長期休暇前
学校も、最初は色々とあったけど、長期休暇が近づいてくる頃には落ち着いてきた。
妖精憑きアンティが起こしてしまった災事は、妖精の契約により口外が出来ない。それは妖精の力による強制力であるため、関わった貴族たち、教師たちは、口に出そうになっても、声すら出ない。紙にも残せない強制力に、妖精憑きという存在の恐ろしさを身に染みてしまい、結果、王族ポー殿下を見直す結果となった。
アンティがいる頃は、妖精憑きは身近な存在ではなかったので、それほど恐れられていなかった。アンティは妖精の力で傷つける程度だけど、その被害にあっているのは、妖精男爵の養子アランだけだ。アンティは悪用という悪用は、生徒たちに実はしていない。だけど、妖精憑きの力の悪用の成れの果ては、恐怖を与えた。
神の教えを守らないことは、妖精憑きとしても許されない。
だけど、アンティに罰を与えたのは神ではない。妖精憑きでもない。妖精男爵の養子アランだ。
アランは常に、妖精憑きではない、と公言している。なのに、魔法が使える。その得体の知れない存在に、自然と、アランは遠巻きに見られた。
アラン当人は気にしていない。今日も、わたくしがいる教室にやってきては、パリスを詰問している。
「今日は、私の妖精姫に男は近づいていないだろうな?」
「もちろん、近づいていません」
「シャデランめ、席の近くに男を置こうとするとは、本当にわかっていないな。席が近いというだけで、間違いが起こったらどうするんだ」
「起こりません!!」
妙な嫉妬心を見せるアラン。自らの我儘で、席替えまで口を出し、結果、わたくしの近くに座るのは、女子のみに固められた。しかも、わたくしに関わるとアランに関わることとなってしまうので、激しい席の譲り合いで、恐ろしいこととなっていた。結果、身分も立場も低い、可哀想な貴族の娘が、わたくしの席の近くに座ることとなった。
アランは深いため息をついて、わたくしの髪に触れる。帝国では酷い状態だった髪も、男爵領に来てから、贅沢だろうと思われる香油等を使われ、もう、綺麗だ。本当は、こんなに綺麗な髪質だったんだ、とタバサとパリスの前ではしゃいでしまった。それから、アランはわたくしの髪をことあるごとに触れる。
「わかっていないな。ラキスは日に日に美しさを取り戻している。帝国では扱いが酷く、あのような姿ではあったが、それでも、美しさはあったんだ。失われた美しさを全て取り戻されれば、私は捨てられるな」
「もう、そんなこと、あり得ません!!」
「嬉しいことを言ってくれる。一日もはやく、妖精狩りを終わらせて、結婚しよう」
「っ!?」
人前で、堂々というアラン。ここで、”妖精狩り”という単語さえなければ、完璧なのに。
顔が真っ赤になってしまうが、頭の片隅では冷静だ。どうせ、アランにとっては、わたくしは悪い妖精をおびき寄せるためのエサなんだ。
わたくしの一族は、神に物凄く愛されているという。その神様のために、一日でもはやく魂を送ってやろう、と妖精が寿命を盗るのだ。一族は今、わたくしと、帝国の子爵リッセルの二人だ。一族を滅ぼすわけにはいかないので、どちらか片方は生き残ることとなっている。リッセルは、寿命を盗るのが難しいらしいので、比較的楽なわたくしの寿命を妖精が狙っているのだ。
アランは、わたくしの寿命を盗ろうと近寄ってくる悪い妖精を狩ることを楽しんでいる。婚約の申込も、囮となるわたくしを縛るためだ。
この、甘い笑顔と声に騙されてはいけない。アランは、ただ、悪い妖精を狩りたいだけだ。
近くで聞いていた爵位の低い貴族の娘たちまで、顔が真っ赤だ。誰だって、一度は、こんなこと言われたいだろう。だけど、真意は別にあるのを誰も知らない。
「さっさと教室に戻れ」
中間クラス担当となったシャデランが出席簿をアランの頭にぶつけていう。
「私も中間クラスになりたいな」
「成績落としたら、妖精男爵に通報してやる」
「いいじゃないか! 私はどうせ、男爵位だし、社交だって必要ない。成績なんて、関係ない」
「同じこと、ロベルトの前で言えるか?」
「………」
実の父の名に、アランは瞬間、機嫌を悪くする。わたくしの髪を指先でいじって、黙り込んだ。アランにとって、父ロベルトは、絶対に逆らえない人だ。
離れがたい、みたいにわたくしを見て、でも、シャデランが容赦なく出席簿で突いてくるので、アランは教室から出ていった。
シャデランはアランがしっかりと上級クラスのほうに向かって行くのを確かめてから、ため息をつく。
「妙な所で子どもだな。あまりしつこいようなら、言いなさい。妖精男爵に通報してやる」
「いいえ、大丈夫です。ただ、ちょっと、こういうのは慣れていないので。帝国では、これとは真逆の扱いでしたから」
「噂では聞いている。だが、それも妖精のせいだったんだろう。諸悪の根源である妖精は、アランが支配している。もう、帝国では、お前のことを悪く扱う者はいないだろう」
「まだ、自信がありません。まずは、しっかりと勉強します」
「令嬢として勉強したいなら、俺の生家に頼んでやろう。妖精憑きリリィも、俺の生家で勉強した」
「そうなのですか!? アランに聞いてみます」
「奴は絶対に許可しないがな」
「………」
「どうしても、というなら、妖精男爵に俺から声をかけておく。アランには相談しても無駄だ」
「わかりました」
アラン、どこまでわたくしを囲って、束縛するのやら。
でも、今まで、わたくしは流されて、耐えてばかりの生き方だったので、アランの束縛は苦痛ではない。ただ、いつか見捨てられてしまうんじゃないか、そればかり考えてしまう。
どうすればいいのか? その答えは、まだ見つかっていない。
数少ない知り合いと呼べるのは、リスキス公爵の末娘セイラだ。今日はセイラに昼食のお誘いがあったので、生徒会役員が使う部屋に行く。
その部屋を使うのは、だいたい、上位貴族ぐらいだ。生徒会役員といえども、下位貴族は、友達と食事をしたりするので、あまり使わない。そのため、上位貴族ばかりだ。
わたくしは皇族なので、上位貴族よりも上なのだが、まだ、そういうものには慣れていないので、どうしても、下座に座ってしまう。それを強引にセイラが引っ張って、王族であるポー殿下の隣りに連れていくのだ。
「もうすぐ夏の長期休暇だけど、ラキスは帝国に里帰りでもするのかな?」
教室でも、その話題で持ち切りだったからか、ポー殿下から聞いてきた。
わたくしは相変わらず、体に優しいパリス特製のお弁当を食べながら答える。
「アランからは、何も。そうしたほうがいいでしょうか」
「アランに聞いたら、里帰りの話は消し飛ぶよ。絶対にさせないから」
「でも、帰る場所は帝国ですし」
皇族なので、そういう考えは当然だった。
「男爵領があるじゃないか」
「でも、長くお邪魔するのも悪いです。わたくしはまだ、婚約者の身ですから」
貴族の学校に通って、色々と学んだ。わたくしは、まだ、立場的には、アランの生家でお世話になるわけにはいかない。
「将来は結婚するんでしょ? アラン、そう言ってるじゃない」
「アランの目的は、別にあります。目的が達成されたら、わたくしは必要なくなりますから」
「そうかしら」
セイラはじーとわたくしを見つめる。セイラはわたくしの立場をまだ詳しくは知らない。だから、アランの言葉をそのまま受け止めているのだ。
「アランのあの執着は昔からだからね。着実に外堀を埋めているから、用無しにはならない」
ところが、事情を知っているポー殿下まで、セイラの味方である。
「そうだとしても、正しい距離をとりたいです」
だけど、わたくしは逃げに入る。裏切られる日々を送っていたのだ。アランに裏切られたら、もう、耐えられないだろう。だから、わたくしは帝国に一時帰国しよう、と考えていた。
わたくしがそう決意を固めているところに、ポー殿下はため息をつく。
「困ったな。ラキスを理由に、妖精男爵の所に遊びに行こうと計画してたんだけど」
「アランに頼めばいいではないですか。ポー殿下だったら、喜んで、遊びますよ」
「いやいや、アランは遊ばない。領主代理だから、ずっと領地では働いている。長期休暇は、ずっと、屋敷にいないよ」
「そうなのですか!?」
てっきり、長期休暇はゆっくりのんびりと過ごしているものと思っていた。
だけど、わたくしが男爵領に来た頃は、確かにアラン、ずっと家にいなかった。手が空いたりすると、あの汚れた服でわたくしの様子見に来るだけだ。食事だって別々だ。
あれ、わたくし、男爵領にいても、アランとは、物理的に距離をとれてしまっている。ただ、言葉の上では距離をとれていないように思われるだけだ。
「わたくしも、長期休暇で、男爵領に遊びに行きたいのですが」
セイラまで言ってくる。
「では、わたくしからアランに頼んでみましょう。何か、視察とか、後学のため、とそれらしい理由をつければ、アランだって、受け入れてくれます」
「まずは、それ以前のことだ」
「ラキスは知らないのね、妖精男爵領のこと」
ポー殿下とセイラは、妖精男爵の領地について語った。
妖精男爵と呼ばれるきっかけとなったのは、血筋に二人もの妖精憑きが誕生したことが確認出来たからだ。
一人目は、王国では有名となった、最強最悪の妖精憑きリリィだ。伯爵一族を領地ごと呪い、悪名が高くなってしまった。最近まで、元伯爵領は人が住めない領地であったのだが、伯爵一族が滅んだのか、領地は元に戻ったという話だ。
二人目は、リリィの娘エリィだ。エリィは生まれながらの妖精憑きでありながら、男爵家の教えをリリィから受け、妖精憑きとしての力を一切、悪用しなかった。エリィはリリィの美しさをそのまま受け継いでしまい、長いこと、男たちの慰み者にされてしまうも、妖精憑きの力を抑え込んだという。
妖精憑きでありながら、二人は不幸となった。あまりに不幸な身の上は、いつか、王国を滅ぼすかもしれない。それを恐れた国王は、二人もの妖精憑きを産み落とした男爵を名持ちの妖精男爵としたのだ。お陰で、妖精男爵に悪さをする者たちは減った。
完全になくなったわけではない。やはり、妖精男爵に悪さをする商人や貴族はいる。人が良い妖精男爵は、すぐに騙されてしまう。
そんな妖精男爵を神の遣いである妖精たちが、とうとう、守り出した。妖精男爵の領地には、悪意ある者は一切、出入りできなくなったのだ。
妖精男爵の領地への案内の看板はある。その通りに進んでも、また、看板の場所に戻されてしまう。悪意ある者を妖精は領地に通さなくなったのだ。
妖精男爵との取引は信用にまで繋がる。逆にいうと、取引が出来ない商人、貴族は信用されないこととなった。この事に、商人も貴族も戦々恐々となった。何せ、妖精男爵との取引一つで、立場がかわるのだ。必死に取引しようとするが、どうしても出来ない。
そこで、貴族たちも商人たちも、人を使った。ともかくたくさんの人を男爵領に送り、きちんと到達した者を雇い、取引をしたという。
その話に、わたくしはなんともいえない。
「ポー殿下は妖精憑きですから、男爵領に行けますよね」
「行けるよ、行ける! けど、今度は無理かもしれない」
ポー殿下、何か不安なことがあるのだ。行けなくなるかもしれない、何かをしようとしている。
「わたくしは、一度も行ったことがないので、行けるかどうか」
「でも、セイラのお父様はアランのお父様と義理の兄弟のような関係ではないですか」
「父は、手紙のやり取りだけなの。面会は全て、お断りされているのよ」
アランの父ロベルトは、領地から出られない立場だという。面会は王族でさえ断られているというので、セイラの父リスキス公爵が面会を拒否されるのは、仕方がないことだ。
「まずは、アランに聞いてみましょう。話を聞いてみると、わたくしが理由でも、男爵領に入れるとは限りません」
「行けるよ、絶対に。ラキスと会う約束なら、妖精も妨害しない」
「だったら、アランと約束すればいいではないですか。わたくしが男爵領にいるとは限りませんし」
「………言いづらい」
ポー殿下、アランに対してだけは弱気だ。いつもは自信満々なのに。
セイラは、そこまでアランと仲良くない。だから、頼るのはわたくしだ。
「パリス、どうすればいいですか?」
わたくしよりも頼りになるのは、妖精男爵の使用人パリスだ。パリスは今、わたくし付きの使用人だけど、根本は妖精男爵の使用人だ。ここの話は、パリスがアランに報告するのは、目に見えている。
「まず、一つ、ラキス様の帝国への里帰りはありえません。アラン様から、男爵邸の部屋を整えるように、使用人たちが命じられています」
「そうなのね」
相談する以前に、アランの中では決定事項にされている。
それを聞いたセイラは、ものすごく退いている。
「ラキス、イヤならイヤって言わないといけないわ。夏の長期休暇中に、既成事実的なこと、されてしまいますよ」
女性として、セイラはわたくしに忠告する。
「まさか、アランはそんなことしません」
「ああいう男はするのよ!! 絶対に!!!」
「わたくしに、そこまでの魅力はありませんよ」
まだまだ、体は細い。セイラのように胸だってない。そこは、あれだ、きっと、一族全てがそうなのだと思いたい。母も胸はささやかだった。
つい、自らの胸を触って、セイラのいい感じの胸を見てしまう。うん、ないな。
「気づいていないようだけど、ラキス、どんどんと綺麗になっているのよ!! 気を付けないと」
「大丈夫です。アランの婚約者であるわたくしに、嫌がらせのようなする人は、もう、いません」
「そうじゃなくて、その自己評価の低いところ、やめたほうがいいわ」
「………ずっと、こうでしたから、今更、直せません」
帝国での扱いは酷かった。ちょっと良くなったからといって、すぐに自信を持てるわけではない。
セイラはわたくしの身の上を調べたのだろう。それ以上、強くは言わない。
わたくしとセイラの話が一段落ついたところで、パリスは話を再開する。
「もう一つは、アラン様は学校に通われているということで、領のお仕事を減らすこととなりました。遊ぶ約束は可能です」
「よし、アランに相談しよう」
ポー殿下は少しだけ浮上した。アランが長期休暇で時間がとれるのを喜んでいる。
いつも働いてばかりいる印象が強いアランが休むというのは、想像出来ない。少しは時間がとれる、という話に、わたくしも嬉しく感じる。
「ですが、ポー殿下はお約束がなくても、領地をこれまで出入り出来てたではないですか。今更、お約束の必要性はないと思いますが」
パリスは男爵領の使用人として長いので、わざわざポー殿下がアランと約束をとることに疑問を持つ。
途端、ポー殿下はおもいっきり顔を背ける。この約束をとらなければいけない理由が、きっと、邪まなことになるのだろう。
黙っていても、アランはパリスと同じように質問するだろう。ポー殿下は仕方なく、白状する。
「実は、国王である伯父が、お忍びで、ロベルトに会いに行く口実を作ってほしい、と頼まれたんだ」
「ポー殿下もですか!? わたくしも父に頼まれたのです。どうにか、男爵領に入る口実を作ってほしいと!!」
二人とも、わたくしを利用して、とんでもないことをしようとしていた。
ポー殿下の伯父は国王陛下、セイラの父は貴族の中の王族リスキス公爵だ。こう並べると、接点は王族くらいなのだが、裏では、アランの父ロベルトをどうにか囲い込もうと画策しているのだ。
国王陛下は、若い頃、第一王子時代では、ロベルトを側近としていた。ロベルトが身分も過去も捨てて、男爵領に落ち伸びてしまったが、国王陛下はどうにか繋がりを持とうと、手紙のやり取りをしているという。
リスキス公爵が幼い頃、ロベルトが養子と入って、兄弟と仲が良かったという。ロベルトは、男爵家では末っこだったため、新しく出来た義弟をそれはそれは可愛がったとか。リスキス公爵も、ロベルトのことを尊敬する義兄として慕っていた。ロベルトが男爵領に落ち伸びてしまったが、それでも、手紙のやり取りを続けているという。
話だけを聞けば、良い話である。しかし、この二人とついでにロベルトの妻エリカは、ロベルト一人を取り合い、大喧嘩をしたのだ。
結局、ロベルトが仲裁で事をおさめたが、国王陛下もリスキス公爵もロベルトのことを諦めていない。
ポー殿下とセイラは気まずい、みたいに俯く。もう、わたくしを直視出来ないだろう。だって、完全にわたくしを利用しようとしたのだから。
話を聞いていた他の生徒会役員は、大事だとは思っていない。ただ、話を聞き流しているだけである。言いふらされたって、別に、問題のない話だ。
事情を少しは知っているわたくしにとっては、大事である。これは、わたくし一人では手に余る話となった。
わたくしはパリスを見る。パリスはもう、全て、アランに話す気満々だ。
放課後になると、アランが教室にやってきた。いつもの、お迎えである。
「もうそろそろ、試験の結果が貼りだされるな。結果が良ければ、上級クラスに移籍しよう」
「そういうこと、言わないでください。結果が悪かった時、ものすごく落ち込みます」
「それはそれでいい。次の結果が良くなるように、一緒に勉強する口実が出来る」
「っ!?」
どこまでも、甘い顔、甘い声でいうアラン。もう、勘違いしちゃいます!!
わたくしから言い出さなくても、パリスは昼食時のことをアランに耳打ちする。アランは呆れた顔をする。
「また、面倒臭いことになっているが、先に情報がくることは、僥倖だ」
「怒ったりしないのですか?」
「何もなしで、国王や公爵が突然、領地に来られるのは、色々とまずい」
「入れなかった場合、立場がありませんものね」
「入れる。父上は、国王と公爵をそういう対象から除外している。教えていないだけだ」
「教えてください!!」
「教えたら、直接来てしまうだろう。だから、あえて、黙っているんだ。立場が上である者ほど、男爵領に入れないことは、大問題だからな。自然と、入れる使者を使うようになる。お互い、立場もあるのだから、距離感は大事だ」
アランの父ロベルトなりの配慮だろう。
ロベルトは今、身分がない。一度、死んだものとされているので、平民というよりも、貧民だ。その身分も、男爵領では紙切れのようなものだ。だけど、男爵領より外は、そうではない。ロベルトと関わることは、国王陛下やリスキス公爵にとって、良くないのだ。だから、ロベルトのほうから、距離をとっているのだ。
そういう話をしていると、わたくしにあてがわれた寮というよりも、別邸に到着する。王族や高位貴族しか許されないそこで、アランとはお別れだ。
ところが、アランはパリスに耳打ちして、使いに出して、寮に入っていく。
「ア、アラン、どうしたのですか?」
「そういう問題は、今日中に片づけよう。ポーとセイラを呼びに行かせた。タバサ、給仕は私がやる。手を出さないように」
アランは部屋に入るなり、台所に立って、何かする。タバサはわたくしの側に立って、アランがやることをただ見ている。
しばらくして、パリスに連れられたポー殿下とセイラが部屋に入ってきた。
「これが、王族専用なのね。わたくしのと、変わらないわね」
セイラは同じような別邸のようだ。普通に入ってきて、わたくしの前に座る。
「女性だから、内装が違うね。今日はアランが給仕なんだ。楽しみだな」
ポー殿下も王族専用の別邸だが、中身は違うという。
そうして、アランが給仕をして、わたくしの隣りに座ったところで、話を進めることとなった。
「まず、国王と公爵が来るなら、同日にしてもらいたい」
「いや、伯父を先にしてもらいたい」
「いえ、お父様を先にしてください」
「だから、同日だ。どっちが先だ、と言い争いになるのは目に見えている。こう言わなければ、長期休暇の初日に来ているだろう」
すでに、アランには国王陛下とリスキス公爵の考えと行動は読まれていた。ついでに、ポー殿下とセイラの立場も読んでいる。
国王陛下も、リスキス公爵も、先に男爵領に行きたいのだ。先に男爵領に行って、ロベルトとどうにか面会しようと画策している。
妙な所で争う二人の権力者。その構図は、子どもじみている。それをわかっているだけに、ポーとセイラは恥ずかしくて、顔を真っ赤にする。それが身内なのだから、尚更だろう。
「あと、二人が来る時は、私も側にいるようにする。母上が厄介だ。あの人は、子ども相手でも容赦ないからな」
「アランとエリカでは、どちらが強い?」
「父上が一番強い」
「………そうなんだ」
ポーの質問に、斜め上の答えを返すアラン。アランはなんだかんだいって、お父様大好きだからだろう。そう答えてしまう。
ポーは妖精憑きとしての実力をアランの答えから推し量るのをやめて、ただ、頷くだけですませた。
「で、いつにする? 我が家はいつだって、出迎え可能だが」
「では、初日にしましょう。初日、絶対にあけます」
「こちらも、初日にする」
「面倒事は、さっさと終わらせるのがよいからな。好きにしろ。あ、手土産は絶対に持ってこないように。そういうので、どうにか上をとろうとするのはやめさせろ。いいな」
「………」
「………」
無言だ。きっと、もう、やってるんだ。
了承がないので、アランはそれ以上、何も言わなかった。




