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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-王国の妖精憑き-
38/353

お披露目パーティ

 とうとう、お披露目のパーティが開催される。普段は制服だけど、皆、色とりどりのドレスや服に身を包んでいる。

 パーティは一応、一人でも参加出来るが、生徒会役員だけは、パートナーと入場が決まっている。何せ、将来は大物と決まっているのだ。パートナーがいて当然である。

 わたくしはもちろん、アランと入場である。アランは、この日のためだけに、わたくしにドレスを作ってくれた。わたくしのドレスとアランの服は対となる色だ。

「妖精姫の美しさの前では、このドレスも霞むな」

「もう、そういうこと言わないでください!!」

 早速、わたくしが恥ずかしくなることを真顔でいうアラン。入場前から、わたくしは恥ずかしいでいっぱいだ。

 ポー殿下のパートナーは、なんと、同じく生徒会役員であり、リスキス公爵末娘のセイラだ。二人とも、パートナーがいないので、まあいっか、となったわけである。これはこれで、どうなんだろう。

「あの、怒ったりされませんか?」

 わたくしは恐る恐ると、ポー殿下に聞いてみた。一度だけしか見たことがないポー殿下の婚約者は、とても綺麗な年上の女性だ。ポー殿下にべったりくっついていたような記憶がある。

「パートナーは、そういう古い習慣だと納得されているから、大丈夫。いつも、僕のほうが焦らされているよ」

 ポー殿下は力なく笑う。一応、婚約者には話したけど、予想とは違う反応をされて、残念そうだ。

 セイラを見てみると、平然としている。

「そういうの、まだ、いないの」

「そうなのですか!? てっきり、いるものと思っていました」

「リスキス公爵って、なかなか難しいのよ。ほら、シャデランなんか、いまだに血族でしょ。王族に近いから、独身で終わる人も珍しくないの。わたくしも、そうなるかもしれないわね」

「それは、かっこいいですね」

「そ、そう? そう言われたのは、初めてだわ」

「ええ、かっこいいです! 憧れます」

「妖精姫は、私と結婚だから」

 わたくしが正直な感想をセイラにいっていると、何故かアランが力づくで抱き寄せてくる。

「逃がさないから、憧れないように」

「そんな、セイラみたいなこと、出来るわけがありません!」

「どうだか。妖精姫は自己評価が低すぎる。次の試験で、実力がはっきりする」

 生徒会役員一同、呆れたようにアランを見る。どこまで、独占欲を表に出しているんだ、とばかりに呆れているのだ。

 でも、わたくしはそうは思わない。アランにとってわたくしは、悪い妖精をおびき寄せるための、大事な大事なエサなのだ。その事実を知っていれば、独占欲、なんてかけらほども思わないだろう。

 そうして、会場にだいたいの生徒が入ると、最後に生徒会役員の入場となる。最初は三年生から、次に二年生、そして一年生となる。一年生でも、順番は貴族位だ。最後はポー殿下とセイラで決まっている。わたくしは、その前だ。

 順番に入場していく生徒会役員を後ろのほうで見送るわたくし。どんどんと順番が近づいてくると、体が緊張で震える。よく考えたら、人前に出るようなことをするのは、一生で一回、それも、皇族主催の十年に一度のパーティだ。あの時は、アランに結婚を申し込まれたり、と大変だった。

 つい最近のことなのに、昔のように感じてしまう。隣りを見れば、アランがじっとわたくしを見下ろしていた。余所見すらしない。

「妖精姫、次だ」

「は、はい」

 アランに手を引かれ、わたくしは会場に入場する。

 とてつもない人、人、人だ。誰が誰なのかなんてわからない。皆、わたくしとアランを拍手で迎えてくれている。

 生徒会役員は、中心にあるテーブルで並ぶこととなっている。そこまで、わたくしはアランと並んで歩いた。

 そして、到達して、次はポー殿下とセイラの名前を読み上げたところで、役員たちが並ぶそこに、妖精憑きアンティが乱入してきた。

 アンティはドレス姿だ。元は綺麗な女の子だ。そのドレスだって、似合うものだ。

 なのに、前に出てきたアンティは、ものすごい真っ青な顔に、気持ちの悪い笑顔を貼り付けていた。そして、わたくしに向かって手を伸ばしてくる。

 アランが素早く間に入るも、見えない何かに吹き飛ばされる。

「アラン!?」

 わたくしはアランに駆け寄ろうとするも、アンティに物凄い力で腕をつかまれた。

「離してください!!」

「アンタのせいで、滅茶苦茶よ!!」

「知りません!! アラン!!! アラン!!!!」

 わたくしは声の限りアランを呼ぶ。わたくしの声を聞きつけたパリスが人離れした身のこなしで倒れるアランに駆け寄った。

 パリスが来たことで、わたくしは安堵するも、物凄い力で腕をつかまれた痛みを今更ながら自覚する。

「痛いです」

「アタシは体も心も痛かった。こんなんじゃない!! それも全て、アンタのせいだ!!!」

「わたくしが何をしたというのですか。わたくしは、何もしていません」

「あの豪勢な部屋を奪ったじゃないか!!」

「それは、仕方のないことです!!」

 わたくしは皇族だ。隔離するために必要な部屋だった。それをアンティは知らない。

「生徒会役員になったじゃないか!!」

「それも、仕方のないことです!!」

 生徒会役員に高位貴族が足りないのだ。どうしても、必要だと言われたら、仕方がない。それをアンティは理解していない。

 ギリギリと腕が真っ青になるほど握られ、わたくしは振り払おうとしたが、出来ない。とても、人の力とは思えない。

「ふ、ふふふ、でも、もう、アンタはおしまい。だって、アンタ、今日で死ぬんだから」

「何をっ」

 アンティの胸の辺りが真っ黒になる。それは、神がかりな何かが動いたとしか思えない現象だ。

「やめないかっ!?」

 騒ぎを止めようと、ポー殿下が駆けてくるが、間に合わない。アンティの真っ黒になった胸から、綺麗な手がわたくしに向かって伸びてくる。逃げたくても、アンティがわたくしの腕を離してくれない。

 どんどんと出てくる手はわたくしの胸に届くところまできた。それには、恐怖しかない。

「私の妖精姫に手を出す者は許さん!」

 そこに、いつの間にか動けるようになったアランが、わたくしの腕をつかむアンティの腕をつかみ、折った!

 ものすごい音をたてて腕の骨を折られたアンティは苦痛で床をのたうち回る。

 アランは、わたくしの腕についたアンティの手形を見て、怒りに顔を歪ませる。

「男だろうと女だろうと、私の妖精姫に手を出した者は、許さん。パリス!」

 アランは暴れるアンティを踏みつけて動きを止め、パリスを呼ぶ。

 パリスはアランの手に鉄で出来たものを渡した。アランはそれをアンティの首、腕、足に装着した。

「捕まえたぞ、妖精! よくも私の妖精姫の寿命を盗ろうとしたな!!」

 苦痛やらなにやらで動けなくなったアンティを蹴って、仰向けにする。アンティの胸は相変わらず真っ黒で、そこから綺麗な腕だけが伸びている。この異様な姿に、会場は悲鳴があがった。

 悲鳴をあげて会場を飛び出していく生徒たち。それとは逆にやってきたポー殿下はもうぐちゃぐちゃだ。息を乱して、アンティの姿を見て、真っ青になる。

「妖精と契約したのか。愚かだな。もう、お前は終わりだ」

 アンティは痛くて泣いて、ポー殿下に縋ろうと手を伸ばす。だけど、ポー殿下はアンティから離れた。

「ちくしょー、全部、お前のせいだ!?」

「違う、私がそうするように、仕向けた」

 アンティはわたくしを責めるが、その間にアランが入って、嘲笑う。

 アンティは、わけがわからない、とばかりにアランを見上げる。アランはアンティに装着した鉄の首輪に鎖をつけて、無理矢理引っ張り、立たせた。

「見てみろ、妖精の世界との道が繋がったぞ!! 妖精と契約させて、道をつなげて、この妖精封じで門を開いたまま、固定化してやった。これで、私の妖精姫を狙う妖精共を地下牢におびき寄せられる!」

「だ、騙したの!?」

「勝手に妖精に騙されたんだろう。バカだな。妖精憑きは自らを過信しすぎるから、こういうことが起こりやすい。だから、妖精男爵では、しっかりと教え込む。


 妖精が見えたり、声が聞こえたりすることは、誰にも言わない

 妖精の加護を利用しない

 妖精の提案を絶対に受けてはいけない


 この約束事のお陰で、妖精と契約なんて、バカなことはしない」

 嘲るようにいうアラン。アランは、いつか、アンティがこうなってしまうことを予想していた。だから、色々と準備して、パリスに道具を持たせていたのだ。

「ちくしょー!!」

 アンティは最後のあがきとばかりに、妖精を動かしているようだ。色々なものをかけたので、アンティの妖精がアランを攻撃している。不自然な風がアランのまわりに吹き荒れる。

「ぎゃあーーーーーー!!!」

 なのに、アンティは復讐され、顔も腕も足も異形化する。

 アランはアンティの身柄をパリスに渡す。そして、アンティの醜くなった顔を乱暴につかむ。

「せっかく、二回も妖精をおさえこんでやったというのに、わかっていないな。私の妖精は、貴様の妖精よりも格が上だ。私が抑え込んでやったお陰で、貴様は復讐されずにすんだというのに。三回目は、もうおさえこまなかった。その醜い姿は二度と、戻されないぞ。私の妖精は、ポーが持つ妖精よりも遥かに格が上だ!!」

 アンティは醜い姿のまま、むせび泣いた。もう、アンティの涙を見て、助けてくれる者はいない。会場にわずかに残った者たちは、アンティの成れの果てに、恐怖する。

 生徒会役員は逃げるわけにはいかないので、成り行きを全て見てしまった。そして、本当に恐ろしい人が誰なのか、気づいてしまった。

「若、この女をどうしますか?」

「転移して、母上に渡してくれ。後は、母上が上手にやるだろう」

 アランはパリスに魔道具を渡す。受け取ったパリスは、瞬間、アンティと一緒に、その場から消えた。





 とんでもないパーティの終わり方となり、緘口令が出された。試験的に取り入れた妖精憑きがとんでもないこととなったのだ。それを表沙汰にするわけにはいかない。

「せっかくだ。ポー、練習がてら、沈黙の契約をしなさい」

 アランは容赦がない。学校の生徒全てと教師全てに、妖精の契約を施し、絶対に口外出来ないようにしたのだ。

 影の支配者のごときアランには、誰も逆らえない。ポー殿下でさえ、黙って従った。

 そうして、しばらくは恐怖に恐れおののくのだが、アランは何もしないで、ただ、いつもの通り、学校に通い、授業をうけ、時間があるとわたくしの所に来ては、甘い言葉を囁くだけなので、どんどんと、恐怖が薄らいでいった。

 だけど、あれほどの事件が起こったので、王族としてはそのまま知らない、というわけにはいかない。落ち着いたところで、アランとわたくしは、校長室に呼ばれることとなった。

「話では聞いていたが、ラキス嬢が妖精に命を狙われているのは、本当だったんだな」

 シャデランは、わたくしが妖精に狙われているという話だけは聞いていたが、信じていなかった。わたくしだって、いまだに信じられない。

「あれから、アンティはどうなったんですか?」

 ポー殿下は、まず、妖精憑きアンティのその後を知りたがった。アンティは、見事、アランの策に嵌って、自滅したように見えた。

「男爵邸の地下に閉じ込めている。せっかく、妖精の世界に繋がったので、母上に選別をお願いした」

「選別って、妖精全てがラキス嬢を狙っているのではないのか?」

「全てではない。勘違いした妖精だけだ。何体かの高位妖精が指揮している。これでも、三体の高位妖精は支配下に置いた。高位妖精三体に従った下位妖精もまた、私の支配下に置かれた。それでも、まだ高位妖精が残っている。今回ので、二体は母上の支配下に入った。あと何体の高位妖精がいるのか、そこがまだわかっていない」

「また、先の見えない話だな」

「情報が足りないからな。支配下に置けば、記憶が読み取れる。今は、その分析中だ。母上の支配下に入った高位妖精二体の記憶がどういうものかは、母上待ちだ」

「なんだか、とんでもない話だな」

 聞いているシャデランは、話の大きさについていけない様子だ。わたくしだって、当事者なのに、わからない。

 ポー殿下は、アンティのその後が無事でない事実に落ち込んでいる様子だ。

「そんな、落ち込むな。誰だって失敗はある。あの妖精憑きはいい見せしめとなる。今後は他の妖精憑きも大人しくなるだろうな」

「………アラン、わざと、こんなことをしたのか」

「そうだ。わざとだ。どうせ、いずれは、そうなっていた。思い上がりの妖精憑きは、こうなる運命だ。お前だって、最初はこんなものだった。私に負けなければ、お前がこうなっていた。よく見て、噛みしめるんだな」

「最初から、アラン主導で妖精憑きの指導をしてもらえばよかったじゃないか!! どうして、僕なんだ!?」

 失敗したことを怒っているのか、それとも、アラン自身に怒っているのか。ポー殿下は吐き捨てる。

 アランはポー殿下の胸倉をつかむなり、頬を平手ではたいた。

「痛いじゃないか!」

「ポー、帝国だって、最初はこうだったんだ。その繰り返しで、今の魔法使いたちだ。最初から、成功していたわけではない」

「………」

「これから、歴史を作るんだ。失敗したからどうした。皇族教育、あのクソジジイから受けただろう。皇族にとって、帝国民、魔法使い、貴族全ては手足だ、道具だ。同じなんだ。王族にとって、王国民、貴族、妖精憑きは手足だ、道具だ。そこに妙な感情をいれるな」

 アランは乱暴にポー殿下を手放した。ポー殿下は倒れないまでも、少し、ふらついた。ギラギラした目で、アランを睨む。

 アランは穏やかに笑い返す。

「どうしても、手に負えない時は、妖精男爵が手助けしてやろう」

 そういうと、ポー殿下は泣きそうに表情を崩した。






 アランと普通に話しかけられるのは、もともと、ポー殿下のみだった。だけど、ポー殿下でさえ、アランとは距離をとるようになってしまった。

 アランは、生徒会役員でもない。自らの出自から、生家からの通いを特別に認められている。学校が終われば、生家に戻り、手伝いとかもしているのだろう。アランの逞しさは変わらない。

 そういう、アラン自身は気にしない毎日を送っているのだけど、ポー殿下は気になるようで、時々、わたくしの元に来ては、アランの様子をきいてくる。

「アラン、その、怒っていたりする?」

「わたくしに近づく男がいないか、そればかり、パリスに聞いています」

 わたくしは、心底、呆れるしかない。だって、アランはあれからずっと、わたくしの側に人を寄せ付けないようにするためか、ちょくちょく、教室に足を運ぶ。

 わたくしはアランの婚約者だ。だから、中間クラスでの友達はいない。ある意味、友達と呼べるかもしれないリスキス公爵の末娘セイラでさえ、今はわたくしに近づけない空気であるため、食事の誘いにすら来ない。結果、わたくしはアランに囲われているような状態である。

 その中で、アランとはそれなりに仲が良いポー殿下は、アランに直接、話しかけられないので、まあまあ話しやすいわたくしの元に来るのだ。

「相変わらずだな、アランは。妖精狩りに夢中なのか、ラキス嬢に夢中なのか」

「妖精狩りです」

 もう、そうに違いない。だって、そう言ってたもの。わたくしは悪い妖精をおびき寄せるためのエサだって。

 わたくしがはっきり断言するので、ポー殿下は驚いた。

「そんなふうに、自らを見てはいけないよ」

 ポー殿下も、わたくしの立場をわかっているので、そう慰めてくれる。

「いいのです。帝国ではお荷物扱いでしたから。今は、アランに縋るしかありません」

「アランも言っていたけど、ラキス嬢は、もう少し、自己評価を上げたほうがいい。ラキス嬢は、素晴らしい女性だよ」

「そんな、何も出来ません。今だって、身の回りの世話は、パリスとタバサに全て、お任せです」

「高位の立場は、皆、そうだよ。僕は、魔法使いとして修行していたから、身の回りのこと全て、出来るようになってしまったけどね。そのせいで、屋敷に戻ると、使用人たちに叱られる」

「でも、男爵家は、全て自分のことは自分で、が鉄則です。出来るようにならないと」

「………僕も最初は、酷いものだったよ。出来るようになるまで、アランが教えてくれたんだ」

「そうなのですか!?」

 ポー殿下にアランが教えている事実に驚いた。てっきり、身内か使用人らしき人が教えているものと思っていた。

 ポー殿下は学校でも一人で行動している。使用人は一応、ついているというが、寮に留守番させている、と聞いた。

「僕はね、本当にどうしようもない思い上がりの子どもだったんだ。あまりに強い妖精憑きの力と、自らの出自を知って、ひねくれてしまったんだ。あまりにも手に負えないから、お祖父様は、僕を北にある境界線の砦に送ったんだ。そこでも、本当に手に負えないから、大変なことになった。

 そこに呼び出されたのが、アランだ。僕と同い年のアランは、クソ生意気な僕をさらに上の力でおさえつけた。妖精憑きの力を使えなくすると、アランと僕は殴り合いの喧嘩をしたんだ。だけど、アランは毎日、領地を手伝っているから、僕は一方的にボコボコにされた」

 思い出して、ポー殿下は楽しそうに笑った。酷い目にあったのに、ポー殿下にとっては、良い思い出だった。

「僕にとって友達というと、アランだ。だけど、アランはきっと、そうではない。アランは別のものを追いかけて、それを見ている。僕はどうにかアランの視界に入ろうとしているけど、アランは遠いどこかを見てばかりだ」

「そんなことありません。アランはポー殿下とお話している時は、楽しそうです」

 見ていてわかる。アランもまた、ポー殿下のこと、友達と見ている。

「でも、アランはきっと、シャデランのことも、わたくしの血族である子爵のことも、友達と見ています」

 そう、アランの厄介なところは、友達と見ている相手が多く、立場、年齢を越えているところだ。

 アランはわかっていない。わたくしに近づく全てを警戒しているが、本来、警戒されるべきはアラン自身だ。

 だって、ポー殿下だって、アランのことを物凄く慕っている。シャデランも、アランの前では砕けて頼りにしている。子爵リッセルは、アランに無理難題を押し付けられて、それを笑って受け入れているのだろう。

 人誑しと呼ぶべきは、アランのことだ。

「そうだといいけど」

「近い」

 いつものように、アランが教室にやってきて、ポー殿下の首ねっこをつかんで、わたくしから引き離す。

「かなり離れて話してるじゃないか!!」

「ポー、婚約者との距離感を大事にしないと、捨てられるぞ」

「してるよ!! むしろ、僕は耐えている!!」

「もう、いい歳なんだから、耐えなくていいだろう。相手は年上なんだから、色々と教えてもらえ」

「………」

 ポー殿下は顔を真っ赤にして、どうにか言い返そうとするが、言い返せない。

 ポー殿下とあの異国の姫君との関係は、わたくしも知らない。試しに、リスキス公爵の末娘セイラにも聞いてみたが、知らないと言われた。

 そんな二人の関係をアランはよく知っているようだ。きっと、ポー殿下は、アランに全て、話してしまったのだろう。

 アランは、座っているわたくしを後ろから抱擁して、ため息をつく。

「とうとう、先を越される時がきたか。報告、楽しみにしている」

「しないよ!?」

「報告のほうか? それとも、年上の婚約者との秘め事のほうか?」

「っ!?」

 ここで断言してしまうと、大変なことになる。ポー殿下は肩を震わせて、黙り込んだ。

「羨ましい限りだ、我が家は、監視の目が厳しいから、ちょっとした事でも父上が怒り狂う。母上とは毎日、蜜月のくせに、不公平だ」

 アランはわたくしの肩に顔を埋めて、心底、羨ましい、という声でいった。

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