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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-人形劇-
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過去に魅入られし申し子02

 妖精男爵の養子アランの身の上はなかなか複雑だった。

 アランは元々、生まれても死ぬ運命の赤子だった。それを王国の最強の妖精憑きリリィの願いによって生み出されたという。ただ、生み出されたわけではない。

 妖精憑きリリィはアランを妖精憑きとして生み出したかった。しかし、母エリカは、父ロベルトのような人にしたかった。そこを上手に組み合わせて出来たのがアランである。

 アランは、もう一人の男爵として役目を持っている。そのため、男爵領にある魔法具全てを支配している。ついでに、妖精の子孫たちもアランの支配下だ。だから、妖精憑きの力は省かれたのだろう。

 しかし、領地より外に出れば、アランはただの人である。そこで、発揮するのは、父親から受け継いだ妖精の目という魔道具だ。生まれつき持っていた妖精の目と魔法使いとしての才能、さらに、妖精憑きリリィの血筋のため、王国にいるリリィに魅入られた全ての妖精をアランは支配下に置いていた。リリィは妖精憑きというよりも、妖精を魅了するただの人だ。その支配は、リリィが死んだ後も妖精に残っていた。そのため、アランは王国中にいる妖精全てを支配下に置いていた。

 アランはとても危険な存在だ。アラン自身もそういう。

「私の能力だと、帝国にいる大魔法使いアラリーラに魅了された妖精の支配をリリィのものに上書きしてしまう可能性もある。だから、あまり帝国にいないほうがいいんだ」

「博識だな」

 なんと、大魔法使いアラリーラの秘密まで知っているアラン。それも、妖精が盗った寿命の持ち主の記憶だという。だから、色々と時代が飛んだりしていた。

 賢者ハガルは、話を忘れていたのか、それとも、戦闘妖精サラムとガラムから教えられるだろう、と丸投げしていたのだろう。私とラキスの呪われた一族の秘密を私は聞いていなかった。これほど長生きしていたというのに、知らなかった事実に愕然とした。あの年寄り、妙なところでポンコツだな!!

 アランから、一族の呪われた真実を知らされた上、賢者ハガルの所業には、怒鳴りたくなった。

「お前のじいさん、すごいの。息子の残りの寿命を妖精に盗られて、怒り狂って、最高位妖精の格を下げさせたんだよ。怖いな」

「どうやって!?」

「妖精にも世代交代がある。だいたい、千年に一度くらいだ。穏便に終わるか、そのまま続くか、となる。こういう世代交代に関わるのが、千年に一度生まれるという化け物じみた妖精憑きが持つ妖精だよ。妖精憑きが死ぬと、妖精は消えたように見えて、実は人からの支配から解放されるんだ。賢者ハガルな、生きている内に命じたんだよ。最高位の妖精を下せ、と。当時は最高位だった妖精は頂点だ。当時の世界の妖精たちのほとんどを支配下に置いていたんだ。その支配を奪ったんだよ。それでも、最高位の妖精の支配系統樹はある程度、残ったんだけどな。それで、迂闊に息子の血筋に最高位の妖精は手を出せなくなったんだ」

 とんでもない話だ。こういう話は、きちんと話せ、クソジジイ!!

「この話にはまだ、続きがある。ここからが、お前のじいさんの恐ろしい所だ。才能の化け物は、随分と神にも愛されていた。死後、なんと、神の身許に立ち、最高位から落とした妖精どもの所業を神に告げ口したんだ。そうして、生まれたのが私だ。恐ろしいな、本当に」

「………」

 賢者ハガルは、本当に最低最悪な魔法使いと呼ばれていた。酒は飲み、賭け事をして、女を買って、と酷い所業である。気に食わなければ、人を壊す。最果ての貧民街なんか、半分を消し炭にされたことがある。だから、賢者ハガルのことは歩く天災、なんて呼ぶ者もいた。今でこそ、忘れ去られてしまったが、歴史の本をめくれば、賢者ハガルの悪行はそこはかと書かれている。

 裏では、好き勝手やっていた。人を狂わせ、皇族間で殺し合いなんてものを起こしていた。表向きは、皇族の犬みたいな顔をして、皇族を殺せる手段をいくつか隠し持っていた。それほど恐ろしい男なのだ。

 なのに、愛する息子の復讐のため、賢者ハガルは死後も動いていた。

 アランは、随分と、私の父の若いころの肖像画を気に入っていた。曰くある二枚だ。対照的な表情をしていて、亡くなった妹は、気持ち悪い、と言っていた。

 だけど、アランにとっては、この二つの肖像画は思い出深いという。

「私の原点だ」




 肖像画の整理をアランに命じられた。もう、あいつ、皇族だな。自らの血筋をよく理解しているので、簡単だ。

 もちろん、アランお気に入りの二枚の肖像画はそのままである。あとは、保管となった。そうして、部屋の半分が空いた空間となったそこに、とんでもない本が運び込まれたのだ。

「た、棚が」

「ラキスの部屋を作るので手一杯なんだ。棚はそちらで融通してほしい」

 皇族だけど、貧乏男爵の養子だもんね!!

 しかし、あまりの冊数に、部屋の半分が本棚となった。

 棚さえあれば、あとは妖精さんがどうにかしてくれる。そこは、アランと二人がかりである。労力って、じつはかかっていない。金だけだな。子爵領は潤沢で、帝国にもラキスのためにと融資をしていても、全然、余るくらいだ。

 本棚に全ていれられてから、私は一冊、手にとって読んで、ぞっとする。

「アラン、これはっ!?」

「大昔に焚書された本の写しだ。字が綺麗だろう。私の父上が全て、書き写したんだぞ。すごいだろう」

 アランは情報よりも、それを行った父親を自慢した。わかっていたが、アラン、父親大好きだよな。ものすごく尊敬している。

「どうして、こんな重要なものをお前の一族は持っているんだ!?」

「私の先祖は愛に生きた皇族アリエッタだ」

「実在しだんた」

「そして、アリエッタは、妖精憑きの力で、焚書される本を全てすり替えさせて、男爵領に保管していたんだ。以上、終わり」

「軽いな!!」

「そんな大昔の話よりも、今だ。これとラキスを交換すれば、帝国も文句を言わないだろう!」

「よくもまあ、父親が許したな」

「父は私にはなんだかんだ言って、甘い。今も、捨てた権力を拾い上げて、一生懸命、裏で動いてくれている。偉大な父だ」

「………」

 確信犯だ。父親の前では、きっと、しおらしい顔をしているのだろう。が、私の前ではとんでもない悪童だ。

「そんな、私の身の上なんぞ、嘆かなくてもいいのにな。私は人として欠陥品だ。妖精捕獲して死ぬことが当然だ、と神によって作られている」

「………どういうことだ?」

「神の身許に送るには、私が悪い妖精を全て支配下に置いて、死ぬしかない。死んで、運ぶんだ。そう命じられている」

 平然というアラン。聞いていた私は、そうではない。

 ずっと、この関係が続くと思っていた。それはそうだろう。アランはまだまだ若い。しかも、妖精憑きとして見れば、寿命はまだまだある。支配した妖精がどれほどなのかはわからないが、まだ、先が見えていない様子である。

 だけど、アランは最後、死ぬつもりなのだ。それを当然と思っている。

「そのこと、お前の親は知っているのか?」

「知ってる。五歳の頃に話した。父上が酷く泣いていたな」

「どうして、話したんだ。黙っていてもいいだろう」

「聞かれたからだ。父上は気づいていた。私が普通でない、と。だったら、全て話したほうがいい」

「それも、真似事か」

「そうだ」

 アランは、私の父の若いころそのままを真似しているという。考え方も、きっと、そうなんだろう。物事の判断は、私の父と同じなのだ。

 父は全てを知っていたという。その身の上は、アランと同じだ。

 父は、妖精に寿命を盗られ、早逝することを知って生きていた。

 アランは、寿命を盗る悪い妖精を全て支配して、死を持って神の身許に送ることを知って生きている。

 時間稼ぎをしなければいけない。アランはこのままでいくと、もっと早い段階で死んでしまう。

「アラン、ラキスはどうするんだ?」

 アランの執着はラキスだ。一度も見たことがない同じ血族だが、ラキスのために、アランは随分と動いていた。たった一度会っただけだというのにだ。

「私の妖精姫だぞ。お前にはあげない」

「会ったこともないのに、そういう気持ちになるわけないだろう。それ以前に、興味がない」

「まあいいけどな。もちろん、結婚する。そのためには、きちんと段階を踏む。まずは、婚約だ。その暁には、あの忌々しいブタの首を妖精に捧げてやる」

 外務大臣はいまだに、邪魔をしているという。婚約の申込、女帝の元まで行っていないという。ラキスとの文通で、そういう情報をアランは読み取っていた。

「結婚するのなら、それなりの立場がいいだろう。まずは、皇族の証明だ」

「お、わかっているな。そうする。そこから、婚約だ。仮だが筆頭魔法使いがいるというから、皇族の証明は簡単だ。ただ、女帝があれだな、見てみないとわからないが、邪魔をしそうだな」

「そうなのか?」

「皇族がきな臭い。クソジジイがいうには、城には、かなり高位の妖精が悪さをしているという。格が足りなくて、何も出来なかったそうだ。賢者ハガルが死んで、そういう守りが手薄になったんだろうな。それをどうにかしろ、とか言われたよ。酷いよな、孫なのに、可愛がってもらったことすらないのに、命じるの」

「私もそうだったな」

 私とアランの共通点が見つかった。アランも私も祖父には酷い扱いをされていた。そういう共通点で、私とアランは笑い合った。

「それで、婚約して、その後は?」

「結婚だ。まずは、ラキスに申し込んで、承諾を貰わないと。きちんと、私を好きになってもらいたい」

「そうか。ついでに、帝国を贈ったらどうだ。お前が望むなら、皇帝にしてやるぞ」

 半分、本気だった。私は随分とアランに狂っていた。アランを皇帝にしたかった。今の皇族なんて腑抜けだ。アランが本気になれば、皇位簒奪なんて簡単だ。

 軽く言ってやった。ところが、アランは表情を消す。

「私は男爵領から離れられない。妖精が迎えに来る。だから、皇帝にはなれない」

「そうなのか!?」

「父上が、そういう縛りを私に課した。だから、王国の男爵領を長期で不在となる時は、父上に許可を貰っている」

「アラン、どうか、私の皇帝になってほしい」

「? リッセル?」

 私はアランの前に跪く。どうしても、私はアランに皇帝になってほしかった。

 ハガルから聞いたことがある。そういう衝動を持つ相手が出てくることがある、と。ハガルにとって、それは皇帝ラインハルトだ。

 私にとって、どうしても仕えたいのは、アランだ。

 アランは戸惑っていた。急に、空気が重苦しくなったからだろう。だけど、むやみやたらと私を拒絶したりしない。

「私が生きていたら、皇帝になってやろう。生きていたら、だぞ」

「ああ、必ずだ」

「死んでたら、仕方がない、次を探せ。ほら、お前の寿命は化け物だ。私が悪い妖精を支配すれば支配するほど、盗られた寿命はお前に戻される。それほどの寿命があれば、いい感じの皇帝候補も出てくるだろう」

「お前がいい」

「そうか、こういう感じの人がいいんだな。お前は、無意識の内に、父親のことを好いていたんだな」

「違う、お前がいいんだ。父親なんて、知らない」

「私はな、お前の父親の真似事をしているだけだ。考え方も、話し方も、生き方も、全てだ。父上も母上も、これを私の個だと思い込んでいるが、違うんだ」

「お前がいいんだ!!」

 私はアランの靴を舐める。それをイヤだとは感じない。

「約束は出来ない。わかっているな。私は、悪い妖精を全て支配したら、死んで神の身許にいく。それは絶対だ。その時は、私を思い出して、泣いてくれ」

「………いやだ」

 私は拒否した。やっと見つけた私の皇帝だ。

 アランは完璧だ。私の父の真似事だというが、それを抜いても、完璧だった。

 魔法使いとして、誰かに仕えたいとは思わなかった。それも、アランと出会って、変わった。どうしてもアランがいい。

「では、勝負だ。私が悪い妖精ども全てを支配するのが先か、それとも、貴様が私を皇帝にするのが先か。先に皇帝となったら、寿命まで、生きてやろう」

「約束だ!」

「ああ、約束だ」

 こうして、私はアランに踊らされた。アランはもう、この時には、先が見えていたのだろう。すでに、高位妖精二体を支配下に置いていた。




 アランは着実に足場を作っていた。皇族と認められ、城に住み着いた悪さをする妖精を支配下に置き、ラキスを男爵領に連れ帰った。そうして、支配した高位妖精は三体となった。

 ラキスの価値をあげるために贈られた蔵書は、子爵邸に置いたままだった。急に運び込むことは不可能だった。ともかく、量が多い。何より、運ぶ手段と保管場所がまだまだ決まっていないという。

 そんなことはないだろう。ちょっと情報を探ってみれば、皇族の中で裏切者が出てきた。魔法使いでもだ。

 これまで、皇族殺しのアランが生きているということで、貴族も迂闊に動けなかった。貴族は魔法使いと癒着して、どうにか皇帝を挿げ替えようとした。しかし、皇帝殺しのアランは、今いる魔法使い全てを支配下に置けるという。皇族の支配も抜けたというのに、皇族殺しのアランは、事あるごとに名前だけ出てきた。

 それも、皇族殺しのアランの死が貴族の元へともたらされると、きな臭い動きが見られるようになった。

 何せ、皇族殺しアランのせいで、各地にあった貧民街がなくなってしまって、後ろ暗い行いをしていた貴族は大変、困っていたのだ。

 私は表向きは清廉潔白だが、裏ではいまだに貧民街の支配者としての力を持っているが、それは少ない。賢者ハガルに随分と削られた最果ての貧民街など、皇族殺しアランの命令により、あっけなく瓦解してしまったのだ。

 そうして、後ろ暗い力を失った貴族にとって、皇族殺しアランは恨みの対象である。その男が死んだとなれば、途端、動き出す。そういう力を使っている貴族たちである。それなりに権力も財力もある。

 そういう動きを私はアランに横流ししていた。

 アランは学校にも通い始め、男爵領の領地経営、ラキスを口説き、と忙しい中も、あの秘密のドアがある部屋にやってきては、曰くある肖像画二枚を眺めていた。

「好きだな、それ」

「もう一人の私だからな」

「そうなんだ」

「皇族を操っていた高位妖精が、残りの寿命を持っていた。お前の父親は、なかなか激しいな。私では、ああいう生き方は出来ない」

「何を言ってるんだ。してるじゃないか。悪い妖精を支配して、いつか、死んで、神の身許に行くのだろう?」

「おや、私を皇帝にするんじゃないか?」

「覚えていてくれたんだ。嬉しい」

 無理矢理した約束だ。アランはきっと、忘れたふりをするものと思っていた。だから、尚更、嬉しかった。

「そういう目で見るな。最近な、ラキスがお前に似てきた」

 アランは私の顔を手で隠していう。

 初めて見たラキスは、酷いものだった。アランは、ラキスを抱きしめて、怒りに震えていた。本当は、皇族全てを殺してやりたいのだろう。それを我慢したのだ。

 顔立ちが、亡くなった妹に似通っていた。しっかりと、賢者ハガルの血は受け継がれているということだろう。

「それは大変だ。とんでもない美人になるぞ」

「そうなんだ!! 日に日に綺麗になっていくというのに、ラキスはわかっていない!!! 学校なんて、行かせるんじゃなかった」

「どうして行かせたんだ。男爵領で囲ったほうが安全だろう」

 帝国の城よりも、子爵領よりも、男爵領は強固な守りだという噂がある。何せ、妖精男爵の領地である。悪意あるもの全てを排除されるという。人の行き来すらだ。そこまでの強固な守りだ。悪意ある妖精は入れないだろう。

 アランは不貞腐れた顔をする。

「私も、本当は学校に行ってみたかった。ポーが行くというんだ。だったら、行ってみたいだろう。だが、私は男爵を継ぎたくない。だから、学校に行くのは諦めたんだ。

 ラキスはさ、選択肢がいっぱいあるんだ。だったら、学校に行ってみるのは、選択肢を増やすこととなる。それはいいことだ。だから、手続きをしたんだ」

「お前も学校に行ってるじゃないか」

「父上がやったんだ!! 期日過ぎてたってのに、拾った権力で押し込んだんだ!!! 権力、拾わせて、いいこともあれば、悪いこともあるな」

「いい父親だな。行きたいと知って、やったんだろう」

「そうだ、自慢の父だ………だめだ、真似事だ」

 何か、引っかかるようだ。アランは、私の父の真似事をしたくない様子だった。

「何だ、とうとう、自我が生まれたか」

「生まれない!! ただ、このままでは、ラキスに振られる。あんなに口説いているというのに、ラキスは私の申込を受け入れてくれない」

「そんなことないだろう!? あそこまでしていてか?」

 女ならば、アランの言葉、行動には絶対に揺れる。ちょっと聞いていたが、あれで口説けないということはないだろう。

 アランはしっかりと本音で語っている。ラキスのことを全身で求めている。声でも言葉でも行動でも、アランはラキスに訴えているというのにだ。

「母上に叱られた。きちんと本音を伝えないといけない、と。あれだ、きっと、この真似事がいけないんだ」

「それは何か、私の父上がダメだということか?」

「そうじゃない、私だ。私の個がないことを見破られているのだろう。女は勘がいいからな。どうしよう」

 珍しく、アランは困っていた。あらゆる方法を試しているが、効果がないのだろう。

 世間知らずの皇族にしては、随分と防御が高いな。私はラキスという人をよくわかっていない。使用人を子爵名義で送っているのだから、報告とは聞いておけばよかった、と今更ながら、後悔した。

 そういうのは、後の祭りだ。私から言えることは、ただ一つだ。

「難しく考えるな。普通でいいんだ、普通で」

「その普通が難しいんだ!! 私は全て、普通じゃない!!!」



 この難題のせいで、アランは命を失った。



 惰性で筆頭魔法使いになった。正直、誰が皇帝になっても、私にはどうでもいい。アランを失った今、残るのは、怒りである。

 私が最初に行ったのは、裏切者の皇族の始末だ。

 皇族殺しアランが残した暗部は役に立った。何せ、私は筆頭魔法使いの儀式を行っているため、尋問等が出来ない。だから、暗部に調べさせた。

 もちろん、アランが見せしめ用に残した皇族オシリスは、皇族ライアンの手によってくし刺しである。ライアン、本当に下手なんだ。だが、オシリスは手も足もなくなった。泣いて縋る身内はアランが皆殺しにしたのだ。そんなオシリスを皇族全てが揃う場でくし刺しである。アランがせっかく、生かしておいてくれたというのに、身の程をわかっていない皇族は、苦しんで死ねばいい。

 そうして、私は調べ終わった裏切者の皇族には、聖域の穢れを移した。賢者ハガルが時々、こうして、皇族を苦しめて殺していった。

 呪いのような死に方を目の当たりにして、残った皇族たちは私を疑う。だが、しっかりと皇族の犬としての契約紋は確認されている。ついでに、皇族の儀式だって出来たのだ。知識がないのだから、疑えないのだ。せっかく皇族スイーズが話して聞かせたというのに、途切れたか。

 それと平行して、貴族のあぶり出しである。お祖父様の肖像画が残っている事実が厄介だ。あの肖像画がたぶん、きっかけとなっている。肖像画のくせに、人狂いを起こさせるとは、本当に迷惑なクソジジイだな。

 肖像画は賢帝ラインハルトの最後の女と呼ばれていた。皇帝になれば、あの女が手に入る、なんて勘違いを起こさせたのだろう。それが人狂いだ。

 情報がないが、肖像画は一枚ではないはずだ。一枚あれば、複製出来る。見ただけで狂わせる肖像画の在りか、普通ならばわからない。

「よく、油で燃えるだろうな」

 私は押収した肖像画を筆頭魔法使いの屋敷に持ち込んだ。そして、それを妖精たちに教え込む。時代、臭い、そして、この構図だ。一枚から派生したことは確かだ。賢帝ラインハルトは、この女を公には見せびらかしていないはずだ。ちょっと悪戯心でやってしまっただけだ。ほんの一瞬だけ、見てしまったのだろう。それを絵にするには、記憶を手繰り寄せたとしても、難しいはずだ。

 私の予想では、一枚から派生したと考えて、帝国中にいる妖精に命じた。こういう時、大魔法使いの妖精は、使い勝手がいい。



 そうして、四つほど、邸宅が火事となって失われた貴族が大騒ぎとなった。



 そういう事をしていると、年に一度の皇族が集まる食事会である。ラキスは王国から帝国に戻ることとなっていた。

 せっかくなので、私が王国まで迎えに行くことにした。アランが通いたがっていた学校を見てみたかったこともある。

 そういう話は、王族ポーに伝えられた。私は座標を聞いて、その近くに転移した。

 特に、変わった場所ではなかった。どこに行っても、学校というものは変わらないだろう。だけど、アランが行きたがっていた所だ。それは心驚させた。

 私の筆頭魔法使いとしての姿は目立つ。偽装しているが、服がね、派手なんだよ。許可なく歩いているようなものだ。そうしていると、教師数人が来た。

「これは、筆頭魔法使いリッセル!」

 眼帯の男が私の正体に気づいた。それなりに高齢の男だが、身のこなしが普通ではない。

 何より、妖精の目を装着している。

「そうか、貴様がシャデランか。アランから話を聞いている」

「どちらのアランかな?」

「私が知るアランは妖精男爵のアランだけだ。もう一人のアランは、面識すらない」

 私の中で、皇族殺しのアランは排除したい対象だ。祖父というだけで、アランを随分とぞんざいに扱った男だ。もう、死んでこの世にいないが、それでも、アランを死地に送った男だ。まだ、憎悪さえある。

 私が随分と不機嫌になったので、シャデランは気まずくなっていた。

「私は皇族ラキスを迎えに参上した。案内をしろ」

「わかった」

 他の教師を手振りで下がらせ、シャデランが私の案内のために前に立った。

「その前に、王国でのアランのことを知りたい。貴様も、随分とアランと関わっていただろう」

「リスキス公爵の血縁というだけだ」

「知りたい。アランは随分と、この詰まらそうな学校に通うことを楽しんでいたぞ」

「そうか」

 シャデランは穏やかに苦笑した。

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