お迎え
妖精の子ダルンが天に召された頃、やっと、僕の夢は終わった。いや、続いているのだが、そこから先は、妖精憑きハルトがいない時代だ。もう、そこから先の経験はいらないだろう。知識としては知っている。
僕は帝国に行くために、色々と準備をしていた。まず、路銀だ。もう、大変だった。父が借金ばかりするからだ。それも、騙されてだ。それをどうにかやりくりをするのが、僕だ。跡継ぎでもない、将来は一平民になる僕は、子どもの頃から領地運営に口出ししていた。何か間違っているのだが、そこも仕方がない。僕は、そういう存在なのだ。
そうして、苦労して貯めた路銀を持って、僕は馬を使い、船を使い、帝国の港に到着すると、僕は呼び止められた。
「レン様」
そっちかー。本名のほうは、きっと、帝国で呼ばれることはないなー。
僕は声がしたほうを見れば、深くフードで顔を隠した男とどこかの武闘系だろう貴族の男が僕のほうに歩いてやってきた。
「妖精から聞きました。レン様、お待ちしておりました」
「妖精って、あなたは妖精憑き?」
「現在の筆頭魔法使いです。名乗りはなしにしたいのですが」
「じゃあ、魔法使い、妖精憑き、と呼びます」
「なるほど、これがハルト様のレン様か。羨ましい」
何か感じるのだろう。魔法使いは感嘆したようにため息をついた。
「俺は、子爵だ。その、そなたとは、先祖が同じなんだ」
「帝国に残った、妖精に寿命を盗られる一族か。寿命を盗られる理由、わかりましたか?」
「いや、さっぱりだ。ただ、ハルト様が改造した屋敷のお陰で、帝国内であれば、寿命を盗られることはなくなった」
「人の手で作られたものだ。過信してはいけない。いつか壊れ、動力も失われるだろう。それまでに、寿命を盗られる理由を見つけるべきだ。過去の記録を探ったりはしましたか?」
「それが、さっぱりだ。我が家は、こう、戦争バカだ。ためになりそうなものは、何も残っていない」
「きっと、神の導きがまだないのだろうな。そこは、あるがままに受け入れるしかあるまい。いつか一族郎党が滅びるとしても、それは仕方がないことだ、と。一族が滅びることなど、別に珍しいことではない」
「そうだな」
お互い、先祖は戦争バカだ。一族が滅び去ることも、それほど気にしていない。
そんな軽い歓談をして歩く先に、地味な馬車に乗せられる。
「あの、勢いで着いてきてしまったのですが、僕、これからどうなりますか? 密航したわけではないのですが」
そう、僕は単独行動で、そのまま城に行くつもりだった。なのに、先祖が同じ子爵と、現在の筆頭魔法使いに捕まってしまったのだ。
馬車はありがたい。が、行先がわからないので、不安だ。
「ご心配なく。このまま、ハルト様の元にご案内いたします。我々は、あなたがハルト様を迎えに来るのを待っていました」
「成功するといいですね」
「本当に」
「………」
魔法使いは穏やかにいうが、子爵は剣呑な顔を見せる。
実は、ハルトのお迎えはこれで二回目である。一回目は、ハルトが立派な筆頭魔法使いを育てあげた頃だ。すでにレンは亡くなり、孫や子孫の代となっていたが、レンの遺言を守るため、一族総出でハルトを迎えに行ったのだ。
「貴様たちは、誰だ!?」
ところが、ハルトはレンの血筋であるにも関わらず、拒絶したのだ。
「私はレンを待っている。レンが迎えに来ると約束したんだ!!」
それどころか、もう、この世にはいないレンをハルトは待ち続けていた。
ハルトは、レンと出会った頃には、すでに狂っていた。長く生き、人の生き死にを見続けたハルトは、生きる屍となっていたのだ。そんな時に誕生した皇族レンに、ハルトは夢中となった。ハルトにとっては、レンこそが全てだ。
ハルトにとっては、人の寿命は瞬きする程度のものだ。レンはあっという間に寿命を全うしてしまったが、ハルトにはそれがわからない。瞬き程度の時しか経っていないのだから、まだレンは生きている、そう思い込んでいるのだ。
そのため、一人目の筆頭魔法使いが育ったにもかかわらず、ハルトは城から離れなかった。
これには、ハルトなりの言い分もあることが、後にわかる。ハルトが育てた一人目の筆頭魔法使いは、百年に一人生まれるかどうかの才能の持ち主であった。これは、別に問題はないのだ。しかし、ハルトの中では、納得のいかない筆頭魔法使いだった。そんな所に、レンの子孫が迎えに来たのだ。
「きっと、千年に一人の才能の化け物でなければ、レンも迎えに来てくれないんだ」
そう思い込んだハルトは、寿命以上を生き、千年に一人の才能の化け物である妖精憑きを見つけ、育てたのだ。
それが、今、目の前にいる魔法使いだ。馬車に乗ってしばらくしてから、魔法使いはフードを外した。両目を隠すように目隠しされている魔法使いは、確かに目立つ。それを隠すために、フードを被っていたのだ。
「あなたも、人を狂わす美貌の持ち主というわけですね」
「そうです。見てみますか?」
「やめてぇ!! 僕は、ハルトの美貌に見慣れているだけで、レンではありません!! 普通に人狂いをおこします」
「そうですか、残念です。ぜひ、あなたに、私は仕えたかった」
「僕の妖精はハルトだけです」
「そうですね」
危ない危ない。レンは相当な、妖精憑き誑しなのだろう。僕は追体験をすることで、レンに近くなっているといっても、所詮は別物だ。人の容姿や体躯には、それなりに感じるものがある。完璧なレンではない。だけど、僕が持つ何かが、妖精憑きを惹きつけるようだ。
僕はレンの過去を思い出すが、他の妖精憑きから迫られるような過去はない。それは、ハルトと妖精の子ダルンが側にいたからだろう。もし、万が一、この二人が存在しなかったら、レンの周りは妖精憑きにがっちりと囲まれていたのだろう。
気を付けよう。僕は目の前の魔法使いだけでなく、帝国が所有する魔法使いにも、なるべく近づかないようにいしよう、と決意した。
馬車の外を覗き見れば、酷いものだった。皇帝や皇族が悪い貴族の言いなりとなってしまったため、帝国は乱れてしまったのだ。きっと、皇族教育も曲げられてしまっているのだろう。
それでも、曲げられないのが、筆頭魔法使いだ。目の前にいる筆頭魔法使いは、きちんとした教育を受けて出来上がったものだ。育てたのは狂った妖精憑きハルトではあるが、彼は優秀である。目の前の魔法使いを立派な筆頭魔法使いに教育したはずだ。
「それで、僕でもハルトを動かせなかったら、あなた方はどうするつもりですか?」
わざわざ、僕を迎えに来てまで、ハルトをどうにかしようとしているのだ。失敗した時のことも考えているのだろう。
一度目は、帝国はまだまだ健全だった。ハルトは狂ってはいたが、帝国を傾けるようなことはしなかった。
しかし、現在、ハルトは帝国を傾けるほど、皇族、貴族を狂わせている。その美貌と、甘言で、政治を狂わせたのだ。
子爵は、曰くがありそうな剣に手をかける。
「その時は、命をかけて、あの男を殺すまでだ」
「これが最後の試験でしょうね」
魔法使いも、ハルトをどうにかするために、命をかけている。
「じゃあ、そうならないように、僕はもっと、レンにならないといけないな。眠るけど、起こさないで。僕は夢を見れば見るほど、レンに近くなってくる」
「わかりました」
「頼む」
責任重大だ。僕は、乗り心地最悪な馬車で眠った。
夜、目を覚ますと、ハルトがぴったりとくっついて眠っていた。
「屋敷に戻りなさい」
ただでさえ狭いってのに、ハルトがいたから、眠れなかったんだな。僕は容赦なくハルトを起こした。
「せっかく、邪魔者もいないのです。レンと一緒に眠りたい」
「寝心地悪い、ことはないけど」
部屋にあるもの全て、ハルトによって変えられた。眠り心地悪かったベッドも、良いものとなっている。ただ、一人用だから、狭い。
「ずっと一緒に眠りたかったというのに、子爵領は遠いので、出来ませんでした。ここまで近くなれば、夜は一緒に過ごせます」
「仕事しろ、仕事」
「妖精が勝手にやってくれますよ。不審者がいれば、消し炭です。その内、不審者が消えていなくなりますよ」
さすが、力ある妖精憑きは、やることが雑だけど、恐ろしい。
ハルトは僕にべったりとくっついて離れる気がない。暑いとか寒いとかない。狭いだけで、ハルトが魔法とかで、快適にしてくれている。
「ハルト、このままだと、僕はダメな人になる。きちんと、独り立ちさせてほしい」
「そんな独り立ちしなくてもよいですよ。私に任せてください。私がこうすることは、帝国の安寧に繋がります」
「誰の入れ知恵だ!? アンツェルンだな!! あの親父、なんつうことをハルトい吹き込むんだ!!!」
「それとも、レンは、恋人でも作るのですか? 妻を娶るのですか? その時は、きちんとした距離をとりますよ」
「未来永劫、そんな予定はないな」
まずい、言いくるめられた。ハルトだけであれば、僕も負けないのだが、そこに皇帝アンツェルンがハルトに味方したのだ。さすが、皇帝に選ばれた男は、上手にハルトを操作するために、僕を犠牲にするのだ。
まだ、騎士見習いにすらなっていない僕は、生家と帝国から生活費をいただいている状態である。しかも、日常的な家事全般は、ハルトがこなしている。もう、完全なダメな人になりそうだ。生家にも、帝国にも、迂闊に逆らえない。生活費を止められでもしたら、ハルトが喜んで、僕を囲うのだ。
ハルトは嫣然と微笑み、口付けしてくる。
「だから、それはやめなさいと」
「皇帝の儀式の練習ですよ。ほら、付き合ってください。私は、口付けまでで止まってしまっています」
「やめろ!?」
ハルトは手で、僕の体を撫でる。それがどんどんと下に下がっていくので、僕は必死でハルトの腕をつかんで止めた。
「初めては、レンがいい」
「しない!! 今の皇帝はまだまだ健在だ。練習するには早すぎだ。もっと差し迫った時にしなさい」
「約束ですよ」
「………」
絶対に約束しない。迂闊に約束しようものなら、現実にさせられる。ほら、さっさと皇帝アンツェルンをこの世から退場させて、皇帝の儀式の練習、しなければならない状況をハルトは作ろうとする。本当に、容赦ないな、お前!!
言質を半分はとったようなものなので、ハルトはそれ以上、僕に迫ったりはしない。だけど、僕と同衾するのはやめないのだ。
仕方なく、僕の就寝はハルトと一緒となった。それも、僕が妖精の子を買い取った時に、なくなったが。
戦争に参加することとなったので、一度、生家に行くこととなった。
随分と長いこと、生家には近づきすらしなかった。何せ、僕はハルトという妖精憑きに可愛がられていた。父と兄、ついでに弟は気にしないが、母はともかく気にしていたようだ。
生まれる前から子育てをハルトによって支配されていた母は、かなり大変だったようだ。食べるもの、飲む物、ついでに運動と、ハルトは随分と口を出し、手を出し、物を出し、としたそうだ。僕が生まれてからも、一日おきにやってきては、母の手から僕を奪い、可愛がった。
子育てを半分、やってくれているのだから、と大らかに納得出来ればよかった。しかし、母はやっと生まれたスペアである僕を奪われ、色々と悩んだのだ。
そうして、弟が懐妊した時、母は、またハルトが、と警戒した。ところが、ハルトは弟には全く、これっぽっちも興味を示さなかった。それどころか、弟が誕生したことで、ハルトは僕を母から奪ったのだ。
これっぽっちも子育てらしい子育てを僕に出来なった母は、僕に対して、愛情なんてこれっぽっちも持てなかった。その変わり、兄と弟には、これでもか、と愛情を向けたのだ。
だから、僕が家を出ることになった時、母は見るからに喜んだ。これで、ハルトが子爵邸に来ることはなくなるのだ。そりゃ嬉しいだろう。
だからというわけではないが、僕が生家に来て、母は見るからに警戒していた。僕の周りにハルトがいないかどうか、物凄く見ていた。
「ハルトは今、戦争準備で忙しいから、来ませんよ」
「そ、そうよね」
生家だって、戦争準備で忙しいのだ。そういうことを母も思い出したようだ。ハルト、暇そうに見えるけど、実は物凄く仕事を抱えている。ただ、化け物じみた才能のため、処理能力も化け物なんだ。
それも、戦争準備には時間をかけることとなる。僕の生家訪問は、一応、ハルトにも報告している。ハルト、悔しそうにアンツェルンを睨んでいた。ついて行けないほど、色々とやらされているんだ。
久しぶりの生家は、ハルトが改造して以来、大きな変化はない。
「レン兄上!!」
いや、あるな。弟がすっかり一人前になっていた。
「レン兄上は、戦争に行くんですよね。いいな、俺も行きたかった」
「そこはあれだ、万が一のことがあるといけないからな。お前は留守番だ」
「レン兄上だって、万が一の時にいないといけないでしょう。俺よりも強くて、頭もよくて、騎士団でもかなり上のほうだっていうし」
「僕はほら、人殺せないし」
「あんなに腕っぷしがあるのに、勿体ない」
弟は、僕の裏の事情を知らない。だから、普通に僕を兄と慕い、妙に僕を持ち上げてくる。
「しばらく、泊まっていきますよね?」
「明日には帰る」
「えー、いつも俺から王都に行くしかないのにー」
「僕は遊びで王都にいるわけじゃないの。家門を背負って、騎士団で立派に仕事してるの。ほら、お土産だ。いい酒だぞ」
「兄上!! レン兄上が酒持ってきましたよ!!!」
元気に走っていく弟。一人前になったといったって、まだまだ子どもみたいなものだ。
そんな弟を見送りつつ、気まずい顔を見せる母と向き合う。
「母上も一緒に飲みましょう」
「あの魔法使いが作ったお酒ですね」
「食べ物に罪はありません」
僕は母に無理矢理、酒瓶を持たせた。
ハルトの手がかかっている事実が、どうしても、母には受け入れがたい。それは、僕自身もだ。母は、僕も受け入れがたいのだ。
すぐに、兄レゼクがやってきた。母の様子に色々と読みとって、母の手から酒瓶を取り上げる。
「この瓶には、あの魔法がかかっているのか。状態保存の魔法」
「そうです。最高級ですよ」
「いい肉をつまみにしよう。母さん、ほら、準備して。レンがいいお土産を持ってきましたよ!!」
「え、ええ、そうね」
兄レゼクに言われて、やっと母は動き出し、邸宅に入っていく。
「お前も、買い物に行ってこい」
「えー、レン兄上と話したい!!」
「夜にしろ、夜に。レンも長旅で疲れただろう。ほら、休もう」
「そうだな」
弟を上手にお遣いに出して、僕はレゼクと一緒に、父の書斎に行った。
父はすでに待ち構えていた。机には、数枚の書類が並べられていた。
「すみません、忙しい時に」
「ここまで、する必要はないと思うんだが」
「僕の廃嫡は、戦争前に済ませておきましょう」
僕が生家に来たのは、廃嫡の手続きのためである。
別に王都でもいいのだ。ただ、ハルトが勘ぐるかもしれないので、わざわざ、生家で手続きすることにしたのだ。
今回の戦争に参加するのは、僕と兄レゼクだ。僕は騎士団なので、ほぼ、強制参加である。レゼクは戦争バカの一族代表としての参加である。敵国は神や妖精、聖域を捨てた国だ。妖精憑きを魔法使いとして従えている帝国に、敵国はよほどのことがない限り、勝てない。だいたい、敵国はいつも敗戦国である。
しかし、戦争は何が起こるかわからない。帝国だって、死人が出るのだ。
万が一、兄レゼクが戦死した場合、次の跡継ぎは僕になる。しかし、僕は表向きは一貴族だが、裏では皇族であり、影の皇帝としても暗躍している。この立場から、子爵家の跡継ぎになるわけにはいかない。僕は子だって持つつもりはない。万が一、僕の子も皇族だった場合、もう、ハルトを抑えきれないのだ。僕と僕の子を囲うだろう。狂気の沙汰だ。
だから、僕は生家から廃嫡されることで、兄レゼクの跡継ぎを弟にするのだ。
この事を知るのは、僕と父、兄だけだ。母ですら、教えていない。弟なんかは、蚊帳の外だ。
廃嫡の手続きは簡単だ。皇帝にも報告されるが、何かのついでに書類がぽんと上がる程度だ。皇帝が知る頃は、戦争が終わっているだろう。
僕はさっさと書類にサインをする。当主は父なので、父は震える手でサインをした。
「お前には、本当に面倒事ばかりだ。俺は考えなしだ。今もそうだ」
きっと、僕が皇族であることを隠すために、人の命を奪った事を思い出しているのだろう。その現場に呼び出されたのだから、父も兄も、夢にまで見ているのかもしれない。
「父上がそうだから、ハルトと喧嘩することがなかったんですよ。父上が考えありの方なら、ハルトと無駄な争いをしたでしょうね」
「あの方には、最初から勝てないとわかっている。だったら、戦わずして、従うべきだ」
「賢いやり方です。僕も見習おう」
「そうか!」
父親は本当にいい人だ。戦争バカだが、別に悪い人ではない。白黒はっきりしているだけだ。
いい父親だが、僕と兄レゼクが戦争に行っている間に、眠るように亡くなった。父が妖精に寿命を盗られた事実を、戦争が終わってしばらくして、思い出すこととなった。
筆頭魔法使いの案内で、僕はハルトと対面した。目隠しをしたハルトは、夢で会った姿そのままだ。筆頭魔法使いの服ではなく、よく、お忍びで着ていた服だから、僕には馴染みがあった。
一回目のお迎えでは、ハルトは動くことすらなかったというのに、二回目のお迎えでは、僕に抱きついてきた。
残念ながら、僕はレンほど体を鍛えていない。平凡なんだよ、僕は。だから、ハルトを力づくで剥がすことは出来ないのだ。そこは、夢の経験から、ハルト使いを発揮するしかない。
ハルトと手を繋いだまま、僕はハルトに命じる。
「帰ろう」
遠くで、何か言っているが、無視だ。もうこれ以上、妖精憑きとは関わり合いたくない。だから、僕はハルトに魔法具や魔道具を渡す。
行先はどうするのかな? とハルトを見ていると、ハルトは僕に口付けする。これは、あれだ、挨拶だな。
「もう、そういうのはやめなさい」
「行先を視たんだ」
「こんなことしなくても、こう、手を握るだけでわかるだろう!?」
「役得は必要だ」
嫣然と微笑むハルト。全ての人を魅了する素顔だが、僕には見慣れてしまったものだ。
そうして、誰かが邪魔をしようと手を伸ばされるも、僕とハルトは道具を使って転移した。
行きは恐ろしく時間がかかったというのに、帰りは一瞬だ。てっきり、聖域を飛んで、さらに道具を使って、という道順を想定したいたのだが、ハルトは直接、男爵領内に転移した。
「行きの苦労が!」
「これからは、私がレンの妖精だ。もう、苦労させない」
「だいたい、ハルトが僕に執着するから、妖精の子孫が使えなかったんだぞ!!」
「浮気は許さん。レンの妖精は私一人だ」
「浮気じゃない!! お前は僕の妖精だが、妖精の子孫は使用人だ!!!」
「そういう役割も全て、私一人だ」
あ、これ、ダメなやつだ。ハルトはもう、見える所から見えない所まで、全て、囲い込む気だ。
ハルトが転移したのは、男爵領でも、邸宅の前である。妖精の子孫ダルンと妖精憑きアリエッティの力作と言われる邸宅をハルトはまじまじと見る。
「ダルンにしては、まあまあの出来だな。が、空間をもう少し広げておこう」
そこに、ハルトが手を加えた。ダルンが一生涯かけたといっていい邸宅にケチつけるハルトって、どうなの!?
ハルトは満足したようだ。それ以上のことは何もしない。それよりも邸宅から、戦々恐々と妖精の子の子孫たちがハルトを見ている。怖いんだな、ハルトのこと。
「さて、レンの所に案内してくれ」
少し、正気に戻ったのだろう。ハルトはやっと、僕を別人と認識した。それでも、僕のことを優しく見つめてくる。なるほど、これがハルトの執着か。ハルトは、レンの子や子孫にも執着するのではないか、とレンは危ぶんでいた。
実際、そうなのだろう。正気に戻れば、レンの血筋である僕に執着しているようだ。だが、狂えば、やっぱりレンのみだ。
「そういえば、名を聞いてないな。教えてくれ」
「えー、今更? 帝国でも、誰も僕の名前なんて聞かなかったよ。それも、皆、レン、と呼ぶし」
「すまない」
「別に、かまわない。そういう役目を持って生まれたんだ」
そうして、僕は改めて、自己紹介した。
自己紹介したけど、やっぱり、狂ってるハルトは、僕のことをレンと呼び続けた。
こちら、続編を書くために書いたようなものです。魔法使いの皇族姫の外伝なのですが、次につながっています。ただ、流れだけ決まっていて、一行も書いていないで、こちらの外伝となりました。書いていて、楽しかったからいいです。
なので、書かないかもしれないので、完結設定です。続編はタイトルまで決まっているというのに、文章が降りてこない!!




