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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-人形劇-
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呪いの支配者02

 妖精憑きリリィの呪いが解決した頃、アランは貴族の学校に通う年頃に近くなってきた。

「とうとう、呪われた伯爵が解放か。でも、父上、この防御は外さないって言われました」

「どうしてだ?」

「私に妖精狩りをさせないためですよ!! こうすると、悪い妖精が入ってこれないからです!!! 別にいいのに、来るのは雑魚ばかりだから」

「もうそろそろ、学校に行く準備だな」

「………」

 学校の話題に、表情を曇らせるアラン。

 ポーは学校に行くという。てっきり、アランも普通に行くものと思っていた。この顔は、行けないのか、それとも、行きたくないのか。

「俺も学校には行ったが、家庭教師に習ったこと、そのままだ」

「知ってる。教科書、いやってほど読んだから。今更、学校なんて行く必要ないのに」

「貴族になるのなら、学校には行かないとな」

「学校は、楽しかったですか?」

「楽しい奴は楽しい。が、貴族の学校は社交の練習だ。それ以前だ」

「社交かー。私には、永遠に縁がないな」

 運命を受け入れる、というよりも、そういうふうに生きるのが当然、というように作られたアランには、必要がないことだろう。アランは結局、最後は役目のために死ぬのだ。

「学校に行く前に、私の妖精姫に求婚です。しっかりと計画をたてないといけない。そうだ、部屋を見てほしいのですが、いいですか?」

「部屋? 何故だ」

「もしかすると、妖精姫を誘拐するかもしれません。彼女が過ごすかもしれない部屋を作りました」

「………」

 たった一回会って、あとは文通の相手に、随分な入れ込みようである。

 だが、仕方がない。俺は裏の事情をアランの母エリカから聞いてしまった。

 一度は、アランから離れようとした。だが、よくよく事情を聞いてからにしよう、とアランの母エリカに面談を頼んだ。父ロベルトは王族でさえ不可能だというから、母親を頼った。

 見た目は本当に時が止まったような人だ。そして、アランの生まれと役割を全て聞いた。

 聞いてしまった今、アランから離れられなくなった。情が湧いてしまったのだ。

 見方によっては、ものすごく不幸だ。だが、アラン自身は不幸とは思っていない。ただ、あるがままに生きている。それだけだ。

 アランに案内された部屋を見れば、普通だ。調度品も普通だ。足りない物もない、普通だ。ただ、皇族のお姫様を迎えるには、格が低いが、そこは、仕方がない。貧乏男爵なんだから、ここがせいぜいだ。

「いいんじゃないか」

「良かった。少しずつ、揃えたんです。時間がかかりました。でも、妖精姫が幸せ過ごしているなら、これも無駄になるな」

「来ないかもしれないのに、準備したのか!?」

「というか、私の部屋なんだけど、何もなくて。私はほら、いつかいなくなるから、こういう物は必要ない。だから、何もなかった。だけど、妖精姫には必要だから、色々と揃えたんだ。無駄だけど、でも、無駄のほうがいい」

「勿体ないだろう。俺が買い取ってやろう」

「知っているよ。リリィが使っていた調度品を全て、新品に交換したんだって。よくやるね」

「使えばいいだろう、それを」

「私の妖精姫だ。私の物で囲ってやりたい」

 すっかり、男の顔をするアラン。そこまでの独占欲を見せる理由がわからない。

 母エリカはいう。神から与えられた感情だと。

 アランが愛する皇族ラキスの血筋は、悪い妖精に命を狙われているという。ラキスを愛するのは、ラキスの側にいることで、悪い妖精を捕獲する機会を増やせるからだろう、とエリカは言っていた。

 そう言われれば、そうなんだろう。しかし、アランはとても楽しそうだ。神に与えられた感情かもしれないが、それでも、アランはラキスを愛している。

 問題なのは、相手だ。ラキスは、アランをどう思っているかだ。文通のみで、アランのことを好きになるわけがない。見ていると、アランが一方的に熱をあげているだけだ。

 俺の時は、リリィには相手がいた。俺が一方的に熱をあげてはいたが、先が見えていた。

 しかし、アランには先が見えない。ただただ、アランは一人で踊っているだけだ。

 それも、もうすぐ終わる。十年に一度と言われる帝国のパーティに王国代表としてアランは参加するという。その場で、ラキスに婚約を申し込むというのだ。

「勝算はあるのか?」

 はっきりいって、婚約は不可能だ。俺でもわかる。情熱程度で婚約が出来るほど、身分差という壁は低くはない。

「皇族だから、いけるだろう」

「誰が?」

「私が」

「どうしてわかる!?」

 アランは皇族だと言い切るが、それには、筆頭魔法使いの試練がある。それを乗り越えて、初めて、皇族である。

 アランは生まれてからずっと王国住まいだ。それは確かだ。筆頭魔法使いは、そうそう、帝国に来れるわけではない。だから、アランが皇族だという確証は取れない。

「筆頭魔法使いに命じれば、はっきりする。楽しみだな。あのブタを転がしてやる」

 剣呑な顔をするアラン。時々、恐ろしい顔を見せるようになった。一体、誰から習っているのやら。また、支配した妖精が持つ人の寿命の記憶が増えたのだろう。

 アランの両親は、必死になって、アランを男爵領にとどめようとする。悪い妖精を入れないようにして、ついでに、悪意ある人まで排除して、アランを生かそうとするのだ。なのに、アランは勝手に外に出て、悪い妖精を支配して、情報と知識をどんどんと増やしている。

 もう、アランの知らないことはないのではないか、と思えてくるほど、知識は豊富だ。

「ねえ、シャデラン、閨事って、いくつくらいから許されるのかな? 実は、そこの記憶だけは、避けてるんだよね。もう、見ていいのかな?」

「まだ早い」

「そうなの? 父上と母上に相談してみよう」

「するな!! まだ早い!!」

 やはり、まだまだ子どもだ。



 そうして、アランは帝国で皇族と認められ、愛する妖精姫ラキスを連れ帰ってきた。よくもまあ、出来たものだ。

 帝国では、皇族は絶対に王国に出さない。王国では二度、皇族を殺しているからだ。一度目は血のマリィを毒殺、二度目は聖女エリカ様を聖域の穢れによって命が奪われた。この二度により、一時期、王国と帝国は国交断絶となったのだ。そして、いまだに、帝国は王国を下に見ている。

 そういう事から、皇族と認められたアランも、元から帝国の皇族であるラキスも、王国に来るのは不可能である。そこをアランが舌先三寸で上手に言いくるめたのだろう。あの知識量には、絶対、勝てる者はいない。

 しばらくは、俺も忙しかった。だから、男爵領にも行っていない。時間がとれそうな時に、国王に呼び出された。

「何か用か?」

 王族は心底嫌いだ。その権威で、リリィを不幸にしたのだ。だから、俺は、王族を監視する側に立っている。

 国王だって、俺とは対面したくない。だが、対面しなければならないので、呼び出したのだ。

「今度、学校に帝国の皇族ラキス嬢が通うこととなった。すまないが、ラキス嬢の所属するクラスの担当をしてもらいたい」

「………どうして、皇族が学校に通うんだ。断れ」

「妖精男爵の養子アランからの要請だ。あの子の願いは基本、叶えなければならない」

 王国では、過去、妖精憑きリリィにとんでもない呪いを振り撒かれたので、訳ありだとわかっているアランの願いは無条件で叶えることが、暗黙の了解となっている。

 俺も随分、後になって知った。実は、アランが五歳の頃に、国王は皇帝殺しのアランから、そう進言されたのだ。妖精男爵の養子アランは、特別だと。一応、きちんと教育はされていて、アランは無理難題は言わない。願ったのが、皇族ラキスの婚約なのは、無理難題だが、そこはアランもわかっていて言ったという。

 今回、皇族ラキスへの婚約の打診を握りつぶした外務大臣は、見事、責任をとらされ、解任になっただけでなく、一族郎党、破滅したという。罪状の中には、王国からの書状を握りつぶした事実が大きく出され、色々と王国側に便宜をはかったという。こういうことも、アランは狙っていたのだ。

 色々とやってくれているアランだ。皇族を学校に通わせるくらいの願いは叶えてやったほうがいい、と王国としては考えたわけである。

 そして、全ての尻ぬぐいを校長である俺に押し付けているわけだ。皇族のクラスを担当させるのも、それなりの血筋と権力者である俺であれば、まあ、不敬罪にはならないな、という配慮である。俺自身には、これっぽっちも配慮がないがな。

「わかったわかった。どうせ、アランも一緒に通うのだろう」

「いや、アランからは、そういう手続きはされていない」

「………」

 そういえば、微妙な顔をしていたな。行きたいけど、行きたくないような、迷っているような感じだ。

「遅れて申請されたら、無理矢理、ねじ込んでやる」

「いや、きちんとした子だという。遅れることはない」

 国王は、アランの父ロベルトとはそれなりの仲だ。今でも手紙のやり取りをしているという。だから、アランの現状は手紙の上では知っているのだろう。


 だが、気になったので、俺は一度、男爵領に行ってみた。


 ところが、アランは不在だった。代わりに、アランの母エリカが俺の対応をするという。

「アランの妖精姫は、どうしていますか?」

「部屋で、とりあえず、体調を整えています。帝国は、本当に酷い。あんな可愛い子を虐待するなんて。でも、仕方がありません。妖精に操られていたのですから」

「それは、初耳です」

「あら、王国側にはまだ、情報が流れていませんか。では、内緒にしてください」

 いつまでも美しい女性だ。妖精のような笑顔に、リリィを思い出してしまう。

「お願いがありまして、こちらの手続きをアランに内緒で進めてください」

 出されたのは、アランの名前で書かれた学校の手続き書類だ。もう、期限は過ぎてしまっている。

 俺が言いたいことは伝わっているのだろう。エリカは苦笑した。

「アラン、口では行かない、と言っていますが、本当は、とっても行きたがっています。親としては、アランの望みを叶えてあげたいのです。どうか、お願いします」

「頭をあげてください!! あなたは、元は王国だけでなく帝国を救った聖女エリカ様だ!! 本来は、頭を下げていい人ではない」

「今は、アランの母です。アランから聞いています。あなたから、色々と学んでいると。どうか、学校でも、アランに色々と教えてあげてください」

「いや、俺には何も教えることはない。アランは十分に物事を知っている。本当は、貴族の学校にも通う必要なんてない」

「でも、ポー殿下から誘われた後は、とっても悔しそうな顔をしているのよ。アランったら、屋敷の中では、私やロベルトに秘密は持てないってのに、わかっていないわ。私たちは、ずっと、アランのこと、見守っているの」

 大変だな、アラン。監視されてるぞ!!

 言い方は問題なさそうだが、聞いている俺からは、はっきりと監視していると裏の意味を読み取れてしまう。もう、アランの隠し事は全て、両親に知られているな。

 アランがわかっているのかどうか、そこは謎だ。これまで、アランからそういった情報の愚痴はない。知らないから愚痴らないのか、それとも知っているから隠しているのか、どちらかだ。聞いてみたいが、男爵領では絶対にやめよう。

 色々と頭の中を整理してから、俺は書類一式を受け取る。

「そうなるだろうとはわかっていました。国王にも、そうなった場合は便宜をはかるように言われている。こちらは、俺が受け取った時点で有効です。安心してください」

「いつも、頼りにしています。あ、盗み聞きはしていませんから、安心してくださいね。さすがに、あなたとアランの会話は聞いたりはしませんよ」

「………」

 本当に、気を付けよう。


 学校に便宜をはかってみれば、アランは普通に通ってきた。色々と特例つきだ。まず、入寮は免除だ。領地から離れると、妖精が連れ戻しにくる、という縛りがあると聞けば、もう免除にするしかない。

 生徒会もその関係で免除である。本来、上位の成績だと、生徒会に所属することとなっている。アランは実は、ポーよりも上の成績だ。同点ではない。だが、アランは表に出るわけにはいかず、新入生代表をポーにさせたのだ。生徒会は、アランを所属させるのは、何が起こるかわからないため、免除としたのだ。どっちにしても、名誉職だという生徒会も、アランには紙屑でしかない。

 そうして、平穏に過ごしているかと見ていれば、パーティでは妖精憑きを罠にはめて、高位妖精を捕獲するという災事を起こしてくれた。後始末が、物凄く大変なことになったが、そこはアラン、妖精憑き的な解決方法で、なかったことにしたのだ。ポーが大変だったがな。

 長期休暇では、妖精の視認化を起こさせ、目撃者が多く、妖精の行先が妖精男爵領であることから、王国が大変なこととなった。それも、アランがやったのだが、一度しか視認化していないので、そこは妖精の悪戯で、王国側は誤魔化した。

 長期休暇開けには、どこから情報が漏れたのか、皇族ラキスが呪われた一族であることが教会に流れ、身柄を要求されることとなった。しかも、帝国はクーデターが成功して、女帝が王国に逃げ込むなんてことが起こった。そこも、アランが解決してしまった。解決方法が酷かったが。

 まず、文句をいう教会二つを視認化した妖精で壊したのだ。帝国でも昔あったな、なんて王国側が呟けば、途端、教会は沈黙した。

 クーデターに成功しただろう帝国の使者が、王国に色々と要求しようと、船でやってくる途中、妖精の子アイリスの怒りに触れて、沈没した。生存者はいないが、いたとしても、アイリスの夫であり王族ザクトは秘密裡に殺しただろう。人の優しい顔をしているが、後ろ暗い事はそれなりにこなせる男である。


 ここまで、一年もしない内にアランはやらかして、そして、死んだ。


 アランの死は、普通に校長として報告された。ただ、報告だけなのだ。

 王国からも、帝国からも、何もない。あれほど、アランを重く扱っていたというのに、死んだら、これだけだ。あまりにも軽い。

 それはそうだ。アランという存在は、扱いが難しい。どうにかご機嫌をとらないと、後々、大変なことになるような存在だ。死んでくれたほうがいい。王国はそうだろう。きっと、帝国だって、アランの力を知れば、死んで良かった、と思っただろう。それほど、厄介な存在だ。

 しばらくは、アランが死んだことで、何か起こるのではないか、なんて生徒たちの間で戦々恐々としていた。アランは本当に恐れられることをした。だから、いなくなった後も、心の傷のように残ったのだ。

 皇族ラキスはしばらく王国で保護となった。来年、行われるという、一年に一度の皇族間の食事会で帰国することが決まった。それまでは、王国の貴族の学校に通うという。

 クラスが担当だ。どうしても、見ないといけない。私はラキスの見た。

 また、痩せたような感じだ。だが、側にぴったりとくっついている使用人が、ラキスをよく見ている。これ以上、痩せたりしないように、使用人が全力でラキスを見ていた。


 もう、通う理由のない男爵領だが、気になって、暇を作って行ってみた。

 あれほど強固だった守りはなくなっていた。もう、呪われた伯爵一族の問題は解決したので、必要がないこともある。アランを閉じ込める檻は、アランが死んだことで、必要なくなったのだ。

 そうして、久しぶりに男爵邸に行けば、アランの父ロベルトが出迎えてくれた。

 一度、とんでもない姿を見せてくれたロベルトだが、役目を終えたので、普通の歳を経た男だった。

「アランのことは、本当にお世話になりました」

「何もしていない。ただ、話していただけだ。とても楽しかった」

「アランも、とても楽しんでいました。あなたのお陰で、アランも学校に通えました。でも、大変なことをしでかしてしまって、ご迷惑をおかけしました」

「妖精のやることは、仕方がない。こちらも、不出来な妖精憑きの後始末をさせてしまいました」

「ポー殿下にも、辛い選択をアランはさせました」

 ポーは、妖精と契約してしまった妖精憑きアンティの始末をアランに迫られた。

 俺であれば、その場で処刑だ。妖精憑きといえども、もう、力もないという。だったら、始末したほうがいい。

 アランはどうだろうか。アランは斜め上の判断をする。アラン、実は、国王や皇帝寄りの物の考え方である。単純な処刑では終わらない。

 ポーはというと、結局、妖精憑きアンティは他の妖精憑きへの見せしめとして、処刑したのだ。アンティの悪行を並べ、アンティの妖精憑きとしての格を落としてしまい、しかも、妖精と契約するという間違いまで犯してしまった事実と結果を妖精憑きたちに突き付けた。これまで、神の使いを持って生まれた、という高い自尊心が、紙屑となったという。妖精を使う、という事すら恐怖になった。ただ、当然にしている行為すら、実は悪事なのではないか、なんて疑う者もいたという。結果、全ての妖精憑きは使い物にならなくなった。

 ポーは、この結果をアランに報告していない。報告する前に、アランは死んでしまった。だから、ポーの中で、この結果は正しいのか失敗なのか、わからいままだった。ポーは大事な友達だけでなく、相談する頼もしい仲間を同時に失った。

 この事実をアランの両親は理解しているのかどうか、そこは謎だ。

「シャデラン様は、アランからなにか受け取ったりはしていませんか?」

「いえ、何も」

 わけがわからない質問をされた。アランとは話しているだけで、物のやり取りを一切していない。

「そうですか。実はアランの物を整理しようと探したのですが、なにもないんです」

「何も? 本当に?」

「何もありません。領内までくまなく、妖精まで使って探しました。アランの物は、何一つ、見つかりませんでした」

 人外の力の持ち主がいるのだ。本当にくまなく探したのだろう。

 だけど、探していない場所が一か所あることに気が付いた。

「学校は?」

「長期休暇で、きっと、全て、持ち帰っていますよ」

「まだ、席はそのままになっています。俺が見てきましょう」

 どうせ戻るついでだ。俺は軽く請け負った。見つからなかった時は、それはそれで、大変そうだが。

 人があまりいない時間帯に学校に入った。早朝に、教師が来ることがあるが、校長である俺がいても、苦情は出まい。

 そうして、アランのクラスに入る。上級クラスは生徒数が少ない。机の数だってそんなにない。だからといって、どこがアランの席かなんてわからない。しらみつぶしだな、なんて戸を開けてみると、生徒が一人いた。

「アラン!」

 つい、大声を出した。途端、生徒が靄のように消えてしまう。夢なのか、幻なのか、本当に消えたのだ。

 消えた生徒が座っていた席を探ってみる。学校から支給された教科書と、手紙の束が出てきた。見覚えがある。あれだ、文通で受け取った手紙だ。

 月に一回あるかないかの返事だ。文通の年数からいって、この束くらいだろう。しかも、いつも決まり切った文面の返事だ。それをアランは子どものように喜んでいた。

 ちょっと見てみれば、やはり、脈なんてこれっぽちもない返事だ。アランがどのような手紙を書いたのか、わからないが、こういう文面ではないだろう。

 アランは、長期休暇前から、机の中に忘れていたのだ。そうだろう、側には愛する女がいるのだ。もう、手紙は必要ない。だから、机の中にいれたままだったのだ。

 物凄く迷った。この手紙はアランの両親に渡すべきだ。しかし、この文面は酷い。両親に見せられるものではない。


 結局、ポーに丸投げした。


 そうして、一年が経ち、ラキスが皇族として帝国に戻ることとなった。不審人物がいるというので、行ってみれば、筆頭魔法使いリッセルだ。俺は知らなかったが、アランとはかなり仲が良かったという話をポーから聞いた。

 リッセルは珍しそうに周りを眺めていた。アランのことを色々と聞きたがった。

 正直、話せることはない。学校ではこんな事をしでかした、程度である。俺との関係はリッセルに話しているという。リッセルは間男でも見つけた、みたいに俺を見ている。この男、色々とこじらせているな。

 アランへの執着度が強いのは、妖精憑きゆえだろうか。アランの母エリカも、かなり執着していたな。笑顔だけど、監視していた。

 そういう意味では、ポーもアランのことは随分と執着しているな。

 さて、もう一人の間男がいる所にリッセルを案内してやる。

 ラキスの前に、俺とポー、リッセルがご対面である。リッセルにとって、俺とポーは初対面だ。

「初めまして、筆頭魔法使いリッセル」

「アランから聞いている。皇族殺しのアランの弟子なんだってな」

「僕は、友達のほうのアランからあなたの話はこれっぽっちも聞いていませんね」

「そうなんだ。私は、ポーのことも、シャデランのことも、随分と聞いているぞ」

「シャデランはどうなのですか?」

「俺か? 俺はポーの話のみだ。リッセルのことは知らん」

「だそうだ」

 勝ち誇った顔をするリッセル。こんなことで勝ち負けというのもアホらしいな。

 だが、負けてしまっただろうポーはとても悔しそうだ。

「最強最悪の妖精憑き、なんて王国で呼ばれているが、格がいまいちだな」

「友達のアランはそういうこと関係なく、一緒に修行したり、ごはんも一緒に作ったり、一緒にお風呂も入ったり、と仲良くしていましたよ」

「アランも優しいよな。お前の格に合わせたんだってな。物凄い我儘だったというじゃないか」

「そうですね。それも友達のアランのお陰で、今の僕です。全て、友達のアランのお陰ですよ!!」

「手がかかったんだな。私はいつも、使われていたな。最高の主だよ」

「困った時には、いつも友達のアランは助けてくれたよ。最高の友達です」

「………」

「………」

 睨み合うポーとリッセル。ポー、一応、リッセルは賓客だが、わかっているのか?

「本当に、アランこそ、気を付けないといけない男ですね」

 男同士の戦いに、蚊帳の外のラキスは心底呆れていた。

 忌々しい、と言わんばかりに、俺まで睨んでくる。

「アランは、いつもわたくしの周りを気にしていましたが、わたくしは、アランの交友関係こそ、どうにかしたかったです。見てみなさい。アランの取り合いです。死んだ後も続くなんて、本当に節操のない男です」

 あれほど、脈のない手紙を出していたラキスだが、死んだ後のアランに悋気を募らせていた。

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