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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-終劇-
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長期休暇

 夏の長期休暇での移動は一瞬だ。アランの力で、男爵領に一瞬で戻ってしまう。場所は、わたくしが男爵邸で過ごしていた部屋だ。豪勢じゃないそこに、安堵を感じてしまう。王族専用の寮は、居心地が悪かった。

 荷物をタバサにまかせて、わたくしは先に部屋を出るアランについていく。

 てっきり、男爵の元に連れて行かれると思っていたら、そうではない。アランは、開かずの間となっているロベルトの部屋の前に立つ。この部屋に入ったことは一度もない。アランは一度、呼吸をして、考えこんで、しばらくして、ノックをする。

 中から声はしない。だけど、アランには聞こえるようだ。

「父上が、ラキスにも会いたいそうだ。調子がいいんだろうな」

「そうですか」

 アランの父ロベルトの第一印象が、あまりにも哀れなので、入るのに、勇気がいる。外では、あの姿でないといけない、という話だ。家の中では普通なのだろう。

 そうして、アランがドアをあけて、わたくしの手をとって、中へと導いてくれる。

 中は真っ暗だ。カーテンすら締め切られ、ドアから入り込む光りだけが頼りだ。そんな真っ暗な部屋の奥にあるベッドで、アランの母エリカが、両目を眼帯やら布で覆われたアランの父ロベルトを抱きしめていた。

 首、腕、足には拘束具はないが、その顔の半分を隠す布は、異様さを際立たせる。わたくしはつい、アランの服をつかんでしまう。

 アランはいつもの光景なんだろう。気にしていない。それよりも、呆れている。

「母上、父上と話したいので、部屋から出ていってください」

「私の前で話せないことを話すのですか?」

「母上がいると、話が進まないからです。出てってください」

「イヤです。ここで話なさい」

「父上」

 アランがどうしてもエリカを部屋から出したい。だけど、それが不可能なので、アランはロベルトに縋る。

 ロベルトはエリカの顔に手を伸ばす。細くて、折れそうな腕をしている。エリカはその手に頬を寄せ、子どもの目の前でロベルトに深く口づけする。

「もう、仕方がありませんね。アラン、後で確認しますからね。隠し事は許しません」

「はいはい」

 たったそれだけで、エリカは部屋から出ていく。

 エリカは部屋から出て行くときにドアが閉められてしまったので、部屋は真っ暗となった。それも、しばらくして、勝手に部屋にある蝋燭に火が灯される。アランもロベルトも動いていないのに、全ての蝋燭が同時にだ。

 アランは、わたくしをベッドの近くにある椅子に座らせてくれた。ロベルトをここまで近くで見るのは、初めてのことだ。長いこと、このような状態なのだろう。やせ細っている。アランはそんなロベルトを正面から抱きしめる。それに答えるように、ロベルトの腕が動いた。

「お話があります。明日、国王とリスキス公爵が男爵領に来ます。表向きは、私とラキスと遊ぶ約束ですが、そこに、国王とリスキス公爵がお忍びでついてきます」

 しばらく、無言が続く。ロベルトの声はわたくしには聞こえない。アランには聞こえているようで、目を閉じて、考えこんでいる。

 しばらくして、アランはロベルトから離れた。

「それは、楽しみですね。明日は、私が手をふるいます」

 ロベルトはアランの頭を撫でる。それをされて、アランはとても嬉しそうに笑う。ロベルトの前では、アランは年相応の顔をする。

 そして、ロベルトはわたくしのほうを見るように顔を向ける。アランは、わたくしの手に、ロベルトの手を乗せる。

「あの、こんにちは、ロベルト」

 何か聞こえるかな、と一生懸命、耳を傾けても、何も聞こえない。ロベルトは、会話をしているようだが、わたくしが挨拶だけで、その先を何も言わないので、悲し気に、口元を歪めた。

「父上、国王陛下とリスキス公爵とは、いっぱい、話してください。たまには、家族でない人と話すのがいい」

 アランはわたくしの手からロベルトの手を離した。わたくしには聞こえないけど、きっと、国王陛下とリスキス公爵には、ロベルトの声が届いているのだろう。

 わたくしは、つい、手を見つめてしまう。わたくしには、何かが足りないのだ。

 そうして、長いようで短い、ロベルトとの挨拶を終わらせ、わたくしはアランと部屋を出る。

 そして、ドアの前で待ち構えているエリカに遭遇する。

「アラン、全て話しなさい。隠し事はすぐ、わかりますから」

「まず、男爵に挨拶です。そこで話します」

「ここで話してください。ロベルトと離れたくありません」

「男爵に挨拶するのが先です。母上、いくら男爵が甘いからといって、礼儀のなっていないことを父上は嫌いますよ」

「………わかりました」

 エリカはどうしてもロベルトに嫌われたくなくて、アランに従った。

 やっと、わたくしは邸宅の主である妖精男爵に帰省の挨拶をした。それから、アランは、ロベルトに話したことをそのまま、妖精男爵とエリカに話した。

「それは大変だ。明日だなんて、準備が間に合うかな?」

「明日の料理は私がします。それが一番、無難でしょう」

「許しません!!」

 妖精男爵とアランが明日のことを話し合い始める横で、エリカは激怒する。

「アインズとセリムを迎えるなんて、絶対に許しません!!」

「母上、相手は国王とリスキス公爵ですよ。そんな呼び捨ては」

「知りません!! あの二人は、何事かあると、ロベルト、兄上とべったりして。せっかく、縁を切ってやったというのに、アランがまた、繋げるから」

 エリカはアランを睨んだ。何か、アランはしたのだ。

「いつまでも、手紙のみでは気の毒でしょう。国王もリスキス公爵も、父上のことを慕っています。父上だって、ずっと邸宅内ばかりでは、可哀想です」

「それでいいのです!! 余計なものをいれたら、ロベルトが外に出たがるではないですか!!!」

「出してあげましょうよ。父上が出たい、と思えば、もっといい方法で出られるようになります。私も協力します」

「出なくていいんです。ロベルトは私のものだというのに、すぐ、外野がやってきて、奪おうとする。お祭りの時なんか、セリムはロベルトを私の目の前で誘拐しようとしたのですよ!!」

「あの姿では、仕方がありません。我々が普通でも、外野は普通じゃないですから」

「アインズなんて、ロベルトを魔法使いとして城に閉じ込めようとしたのよ!?」

「王国としては、力ある魔法使いは欲しいのだから、仕方ないでしょう」

「甥っ子がいるじゃない。あの、私よりも格の低い妖精憑きが!!」

「ポーにそんなこと、絶対に言わないでくださいよ。ポーは負け続きで、かなり打ちのめされてますから」

「知りません!! ともかく、許しません。来たって、面会拒否です」

 エリカは下がらない。それどころか、強気だ。

 身分的には、国王陛下とリスキス公爵が上だ。エリカは平民以下だという。だけど、エリカの実際の身分は帝国の皇族だ。帝国に行き、筆頭魔法使いの前に立てば、命令まで出来るほどの血の濃さがあるという。

「まあまあ、エリカ、まずは、ロベルトの意見を聞こう」

 妖精男爵は、エリカの激昂をまるで気にせず、普通のことをいう。

 エリカは、妖精男爵には強く出れないようだ。口答えをしない。だけど、もの言いたげにアランを睨む。

「ロベルトと話せるのは、アランとエリカだけだ。僕が話しても、ロベルトの返事は聞こえないから、意見、聞けないんだけどね。本当に、情けない兄ですまない」

 人の良い顔を悲し気に歪ませる妖精男爵。ロベルトと妖精男爵は兄弟だというのに、意思疎通は一方通行だという。

「父上は会いたいと言ってました。お祭りで会えたことは、やっぱり嬉しかったそうです。無理してでも、約束を取り付けて良かったです」

「余計なことをして」

「母上、もう、ほどほどにしてください。父上は母上のことを愛していますよ。ずっと側に置いて、申し訳ないとすら思っています」

「好きで側にいます。離れたくないのです。ロベルトの全ての面倒を私がみてあげたいのです。そこに、束縛という見返りを求めているだけです」

「………」

 とんでもない執着だ。エリカは口でも堂々と、ロベルト自身を束縛する、と公言している。それには、アランも呆れてしまう。

「子どもが六人もいるというのに」

「七人目も頑張ります」

「妹がいいです」

「そこは、神の思し召しです」

 とても子どもが六人もいるとは思えない美貌と姿で平然というエリカ。アランはもう、諦めて、軽く話に乗った。

「次は、アランのような子かな? それとも、普通の子かな?」

 とんでもない話なのに、妖精男爵は軽く話に割り込む。エリカはその質問で少し考え込む。

「まだ、お腹にいませんので、わかりません。出来ましたら、教えます」

「男の子でも女の子でも、元気な子であればいいよ」

「そうですね」

 家族が増えるかもしれないことを普通に喜ぶ妖精男爵。そこだけ、平和だな、なんてわたくしは感じてしまった。





 わたくしとエリカは部屋に戻ることとなった。わたくしの横を歩くエリカ。本当に綺麗な人で、ついつい、見つめてしまう。

「あれから、アランはきちんと、あなたに本音をいうようになりましたか?」

「本音、なのでしょうか」

 ずっと、甘い言葉を甘い顔で言われているが、それを本音とは感じていない。

 エリカは、アランに説教でもしたのだろう。だけど、アランの態度も言葉も変わっていない。

「おかしいですね。アランには、きちんと本音を言いなさい、と私から叱ってやったのですが。アランは、ラキスのこと、とても愛していますよ」

「どうでしょうか。だって、アランはわたくしに寄ってくる悪い妖精を捕まえるのが目的だって」

「それもラキスを愛する一つの理由です。いけませんか?」

「悪い妖精を捕まえるための、エサ、ですよね?」

「悪い妖精がいなくなったら、結婚すると聞きましたよ。もしかして、ラキスはアランと結婚しないのですか!?」

「アランから、そういう話を聞いていますが、その、信じられなくて。だって、わたくしに、そういう価値がないように思えて」

「エリシーズも、妖精憑きでないことに縛られすぎです。だから、妖精に操られてしまったのです。妖精憑きであっても、良いことなんて、何もないというのに」

 エリカは、血の繋がりのある双子の姉妹である女帝エリシーズの様子を妖精を通して見ていたのだろう。呆れたようにいう。

「妖精はいいものではありません。見えたり聞こえたりすることは、色々と惑わされます。妖精の力を使えることは、勘違いをさせてしまいます。だから、無力な人のほうが、生きるには、楽なんです」

「でも、妖精憑きであれば、妖精に操られることもなかったと、思います」

 皇族たちは全て、妖精に操られて、わたくしを城から排除しようとしていた。それも、力のある妖精憑きがいれば、防げたはずだ。

 恨み言を言っても仕方のないことだが、ついつい、そう考えてしまう。力のあるアランのお陰で、今のわたくしがある。逆に言えば、近くに、アランのような者がいれば、わたくしは違った道を歩いていけた。

「アランもロベルトも言っていたわ。妖精憑きは自らの力に過信しすぎるって。きっと、逆よ。妖精憑きは、ダメなのよ。ほら、王国の妖精憑きの女の子、あの子なんて、本当に酷かったのよ」

「アンティは、そういえば、こちらにいるのですよね。どうしてますか?」

 妖精憑きアンティは、アランの罠にはまって、妖精と契約し、その身柄を男爵領に送られた。その先をわたくしは知らない。

 イヤな話、アンティの話題が出なければ、わたくしは存在すら忘れていただろう。忘れていたこと自体、驚いた。

「地下牢にいるわ。ほら、あなたを狙う妖精と契約してしまったから、妖精ごと、閉じ込めているのよ。ダメね、あの子。嘘ばっかりつくから、すっかり、妖精の格が落ちてしまったわ。妖精も可哀想に」

「………そうですか」

「気にしてはいけない。こういうのは、あるがままだから。私たち人は、所詮、神と妖精に生かされているのよ。恩恵と感謝を忘れてしまうと、あんなふうになってしまうわ。ラキスは、それを忘れないでね」

 わたくしが不安に見えたのだろう。エリカはわたくしを力いっぱい、抱きしめてくれた。

「ありがとうございます」

「アランのこと、信じてあげて。アランはね、本当にラキスのこと愛しているのよ。帝国に行くと決まって、もう、興奮していたんだから。船で行くというのに、魔法具使って行こうとしたくらい、待てなかったんだから」

「………はい」

 でも、言葉では受け入れても、心の底では信じられない。

 わたくしを狙う悪い妖精がいなくなった時に、全てははっきりする。それはそう遠い未来ではない気がした。





 次の日は、早朝から賑やかだった。わたくしは外の賑やかさに起こされた。窓から外を見れば、豪勢の馬車と荷馬車が邸宅の前に停まっていた。

 アランは言っていた。手土産は持ってくるな、と。だけど、すでに用意されている手土産は止められなかったのだろう。荷馬車の数は、相当なものだった。

 早朝といえども、アランは身なりをしっかりして、出迎えていた。わたくしは慌てて着替えて邸宅の前に出る。

「ごめん、こんなに朝早くで」

「どうせ、リスキス公爵邸に密偵つけて、出発を狙ってたんだろう。もう、ほどほどにすればいいのに」

 ポー殿下の謝罪をアランは軽く受け流す。貧乏な領地なので、朝がはやいのは普通だ。領民も邸宅の使用人たちも、すでに動いている。

 男爵領に来る前から、時間という概念から抜けて生きていたわたくしは、この早朝はきつかった。リスキス公爵の場所に行けば、半分、寝ているようにあセイラが馬車から降りてくる。

「部屋で休んだほうがいいですね。わたくしの部屋でよければ」

「い、いえ、邸宅に一番乗りは絶対にいけないわ」

 セイラは玄関の前で睨み合う国王陛下とリスキス公爵を見ていう。もう、戦いは始まっているのね。

 荷馬車の数はなかなかだ。この荷物のほとんどが、手土産だという。アランはさっさと手土産の一覧を受け取り、使用人たちに指示を出す。

「これほどのもの、どうするのですか?」

「傷むものは領民に分け与える。そうでないものは、一度、地下に保管だな」

 一覧に簡単な走り書きをして、アランは使用人に全て丸投げした。こういうこともさっさと決めてしまえるアランはすごい。

 使用人たちと領民たちに丸投げしてから、アランは国王陛下とリスキス公爵の元に行く。

「先日は、不在で、大変失礼しました」

 アランは臣下の礼をして、二人に挨拶をする。

 睨み合っていた国王陛下とリスキス公爵は慌てる。

「そんな、ロベルトの息子が、膝をつく必要はない。ロベルトは、私の友だ。お前は友の息子だ」

「ロベルト義兄上は、実の兄のような人だ。お前は甥のようなものだ。膝をつかないでくれ」

「ありがとうございます。父上も、昔の友と、可愛がっていた弟にめぐり合えて、とても喜んでいました。今日はゆっくりしてください」

 アランの父ロベルトが喜んでいる、という言葉に、国王陛下とリスキス公爵はぱっと笑顔になる。だけど、お互い、顔をあわせると、すぐに不機嫌だ。

 それを見ていて、わたくしはため息しか出ない。

「ごめんなさいね、ラキス。お父様ったら、もう、子どもみたいで」

「そうじゃないの。アランの周りにいる友達は、きっと、こうなのよ」

 わたくしはちらっとポー殿下を見る。ポー殿下はアランにべったりだ。

 セイラはポー殿下とアランを見てから、国王陛下とリスキス公爵を見て、わたくしが言いたいことを理解した。

「アランって、存在自体は恐ろしいのに、ポー殿下に随分と好かれているわね」

「きっと、将来は、ポー殿下が男爵領に押し入ってくるのよ」

 その将来が目の前である。アランの甘い言葉と顔は、疑って見ないといけない。

 誰が先か、などと争いが起きそうなところをアランが玄関を全開に広くあけて、問題解決をした。部屋の案内は使用人たちである。

「中は使用人で大丈夫なのですか?」

「私がやってはいけない。今の私は、息子娘の友達だ。息子娘の親や親族の扱いは、男爵か父上だ。父上は動けないから、男爵なのだが、そうはならないだろうな」

 わたくしは礼儀とかの上で心配したのだが、アランは別の心配をしていた。

 邸宅に踏み込んですぐ、アランの母エリカがやってきたのだ。

「早朝から騒がしいこと。ロベルトの安眠を邪魔するとは、本当に失礼な男たちね」

 一番の難敵である。国王陛下とリスキス公爵は、ロベルトの愛を勝ち得たエリカと対峙した瞬間、敵対関係でなくなる。

「ロベルトの役に立つ道具をすぐ、持ち込みたかったからな」

 アランが一覧を再確認する。

「ベッドか。確かに、母上がいつも抱き起こしていては、大変だろう」

「大変ではありません!!」

「仕掛けで背もたれのようになるそうです。ありがとうございます、国王陛下」

 エリカの言葉など無視して、アランは喜んだ。よいものなのだろう。

「義兄上の好物を持ってきた。ここでは手に入らないものだ。すぐにでもお出ししないと、義兄上も悲しむだろうな」

 食べ物関係は領民にふるまうこととなっている。アランは慌てて、父ロベルトの好物はどれか、と探すが、わからないようだ。

「どれか、教えてもらっていいですか?」

「これだよ。義兄上は私に譲ったりしていたが、実は、これが好物なんだと後で使用人たちに教えられた」

「なかなか、高級な菓子なのでしょうね。そうか、父上はこういう菓子が好きか。ありがとうございます」

 荷物の中からロベルトの好物だという菓子が入った箱を出して、アランは嬉しそうに笑う。アラン、本当にお父様のこと大好きよね。

「お二方とも、ありがとうございます。母上、はやく父上の元に運んであげましょう。父上も喜びますよ」

「………わかりました」

 不承不承とエリカは頷く。

「ベッドの移動は手伝おう」

「私も手伝おう」

 ついでに、ロベルトに会いたいのね。高貴な二人が名乗り出てくると、ついてきた使用人や騎士たちだって動かないわけにはいかない。

「ベッドは母上の妖精がぱっと運びますよ。そうだ、父上のベッドの移動を手伝ってください。動くと、大変ですから」

 アランが先に立って、国王陛下とリスキス公爵を案内する。それをエリカは忌々しいと睨むも、目の前にベッドが運び込まれてしまったので、ぱっと魔法で消してしまう。

「もう、アランは、どっちの味方なのですか!?」

 エリカはそう叫んで、邸宅に入っていく。

「僕は、友達の領地に遊びに来ただけなんだが」

 ポー殿下は、あけ放たれたままのドアを見て呟く。表向きの目的はそうだが、裏では、国王陛下を男爵領に連れてきて、あわよくば、ロベルトと面談出来ればいいな、なんて話だろう。

「お父様、いつもはあんなに冷たい人なのに」

「そうなのですか?」

「お菓子だって、公爵家の娘が食べるものではない、と買ったりしません。なのに、アランのお父様が好物だからと、お父様がわざわざ買いに行ったのですよ!」

「………」

「しかも、わたくしにアランの兄の誰かと結婚したらどうだ、なんて言い出したのよ。娘をなんだと思っているのよ!?」

 リスキス公爵は、ロベルトとの関係をもっと深くしたくて、セイラを巻き込んだ。言われたセイラは怒りしかない。

「貴族の婚姻は、家と家との繋がりといいます。妖精男爵は、男爵ですけど、信用という意味では、とても大きい家柄です。欲しいという貴族は多いでしょうね」

「わかっています!! そうであれば、わたくしだって納得します。でも、お父様が欲しいのは、アランのお父様の繋がりです」

「それは、イヤなことなの? それとも、セイラは結婚を考えている人が別にいるの?」

「………」

「でも、セイラはもしかしたら、ずっと独り身かもしれないのよね。セイラが将来どうなっても、わたくしは応援をしますよ」

「………ありがとう」

 セイラはわたくしに抱きついてきた。

 貴族は大変だ。わたくしは皇族だから、血筋が大事なだけだ。貴族は血筋だけでなく、家と家との繋がりだ。リスキス公爵は特別な血筋だ。王族の血が下手な王族よりも正当性が高いという。だから、結婚というものは、そう簡単に決められるものではない。

「せっかくなので、アランのお父様の部屋、見に行ってみましょう」

「いいのかしら」

「友達の家に遊びに来たのですから」

「そうね」

 そうして誘ってやれば、セイラとポー殿下も邸宅に入った。

 三階のドアがあけ放たれたままを覗き込めば、ベッドが入れ替わっていた。妖精の力ってすごい。

 わたくしが入った時は外の光り一つ入らないように締め切られていたのに、カーテンはあけ放たれいた。

 ベッドには、アランの父ロベルトの姿があった。あの目を覆っていた恐ろしい布は外されていた。穏やかに笑って、椅子に座る客人二人を見ている。

「父上、あまり無理しないでくださいね。母上は、出て行ってください」

「い、イヤっ!」

「わかっているのですか。妖精の力は私のほうが上ですよ」

「アラン、ひどい! お腹を痛めて産んだ母を裏切るの!?」

「産んで、父上と母上に合わせてくれて、ありがとうございます。感謝していますよ。感謝していますから、一緒にお茶でも飲みましょう」

「……もう、わかりました」

 何か、ロベルトに言われたのだろう。エリカは大人しく、アランに従った。

 そうして、ロベルトの部屋のドアは固く閉ざされた。

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