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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-王国の妖精憑き-
39/353

もう一人の男爵

 年に一度、聖女エリカ様の誕生を祝うお祭りを王国全土で執り行われる。その場所その場所で、賑わいもやり取りも違う。

 男爵領では、聖女エリカ様の誕生を祈る程度である。毎日、なにがしかに祈り、与えられる実りに縋って生きている領民たちにとって、感謝は普通だ。

 そんなお目出度い日なので、学校もお休みである。せっかくなので、お祭りに行きましょう、とリスキス公爵の末娘セイラにお誘いされたのだけど。

「妖精姫、父上と母上が会いたいそうだ」

 そこに、アランのご両親の面談が入った。よりにもよって、この日だ。物凄く迷った。

「僕も会ってみたい」

 たまたま聞いていたポー殿下が割り込んでくる。

「わたくしも、ぜひ、会ってみたいです!」

 セイラ、さっき、お祭りのお誘いをしていましたよね?

「ぜひ、俺も会いたいな」

 そこにリスキス公爵の血縁シャデランまで入ってくる。

 話がどんどんと広がっていく。それに対して、アランは普通である。

「いいんじゃないか。王都のお祭りを母上に見せたいと、わざわざ、こっちに来るんだ。勝手に会えばいい」

 結局、わたくしは王都のお祭りを見ることとなる。


 当日、動きやすい服装で、校門の前で全員集合となる。子爵から派遣されている使用人タバサは、今日一日、お休みを与えられた。学校の寮にいる使用人同士で遊びに行く約束をしたという。

 校門の前で、ポー殿下、セイラ、シャデランが並んでいると、物凄く目立つ。わたくしは目立たないように、少し離れようとしたのだけど、セイラに腕をとられて、ど真ん中に立たされる。

「アラン、遅いですね」

「領地から連れて来る、と話していましたよ。色々と準備があるのでしょうね」

「お祭りの後も、どこかで遊ぶのかしら」

 そんな話をしていると、カラカラという音が近づいてきた。その音のほうを見れば、物凄く美しい女性が、車輪のついた椅子に人を乗せて押している。この二人の空気は、どこか、世界が違う。

「エリカ様」

 シャデランが慌てて、あの綺麗な女性に駆け寄り、車輪のついた椅子の押してを代わる。

 エリカということは、この綺麗な女性が、アランの産みの母だ。確かに、女帝エリシーズに似ているが、若さが違う。エリカは、美しい時代にその姿が止まっている。

 そして、車輪のついた椅子に座っている男性が、アランの父だ。その姿は異様だ。

 視界の全てを塞ぐように、両目をいくつもの布で覆われている。両手両足、首には、鉄の輪が装着されいるだけでなく、そこから伸びる鎖を椅子につなげられている。

 素顔を覆い隠され、囚人のように両手両足、首にまで拘束具をつけられている男の姿は、異様だ。

 まさか、このような姿だとは誰も想像していなかったので、声も出ない。

「ロベルト、アランのお友達ですよ」

 そんな異様な姿だというのに、エリカは笑顔である。慈愛に満ちた眼差しを車輪のついた椅子に座る夫ロベルトに向ける。

 ロベルトからは、何も言わない。だけど、エリカは聞こえるのか、うんうん、と頷いている。

「もう、アランったら、まだまだ手がかかるわね」

 見ていて、ぞっとする。それは、わたくしだけではない。セイラはわたくしの腕をつかんで、その光景に恐怖する。

 そんな光景を目の前で繰り広げられて、ポー殿下も笑顔を消した。一度も勝てたことがないというロベルトのこの姿には、驚愕しかなかった。もっと、普通の姿だと、誰もが想像していたのだ。

「ポー殿下、初めまして。アランからは、お話を聞いています」

 朗らかに笑うエリカ。この異様な光景の中で、エリカは普通だ。普通にポー殿下と挨拶する。エリカにとって、ポー殿下は息子の友達だ。

「セイラ嬢、初めまして。お父様はお元気ですか? ロベルトは、いただいたお手紙をとても大事に読んでいます」

 続いて、セイラだ。セイラの父親とロベルトとでは、手紙のやり取りがあるようだ。その事もセイラは知っているのだが、うまく、返事が出来ていない。

「シャデラン様、キリト様にお礼をお伝えください。この、車椅子をありがとうございます。お陰で、ロベルトを外に出せました」

「お役に立てて、よかったです」

 さすがに、シャデランは大人だけあって、受け答え出来た。でも、声が震えている。

「ラキス、初めまして。ずっと、あなたのことは、妖精を通して見ていました。帝国では、大変でしたね。でも、男爵領では、ロベルトとアランが、一生涯、あなたを守ります。だから、捨てられる、なんて思わないでください。アランはあなたのこと、愛していますよ」

 胸に詰まった。いつも不安に思っていたことをエリカに言い当てられ、涙が零れる。

 泣いたわたくしをエリカは優しく抱きしめてくれる。

「もう、アランったら、まだまだ子どもね。好きな女の子を不安にさせるなんて。叱ってあげます」

「い、いえ、アランは、悪く、ありません」

「アランが悪いのです。散々、周りを牽制して、孤立させて、囲って、と酷い男です。誰に似たのか。ロベルトではありませんよ。ロベルトは、そんなこと出来ない、優しい人です。その優しさにつけ込んで、私が既成事実を無理矢理作ったんですよ」

 とんでもない過去を暴露するエリカ。その話は、絶対に、ここではしていけないことだ。

 エリカはロベルトのほうを振り返る。

「いいではありませんか。ここにいる子たちの年頃に、お互い、秘め事をしました。話していい事です」

 まるで聞こえない会話がエリカとロベルトの間でされているのだろう。だけど、わたくしにも、セイラにも、シャデランにも、妖精憑きであるポー殿下にも、聞こえない会話だ。

「もう、そんなに怒らないでください。せっかく、アランが留守番をしてくれたのですから、今日は、一日、ゆっくりとしましょう」

「アランは、いないのですか!?」

 てっきり、一緒に来ているものと思っていたので、わたくしは驚いた。

 ポー殿下も驚く。約束をしていないが、アランもこの場に来るものと思い込んでいた。

「ロベルトとアラン、どちらかは、男爵領にいなければなりません。普段は、このように、一人では動けないロベルトが領地を出るためには、アランが領地に残らなければなりません。

 だから、アランを側近とするお話は、諦めてください」

 エリカは慈愛のこもった笑顔で、ポー殿下にいう。

 笑顔だけど、エリカ自身からは、恐ろしい何かが出ている。

「ポー殿下、私もあなたと同じ、神が定めた組み合わせで生まれた妖精憑きです。ですが、格は私のほうが上ですよ」

「そのよう、ですね」

「だから、私が妖精憑きだと、あなたは気づけない。格が上の妖精は視認出来ません。経験のある妖精憑きが、なんとなく気づくくらいです。ですが、私もアランも、王国に逆らうような生き方をしたいわけではありません。男爵領で、私はロベルトと安穏と生きていたい。なのに、キリト様は呪われた伯爵一族の案件をロベルトに持ち込みました」

「呪われた伯爵一族は、それ以前から、妖精男爵の領地で受け入れられていた、と聞いています」

「キリト様は解決を望みました。ロベルトは、一度、断ったのです。ですが、善良な血がそれを許さなかったのでしょう。呪いを封じ込めました。そして、ロベルトはこうなりました」

 憎悪をこめていうエリカ。笑顔だけど、その身に宿す空気は違う。

 恨んでいるのだ、王族を。ポー殿下も、シャデランも、セイラでさえ、その身が王族の血筋であるため、エリカは恨んでいる。

 その憎悪も、すぐにおさまる。エリカはロベルトに何か言われたのだろう。すぐに、慈愛に満ちた表情となる。

「わかっていますよ。今日は、ロベルトの義理の弟に会うのですよね。とても、楽しみにしていましたものね。私もぜひ、会いたいです。可愛い可愛い義理の弟も、きっと、立派な大人となっていますよ」

 セイラはその話を聞いて、驚く。ロベルトの義理の弟は、セイラの父親であるリスキス公爵のことだ。聞いていないのだろう。

 エリカは車椅子の操作をシャデランの手から奪い、行先をかえた。

「まだ、呪われた伯爵一族の血族が残っています。ロベルトの代で血族が全て亡くならなければ、次はアランがその役割を担うこととなっています。アランは口では酷いことを言っていますが、根は優しい子です。結局、ポー殿下に泣きつかれれば、アランは助けるでしょう。そういう子です。ですから、アランに頼るのは、ほどほどにしてあげてください。私とロベルトの子で、男爵領に一生縛られるのは、アランだけです」

 突き放すようにいうエリカ。それから、エリカはロベルトと何か話しているようだ。エリカは困ったように笑う。

「もう、あなたもアランも人が良すぎます。だから、私みたいな性悪女に捕まってしまうのですよ」

 ロベルトの手が動いた。それまで、ただ、座っているだけだったというのに、ロベルトはエリカに手を伸ばす。エリカはその手に頬を寄せ、人前だというのに、口付けをする。

「リスキス公爵と約束がありますので、これで失礼します。王族との面談を断るのは、今後も許してください」

 深く頭を下げて、エリカは車椅子を押して、わたくしたちとは逆の方へと歩き去っていった。






 衝撃的なロベルトの姿と、聖女のような見た目に反して激しい気性を見せたエリカとの出会いは、心に残った。

 次の日には、いつものアランが学校に来ていた。

「昨日、行けないことを、言い忘れてた。すまん」

 アランに色々と聞きたいポー殿下、セイラ、わたくしがやってきたことを、違う意味で受け取ったようだ。アランは素直に謝ってきた。

「それもあるけど、その、ロベルトは、大丈夫なのか?」

「驚いただろう。けど、普通だ。ちょっと人より見え過ぎて、聞こえすぎて、痛いだけだから」

「それは普通じゃないだろう!?」

「妖精憑きの力を後天的に人に与える、ということは、ああなるんだ。だから、普通のことだ」

「………」

 アランは何でもないようにいうが、そうではない。ポー殿下は言葉が出ない。

「後天的、とは、どういうことですか?」

 わたくしが代わりに、聞いてみた。あの姿は、妖精憑きであるために起きているという。

「シャデラン、眼帯しているだろう。あの下には、妖精の目という道具が装着されているんだ。あれはな、妖精憑きの力をただの人に与える道具だ。才能があれば、問題ないんだが、父上のように、才能がない人間は廃人になる。妖精憑きってのは、生まれた時から、そういう才能を持っているから気づかないが、普通の人には過ぎた力なんだ。だから、父上がああなったのは、普通のことだ。シャデランは才能があったから、問題がない。だから、シャデランは普通の人ではない」

「どうして、そんな道具を使ったのですか?」

「呪われた伯爵一族の呪いをどうにかするためには、妖精憑きの力が必要だったからだ。本当は、すぐ、普通の目に戻す予定だったのが、妖精の悪戯で、妖精の目を取り出せなくなった。そして、ああなった。人にとっては過ぎた力を人が作った道具で封じて、やっと、生きている。

 今は、あんな姿だが、最初のころは、そんなことしなくても、普通に過ごしていたそうだ。ところが、片腕に封じた聖域の穢れをなくした途端、父上が壊れた。あの穢れには、何かあったんだろうな。結果、ずっと、屋敷に幽閉だ」

 実の父親のことを平然と話すアラン。アランはそれが普通だと育っていたのだ。だから、まるで気にしてない。

 だけど、聞いている側にとっては、普通ではない。ロベルトは一生を犠牲にして、呪われた伯爵一族にかかった呪いを封じ込めたのだ。

 ポー殿下は小刻みに震えて、教室から出ていく。とんでもない事実に、アランの側にいることが、耐えられなくなった。

 それは、セイラも同じだ。セイラの父は昨日、ロベルトの成れの果てを見てしまった。その理由を知ったセイラは、教室から逃げ出すしかない。

 全てを話したアランは、特に何も感じていない。荷物を置いて、不思議そうに、飛び出していく友達の背中を見送る。

「どうせ、人はいつか死ぬんだから、今を楽しめばいいのにな」

「アランは、どうなのですか? 昨日、エリカが言っていました。アランがロベルトの跡を継ぐと」

「そうだな。そういうことになっている。妖精男爵の教育って、かなりすごいぞ。あの妖精憑きリリィでさえ、そこら辺の村人に殺されるような人間にしてしまうんだ」

 確かにそうだ。最強最悪と呼ばれた妖精憑きリリィは、伯爵一族を領地ごと呪ったというのに、リリィを殺した村人には、何も罰を与えていない。それどころか、妖精の力で抵抗せず、殺されたのだ。

「ポーはさ、私に妖精憑きの教育を手伝ってほしい、と言ってきた。あんな思いあがった妖精憑きがいっぱい出来たんだ。より力のある私に縋ったんだ。しかし、私は男爵の教育を受けている。あれはな、性根から善人を作る教育なんだ。向いていない。だから、断った」

「エリカが言っていました。あなたは悪ぶっているだけだって」

「私は皇族の教育も受けている。父上はリスキス公爵の教育を受けている。どちらも、上に立つものの教育だ。自らを切ることを迫られる。悪く見せて、強く見せて、邪魔なものを切り捨てないといけない、と教え込まれる。何せ、帝国、王国の運命全てがかかっているんだ。そこに私心を持ってはいけない。

 だけど、私も父上も、今の立場はただの貴族とか平民だ。好きにやって、こうなっただけだ。父上はな、母上のこと、心の底から愛している。だから、あんなふうになって、無理矢理、引き止めているだけだ。父上の頭があれば、あんなふうにならない方法なんてわかっている。実際、私は知っているが、黙っている」

「そうなのですか!?」

「父上は男爵の影の叡智だぞ。男爵領では、私だって父上には勝てない。そんな人が、あんなふうなのは、外側が面倒だからだ。せっかく母上を閉じ込めたんだ。好きにしたい。だから、毎日、蜜月だ」

「………」

「見た目に騙されすぎだ。外ではあんな哀れっぽい姿をしているが、いまだに私は父上に殴られるぞ。兄上も姉上も、父上が恐ろしいから逆らわない。外側にはあんなに優しいというのに、娘息子には容赦がないんだ。腹が立つ」

 昨日の姿からは、とても想像出来ない話だ。

 アランの視点だけなので、それが本当かどうかはわからない。だけど、アランが嘘をつく理由はない。アランは心底、面倒臭そうな顔をして、授業の準備をしていた。



 その日は、珍しく、アランは生徒会役員だけが許される部屋で昼食をとりに来た。生徒会役員のみといっても、婚約者や友達を連れてくることは許されている。

 アランは、まだまだ恐れられているので、役員のほとんどが席を立って去ってしまう。それを申し訳ない、みたいに見送るアラン。

 残るのは、わたくしと、ポー殿下、セイラである。セイラはわたくしがいるので、ポー殿下はここで逃げるのは気まずいので、席を立てなかったのだ。

 アランが来ることをわかっていたのか、パリスはアランの分のお弁当を出してきた。

 そうして、気まずい昼食となるのだが、アランは普通に話しかけてくる。

「昨日、国王陛下とリスキス公爵はどうだった?」

 アランの目的は、ポー殿下とセイラから、身内の情報を聞き出すことだった。

 リスキス公爵はわかる。だって、昨日、アランのお父様はリスキス公爵と会う約束をしていたのだ。だけど、国王陛下のことを聞くのは謎だ。

「昨日な、父上の愚痴が酷かった。聞いてみれば、母上が、リスキス公爵と国王陛下に随分と悋気を出したんだと」

「国王に会ったのか!?」

「あれ、聞いてないのか? 昨日は、リスキス公爵と国王陛下に会う約束をしたというから、私が留守番となったんだ。父上から聞いたが、酷かったぞ」

 アランはうんざりとした顔を見せる。

「父上は男爵家では末っ子だったからか、リスキス公爵は可愛い弟として、随分と可愛がっていたそうだ。父上が男爵領に落ちぶれるまで、リスキス公爵も父上のことを尊敬する兄、として慕ってたんだ。そんな二人が随分とぶりに再会したというのに、母上とリスキス公爵が父上を取り合ったんだ」

 わたくしも、ポー殿下も、セイラでさえ、唖然となる。

「リスキス公爵は、父上のあの姿を見て、そのまま公爵領に連れて帰ろうとしたんだ。それに激怒した母上が妖精を使うものだから、父上がそれを抑え込むために妖精の目を行使して、と無茶苦茶なことになったんだと」

「そんな、嘘ですよね? お父様が、そんなこと、するはずが」

 セイラは父親のことを思い浮かべても、想像出来ないようだ。セイラにとって、父親は、もっと違う姿なのだろう。

「そこからリスキス公爵と母上で、悪口雑言を繰り広げられて、その場にいた全員が退いたんだと。最後は、父上が間に入って、どうにかおさめたんだ。その場にいなくて良かった」

 結末が酷そうだ。アランは話を聞いただけだが、その場はもっと大変なことになっていたのだろう。

 ここで、リスキス公爵の話は終了した。次は、国王陛下である。見れば、ポー殿下は戦々恐々とアランが語り出すのを待っている。

「その後、リスキス公爵と別れることなく、国王陛下と食事会だ」

 リスキス公爵、ついてっちゃったんだ!! 予想を斜め上を行く話に、セイラは気が気でない。だって、まだ、リスキス公爵は終わっていないのだから。

「父上は国王陛下が第一王子時代の側近の頃からのお付き合いだ。父上が男爵領に落ちぶれてからしばらくは、連絡をとっていなかったが、王族キリト様を通じて、国王陛下が父上の所在を知ってしまった。それからは、何度か側近の話や、爵位の話まで出ていたが、父上は頑なに断っていた。それは、最近まで続いていることから、直接、お断りするということで、食事会の約束を受けたんだ」

 想像していたよりも、かなり、大変な背景だった。

 アランはお父様のことをとても尊敬している。とても出来る人だ、と。それは、国王陛下にとってもそうなんだろう。側に置いておきたくて、実力に見合った爵位を与えたい、と思っているのだ。

「国王陛下は父上のあの姿を見て、いきなり王族専用の医者を呼び出そうとした。仕方がないが、それをどうにか止めようとすると、あれだ、妖精の力を使うこととなる。結果、国王陛下は父上を王族専属の魔法使いにしよう、なんて言い出したんだ。

 それを聞いたリスキス公爵が、もとは公爵家の養子だったんだ、と激怒した。さらに母上が、私の夫だと激怒。この三人でとんでもない喧嘩が始まったんだ」

 アランのお父様を取り合う、国王とリスキス公爵とアランのお母様。とんでもない構図だ。

「国王陛下は王族の最高権力者。リスキス公爵は貴族の中の王族。母上はポーを越える実力を持つ最強の妖精憑き。権力と権力と人外の、とんでもない戦いを止めたのは、もちろん、父上だ。普段は余計なことをすると、妖精憑きの力でとんでもないこととなるから、ああいうふうに封じ込めて、動かないようにしている。動くとな、制御出来ないから、色々と壊すんだ。その時は、目の前の大理石の机を素手で両断したそうだ」

「動けるのですか!?」

「動くと大変なことになるんだ。だから、私はいつも吹っ飛ばされている」

 あの姿で、哀れだな、なんて思っていたポー殿下とセイラは愕然となる。実は、哀れでもなんでもない。動かないようにしているだけだ。

「普段は、母上が側に付きっきりで、父上の妖精憑きとしての力を制御している。あと、男爵家の邸宅自体が魔道具だ。現在進行形で、魔法が発動しているから、父上の妖精憑きとしての力は、あの邸宅に吸われ続けている。あの邸宅の中であれば、バカ力だって制御されていはいるが、外では発散することが出来ないから、あんな姿だ」

「説明してくれれば」

「私が同伴できなかったから、起きた事故だ。まさか、あそこまで妖精封じをしなければならないとは、私も予想していなかったんだ。昨日の朝、完成状態を見た私は絶望したものだ。もう一人くらい、説明役を同伴させたかったんだが、母上がどうしても二人で出かけたい、と言い張るから、無理だった。あの二人は、いつまでたっても、どこに行っても、蜜月だ」

 ポー殿下の恨み言も、それ以上、言えない。仕方がない。アランでさえ、予想を越えてしまったのだ。

 可哀想、なんて心底、思っていたポー殿下とセイラ。でも、実はそうでもない。

「母上と一緒だから、平然としているが、母上から離れると、父上は即、廃人だからな。国王陛下とリスキス公爵には、そこのところ、しっかりと伝えておいてほしい」

 アランとしては、大事なのは、お父様からお母様を離してはいけない、という事実を伝えたかったのだろう。そのために、昨日の出来事をポー殿下とセイラに話したのだ。

 これから、国王陛下とリスキス公爵は、やっと繋がった縁を手繰り寄せるために、アランのお父様にせっせと会いに行ったり、手紙を送ったり、と頑張るだろう。

「だったら、面談くらいしてくれればいいじゃないか!?」

「言っただろう。邸宅に力を吸われ続けているって。昨日は、その役目は私だった。体験してみてわかる。あれはすごく疲れる。私は才能があるから平気だが、才能のない父上では、人に会うなんて、無理だ。それを紛らわすために、母上が付きっきりなんだ。あんなことを私が生まれる前からずっとやっているんだ。父上はやはり、すごい方だ」

「………」

 その役割に代わりがいない。それは、アランのお母様、そして、アラン自身の話からわかる。

 尊敬している父の役割をアランはいつか受け継ぐという。その事に、迷いはない。当然だと思って受け止めている。

 そんなアランを見て、ポー殿下は黙り込むしかない。

 話せることを話して、アランは大きなあくびをする。

「本当に昨日の夜は大変だった。父上は母上を追い出して、私を呼びつけて、愚痴を散々、いうんだ。真夜中までそれを聞いて、やっと解放された、と外に出れば、嫉妬に狂った母上から、何をしていた、何を話していた、と散々、尋問されて、うんざりだ。だから、昨日は寝てない。午後はここで寝てるから、起こさないでくれ」

 そう言って、アランは長椅子に横になって、眠ってしまった。

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