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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-人形劇-
50/353

終わりと始まり

 迎えに来てくれた筆頭魔法使いリッセルは、王族ポー殿下と随分と口論を続けてくれた。わたくしはただ、それを聞いていた。本当に、アラン、あなたは、死後まで、友達同士で争わせるなんて、本当に人誑しなんだから。

 わたくしの隣りでは、傍観者となっているシャデランは、どうやら、アランとは友達というわけではなかったようだ。もっと、違う間柄なのだろう。物凄く呆れて、事の成り行きを見ている。

「お前ら、もういいか。筆頭魔法使いは、ラキス嬢を帝国に連れていくんだろう。ポーはどうするんだ? 一緒に行くのか? 止めないぞ。行って、賓客のごとく場を濁してこい」

「え、行っていいのですか!?」

「………俺が許可することじゃないんだが」

 行きたいんだ、ポー殿下。シャデランはただ言ってみただけだから、ポー殿下の反応に困っている。そうだよね、皇族間の食事会に、王族は参加出来ないよね。

 挑むように見ているリッセル。来てみろ、みたいに目で語っている。

 無理なのはわかっているポー殿下は悔しそうにリッセルを睨む。もう、いいんじゃないかな、ポー殿下は王国で。この二人を一緒にしたって、ろくなことがないのだから。

「もう、わたくしを帝国に連れて行ってください。

 ポー殿下、シャデラン、大変、お世話になりました。お手紙、書きます」

「もし、帝国でまた、酷いこととなったら、王国に逃げてきていいから!!」

「私が筆頭魔法使いでいる限り、酷いことにはならない」

「なってたじゃないか!?」

「その頃は、一貴族だ。今は筆頭魔法使いだ。今日も、魔法使いどもを叱ってやった。もう二度と、皇族に逆らえないように、躾けし直してやる」

「ラキス、頼ってくれていいから!!」

「頼らせん!!」

「もう、やめてください!! お手紙書きます!!! きちんと、本当のことを書きます。もう、隠しません」

 アランには、隠してばかりだった。私が出す手紙の内容は味気なかった。だけど、アランからは世界を彩る素敵な手紙ばかりだった。

 色々と知っているのだろう。ポー殿下も、シャデランも、リッセルも、黙り込んだ。もう、静かにさせるために、アランを思い出すことを口にするなんて。

 わたくしは目頭が痛くなるけど、涙が我慢した。一年経っても、わたくしはアランのことを思うと泣いてしまう。後悔ばかりだ。

 そうして、わたくしは、これ以上、妙な喧嘩を勃発する前に、リッセルの魔法で帝国に移動した。

 リッセルはまず、子爵として持っている邸宅のある部屋に転移した。そこには、物凄い量の蔵書と、肖像画が置かれていた。

 リッセルは、その中にある肖像画二つの位置を変える。同じ年齢、顔立ちの二枚の肖像画は、雰囲気が違う。片方は子どものようだが、もう片方は大人のようだ。

「アラン、ここに来た時、その肖像画の位置をかえていました。きっと、倒したりされないようにしたのでしょうね」

 帝国で起きたクーデターをどうにかするために、アランは子爵邸のこの部屋に転移した。その時、この肖像画を大事に扱っていた。

「この肖像画は、アランの原点だ」

「そうなのですか」

 肖像画なのに、その雰囲気は、確かにアランが持っているものに似ている。時には子どものように、時には大人のように、アランは笑っていた。

 アランが気に入っていたからか、リッセルも大事に扱っていた。

 そうして、部屋の一角にあるドアの前に立つ。それは、魔法のドアだ。よくわからないけど、ここから、帝国の城にある一室に繋がっていた。

 恐る恐る、とわたくしは開けてみた。ドアの向こうには、一年ぶりのわたくしが使っていた部屋だ。

 一年経ったけど、綺麗にされていた。

「掃除は私がしている。皇族の使用人は、信用できないからな。母と妹が生きていた頃は、祖父がやっていた」

「祖父? 皇帝ライオネルですか?」

「………」

 わたくしの知らない何かがあるのだろう。リッセルは困ったように笑って黙り込んだ。

 実は、リッセルのこともよくわからない。リッセルは、わたくしと同じ血族だというのだが、それなのに、妖精憑きという身の上を隠していた理由を教えてもらっていない。わたくしは、知らないことばかりだ。

「ほら、食事会が始まる。一週間の間に、三回、皇族全てが集まって食事をすることとなっている。ラキスの料理は、私が手をふるった。給仕も私がするから、安心しなさい」

「はい」

 何かあるとは思えないが、リッセルは随分と警戒していた。

 リッセルの案内で、食事会の部屋に行く。すでに、わたくしを除く皇族は全て、席についていた。わたくしが最後だ。

「遅くなりまして、申し訳ございません」

 わたくしは学校で習った礼をする。

 空気が随分と張りつめている。わたくしは何か間違いを犯してしまったのだろうか?

「ほら、こちらだ」

 リッセルはわたくしを席へと案内する。随分と上座だ。

 なんと、女帝エリシーズの斜め前である。以前は、出入口の近くに、席があるかないか、なんて扱いだった。

 向かいには、皇族ライアンだ。ライアンは驚いたようにわたくしを見る。

「これはまた、化けたな。確かに、美しくなった」

「もう、冗談はやめてください。王国では、皇族だからと、随分と持ち上げあれました。さすがに、身の程を知っています」

「いやいやいや、まずいぞ。エリシーズ、ラキスは別室に入れるべきだ!!」

 ライアンが随分と焦っている。何か起きたのだろうか? と周りを見回せば、席についていたはずの皇族の男性数人が、わたくしの側にやってきた。

「この後、私と茶でも飲まないか?」

「僕が先だ!!」

「血の濃さからいけば、俺だ!!」

 男性数人が、何やら、言い争いを始めた。

「小僧ども、私の大事な血族に、馴れ馴れしいな」

 そこに、リッセルがそれはそれは恐ろしい声で割り込んだ。相手は筆頭魔法使いだが、皇族を殺す手段を持つ男である。瞬間、正気に戻り、逃げるように席に戻る。

「ラキス、絶対に私から離れてはいけない。あの部屋も、厳重に魔法をかけておいた。お前の許可のない者は、誰も入れないし、万が一、入ってしまっても、悪さしたら、消し炭だ」

「そ、そこまでは、いらないと、思います」

「アランが大事にした妖精姫だ。私が守り抜く」

 リッセルはアランのことが大好きだからだろう。わたくしに対して、随分と情をかけてくれる。怖いけど。

 筆頭魔法使いが相手となると、途端、皇族たちは静かになった。一体、どうなっているのやら、わからない。

 そうして、静かに食事会が進行する。本当に、わたくしだけ、食事のメニューが違う。美味しいけど。給仕はリッセルだから、もう、わたくしに近づく隙もない。

 一通り、落ち着いた所で、エリシーズが話し出した。

「貴族の反乱から一年経ち、落ち着いてきたところで、わたくしの息子を紹介します」

 女帝エリシーズが元気な男の子を出産した話は、王国にも聞こえてきた。エリシーズ、結婚もせず、子も作らず、一生、独り身かと思われていたところに出産である。王国でもお祝いの空気が流れた。

 女帝エリシーズは悪政を敷いた皇帝アランリールの娘だ。アランリールに逆らって、反乱軍に組みしたという。エリシーズは皇帝アランリールを討ち取って、帝国を立て直すつもりだった。そこに、皇帝殺しアランがアランリールを暗殺し、エリシーズを女帝としたのだ。血筋的にも、曰くのあるエリシーズは、子どもを作らないだろう、と思われていたから、王国も帝国も驚いたのだ。しかも、かなりの高齢での妊娠出産である。

 エリシーズが合図を出せば、赤ん坊を抱いた乳母が入ってきた。とても、ふっくらとした可愛い赤ん坊だ。

「この子の名前は」

「アラン!!」

 突然、リッセルが乳母に駆け寄り、赤ん坊を取り上げ、わたくしの元にやってくる。

「ラキス、見ろ。アランだ!!」

「リッセル、エリシーズの子どもですよ」

「アランだ!! アランが、生まれ変わって戻ってきたんだ!!!」

 リッセルが嬉しそうにいう。

 わたくしはじっと赤ん坊を見る。いやいや、赤ん坊を見ても、将来の姿なんて、わからない。

「それは、本当か?」

 余計なことをいうライアン。そういうこというと、皆、信じてしまうではないですか!?

「私にはわかる。アランだ!! 私はずっと、アランを見てきたんだ、間違えるはずがない!! 今度は、ただの妖精憑きになって、生まれ変わったんだ!!!」

「待ってください!!」

 さすがに黙っていられないエリシーズ。リッセルから我が子を取り上げる。

「この子は、わたくしが産んだ子です!!」

「そうだ。だが、生まれ変わったアランだ」

「その名で呼ばないでください!! この子には、別の名前をつけました!!!」

「もう、アランでいいだろう」

 リッセルに、ライアンまで味方する。

「ライアン!?」

「私はアランにしたかった。アラン、いいではないか」

「あなたは、皇族殺しアランが大好きですから、そう名づけたいのでしょう!!」

「悪いか? アラン、いいじゃないか。帝国を救った英雄の名だぞ」

「わたくしは絶対にイヤです!!」

 エリシーズは赤ん坊の名づけに、物凄くこだわりがあるようだ。エリシーズは、どうしても、皇族殺しアランの名はつけたくなくて、もう、激しく拒絶している。

「もう、せっかくの食事会ですよ。エリシーズは子育てやお仕事で大変だというのに、困らせることを言ってはいけません」

 わたくしはとりあえず、赤ん坊を奪おうとするリッセルを止める。リッセル、さすがにわたくしには逆らえない。

「ラキス、アランが帰ってきたんだ。嬉しくないのか?」

「それ以前に、赤ん坊ではないですか。わたくしのアランは、立派な男性です」

「わかった、立派なアランに育てよう。エリシーズ、私が教育する。渡しなさい」

「渡しません!! この子は、わたくしが育てます!!!」

「もうそろそろ、本格的に仕事をふってやろう。忙しくなれば、子育てなど出来なくなるだろう」

「卑怯ですよ!?」

 容赦ないリッセル。赤ん坊を手に入れるために、政治にまで圧力をかけるという。

 わたくしを間に置いて、エリシーズとリッセルが口争いを続ける。

「もう、エリシーズが可哀想です。そういうことをすると、アランに嫌われますよ。アランは、男性に蹴られたわたくしのために、酷く怒りました」

 最後、四肢を斬り落としたけど。アラン、容赦がありませんでしたね。

「アランは別に、女に優しい男なわけではない!!」

「わたくしは、そういう男性がいいです」

「っ!?」

 アランのこととなると、リッセル、本当にポンコツになる。

 不思議なことに、アランがわたくしを嫌うことはない認識だ。その逆はある、とリッセルは思い込んでいる。だから、わたくしの言葉に翻弄されてしまう。

「わかった。アランがラキスに嫌われるようなことを私がするわけにはいかない。しかし、その子の名はアランなのは、譲らない」

「そう、アランだ」

 リッセルとライアンは、赤ん坊の名をアランに命名しようと迫る。

「もう、いい加減にしなさい!! わたくしのアランはただ一人です。わたくしを守って死んだ男が、わたくしのアランです」

「そうだが、その男は、その赤ん坊に生まれ変わったんだ」

「同じような人になるとは限らないでしょう!! アランは、妖精男爵の元で育ったのですよ!!! ここは、帝国です。同じアランになりません」

 魂ではない。過去を含めて、アランなのだ。赤ん坊に生まれ変わったといっても、それは、別物だ。

「わかった、妖精男爵で育てよう」

「却下です!!」

 リッセル、とんでもないことをいう。勿論、エリシーズが許すわけがない。

「この赤ん坊にアランと名づけるのはやめてください」

 でも、わたくしは、赤ん坊の名づけはエリシーズに賛成だ。

「アランがやった過去を忘れてしまいます」

 赤ん坊の名前をアランにしてしまったら、アランの思い出が消え去ってしまう。

 今も、ポー殿下はアランを思い出している。シャデランもそうだ。リッセルだって、アランを引きずっている。

「ここで、赤ん坊の名前をアランにしてしまったら、上書きされてしまいます。だから、この赤ん坊はアランと名づけてはいけません。アランは、一人です」


 ライアンにとっては、アランとは、皇族殺しのアランだ。

 わたくしとリッセルにとっては、アランは、妖精男爵のアランだ。


「エリシーズ、この子の名前、教えてください」

 そうして、やっと、赤ん坊の名前が発表された。






妖精男爵は愛する皇族姫のために、命をかけて悪い妖精を神の身許に運びました

こうして、悪い妖精に命を狙われた皇族姫は、妖精男爵によって救われました。

妖精男爵を失った皇族姫は、泣く毎日を過ごしました。

そうして帝国に戻ると、皇族たちは驚きました。

悪い妖精の呪いが解けたのか、皇族姫は妖精のように美しい姿となっていました。

あまりの美しさに、皇族だけでなく、貴族からも求婚された皇族姫でしたが、全て断りました。

皇族姫は、命をかけて救ってくれた妖精男爵に操をたてました。

一生、独り身で生きていこうとした皇族姫の元に、魔法使いが一人の赤ん坊を連れてきました。

魔法使いがいいます、妖精男爵の生まれ変わりです、と。

妖精男爵は、悪い妖精を神の身許に届けたご褒美に、赤ん坊に生まれ変わって、皇族姫の元に戻ってきました。

赤ん坊は、魔法使いの手によって、大事に、だけど、厳しく、育てられました。

そうして、立派な青年となり、皇帝となり、皇族姫に願いました。


どうか、私だけの妖精姫になってください。


皇族姫は、皇帝の申し出を受け入れました。

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