と皇族の二人のエスコートである。これには、食事会会場はしーんと静かになる。席なんか、なんと、皇帝の側で、目の前がスイーズだ。これ、本当に大変なことになってきた。
「後で、皇族直属の使用人全てを呼べ。話がある」
ライオネルの指示に使用人頭は、怖い顔で頷き、会場から出て行った。もう、聞かないことにしたい。
今回も、わたくしだけはハガルの手料理だ。食器も全て、違う。
「お、今日は人並にしたんだな」
「ライオネルばかり食べないでください。私も食べます」
今回は、ライオネルだけでなく、スイーズまで手を出してきた。もう、いっぱい食べていいですよ。こんなに食べきれないですから。
そして、デザートでは、いつもの菓子が綺麗な形で添えられている。
「ハガル、すごいですね」
「それは、僕がしました。みすぼらしい、なんていう輩がいましたので」
「ハイムントって、手先も器用ね! 食べるのが勿体ないわ」
「食べさせてあげましょうか。綺麗に崩してあげます」
「いえ、自分で食べます」
危ない危ない。ハイムントがあの影皇帝の顔で言ってくる。気を付けないと、人前で恥ずかしいことをしてしまいそうだ。
そんなやり取りを、ライオネルとスイーズはニヤニヤと笑って見てきた。恥ずかしい!!
そうして、デザートが終わる頃に、ライオネルは話だした。
「ここにいるラスティのことは、随分と酷い扱いをされているようだが、もう、そういうことはしないように。ラスティは、皇族の血筋を健全に保つための、重要な貴族の中の皇族だ」
それは、こんな話だった。
昔、皇族の血筋が近くなりすぎて、おかしな皇族が生まれてばかりいたそうだ。そんな時、貴族の中に、皇族の血が濃く出た者が出現した。
そのことに、妖精憑きは神のお告げを聞いたという。
貴族の中の皇族は、おかしくなった皇族の血筋を健全にする、と。
そこで、物は試しだ、と貴族に発現した皇族と番わせた。それからは、健全な皇族ばかりが生まれた。
それからずっと、皇族からはおかしな皇族が生まれなくなった。
こうして、皇族の血を健全に保つため、貴族の中に発現した皇族を大切にしたという。
この話は、皇帝と一部の皇族、国の最重要な立場の者のみが知ることだという。言い伝えるにしても貴族の中に皇族が発現することは、本当に稀なので、すぐ、忘れさられてしまう。だから、記録として残ってはいるが、一部の者しか閲覧が出来ないようになっているという。
スイーズは、そのことを知っていた。何せ、皇帝のすぐ側に座っていられる皇族なのだから、記録を閲覧できるのだろう。
空気が凍り付く。わたくしの立場って、実は、子どもを産ませるだけの道具だ。それ以外、何も必要がない。
「ラスティ、だから、私を選べばよかっただろうに」
スイーズはわたくしにだけ聞こえるようにいう。これから起こる何かをスイーズはわかっているようだった。
わたくしは、この時から、ただの元貧乏貴族ではなくなった。何せ、席順は皇帝の次だ。皇妃よりも上だ。