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皇族姫  作者: 春香秋灯
魔法使いの皇族姫
52/353

戦争喜劇

 筆頭魔法使いハルト様は、基本、人なんてどうだっていい。だけど、皇族アリエッティ様関連は、大事にしている。

 アリエッティ様は、学校がお休みの時は、騎士団の訓練に参加している。その姿を一目見ようと、ハルト様はわざわざ訓練場に行くのだ。

 もちろん、側仕えの僕も同行である。僕は、ハルト様からはよほどのことがない限り、離れることはない。指示だって、妖精使えばすむことだ。物凄く力のある妖精憑きであるハルト様は、側仕えなんて、本当はいらない。

 これは、僕の監視のためでもある。表向きは妖精憑き、としているが、実際は妖精の子である。そこら辺にいる妖精を使役して魔法を使えてしまう僕は、野放しに出来ないのだ。

 筆頭魔法使いハルト様の側仕えは、もう、胃が痛くなる。どっちが監視されているのやら。

 アリエッティ様は相変わらず、文武両道である。皇族として、今日も皇位簒奪されないように、剛腕で騎士たちをねじ伏せている。おしいな、女性で。男性ならば、もう、モテモテだったろうに。

 そうして、どんどんと騎士たちを倒していく中で、最後の砦となるのは、僕の大事な人レン様だ。

 僕は思わず、ハルト様の前に出て、レン様とアリエッティ様の訓練を見てしまう。

「どちらを応援しているのですか?」

「レン様です」

「………」

 ハルト様の質問に正直に答えると、黙り込まれてしまう。最初に僕を助けてくれたレン様は特別だ。

 僕の所有権は、レン様からアリエッティ様に移っている。だけど、レン様は特別だ。所有権が離れても、レン様は僕の大事な人だ。

 アリエッティ様は、レン様相手には、やりにくそうだ。レン様がアリエッティ様の想い人だから、ではない。レン様はあの穏やかな顔立ちと物腰に対して、物凄く強いのだ。生家は武勇を極めた子爵家。戦争に出れば、必ず手柄をたてる、とんでもない一族である。その中で、腕前は良いのだが、レン様は優しすぎることから、領地から王都へと出されたのだ。

 腕前は良いので、レン様は騎士団に入団出来たが、優しすぎるため、人を傷つけられない。結果、無傷での討伐である。

 無傷なんて情けない、と言われそうだが、そうではない。化け物じみた才能を持ってして、人であろうと、獣であろうと、無傷で捕縛してしまうのだ。

 アリエッティ様が剛腕で押しても、レン様は技術で受け流してしまう。そうして、数撃で、アリエッティ様の手から剣が消える。そして、レン様の手には二振りの剣が握られるのだ。

 あまりの神業に、感嘆の声があがる。

「あれで、人を殺せるならば、完璧なのですけどね」

 筆頭魔法使いハルト様は苦々しくいう。

「それでいいんです、レン様は」

 その優しい人だから、僕はレン様に執着する。

 アリエッティ様は、暑いからか、それとも、レン様が近いから、頬を赤くする。

「どんどんと、手ごわくなってきましたね。その調子で、どうか、皇位簒奪を防いでください。僕も、筆頭魔法使いハルト様も、あなたをお守りします」

「当然だ。私が皇帝となったら、お前は私の側での護衛だ」

「はい、盾として、使ってください」

「………」

 決して、剣とは言わないレン様。その強い決意ゆえに、レン様の実力を知らない者たちは、腰抜けというのだ。

 そうして、決着がついたので、ハルト様がアリエッティ様の元へと行く。

「剣の部分は、私がなってあげましょう」

 上手に、ハルト様は話をまとめる。

「情けない所を見せてしまったな」

 負けた姿に、アリエッティ様は恥ずかしそうな顔を見せる。次の皇帝として、筆頭魔法使いに指名までされているというのに、結果は、レン様に勝てないことが、恥ずかしいとは、志が高すぎだ。

「いえいえ、アリエッティ様はどんどんと強くなっていますよ。もうそろそろ、僕も負けてしまいますね」

 レン様は嘘をいわない。本当だろう。だけど、アリエッティ様はあまり喜んでいない。

「いや、まだまだ、レンには勝てない」

「男ですからね。意地で勝っているだけですよ」

 レン様は正直だ。そこも嘘はない。アリエッティ様はカーと顔を真っ赤にする。

「そういえば、婚姻はどうなっていますか?」

 そこに水をさすのがハルト様である。

 レン様には、親が決めた婚約者がいる。貴族なので、婚姻で家と家を繋ぐのは当然である。

「お相手の令嬢も、もうすぐ、学校を卒業するので、その後ですね」

 レン様は普通に答える。もう、そういう頃なのか。それを聞いたアリエッティ様は、表情を暗くする。

「結婚しても、このまま、騎士団所属です。生家は兄上が立派な後継ぎですからね。兄上がダメでも、弟もいます。変わらず、ここにいますよ」

 そう言って、レン様は僕の頭を撫でてくれる。レン様は僕がまだまだ執着しているのに気づいて、安心させるように言ってくれる。残念、それを言ってほしいのは、アリエッティ様だよ。僕はそこまで、レン様に執着していない。会えるのは、ものすごく嬉しいけど。

 そうして、世間話をしていると、来なくていい人がやってくる。

「相変わらず、女でないな」

 皇族キハン様だ。アリエッティ様と同じように、訓練に来たのだろう。とても珍しい。この男、アリエッティ様の婚約者であるので、その上にあぐらをかいて、体術と剣術はいい加減だった。

 今更な姿だが、アリエッティ様は笑顔を見せる。

「とうとう、キハンも皇族としての心構えが出来たのか」

「貴様を殺して、皇位簒奪するためだ!?」

 キハン様は訓練用の木剣をアリエッティ様に突きつけていう。それを聞いていた筆頭魔法使いハルト様が殺気立つ。

「皇帝陛下がお約束してくださった。貴様に勝てば、ジェシカとの婚姻を許すと」

 それはあれだ、絶対に不可能な条件を出して、あきらめさせるための皇帝アンツェルン様の策略である。

 普通の頭の持ち主ならば、絶対に不可能だとわかることだ。しかし、残念皇族キハン様は、アリエッティ様に勝てると思っている。

 訓練の休憩中の騎士たちは、残念なものを見るように、キハン様を見る。僕も、ついつい見てしまう。どこから、この自信が出てくるのやら。

「アリエッティ、俺の相手をしろ!」

「はいはい」

 アリエッティ様が仕方がない、とばかりに木剣を握る。

「アリエッティ様はお疲れでしょう」

「だったら、真剣でやろう」

 アリエッティ様の前に立つレン様。キハン様はチャンスとばかりにお飾りのように豪華な真剣を抜き放つ。

 皇族同士のやり取りは、基本、騎士は口も手も出してはいけない。皇族には筆頭魔法使いの妖精が付いているので、間違って手を出せば、消し炭である。その暗黙の決まり事をレン様は破っている。

 僕はレン様に何かあってはいけない、と妖精を操作する。消し炭になることはないが、ただでは済まないだろう。

「キハン様、万が一にも、失敗してしまいますと、皇位簒奪失敗として、体の一部を斬りおとすこととなってしまいます。そのこと、皇帝陛下から聞いていませんか?」

「し、知らない」

「そうですか。皇族教育では、皇位簒奪の失敗例を聞く機会があったはずですが、まだ、そこまで進んでいないのですね」

 穏やかな顔で、恐ろしいことをいうレン様。

 知らないはずがない。キハン様はもうそろそろ、皇族教育が終了である。キハン様は、成績もひどいという。知らない、というよりも、聞き流しているのだ。

 誰が見たって、キハン様、皇族としては最低最悪である。このような男を上と見なければならない事実に、騎士たちはどうしても軽蔑の目を向けてしまう。

 そんな中、実力はありながらも、人を傷つけることができない、ある意味、失格騎士であるレン様は、口だけで、キハン様を宥めた。

「皇族同士の殺し合いといえども、立派な皇位簒奪と認められてしまいます。皇族の血筋は、筆頭魔法使いを抑えるために貴重です。体の一部を失う程度で許されますが、子作りだけできればいい、と両手両足を斬りおとされた記録もあります」

「そ、そうなんだな」

「まずは、僕がお相手しましょう。僕であれば、皇位簒奪になりませんよ」

 笑顔で木剣を構えるレン様。

 相手はたかが騎士と見ているキハン様は、レン様を相手に、勝てる、なんて見ている。知らないのだ、レン様の実力を。

 口八丁で言いくるめられたキハン様は、結果、レン様に負けた。キハン様、気づいたときには、持っていた木剣は、レン様の手の中である。

「ま、まいった」

「よい剣戟でした。また、よろしくお願いします」

「そうか!」

 明らかに、接待である。レン様も、そういう当たり障りのない、嘘ではないことをいうんだな、とちょっと感心してしまう。

「よろしかったら、明日から、僕と訓練しますか? あ、ですが、皇族専用の指導者がいますよね」

「明日は、学校だ。そう毎日というわけにはいかないな。俺も忙しい」

「僕は毎日、ここにいます。お声かけ、待っています」

「仕方ないな」

 もう、レン様の言いなりなキハン様。気分よくなって、訓練所から去っていった。

「レン、お見事です」

「キハン様も、戦争に行く準備となったのですね。皇族は大変ですね」

 レン様、これっぽっちも企みとかはない。生家が戦争関係で大活躍なので、そういう話は詳しいのだ。

「今度の戦争では、僕も参加です」

「そうなのですか!?」

「ダルン、一緒に、帝国を守りましょう。といっても、僕は変わらず、捕虜を増やす程度ですけどね」

「本当に、レンはもったいないですね」

 ハルト様は、レン様に向かって、苦々しく呟いた。




 そうして、レン様がいった通り、停戦協定の終了が敵国から宣言され、戦争が差し迫ってきた。

 戦争には、筆頭魔法使いは絶対、参加である。何せ、皇帝は戦争に参加するのだ。

 戦争というものは、基本、男のみである。皇族といえども、女は参加しない。だって、皇族の血筋を生み出せるのは女のみである。皇族の男子がいなくなっても、皇族の女子がいれば、貴族とか、適当な種馬がいれば、皇族の血筋は繋げる。

 もちろん、いくら見た目は勇ましい男子のようなアリエッティ様といえども、性別は女子なので、戦争は不参加が鉄則なのだ。

「私も参加する」

「いけません」

 皇帝アンツェルン様に直訴するアリエッティ様に即却下するのは、筆頭魔法使いハルト様である。

「いくら、アリエッティ様がそこら辺の皇族よりも強いといえども、女子です。しかも、血筋がしっかりとされています。戦争には行かせられません」

「しかし、キハンは不参加と言っているぞ。皇族の男子が不参加とは、示しがつかない。だったら、強い私が参加するべきだ」

「女が戦争に参加することは許されません。女帝であっても、夫が代理として参加するのです。キハン様が参加するべきですが、大事な種馬です」

 キハン様の扱い、酷いな。とうとう、ハルト様、本音ぶちまけちゃったよ。心の奥底では、キハン様のこと、種馬扱いなんだ。

「いくら可愛いアリエッティの頼みといえども、それだけは許さん」

 見た目あれだけど、皇帝陛下にとっては、アリエッティ様は可愛い娘である。親としては、どうしても、戦争に連れて行きたくないのだ。

「ですが、キハンがっ」

「あの男には、種馬としての役割しか期待していない」

 皇帝陛下まで、キハン様のことを種馬扱いしてるよ!? さすが、皇帝は、考え方が冷たいな。

 本人がいないことをいいことに、アンツェルン様もハルト様も言いたい放題である。

 気の毒だな、と思ってしまうのは、僕ぐらいだ。アリエッティ様はというと、アンツェルン様とハルト様の本音を聞いて、呆れてしまっている。

「そこまで、キハンのことを下げ落とすような見方をしなくても」

「大勢の貴族どもがいる前で、とんだ恥さらしなことをしてくれたキハンだぞ。本来ならば、私の手で処刑だ。血筋が最下位であれば、もう、この世にいない男だ。血筋だけは立派だから、むち打ちだけにしてやったんだ」

 大衆の面前で、アリエッティ様に恥をかかせようとしたのだ。

 その後、男爵令嬢が訴えたというアリエッティ様の悪行であるが、全て、冤罪だということが発覚した。何せ、アリエッティ様、忙しいのだ。皇族として、日々、活動している。一貴族のことなど、かまっていられない。学友といったって、高位貴族のご令嬢がご子息である。どちらも、アリエッティ様の皇族としての心構えに感銘をうけ、慕っている。ご令嬢のほうは、逞しさに、違う見方をしているが。

 ついでに、男爵令嬢は無罪とはならなかった。皇族に対して、冤罪をつきつけたのだ。本来ならば、お家取り潰しとなるのだが、学校での出来事であるため、男爵令嬢ジェシカの鞭打ちで済ませたのだ。とんでもない温情である。

「キハンの好きにさせればいいでしょう。私がいる限り、キハンが皇帝となることはありませんし」

「だったら、大人しく城にいなさい。お前が万が一、戦争で命を失いでもしたら、次の皇帝はキハンになるぞ」

「そこは、ほら、良い側近をつけてと、ハルトがいるではないですか」

「お前も、なんだかんだいって、キハンのこと、種馬扱いしているな」

「………」

 役立たずだと認めてしまっている事をアンツェルン様に指摘されて、アリエッティ様は黙り込んだ。

「戦争は、何が起こるかわからない。相手は、妖精と聖域を捨てたとはいえ、科学とやらで向かってくる。お前は、城を守りなさい」

「………わかりました」

 不承不承、アリエッティ様は頷いた。城の防衛も、大事だから。北の防衛が失敗したら、次は城を攻撃されるのだ。





 そうして、戦争である。僕は筆頭魔法使いハルト様の側仕えなので、強制参加である。

 騎士であり、僕の大事な人レン様も、参加している。僕は、レン様だけは絶対に守り通そうと、妖精を付けている。

 戦場に出れば、人は変わるというが、レン様は変わらない。傷はつけるが、どんどんと捕虜を増やしていくのだ。さすがに無傷、というのは不可能だとレン様も悟っていた。

 レン様の剣戟で上手に動けなくなる敵国兵は、戦場で転がされていく。あまりにあでやかな裁きに、ついつい、見惚れてしまう。さすが、僕の大事な人だ!!

「本当に、惜しいですよね、レンは」

 筆頭魔法使い、というか、魔法使いは後方支援である。僕はレン様に常に注視しているからわかるが、ハルト様はなぜか、レン様のことを見ていた。

「敵の首を持っていけば、もっと昇進しますよね」

「捕虜でも、昇進しますよ。私はしっかり、誰がどうしたか、報告しますからね。ですが、レンはそれを望まない。ん?」

 ハルト様は、いぶかしむように、レン様を見る。

 僕はレン様を普通に見ているが、特に問題はない。負ける要素が見当たらないのだ。

 敵側は、遠くからでも攻撃できる武器で攻撃してくるが、その全てを魔法使いたちが防いでしまっている。近距離での攻撃は、防具でどうにか防いでいるが、なかなか、危なそうだ。

 さすがに、レン様もいくつか、受けてしまっているようだ。だけど、止まらない。仕方ながいので、僕はレン様の怪我を治す。僕がいる限り、レン様が死ぬようなことはない。

 ところが、レン様の怪我は治せたのだが、何かが邪魔をしている。

「将軍が!?」

 ハルト様は筆頭魔法使いらしく、戦場を広く見ていた。そして、将軍の一人が、近くから人では避けられない科学の攻撃を受けて、馬から落ちたのを見たのだ。

 大きな攻撃であればどうにかなったが、小さく、近距離の攻撃は、魔法使いであっても、防ぐことは出来ない。

 馬上から落ちた将軍は、レン様の兄だ。これはまずい。僕は咄嗟に治癒を試みたが、こちらも何かに妨害される。

 よくわからない事が起こっている。妖精同士で、戦っているのだ。てっきり、敵国も、捨てた妖精憑きを使ったのだろう、なんて思った。

 しかし、そうではない。レン様の血族にのみ、妖精が妨害しているのだ。試しに、別の騎士や兵士の傷を治してみれば、普通だった。

 一体、何が起こっているのか? 僕はハルト様を見た。

 ハルト様は、苦渋に満ちた表情で、レン様を見ていた。

 そうして、いい感じで敵国側は撤退していくと、帝国側も撤退した。だいたい、戦争は、こういう感じである。敵国側は、どうしても、勝てない。何せ、魔法使いが後方支援をしているので、帝国側は死人が出にくいのだ。

 皇帝は無傷のまま戻ってくる。それを迎えるハルト様は、僕を伴って、アンツェルン様と密談をする。

「レンを城に戻しましょう」

「負傷したのか?」

「いえ、傷はダルンが治しました。相変わらず、捕虜を増やしていっています。十分すぎるぐらい、手柄をたてました。敵国側の戦力も読めましたし、私一人で敵国側を撤退させてしまいましょう。停戦協定には、私も参加します」

 もう、戦後処理の話となっている。

 不思議なのは、レン様のことを皇帝陛下も気にしているということだ。レン様は、まあ、いろいろな意味で目立つ方だ。何せ、人が良い。騙されている話もよく聞く。それでも、人を恨んだりしない。騙すよりも騙されるほうを選ぶ優しい方だ。

 しかし、帝国では、レン様のような方は弱者だ。あまり、好まれない。だから、手柄をたてても、レン様は昇進しないのだ。

 アリエッティ様の想い人だからだろうか? しかし、ハルト様と皇帝陛下の話は、そういうものではないような感じだ。

 そうした密談が終わり、ハルト様はレン様の元に直接向かう。

 レン様は負傷した仲間の怪我を見たりしていた。レン様だって、かすり傷とかいっぱいなのに、後回しだ。だから、僕はハルト様より先にいって、レン様の治療をする。

「レン様、無理はしないでください」

「鍛えているから、大丈夫だよ」

「小さな怪我でも、心配なんです」

「レン、話がある」

 僕の後ろから、ハルト様がレン様に声をかける。レン様はハルト様を見て、苦笑する。

「城に戻れと、命令が出ましたか」

 何か悟ったのだろう。レン様は、ハルト様が伝言を口にする前にいう。

「皇帝陛下からだ。今すぐ、城で待機だ。ここでの防衛に失敗したら、次は城だ。アリエッティ様の盾として働け」

「わかりました」

 レン様は反論しない。ただ、けが人がいるので、そこの作業の手を止めない。

 仕方がないので、僕は妖精に怪我人の治療をさせる。

「ありがとう、ダルン」

「ご命令あれば、すぐやりましたよ、レン様」

「君は、アリエッティ様のものだ。僕からできることは、お願いだ」

「では、次からは、お願いしてくださいね」

「わかった」

 お願いでも、レン様相手であれば、僕は何でもやってしまう。

「本当に、惜しいな」

 ハルト様は、城に戻る準備に歩き出すレン様を見て、溜息交じりに呟く。

「レン様は、優しすぎますから、敵は全て、生け捕りですからね」

「お前にも、筆頭魔法使いの儀式が出来ればいいのだが、妖精の子は不可能だからな」

 僕が筆頭魔法使いの側仕えのもう一つの理由は、これである。僕は、実力があるものも、筆頭魔法使いの儀式が出来ないので、筆頭魔法使いになれないのだ。

 筆頭魔法使いになるには、背中に契約紋の焼きごてをしないといけない。この契約紋のせいで、筆頭魔法使いは、皇族に逆らえないのだ。

 妖精の子には、この契約紋の焼きごてが出来ない。出来るかもしれないが、どのようなことが起こるかわからないのだ。運が悪いと、妖精の復讐を帝国が受けてしまうかもしれない。それほど、妖精の子とは、扱いが難しいという。

 ハルト様は、レン様のことについて、僕に隠していることがあるのだろう。今回の戦場で、レン様の血族は、何か起こっていた。それは、妖精憑きだからこそわかる、何かである。

 ハルト様は、皇帝が休む部屋の隣室に僕を伴って入る。

「ハルト様、レン様の一族には、何かあるのですか?」

 さすがに、気になった。皇帝陛下も、ハルト様も、レン様のことを随分と気にかけている。気にかけすぎている。

 何より、ハルト様は、アリエッティ様抜きで、レン様のことを気にかけている。城では、アリエッティ様がレン様の想い人だからだろう、と思っていたが、戦場にまで、そういうものを持ち込むような方ではない。

 ハルト様は座り心地最悪な椅子に座り、僕を見上げる。側仕えは、基本、主の前では座ったりしない。疲れている時は、許可をもらうが。

「今回の戦争で、はっきりした。が、事実をお前が知る必要はない」

「皇帝陛下は知っているのですか?」

「大事な戦力だからな。あの一族は、戦場でこそ役立つ。私の代で、どうにかしてやりたいものだが、出来ることは、延命処置だ」

「僕が妖精にレン様の治療を命じましたら、どこかの妖精が邪魔してきました。それに関係があるのですか?」

「お前、また、レンにだけ贔屓して。レンの立場を悪くするぞ」

「ばれなけれないいんですよ。それに、僕はレン様の妖精です」

「お前は、アリエッティ様のものだ」

「僕は、レン様から離れるつもりはありません。どうせ、お二方は城にいます。僕は、両方の妖精をするだけです」

「だからといって、戦場離脱は許さん。お前は、私の側仕えだ」

「………」

「ダルン」

「………はいはい」

 まだまだ、僕は筆頭魔法使いハルト様には勝てない。相手は、千年に一度生まれるという才能の化け物だ。

「本当に、レンは惜しい」

 そういうことを言うから、僕は気になってしまうというのに!?

 だけど、そう言ってしまう隠し事なのだろう。ハルト様は、レン様に執着している。

 アリエッティ様には、皇族というより、異性として執着している。

 しかし、レン様に対する執着は、何か違うような気がする。こう、説明できない。どこか、妖精である僕に似通っているのだ。


 そうして、レン様が戦場から離脱してすぐ、筆頭魔法使いハルト様の神がかりの攻撃により、敵国は大惨敗するのだった。何せ、化け物じみた妖精付きだ。見渡す限りの敵を一瞥するだけで、消し炭にしてしまえるのだ。

 先頭を走る敵からどんどんと消し炭となる光景は、敵側からは、恐ろしいものだ。

 味方はというと、遠すぎて、何か燃えているね、としか見えない。僕には、はっきりと見えているので、あれだ、しばらく肉は食べられないな、なんて思ってしまう。

 そんな恐ろしい所業を目隠しをとって、素顔をさらしたハルト様がしているのだ。近くで見てしまった者たちは、ハルト様の美貌に狂う一歩手前である。

 それも、ハルト様がわざと敵側を近くまで進軍させて、騎士や兵士たちが見える位置で一人ずつ消し炭にしていく光景で、目を覚ますというものだ。

「陛下、次の停戦協定は、私の寿命でお願いします。大丈夫ですよ、私、あと百年は軽く生きますから」

 嫣然と微笑むハルト様。まるで若い姿をしているが、これでも、百五十年は生きているという化け物だ。

「まだ、生きるのか」

「せっかくなので、記録更新を目指しています。これまで皇帝は四人が最高でしたが、私はぜひ、六人の皇帝にお仕えしたいですね」

 皇帝選びも、筆頭魔法使いにとっては、暇つぶしである。ついでに、目標でも立てて、世の中を楽しもう、なんてしている。

「アリエッティは渡さん」

「わかっていますよ。そこのところは、諦めています」

 きちんと、ハルト様も、そこのところは聞き分けているんだ。感心して見てみれば、ハルト様、悔しそうな顔をしている。聞き分けてはいるが、あれだ、子どもみたいに、我慢しているだけか。

 僕もハルト様のことをバカには出来ない。僕だって、レン様のことは諦めきれない。レン様の妖精であることはやめたくない。

 だけど、言葉の上で、僕は、アリエッティ様にささげられてしまっている。金銭のやりとり以上に、この行為は強く、妖精の子である僕は縛られてしまう。別に、アリエッティ様のことは嫌いではない。大好きだ。

 だったら、アリエッティ様とレン様がくっついてくれれば最高なのにな、なんて戦場の惨劇を見ながら、考えてしまう。魔法使いにとって、人同士の戦いなど、児戯である。



 戦争は、最後、筆頭魔法使いハルト様の蹂躙で停戦となった。帝国側は境界をこれ以上動かすことは求めなかった。だいたい、帝国はこれ以上、領土を必要としないし、戦争なんてしたいわけではない。今のままで十分なのだ。

 しかし、敵国はそうではない。帝国とそう変わらない領土を持っているというのに、攻めてくるのだ。その理由が、なんとも人間らしい。

 敵国が求めているのは、領土ではない。いや、領土はついでだ。欲しいのは、奴隷だ。


 敵国は、帝国側を支配して、帝国民を奴隷に落として、好きなようにしようとしているのだ。

 同じ人間だというのに、考え方が最低だ。まあ、帝国でも貧民という存在を奴隷化したりしているので、言えた立場ではないが。それも、帝国は広すぎるので、皇帝の支配が届かず、このような違法が起きてしまうのだ。

 しかし、敵国は違う。国全体で、帝国を支配して、奴隷化しようとしているのだ。国の総意である。

 結果、神がかりな力によって、敵側の戦力は、骨すら残らなかった。恐ろしい相手は誰だ、と停戦協定の場に来てみれば、全ての人を魅了してしま美貌の持ち主である。

 わざわざ、目隠しなしでやってきた筆頭魔法使いハルト様は、敵国側全てを魅了した。そして、停戦協定では、自らの寿命を期限としたのだ。

 見た目はそれはそれは美しい男だ。寿命といったって、たかが知れている、と侮ったのだろう。

 結果、百年以上の停戦をさせられることとなったのだ。

 ちなみに、神を介した契約であったため、契約不履行の罰則は、敵国側が受ける条文となった。何せ、敵国は敗戦国だ。

「我々は、神と妖精と聖域に従って生きるだけだ。それを捨てた貴様らが、天罰を受けたところで、大したことはないだろう。楽しみにしているぞ」

 最後、ハルト様は敵国側を挑発して、席を立った。

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