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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-終劇-
43/353

貴族の反乱

 長期休暇が終われば、学校が始まる。始まってすぐ、成績表が貼りだされる。酷いのよね。上位でも下位でも、全て、出されちゃうのよ。

 わたくしは、アランと一緒に成績表を見る。これまで、皇族としては外れだ、と散々、言われ続けてきた。だから、成績、期待していなかった。

 アランは上位である。しかも、一点二点逃した、という上位である。見てみれば、アランは考えがこれっぽっちも読めない笑顔を見せている。

「おや、私の妖精姫は、いい感じの成績ですね」

「そうですね」

 見事、中間クラスでやっていける成績であった。やはり、上級クラスには届かなかったか。

「良かったです、同じ教室でなくて」

「勉強を教えられるからですか?」

「教室を通う楽しみがある。様々な経験は大事です。側にいることが幸福とは限らない。少し離れていて、こうやって側にいられるようになると、違う幸福感を得られます」

「アランは結局、どうなっても、幸せなのね」

「そうです。こうやって、手が届くところにあなたがいる」

 そう言って、アランはわたくしの手をとり、軽く口付けする。

 もう、アランの行動に学校の皆は慣れてしまっている。むしろ、関わりたくないので、距離を置くのだ。ついでに、わたくしも距離を置かれているけど。

 わたくしはいつもの通り、アランに手をひかれて教室に行けば、シャデランが待ち構えていた。

「ここで待っていれば、必ず捕まるな、お前は」

「帝国ですね」

「そうだ。二人とも、今すぐ来い」

 何がなんだかわからない事となっている。アランだけでなく、わたくしまで、シャデランの後ろをついていくこととなる。

 アランはわかっているようだ。笑顔を顔に貼り付けたまま、楽しそうにしている。

「帝国で、何かあったのですか?」

「もうそろそろ、起きると思っていましたが、意外と、遅かったな」

「何がですか?」

「クーデターですよ」

「………え?」

 わたくしとアランは校長室に連れて来られて、呼吸が止まるような気がした。

 だって、校長室に帝国にいるはずの女帝エリシーズと皇族ライアンがいるのだ。

「アラン、お願いです、帝国を助けてください!」

 エリシーズはアランに縋った。

「皇族は他に誰が生き残っていますか?」

「………今は、捕虜となっています。無事だと、思います」

「筆頭魔法使い二人は?」

「………」

「ここまで来れたのは、ライアンのお陰ということだ。妖精憑きで良かったですね」

 アランはソファに座り、真っ青になったエリシーズ、気まずい顔をするライアンを見上げる。

「皇族が、このままでいくと、根絶やしにされる」

「貴族の反乱を許してしまったのだから、そうなるでしょうね。魔法使いの館はどうなりましたか? どこまで、貴族に買収されましたか?」

「知っているのか!?」

「いつかは起きることだ。よく考えてみろ。これまで、筆頭魔法使いが魔法使いどもを頭からおさえこんでいたから、あいつらは大人しくしていたんだ。その筆頭魔法使いが使えないとなったら、数の暴力で負ける。今の筆頭魔法使い二人では、帝国が所有する魔法使い全ての妖精は盗れなかったんだろう。だから、クーデターが成功したんだ。

 さて、貴族どもに情報を売った奴らは誰かな? いいか、皇族殺しのアランが死んだことが知られなければ、こんなことは起こらない。万が一、皇族殺しのアランが生きていた場合、このクーデターは失敗するからだ。皇族で、情報を流したバカがいたんだろう」

 実は、皇族殺しのアランの死は隠されていた。わたくしは皇族なので、普通に知っていたが、貴族や王国民はそうではない。

「………まさか」

「私だったら、家族ともども殺す。身内が随分と泣いて縋ったんだろう。それほどの愛情があれば、魔がさすだろう」

「オシリスの家族か」

 皇族オシリスの身内だ。オシリスは、アランに負けたことで、利き腕と両足を切断されることとなった。その時、オシリスの家族は、泣いて縋ったという。

 大変なこととなった。ここに、女帝エリシーズが落ち伸びている事実は、大変なことになるのは、目に見えていた。

「シャデラン、教会から、何か言われたでしょう」

 アランは何故か、王国内の話に持っていく。シャデランはわたくしを苦々しく見る。

「ラキスの身柄を渡すように要求されている。妖精に命を狙われているような皇族は悪に違いない、と国王に訴えて来た」

「私の妖精姫をその手で奪おうとするか。最高位妖精はやることが人くさいな」

「そうなのですか!?」

「ラキスの情報は漏らしていない。だったら、妖精が操っているということだ。かなりいい額の布施を払ってやっているのに、これか。教会、二つほど壊してやれば、目も醒めるだろうな」

「おいおい」

「やらない。私は、そういう存在ではない。だが、一人、そういう存在がいる。絶対に、敵に回してはならない者がな。少々、はやいが、登場してもらおう」

 シャデランはもの言いたげにアランを見る。アランはどんどんと先を読んで、解決までの道筋が出来上がっているのだろう。だけど、アランはそれを誰にも語らない。

「俺に出来ることはあるのか?」

 アランがさっさと動き出すのをシャデランは前に立って止めながらいう。

「そうだな。リリィの娘は大事にしなさい。リリィのように愛してやるといい」

「は? 何故、お前が知っている!? ポーから聞いたのか!!」

「私はリリィによって作られた人だ。同じなんだよ。ただ、私は違う役割を持って生きている」

 アランはわたくしに手を差し出す。

「妖精姫、一緒に来てくれるか? 大丈夫、妖精姫とリッセルの呪われた運命は、全て終わらせてやる。終わったら、一秒でもすぐ、私の求婚を受けてくれ」

「………」

「母上の言った通りにしているというのに、妖精姫は信じてくれないな」

 アランは迷っているわたくしの手を無理矢理、握って、引き寄せた。

「ア、アランっ」

「誰にも出来ない、帝国を妖精姫にあげよう」

「そんなのは、いりません! いつもの、ちょっとした贈り物でいいのです」

「わかっていますよ。でも、それくらいのものをあげたい」

 アランはわたくしを力いっぱい抱きしめた。

 大変な時だというのに、アランは周りなんて無視だ。エリシーズは呆然として、ライアンはイライラと見ている。シャデランはため息しかついていない。

 そうして、しばらくの抱擁を終わらせると、アランはめんどくさそうな顔をする。

「やっぱ、帝国はどうだっていいな。このまま、妖精姫と隠れて暮らそう」

「お前、とんでもないことをいうな!? 皇族がいなくなったら、魔法使いを抑え込む技術がなくなるんだぞ!!」

「まだ、王国にいるだろう、皇族。技術も残っている。しかも、絶対的な妖精の加護によって守られている。帝国にいる皇族なんぞいなくなっても、困らん」

「アラン!」

「が、クソジジイが怒るから、助けてやる。あのクソジジイにとっては、帝国が全てだからな。本当に、最低だな、あのジジイは」

 ライアンは笑顔になる。アランは、皇族殺しアランのために、動き出した。

 アランは荷物から魔道具を出した。

「エリシーズは足手まといだ。お前は男爵領で大人しくしていろ」

「そんなっ」

 エリシーズの返答など無視して、アランは魔道具を使って、エリシーズを男爵領に飛ばしてしまう。

「おい、大丈夫なのか?」

「男爵領は絶対に安全だ。しかも、エリシーズはあそこから逃げられない。大人しく、姉妹で話し合え。いつまでも、世話がやけるな、母上には」

「いや、全然、大丈夫じゃないだろう!?」

 ライアンはアランの母エリカと女帝エリシーズの仲はそれほど良くないことを知っている。それなのに、アランはエリシーズを男爵領に飛ばしたのだ。絶対に喧嘩が起こる。

「身重の女を戦場には連れて行けない」

「………っラキスは、どうなんだ!?」

「大事な囮だ。私の目が届く所では、絶対に守る。体術と剣術をさぼったお前と一緒にするな。お前は、一応、妖精憑きだ。ほら、予備の道具だ。道案内として必要だ」

「そうだな」

 帝国に行くにしても、わたくしとアランだけではん、どこになにかあるかわからない。

 ライアンは表向きは怠け者だけど、裏では暗部を支配している。城の外にもちょくちょく出ているので、外側の情報も持っているはずだ。

「カシウス、墓参りに行こう」

 アランはどこかに声をかける。途端、一人の男が姿を見せる。

「カシウス!?」

「カシウスは帝国に返す。これで、妖精憑きの暗部はどうにかなるだろう。カシウス、魔法使いどもを殺してこい。自らの立場を驕った末路は暗殺がお似合いだ」

 そう言って、アランは魔道具を操作して、カシウスは消える。ほんの一瞬の邂逅に、ライアンは呆然となる。

「こう、もうちょっと感動の再会を」

「後でいっぱいすればいい。あのクソジジイ、カシウスを私に押し付ける、とか嫌がらせしやがって」

 アランは吐き捨てるようにいう。

「それで、俺は留守番か?」

「帝国からの要求を上手に躱してほしい。ポーとキリトを使えば、魔法使いは黙らせられるだろう。さて、どこまで、王国側に武力を送ってくれるかな? 海のほうはアイリスにやらせなさい。喜んで、荒らしてくれる。船を沈ませてもいいな。どうせ、帝国には人が多いんだ。ちょっと死んだって、すぐに代わりはいる」

「おいおい、帝国にも転移の魔道具はあるぞ」

「これから、帝国から王国への転移が出来なくなる。気の毒にな、魔法使いは役立たずだ」

「どういうことだ!?」

「妖精憑きリリィの妖精は全て、私の支配下だ。私が命じれば、王国中にいるリリィの妖精は、転移を妨害する」

 シャデランもライアンも顔をこわばらせる。アランを敵に回せば、帝国は王国では勝てない。

「いっそのこと、王国にいるまま、迎え撃ったらどうだ。帝国にラキスを連れて行くのは、危険だろう」

「帝国に、せっかく、虫がいるんだ。しっかりと働いてもらおう。子爵リッセルは城にいたか?」

「わからない。リッセルは子爵領から通いで来てもらっている。もしかしたら、いたかもしれないが」

「行けばわかるか。だったら、行こう」

「いや、やはり」

 シャデランが止めようとするも、アランは容赦なく、わたくしとライアンを連れて、転移の魔道具を操作した。

 一瞬にして、どこかの部屋だ。見たことがある。

 いくつかの肖像画とたくさんの蔵書がある部屋。そこは、子爵リッセルの邸宅の一室だ。

 勝手知ったる子爵邸なのだろう。アランはさっさと部屋を出ていき、子爵の執務室等を開ける。そうして、子爵邸の使用人に遭遇する。

「アラン様、どうかしましたか?」

「リッセルは?」

「城に行ったままです。何かありましたか?」

「クーデターだ。皇族が捕虜となっている。リッセルも危ないかもな」

 それを聞いた使用人が殺気だつ。

「サラムとガラムは?」

「リッセル様と一緒です」

「だったら大丈夫だろう。サラムとガラムが絶対に守るからな。城から使いが来た時は、適当に誤魔化しておいてくれ」

「我々も行きます!!」

 いつの間にか、物々しい使用人たちが集まっていた。それには、ライアンも驚く。普通の使用人としての身のこなしではない。

「お前たちがいなくなったら、リッセルの世話をする者がいなくなるだろう。リッセルは大丈夫だ」

「では、せめて、ラキス様をこちらに」

「断る。彼女は私の妖精姫だ。お前たちには渡さん」

「しかしっ」

「私は約束しただろう。命を盗る妖精全てをどうにかする、と。待っていなさい」

 使用人たちは説得が不可能だとわかると、引き下がった。アランの実力を知っているのだろう。

 アランは、また、肖像画と蔵書に溢れた部屋に戻る。その中にある一枚の肖像画を見て、立ち止まった。

 その肖像画は、十歳くらいの子どもだった。アランはその肖像画をしばらく見て、場所を移動させる。それから、部屋の一角にあるドアのところにいく。その向こうに部屋があるのだろうが、不自然な感じがする。

「このドア、城に繋がってるんだよ」

「どういうことだ!?」

「大昔の魔法使いが、つなげたんだよ。子爵はな、その魔法使いの子孫なんだ。つなげたままになってるな」

「隠し通路とか、魔道具を使うんじゃないのか!?」

「隠し通路はもう塞がれている。魔道具は魔法使いが敵方に下っているから、検知されてしまう。だったら、この誰も手をつけていない妖精の通路だ。いまだに見つかっていない、ということは、巧妙に偽装されてるんだろうな」

 確かに、ドアを開けてみれば、その向こうは、見覚えのある所だ。

「わたくしが暮らしていた部屋」

 そう、その先は、わたくしが皇族として暮らしていた部屋である。

 何かあったのだろう。部屋は荒らされていた。

 もう、宝物もない部屋。思い出なんて酷いものしかない。だけど、荒らされているのを見ると、悲しくなる。だって、いつも、そういう目にあわされていたのだ。それを思い出して、泣いてしまう。

 わたくしが泣きそうだったからか、アランはわたくしが瞬きをしている間に、部屋を元に戻してしまう。一瞬のことで、ライアンも驚いた。

「お前は、一体、何者なんだ? こんな隠し扉を知っていて、魔法だって使える。ただの人ではないだろう」

「言ったはずだ。私は妖精憑きリリィが作った人だ。本来、この世に生きていない。それだけだ」

 アランはそれ以上、語らない。さっさと先を歩いていく。

 皇族の生活区は、荒らされ放題だった。色々と荒らし、盗るものもなくなったため、人がいない。もう、皇族は捕らえられたのだ。人数も確認されただろう。だから、監視の人が配置されていなかった。

 そういう中をアランは普通に歩く。妖精の力で、人の目を惑わせていたりしていた。

「皇族は全て、地下牢か。おや、そうでない皇族もいるな。片腕がまだあるな」

 アランは暗く笑う。わたくしとライアンでは見えない何かをアランは妖精を通して見ながら歩いている。

 隠し通路は使えないので、人がいない所をアランは迷いなく突き進む。その姿に、わたくしは疑問を感じる。

 ライアンは必要ない。だけど、アランはライアンを連れて来た。しかも、魔法具をライアンに持たせている。

 何か意味があるのかはわからない。アランはただ、どこかに突き進んでいる。そこは、皇族貴族の全てが集められることが可能な広間である。アランは重い戸を妖精を使ってあける。

 途端、物凄い音をたてて、何かが向かってきた。何がわからない。音にわたくしは身がすくむ。だけど、向かってきたそれは、アランの手前で止まる。小さい石のようなものだ。それは、パラパラと落ちる。

「魔法使い、妖精を盗れ!!」

 誰かの命令で、魔法使いが動いたようだ。そんなことは気にせず、アランはわたくしの手を握って、突き進む。

 広間には、帝国にいる全てだろう、と思われる魔法使いと、貴族、騎士や兵士が集まっていた。その中に、見たことがない武器を構えている者たちがいる。

「銃か。私が記憶にあるものとは違うな。情報は更新された」

「撃てぇえええーーーー」

 命令で、また、物凄い音が響き渡る。だけど、音だけで、また、アランの周りに小さい石が止まり、落ちる。

「なにをやっているんだ、魔法使い!?」

 魔法使いたちは戸惑っている。言われた通り、やっているのだろう。

「そいつは、妖精憑きではない!?」

 魔法使いの一人が恐怖に顔を歪める。

 アランは魔法使いに向かって、艶やかに笑う。

「妖精憑きが私利私欲で動くとは、格が落ちることをするのは良くないな。そうだろう、リッセル!!」

 大きな声で、アランは子爵リッセルを呼ぶ。

 広間の一角で、とんでもない火柱が起こった。そこにいた兵士や騎士たちが一瞬にして消し炭となる。

「私が表舞台に出ることになるとは、世も終わりだな」

 火柱の向こうから、恐ろしく美しい人が姿を見せる。一目見ると、全ての者の目を奪う美しさに、魔法使い、騎士、兵士、貴族までもが魅了される。

 アランはわたくしの手を引いて、その美しい人の元にいく。見れば、筆頭魔法使いの服を着ている。

「リッセル、やはり無事だったか」

「り、リッセル!?」

 わたくしの知っている子爵リッセルではない。もっと、こう、平凡な顔立ちだったような気がする。

 リッセルと呼ばれた美しい人は怪しく笑うと、瞬きをしている間に、わたくしが知るリッセルとなる。

「私の素顔は人狂いを起こすから、普段は偽装しているのだよ。さて、私の皇族、ご命令を」

 リッセルはアランの前に跪き、靴を舐める。その動作一つがあまりにも艶やかで、その場の空気がかわる。

「もちろん、魔法使いどもの妖精全てを盗りなさい」

「御意」

 偽装を外したリッセルは、艶やかに笑い、魔法使いたちを目を向ける。たったそれだけで、魔法使いたちは絶望で顔を真っ青にさせる。

 リッセルはクーデターの中心に立っているであろう魔法使いを手繰るよせると、足元に叩き落とす。

「高位妖精に操られる木偶の分際で、私が守る帝国に、随分なことをしてくれたな」

 その男の頭を踏みつけて笑う。

「貴様は、公開処刑だ!!」

「ほどほどにな」

 アランはリッセルの肩を叩いて、その横を通り過ぎる。

 そうして、アランはクーデターを起こした貴族と一緒にいる皇族を見上げる。

「そうか、片腕、もう、いらないか」

「黙れ!! もう、筆頭魔法使いの守りのないお前には、この場にいる全てが攻撃出来る!?」

 オシリスがそう叫ぶと、アランの足元に首が二つ転がる。わたくしは悲鳴を飲み込んだ。慌てて、リッセルが引き寄せるが遅い。

 筆頭魔法使いサイゼルとヒアートの首だ。苦悶の表情が生々しい。

「守っていた皇族に裏切られたか。気の毒にな」

「これで、貴様も無力だ!!」

「バカか。私には王国最強の妖精憑きリリィの妖精がいる。筆頭魔法使いなんて、関係がない。それよりも高位だ」

「王国が帝国に勝てるわけがないだろう!! いけ!!!」

 わたくしが巻き込まれないように、リッセルがわたくしをアランから引きはがした。

 アランは剣を抜き放って、応戦する。多勢に無勢だ。アランが明らかに不利だ。

 ところが、アランは流れる剣捌きで相手の武器を壊し、人を真っ二つにしていく。

「妖精殺しの剣に、そこらの剣が勝てるわけがないのにな」

 リッセルは呆れたように呟く。

 アランが持っている剣は特別だった。それの前には、武器も、人も、草のようだ。あまりのことに、敵側の士気がどんどんと落ちていく。

 そうして、騎士も兵士も逃げていく。残るのは、貴族と裏切った皇族である。アランは息一つ乱すことなく、裏切り者の皇族オシリスの前に立つ。

「片腕、もう必要ないよな」

「誰か!! おい、いないのか!!! 俺こそが、皇帝だぞ!!!!」

「わかっていないな。皇帝は、筆頭魔法使いが選ぶんだ。お前は、選ばれていない」

 アランは容赦なく、オシリスの残った片腕を落とした。

 目の前で繰り広げられる、容赦ない行為に、オシリスの家族たちは震える。もう、皇族に戦う力はない。貴族によって、そういう教育を削られてしまったのだ。

 アランは容赦なく、裏切った皇族を殺していく。

 結果、残ったのは、両手両足を失ったオシリスである。オシリスを除く親族たちは、アランが全て、斬り殺した。

「見せしめに一人はいるからな。さて、裏切った貴族ども、どうする?」

 逃げ道がない。その先をリッセルが火柱をあげて塞いだのだ。

 リッセルはアランの横に立って、貴族たちを見る。美しいリッセルの姿に魅了される貴族たち。その中の一人がふらふらと出てきた。

「まさか、本物に、会えるとは」

 震える手をリッセルに伸ばす。リッセルはその言葉に訝しむ。

「私のこの姿をどこで見た?」

「肖像画だ。賢帝ラインハルトの最後の女と呼ばれる肖像画を見た」

 狂った目を向ける男。リッセルは呆れたようにため息をつく。

「お祖父様も甘いな。やはり、複製を作られていたか」

 男はリッセルの顔に触れようとする。その手をアランがつかんで止める。

「それに気安く触れられるのは、皇帝のみだ。お前はまだ、皇帝ではない」

「そうだ、契約だ」

 ぎろりと男はわたくしに目を向ける。わたくしからは遠いから、安心していた。

 男から、何かが飛び出してきた。それは、真っ黒な妖精だ。それがわたくしに向かってきたのだ。

 動けなかった。わたくしは、本当に色々と残念だ。

 ところが、真っ黒な妖精は、方向を変えて、誰かの胸を貫いた。

 そこに、もう一人のわたくしがいた。真っ黒な妖精に胸を突かれ、口から血を吐いて、微笑んでいる。

「妖精もまた、過信しすぎだ」

 声はアランのものだった。そして、わたくしだった姿からアランへと姿を戻す。

 真っ黒な妖精は必死になってアランから離れようとする。わたくしのほうへと行こうとするのだ。その妖精の腕をアランは両手でつかんで、さらに、体から離れないようにする。

「ア、アランっ」

 リッセルはアランの所業に驚いて、動けない。

 アランは嬉しそうに笑った。

「このために、私は生まれた。この、最高位の妖精ども全てを命をかけて神の身元に連れていくためにだ!!」

 アランは泣き笑いをした。

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