男爵家に生まれた申し子
生まれてすぐ男の子だと知った私は、子の名前を父から貰った。嫌がらせです、嫌がらせ。本当に酷い父親。都合よく私を使い捨てにする父親のことが大嫌いでした。それでも、ロベルトの腕に封じられた聖域の穢れを持っていってくれたので、少しだけ、許してあげました。
でも、やっぱり許せないので、すぐ死んでしまう子に”アラン”と名づけることを決めました。
何も知らないロベルトは、それを聞いて苦笑します。
「そんな名前をつけなくてもいいだろう。義父上も、嫌がるだろう」
「嫌がらせです。本当に酷い父親です。娘二人を道具にして。孫に同じ名前をつけられて、きっと、すごい顔をしますよ」
妖精を使えば、連絡だってとれる。だけど、わたくしも父も、あえて、連絡をとりあわない。だって、帝国の姉妹が可哀想だ。ただ一人、妖精を持って生まれなかった姉妹は、どうやっても、父に連絡をとれない。でも、父なんてどうでもいいから、都合がよい時だけ使ってやるだけだ。
そんな話をして、生まれて死んでしまう息子はアランに決まった。そうして、アランは誕生した。
なのに、生まれてすぐ死なない。ちょっとぼけっとしているところがあるけど、きちんと成長している。しかも、元気。魂だってある!!
計算外なことが起こってしまった。わざと父と同じ名前をつけて、死んでしまった子を見て、やっぱり縁起の悪い男なのね、なんて嘲笑ってやろうとしたのに!?
久しぶりの赤ん坊だ。たまたま、出来た子だ。五人目でもういっか、なんて思って、随分たってから出来た子だ。年寄りになってから出来た子は可愛い、という。
ロベルトは、基本、厳しい人だ。もう一人の男爵なので、色々と怖いことを処断している。地下牢には、最強の妖精憑きリリィの所業が息づいている。その処断もロベルトが少しずつ行っている。
呪われた伯爵一族の呪いの封じ込めのため、ロベルトは一生、男爵領、しかも、男爵の邸宅から離れられなくなった。ロベルトの存在によって、邸宅という魔法具が魔法を発動させて、領地を守っているのだ。だから、呪われた伯爵一族の呪いは封じ込められ、伯爵一族はただ、平凡に滅びていくだけだ。
そういう一つ一つのことをロベルト一人が処断し、身をきっている。だから、子には厳しい。五人の子は、ロベルトのことを恐ろしい父、と見ている。
ものすごく年老いて出来たアランに対して、ロベルトは戸惑っている様子だった。これまで、恐ろしい父、を体現してきた。だけど、アランには、そうならない。
「もうそろそろ、地下牢も落ち着くし、僕も、子育てを手伝おう」
「十分、やってくれていますよ」
「使用人たちがな。僕の子どもだから、随分と手をかけてくれた。僕の時にはなかったことだ。アランには、僕が手をかけよう」
「わかりました」
そうして、ロベルトはアランだけ、随分と可愛がった。
歳の離れた末の弟だ。兄も姉も可愛い。結果、随分とアランは可愛がられた。むしろ、私のほうが怒ってばかりだ。
それも、アランが五歳になる頃に、変わった。
「エリカ、全て話しなさい」
ロベルトは、アランの抱きしめて、私に迫ってきた。何の話かわからないので、首を傾げるしかない。
「アランは、随分と物事を知っている。聞けば、捕まえた妖精から知識を得ていると教えてくれた」
「そうなのですか!?」
「アランが妖精憑きなのを隠していたのか!?」
「いえ、アランは妖精憑きではありません。隠していることは、あります、けど」
「言いなさい」
私はロベルトには隠し事が出来ない。だから、アランがお腹にいる時に見た、妖精憑きリリィの夢を語った。
ロベルトは、アランを抱きしめたまま、絶望した。アランは普通の子でない事実に、ロベルトは怒りを見せた。
「何故、僕の子どもにまた、僕のような重荷が!?」
「ロ、ロベルト、ごめんなさい。そんな、大変な夢だとは、知らなくて」
ロベルトが物凄く怒っている。私はつい、泣いてしまう。それを見て、ロベルトは冷静になってくれた。だけど、アランをそのまま抱いて、男爵の元に行ってしまう。
そうして、アランは男爵の養子となった。
あまりのことに、私はロベルトを責めた。
「アランは私の子どもです。勝手によそにやらないでください!?」
「あの子は、もう一人の男爵だ。そういう子は、普通でない人生を歩むこととなる」
「だからって、アランを家に閉じ込めてしまうなんて、可哀想です!!」
アランは男爵の養子となってから、邸宅から外に出されなくなった。
元々、大人しい、聞き分けの良い子だ。閉じ込められても、抵抗はしない。だけど、子どもだったら、外で遊ぶのが楽しいはずだ。
ロベルトは私の手を引いて、アランを閉じ込めた部屋に連れていく。
これまでは、私とロベルトが過ごす部屋で、アランは一緒に過ごしていた。ずっと、そうだった。十歳くらいで、一人部屋に移動して、というのが普通だった。
なのに、アランはまだ五歳だというのに、一人部屋だ。そこで、アランは、一心不乱に本を読んでいた。窓の外など見ていない。
「アランは、普通じゃない。たぶん、意志というものがない。こうやって、与えられたものを受け取っているだけだ。感情だって、鏡だ。こちらが笑えば、アランが笑う。遊ぼうと言われれば、遊んでいるだけだ。そこに、アランの意思はない」
アランは私とロベルトに目も向けない。本しかない部屋だ。その本も読み終わると、勝手に邸宅の地下に行って、勝手に本を読み漁るようになった。鍵なんて意味がない。だって、アランはもう一人の男爵だ。邸宅は、アランに従う。結果、私では止められなかった。
ロベルトは、父親として、もう一人の男爵として、アランと意思疎通をとった。そこで、わかったことがいくつかあった。
「どうやら、悪い妖精というのは、ある一族の寿命を盗っている妖精の一派だ。目的がわからないが、神がその寿命を盗っている妖精を悪い妖精として、アランに捕獲させる使命を与えたんだ」
「でも、アランは妖精憑きではありません」
「妖精の目だ。一見、普通の目だが、アランの片目は妖精の目だ。どうやら、僕からアランへと受け継がれてしまったようだ」
「では、妖精を操れるのですか? でも、才能がないと、大変なこととなってしまいます」
ロベルトがそうだ。妖精の目が一体化してしまったため、今も私が側にいないと、廃人となってしまう。アランも、そうなってしまうかと想像すると、ぞっとする。今すぐにでも、妖精の目を抉り取ってやりたい。
「アランは才能がある。しかも、リリィが支配した妖精全てをアランが使役出来る。あれはもう、僕やエリカでは手におえない代物だ」
「そんなっ!? それでは、止められないではないですか!!」
「だから、領内を封鎖しよう。僕の負担が大きいが、アランが領内にいる間は、悪い妖精も悪意を持つ人間も、入れないようにしよう」
「それで、アランは助かるのですか?」
「アランはまだ、知識や手段を身に着けている。その間は、大人しく、邸宅にいるだろう。だが、それらを身に着けた後は、動き出してしまう。物凄い速さで知識も手段も手に入れている。時間がないが、時間を稼ごう。イヤだろうが、魔法使いアランと連絡をとってくれ。僕が会いたい。君は、会うな」
「………わかりました」
そうして、私が妖精で呼べば、父は私の前には姿を出さず、ロベルトにだけ会っていった。そうして、アランを連れて行ってしまったのだ!!
「どういうことですか!? あの男、アランを連れていって!!!」
「ちょうどいい頃合いだ。向こうには、手に負えなくなった妖精憑きポー殿下がいるという。どちらも、あれだ、問題児だ。ぶつかりあえばいい」
「アランは妖精憑きではないのですよ!? あの私よりも格下とはいえ、妖精憑きのポーに勝てるわけがないでしょう!?」
すぐにでも領地を出ていこうとするも、ロベルトがそれを許さない。邸宅の魔法の発動が強化されたのだ。そのため、私は魔道具を使っての転移を出来なくされた。
そうして、一カ月ほどして、アランはひょっこり戻ってきた。
私はアランの体をあちこち触って、怪我を確認した。子どもだから、小さな怪我はある。だけど、体の一部が欠けた、ということはなかった。
安心して、私はアランを力いっぱい抱きしめた。
「もう、離しません!」
「ご心配おかけしました。今日からは、ここから通います」
「いけません!! ポーなんて捨て置けばいいのです!!! アランはずっと、ここにいてください。せっかく、生きて生まれたというのに」
「ごめんなさい」
泣いて縋っても、アランは私の腕から逃げていく。
どんどんと負担が大きくなっていくロベルト。部屋から出られなくなってきた。妖精の目が随分とロベルトを苦しめているため、私はロベルトの両目を塞ぐしかなかった。様々なことをして、ロベルト自身の負担を減らすには、結局、私が抱きしめて、付きっきりでいるしかないのだ。
アランは私が泣いて心配したからか、毎日、部屋にやってきてくれた。
「父上、聞いてください。ポー、本当に何も出来ないのに、偉そうなんですよ」
ロベルトの声はもう、発せられない。だけど、会話は出来る。アランはどんどんとロベルトの見た目が異様になっていくこともかまわず、膝に甘えた。
最初、ポーに関わったってろくなことがない、と私は思っていた。ロベルトに怒りすら感じていた。
だけど、アランはどんどんと感情と持ってきた。受け身で、ただ、鏡の反射だったというのに、今はそうではない。ロベルトがいう通り、アランとポーがぶつかりあうことは、とても大事なことだった。
それなりの年齢になると、ポーは王族として活動を始めた。子孫を作ることが許されない存在であるポーは、その身の上に、かなりひねくれた子となってしまったという。
だけど、男爵領に来るポーは、しっかりとした王族である。話し方も考え方も、しっかりしていることを妖精を通して見ていた。
ただ、ポーは負けず嫌いなのか、よく、ロベルトのことを調べようとする。でも、男爵領では、私でさえ、ロベルトには勝てない。結果。ポーはいつも負けていた。
運命が動き出したのは、ポーの婚約者のお披露目パーティだ。何故か、アランはそのパーティに出席したい、と言い出した。
「子どもが行くような所でもないですよ」
「美味しいものが食べられる、とポーが言っていた。食べたい」
「あの子ども、ろくなことを教えませんね」
腹が立つ。アランとポーはなんだかんだといって、仲が良かった。アランは魔道具があるので、簡単にポーに会いに行くのだ。アランはちっとも、男爵領に閉じ込められてくれない。
アランはアランで、男爵領のお手伝いを頭でも肉体でもしていた。お陰で、そこら辺の子どもよりはがっしりしていた。頭もいいから、大人だって顔負けだ。
アランはどこで覚えたのは、行儀もしっかりしていた。試してみれば、問題ない行儀だ。
「よし、アランが妖精男爵代理だ」
そして、妖精男爵は、アランに甘い。結果、アランは代理として、パーティに出席したのだ。
馬車なんて必要ない。魔法でひとっとびだ。すぐに戻ってくるので、心配はしていなかった。アランに勝てる大人もいない。妖精憑きだって負ける。それほど、アランは強い子どもだ。
だけど心配で、外で待っていると、アランは転移を失敗したのか、歩いて帰ってきた。
「アラン、疲れたでしょう」
「父上は、起きていますか?」
「アラン、ご挨拶」
「父上に頼みたいことがあります!!」
「アラン、ご挨拶は?」
「ただいま! 父上!!」
アランはおざなりに挨拶して、ロベルトの部屋にかけていってしまう。もう、走るなんてお行儀が悪い。
私は遅れて行ってみれば、アランはロベルトの膝に甘えている。
「父上、聞いてください。私の一番星を見つけました!!」
聞き覚えのない単語だ。私は首を傾げてしまう。
「アラン、一番星って、何ですか?」
「父上にとって、母上が一番星です!!」
「ああ、なるほど」
アランは好きな女の子を見つけたのだ。いつも大人みたいな顔をしているのに、今は子どものようにはしゃいでいる。
「父上、お願いします!! 婚約の打診をしてください!!!」
「相手はどこの誰ですか?」
てっきり、そこらの貴族の娘か思っていた。妖精男爵の血筋なので、相手はきっと、喜んで受け入れてくれるだろう。
「皇族のラキス嬢です!!」
アランの頭を撫でていたロベルトの手が止まる。私も固まってしまう。
よりによって、皇族をアランは見染めてしまったのだ。
「どうして、その子がいいのですか? 理由を教えてください」
一目惚れなんて、実は理由なんてない。だから、聞いても無駄な話だが、聞いてみた。
「妖精の記憶にある子に似ていました。いつも、助けてあげたい、と思っていましたが、過去なので、助けてあげられません。でも、今なら、助けてあげられます!!」
「………そう」
泣きたくなった。アラン、それは、一目惚れでも何でもない。神によって作られたものだ。
アランはそんなのはわかっていない。アランはロベルトにねだった。アランが望みを口にするのは、実はこれが初めてのことだ。欲しいものなど、物心ついてからずっと、アランから聞いていないことに、この時、初めて、ロベルトは気づいたのだろう。
ロベルトは過去に切り捨てた権力を利用して、アランと皇族ラキスの婚約を打診した。
でも、帝国からは返事がない。その理由を随分と後になってからアランから聞いたロベルトは激怒した。それでも、権力を使って、打診し続けたのだ。
アランと皇族ラキスとの婚約話は進まない。帝国のほうが進めないのだ。だけど、アランとラキスとの文通や贈り物はポー殿下を隠れ蓑に続いていた。
神によって作られた感情だというのに、アランはラキスのことを随分と執着していた。アラン用に、と与えられた部屋は本当になにもなかった。アランはそこで寝ない。服だって、誰かのお下がりだ。物は必要としない。結果、何もない部屋だ。そこに、少しずつだけど、物が増やされていく。
「あら、人並になってきましたね」
部屋を覗きに行けば、よい感じに、私もついつい嬉しくなる。
「いつか、ラキスが来るかもしれない。今から、少しずつ用意しておかないと」
「来るのですか?」
「迎えに行った時、帝国で幸せであれば、そのままです。ですが、不幸であれば、誘拐します」
「皇族ですもの、大事にされていますよ」
「………」
アランは無言となる。この用意周到な様は、ちょっと気持ち悪い感じがあった。誰に似たのやら。
そうして、部屋の物が綺麗に揃った頃に、アランはラキスを連れて帰ってきたのだ。
アランが挨拶に来たので、聞いてみた。
「酷いものでした。皇族が高位妖精の操られて、私の妖精姫に酷いことをしていました。高位妖精は私の支配下に置いておきましたが、もう、あそこに妖精姫を戻しません」
アランは激怒していた。私は妖精を使って見てみれば、酷いものだった。あんなにやせ細って、怯えている可哀想な子だ。
見た目が酷いというのに、アランの愛情は変わらない。そこは、神が作った感情だ。見た目なんてどうだっていいのだ。きっと、ラキスの血筋が大事なのだろう。
だけど、愛情の受け手であるラキスは、アランの愛情に戸惑っている。何事かあると、アランはラキスの元に走っていく。年相応な顔を見せてはいるが、ラキスの前では、ものすごく作っているのが、面白い。
同じように妖精を使って見ているロベルトは、毎日、口元を綻ばせていた。だからだろう、アランが口にしない望みを叶えようと、ロベルトはアランの学校の手続きをまた、権力で押したのだ。
その事実を知ったアランは激怒した。
「どういうことですか!? 私は学校には行かないと言いましたよね!!」
「もう、アラン、我儘を言わないの。ロベルトが決めたことは絶対ですよ」
「母上は黙っていてください!! 私は男爵になるつもりはない!!! 別に、男爵にならなくても、父上のように、縛られるようにすればいいでしょう」
「ロベルトが決めたことです。もう、出て行きなさい。やっと、ロベルトが落ち着いてきたというのに」
「私はポー殿下の側近にはなりませんよ。絶対にならない!!」
途端、ロベルトが立って、アランの胸倉をつかむと、殴ったのだ。
ロベルトは普段、動けないのではなく、動かないのだ。妖精の力を使っているため、体の制御が出来ない。結果、ものすごい力を物理的に発揮してしまうのだ。そのため、動くと、色々と物を壊してしまう。
ロベルトの一撃を受けて、アランはふっとんだ。壊されると困るので、私はドアを開けたり閉めたり、あとは、時を戻したり、と大変だった。
しばらく、ロベルトとアランは親子喧嘩をしていた。ここまで激しくアランが怒るとは、私は思ってもいなかった。
「どうせ、私は妖精を持って死ぬ運命です!!」
ロベルトが殴った。
「この名前だって、クソジジイへの嫌がらせでつけたんでしょう!!」
ロベルトが殴った。
「さっさと領地の防御を下げてくれれば、やってきた妖精全てを支配します!!!」
ロベルトが殴った。
私が泣きそうになるようなこともアランは吐き出した。これまで、私やロベルトのために、色々と我慢して、ため込んでくれていたのだ。
もう、鏡ではない。作られた人ではない。アランはアランだ。
立派に育ったアランは、気づいたら、骨になっていた。帝国へわざわざ行って、後始末を手伝って、やっと取り戻したアランはまた、抱きしめられるほど小さくなっていた。
「骨を少し、わけていただきたい」
筆頭魔法使いリッセルが願ってきた。
「いやです。私の子です。私が産んで、育てた子です!! 一生、男爵領に囲う子なんです!!!」
死んだアランを骨にしたのは、リッセルだ。何を言ってるの。お前がこの姿にしたんじゃない!!
私がかなり強い妖精憑きだとわかっている。男爵領では、ロベルトもいる。誤魔化しがきかないから、リッセルはアランの骨を盗まなかったのだ。
「だいたい、お前がやればよかったのよ!! その妖精憑きの力を隠して、領地に隠れていないで、妖精狩りをしていれば、アランが死ぬことなんかなかったのよ!?」
「………すみません」
見ればわかる。この男は私と同じだ。
私はものすごく強い妖精憑きだ。姉妹のエリシーズと並んでも、もう、姉妹だと誰もわからないほど、私は若いままだ。寿命が尽きるまで、私はこのままだ。その寿命も、ものすごく長い。
リッセルは私と同じだ。どれほど偽装したって、私は見破ってしまう。恐ろしく美しい見た目と高位の妖精憑きだ。あまりに高位なため、誰もリッセルが妖精憑きと見破れなかったのだろう。しかも、寿命が長い。
「なるほど、先祖が盗られた寿命の受け手が、あなたというわけですね」
アランは、支配した妖精たちが盗った寿命をあるべき場所に返すように命じていた。
どこに返すのか? 寿命を盗られて死んだ人は、もう戻ってこない。だったら、生き残っている子孫に戻すのだ。
生き残っている子孫はラキスと、筆頭魔法使いリッセルだ。リッセルはラキスと同じ血族だ。寿命は、リッセルに返されている。見ればわかる。人ではありえない寿命が残っている。
「言い訳になりますが、私では、妖精狩りが出来ませんでした。まず、支配が出来ない。どういうわけか、アランだけでした」
「私は、アランの見様見真似で支配出来ましたよ」
「あなたには、妖精憑きリリィの加護が感じられる。きっと、それがあるからでしょう」
「………この子は、生まれてすぐ、死ぬ子でした」
「アランから、聞きました」
「随分と歳をとってから生まれた子なので、ロベルトが可愛がりました」
「………」
「私がいけないのです。夢で、ロベルトのようにしてほしい、と余計なことを言ってしまいました。それがなければ、アランはきっと、妖精憑きとして生まれたでしょう」
「あなたが願ってくれたお陰で、私は、アランに出会えました。きっと、ただの妖精憑きでは、私とアランは出会えなかったでしょう。私は今も、アランに生きていてほしい。魂だけならば、なんて考えてしまうが、その魂は、物凄い早さで神の身許に行ってしまった」
「………少しだけですよ」
「ありがとうございます」
リッセルは私の前でひれ伏した。そして、私の知らないアランの話を教えてもらった。




