前夜祭
アランがいう通り、次の日には、わたくしは生徒会役員という話が広まっていた。ただ、お昼を同じテーブルでとっただけだというのに。
「そういう暗黙のルールがあるんだよ。ポーもなりふりかまっていられなかったんだろう。仕方がない」
アランは昨日、下校時に、そう言っていた。
どういうことか、その時はわからなかったが、今はわかる。
妖精憑きアンティがわたくしの横に腕を組んで立っている。
「こんな中間クラスのあなたが、帝国の皇族ってだけで、生徒会の役員になるなんて、卑怯です。今すぐ、やめなさい!!」
アンティはわたくしに言い放つ。そんな彼女の後ろには、それなりの地位を持つ貴族令嬢たちが並んでいた。
「わかりました、断ってきますので、一緒に来てください」
アランに迷惑をかけているので、丁度良い話だ。わたくしは席を立って、アンティとその他貴族令嬢と一緒に、上位クラスの教室に行く。
上位クラスの教室は、人数自体が少ない。よほど優秀でないと、このクラスには入れない。その中に、妖精憑きアンティも入っているという事実はすごい。
わたくしはアランと話しているポー殿下の元に行く。
「ポー殿下、やはり、生徒会役員の件はお断りします」
「え、なんで?」
「アンティが言ったのです。中間クラスのわたくしが生徒会役員になるのはおかしいと。確かに、アンティのように上位クラスの方が、生徒会役員になるべきです」
「いやいやいやいや、上位貴族がいないから、ラキス嬢にお願いしたんだよ。そこに、成績は関係ない。身分だよ、身分!」
「でしたら、アタシこそ、ふさわしいではないですか」
アンティが自ら乗り出してきた。
アンティは身分は知らないが、妖精憑きである。その事実は、違う意味で人を恐れさせる。確かに、上位貴族だって、アンティには逆らえないだろう。だって、妖精に復讐されたら、命だって危ない。
「いや、妖精憑きを学校に通わせるのは、まだ試験的なことだ。生徒会の役員にはしない」
「試験的であれば、生徒会役員にしてみればいいじゃない。アタシは、この女よりも頭がいいんだから」
「シャデランと話し合って決めたことだ」
「ポー殿下だって、妖精憑きじゃないですか!!」
「僕はそれ以前に王族だ。王族は、強制的に生徒会に所属することとなっている。それとアンティを一緒にするな」
「不公平よ!! 実力のあるアタシがだめで、身分だけのこの女はいいって」
アンティはわたくしをきっと睨んでいう。そう言われても、断れない場に立たされたわたくしなのに。
例え、わたくしが、状況を訴えたとしても、アンティは納得しないだろう。そういう子だ。だから、わたくしはただ、黙って見ているしかない。
アランはというと、他人事のように聞いている。わたくしがアランを見ると、気づいたアランは甘い笑顔を向けてくる。もう、こんな時に、その顔をするなんて!?
「ポー、だから言っただろう。ラキスを生徒会役員にするな、と。いくら私を巻き込みたいから、といったって、こういうのをしっかりと制御出来ていないところが、王族として、まだまだだな」
「あんたは関係ないでしょ! だいたい、たかが男爵の分際で、ポー殿下に馴れ馴れしいのよ!!」
「悪かった。もう、ポー殿下とは話さない」
「わー、なんてこというんだ、アンティ!! アラン、そんな、離れないでよ!?」
アランはしおらしい顔をしてポー殿下から離れるも、ポー殿下がアランを追いかけていく。仲良いな、この二人。
アンティは、ポー殿下がアランを優先するのを見て、さらに怒りを募らせる。
「妖精憑きでもない男がっ」
何かが動き出したようだ。アランの顔や腕にまた、傷がつく。それを見たポー殿下が怒った。
「アンティ!!」
何かが起こった。アンティが吹き飛んだのだ。あまりのことに、わたくしは驚いて、声も出ない。
被害を受けたアランは、平然としている。また、ポー殿下の腕をひっぱって、怪我を治させる。
「野放しにしたポーが悪い。これで二度目だ。三度目は、もう、処分だ」
そう言って、アランはわたくしの手をとって、教室を出る。
わたくしはアランの手にひかれ、中間クラスの教室に戻された。席に座らせられる。
「怪我はないようだな」
「アランは怪我をしました。もう、無茶をしないでください」
アランはわざと怪我をしている。さすがに二回目で気づく。アンティを怒らせて、怪我をして、ポー殿下を追い詰めている。
「まだまだ甘いんだよ、ポーは。どうしたって、私は男爵だ。側近には出来ない。それをわかっていない」
「でも、実力はあるではないですか」
「生徒会には、ある一定数の上位貴族が必要だ。それは、他の貴族の抑え込むためだ。そこに、実力なんて必要ない。実力は二の次だ。クソジジイの教育を受けているというのに、どこか、絵空事のようなことを口にする。綺麗事では、国は成り立たない」
どこまでも、アランは自らを低く見積もる。そういうものすら、アランだったら乗り越えられそうだというのに。
アランはわたくしの頭を軽くなでる。
「あなたはそのままでいい。汚れ事は全て、私が綺麗に処理しよう」
そう言って、アランは上位クラスの教室へと戻っていった。
下校には、いつもの通り、アランが迎えに来てくれる。
「今日は生徒会の役員との顔合わせだそうだ」
「昨日の方たちで全てではないのですか?」
「付き合いもあるから、いない者だっている。私は役員ではないから、外で待っている」
そう言って、わたくしを生徒会室に案内してくれた。
生徒会室には、関係者のみである。パリスは私と一緒に入ることが出来ない。ノックしてドアを開けると、生徒会役員が迎えてくれた。その中に入るのは、ちょっと、勇気がいる。つい、アランを振り返る。
アランは優しく笑いかけるだけだ。その部屋に入ろうとはしない。
「アランも入ってくれ。ラキス嬢の婚約者だ。男ばかりだから、心配だろう」
わざわざ、ポー殿下が口実をくれる。アランは仕方がない、とばかりにわたくしの後ろに立った。
中には、上位貴族らしき人もいれば、上位クラスの生徒もいる。残念ながら、中間クラスの人は見られない。わたくしだけだ。
一学年で、だいたい三から四人が集められる。三学年なので、総勢十人から十二人となる計算だ。
見てみれば、それくらいの人数がいる。
「ラキス嬢、来てくれて、うれしいわ」
リスキス公爵の末娘セイラが手を握って喜んでいる。生徒会役員は半数以上が男子である。女子は一学年に一人程度だ。確かに、ここで一人はわたくしもイヤかも。
「おい、妖精男爵だぞ」
「初めて見た」
「名持ちなのに、男爵ってのがあれだよな」
アランのことを面白おかしく見ている人たちは多い。わたくしは知らないことだが、アランの生家は、帝国でも、王国でも、それなりに有名なのだ。妖精男爵の血筋なので、どうしても、遠巻きに見てしまう。
アランは視線を全て無視していると、ポー殿下のほうから寄ってくる。
「アラン、今日は本当にごめん。アンティの妖精、全部、盗って、鞭打ちしたから」
「遅い」
「女の子だから、なかなか出来なくて」
「そういうこと言ってると、女に殺されるぞ」
「大丈夫。僕は最強最悪の妖精憑きだから、相手は妖精の復讐で死ぬから」
「………」
アランは呆れたようにポー殿下を見る。
「妖精憑きの悪いところだ。そうして、過信して、私に負けたんだ」
「………」
過去、アランとポー殿下の間に、それなりの戦いがあったのだろう。そういう話を匂わせているのだが、どういうものなのか、いまだに想像がつかない。ポー殿下は過去を思い出し、黙り込むしかない。
そうして、雑談の後、自己紹介をして、今後の話をする。
「この後は、お披露目パーティだ。三学年合同でパーティをして、その場で生徒会役員の紹介となる。その仕切りが生徒会二年の初仕事だ。三年は、二年の仕事ぶりを見るだけ。一年は二年のお手伝いとなる」
三年の生徒会長がそんな話をする。実力がなくても、わたくしも手伝わないといけないな、なんて覚悟をきめた。
そうして、誰と組むのか、ということで、人数的に、性別的にも、わたくしはあぶれてしまう。二年生は三人に対して、一年生は四人だ。一年生は一人多い。
「ラキス嬢は基本、動かなくていいから」
「でも、それでは」
「王族と皇族が一人ずついるとなると、皇族は賓客だから、名誉職のような扱いだ。王国としては、皇族が見ても恥ずかしくないパーティをしていることを示す機会だから、見守っていてほしい」
「わかりました」
なかなか、わたくしは難しい立場だった。生徒会の役員として名前だけはいないといけないが、活動をしてはいけないのだろう。
アランは配られた資料を一瞥するだけで、手も口も出さない。
そうして、組みとなった者同士で雑談していると、アランに話しかけてくる三年生がいる。
「先ほどは、大変、失礼しました」
アランの力を確かめようと、課題を出した人だ。アランに対して、深く頭を下げる。
「別にかまわない。私はどうせ、男爵領で一生過ごす身だ。たまには、ああいう扱いも面白い」
「勿体ないですね。聞きましたよ。試験、ポー殿下と同列だったと」
アランは試験を受けていた。それを黙っていたのは、わたくしが試験を受けていない事実を軽くするためだ。
「同列であるがゆえに、一年生の代表挨拶はポー殿下となった。それが現実だ。身分というものは、どうしても、越えられない壁だ」
「でも、アランは帝国に行けば、皇族ではないですか」
「わかっていないな、ラキス。貴族の中に発現した皇族が先祖のお前は、どういう扱いをされた?」
「………」
「と言ったが、挨拶は断ったんだけどな。妖精男爵だからぜひに、と言われたから、ポーに押し付けた」
わたくしと三年生役員は、呆れたようにアランを見る。やはり、妖精男爵は、名持ちの貴族だから、特別扱いされるのね。
「城勤めをしたらどうですか。実力はあるのだから」
「私は今の立場に満足している。それ以上のものを得ようとするのは、身の程がある。これで十分だ」
三年生役員が、将来の話をしているというのに、アランはわたくしの手を握って口付けする。
「これでいい。私の一族は、昔からこうだ」
アランはわたくしに優しく微笑みかけた。
座っているだけでいいですよ、と言われると、ちょっと困る。でも、指示がないので、わたくしは生徒会役員の仕事なんてすることがなく、ただ、毎日、学校で勉強しているだけだった。
そうして、平和に過ごしていられればいいけど、そういうわけにはいかない。
妖精憑きアンティが久しぶりに学校にやってきた。
アランを二度に渡って傷つけたことで、アンティは酷い罰を受けたという。どういうものなのかはわからないが、学校に来たアンティはどこか、暗い笑みを浮かべていた。
アンティは問題が多かったため、実力は上位クラスなのに、中間クラスに落とされた。そのため、わたくしと同じ教室で過ごすこととなってしまう。
休み時間になると、アンティがわざわざ、わたくしの席の近くにまでやってくる。一人ではなく、取り巻きも一緒だ。
「ラキス様って、帝国では外れ皇族、なんて呼ばれているんだって。知ってた?」
「役立たず、と言われてるのですよね。知ってます。帝国では、とても有名ですから」
「皇族って、絶対に城から出されないというのに、ラキス様は王国にいるということは、役に立たないから、捨てられのね」
「見てよ、生徒会役員だってのに、働いていない」
「どこに行っても、役立たずだから、生徒会でも困ってるのね」
外れ皇族と呼ばれていることは事実である。ただ、そこまで有名だとは、知らなかった。もう、帝国に戻るのはやめよう。
生徒会役員として、これっぽちも動いていないことも事実だ。同じ生徒会役員であるリスキス公爵の末娘セイラは、昼食時も忙しくて、最近は、顔もあわせていない。その分、アランと顔をあわせているけど。
暇が出来ると、わたくしに聞こえるように悪評を口にするアンティたち。わたくしはただ、話を聞き流すだけだ。だって、帝国でも同じような目にあっていた。慣れているのだ。
帝国では、暴力まで受けていたけど、王国ではそれがない。アンティだって、わたくしに妖精をけしかけたりしない。妖精の格で負けて、アンティは一度、復讐されている。だから、決して、わたくしに妖精をけしかけない。
だけど、わたくしについているパリスは何かされている。時々、ちょっと揺れたりしている。転んだりしていないけど、心配になる。
「パリス、無理しなくていいのよ。もう、一人でも大丈夫だから」
「いけません。奥方に異性が近づいたら、アラン様が激怒します」
「………そ、そうなの」
試しに勧めたのだけど、逆にとんでもないことを言われて、わたくしは真っ赤になる。アランが嫉妬するなんて、考えただけで、嬉しい。
でも、アランはわたくしに近づいてくる悪い妖精を狩るのが目的で、わたくしと婚約したのだ。悪い妖精がいなくなったら、わたくしは用無しである。よし、きちんと身の程をわきまえよう。
過去の経験が、わたくしを冷静にしてくれる。
そんな日々を送っていると、何がしら、言いがかりも出てくる。
アンティが突然、泣き出した。一体、何があったのか、と見てみれば、アンティの教科書が酷いこととなっていた。
「酷いっ! 誰がこんなことを!!」
何故か、わたくしのほうに視線が集中する。わたくしは首を傾げるしかない。
「ラキス様、いくらアンティのことが気に入らないからって、こんなこと」
「可哀想、アンティ」
「皇族だからって、嫉妬に狂って、こんなことするなんて」
勝手に犯人にされていく。わたくしはどうしようか、とただ見ているしかない。
そんな時、アランが教室に入ってくる。アランは周りなど完全無視して、わたくしの所に来る。
「今日も元気そうでよかった。何か困ったことがあったらいいなさい。ポーにやらせる」
アランがやるんじゃないんだ。わたくしは呆れてしまう。
そんな簡単なやり取りを、もの言いたげに見てくるアンティたち。ここで口を挟んでも、良いことはないのよね。
無言でいると、パリスがアランに告げ口する。パリスはやっぱり、アラン側だ。
だいたいの事情を耳打ちされたアランは、蔑むようにアンティたちを見る。
「ポーに頼んで、犯人を探せばいいか? 妖精だと一発だぞ」
「そんな、ポー殿下に頼むなんて」
「そうだよな。妖精憑きであれば、出来ることだよな。それとも、出来なくなったか? 格が下がったか。とうとうか」
アランはアンティに容赦なくいう。アンティは悔しそうに顔を歪める。
「妖精に、そんなことが出来るのですか?」
「出来るさ。ただ、それなりに格が必要だ。妖精だって嘘をつく。その嘘をつかせないために、妖精憑き自身もそれなりの格が必要になる。あまり、自らを過信しすぎると、生まれ持った妖精に見捨てられることだってある」
わたくしは驚いた。そんなこと、知らない。
アランはじっとアンティを見る。アンティはアランから顔を背けて、取り巻きの中に隠れる。
アランを探しに来たのだろう。ポー殿下がやってくる。
「何があったんだ?」
「その妖精憑きの教科書が破損されたそうだ。犯人探しをポーにお願いしたいんだが」
「いらないわ!! そんな、犯人が可哀想だもの」
アランがポー殿下に頼んでいるというのに、アンティは断る。それどころか、犯人を庇うようなことを口にする。
「さすが、アンティ。優しいね」
「本当に、優しい」
「それに比べて、犯人は酷いことをする」
「酷いね」
そう言って、わたくしを蔑むように見てくるアンティの取り巻きたち。
ポー殿下はどうしようか、とその場で考え込む。そこへアランが破損した教科書を持っていく。
「ほら、巻き戻せ」
「確かに、その手があったか」
アランが何を言っているのか理解したポー殿下は破損した教科書を手にする。瞬間、教科書は綺麗に元通りとなる。それをポー殿下はアンティに渡す。
「犯人はともかく、これくらい、元通りに出来るようにならないと、妖精憑きとしての格が疑われるよ」
慰めの言葉どころか、下げ堕とすことをポー殿下に言われたアンティは顔を真っ赤にして震える。
アランはポー殿下の肩を叩く。
「ポー、時魔法は、二属性以上だぞ。そこら辺の妖精憑きでは出来ない」
「そうなの!? 僕の身近な妖精憑きは、普通に使っていたから、出来るものと思っていた。そうか、アンティは普通の妖精憑きなのか。ごめんね」
「お前が化け物なんだよ。一緒にするな。だいたい、聖域の慰問だって、王国全土はお前一人で間に合うだろう。王族で発現した妖精憑きは、化け物揃いと決まっているんだ。平民貴族で発現する妖精憑きとは血筋からして違う。今は、試験的に妖精憑きを集めているが、過去の文献が見つかった今、普通の妖精憑きは必要なくなるだろうな。むしろ、そういう妖精憑きは、排除する方向に進んでいく。何せ、人の手に余る上に、身の程をわきまえないからな」
あえて、誰とは言わないアラン。だけど、その場で聞いている者たちは、それがアンティのことだと気づいてしまう。
アンティに味方していた取り巻きたちは、少しずつ、アンティから離れていく。妖精憑きとして栄華を誇っていたアンティだが、ポー殿下の前では、大した実力でないことを暴露されたのだ。その上、このままでいくと、アンティの立場は悪くなっていくという。巻き込まれたら、大変なことになる。
アンティは悔しそうに顔を歪める。そして、きっとわたくしと睨むと、教室を飛び出していった。
誰も、アンティを追いかけない。あれほど、アンティの味方をしていた貴族たちは、気持ち悪い笑顔をわたくしに向ける。わたくしは、つい、アランの後ろに隠れた。
「おや、妖精姫、そんなにくっつかれると、私も我慢出来なくなる」
「白昼堂々と、何やろうとしているの、君」
「抱擁とか、口付けとか、そういう人前では許されることだよ」
ポー殿下の問いに、真面目に答えるアラン。しかも、本当にわたくしを抱きしめるのだ。
「お前たち、授業だ。離れろ」
そこに、シャデランがやってきて、わたくしはアランから解放された。
教室での出来事は、パリスからアラン、ポー殿下、そしてシャデランへと伝えられる。結果、関係者は校長室に閉じ込められてしまう。
「俺が担当するとこで、小賢しいことが起こるとは、腹が立つな。あの妖精憑きをさっさと始末しろ、ポー」
「まだ試験段階だから、そういうことは出来ないよ」
試験段階過ぎたら、シャデランがいう通りのことが出来てしまうようにも聞こえてしまう。わたくしはついつい、アランの服をつかんでしまう。
「私の妖精姫の前で、真っ黒なことは言わないように」
「一番、真っ黒な奴が何言ってるんだ」
「僕よりも真っ黒だろう」
「妖精姫の前では真っ白だ」
「………」
シャデランとポー殿下が呆れたようにアランを見返す。アランは揺るがない笑顔である。
「帝国のほうにも、蔵書は渡ったから、今後の妖精憑きの扱いも変わってくるだろう。まあ、あっちは、すでに体系化しているから、変える必要がないがな。むしろ、王国側は、体系化しないで推し進めてしまったから、大変だ」
「歴史が違うだろう。帝国は、長い歴史の上で、魔法使いの組織を体系化したんだ。最初はともかく、途中からは妖精憑き同士で上手に育て合いさせて、今がある。まず、王国は最初の一歩で失敗したからな」
「妖精憑き全ての頭を抑え込める絶対的なのがいなかったから、仕方がない。今さら、ポーが発現しても、遅いからな。身の程をわきまえない妖精憑きだらけだから、予算の無駄つかいだ」
「妖精男爵でどうにかならないか? ほら、お前の母親」
「昨日も父上と蜜月だ。あれを邪魔するほど、私は愚かではない」
「七人目が出来るのか?」
「そこはほら、神の思し召しだ。私は妹がいいな」
最初はとても真面目な話だったのに、どんどんとどうでもいい話に転がっていくアランとシャデラン。
わたくしとポー殿下はただ、聞いているだけだ。わたくしは状況を知らないので、口を挟めない。ポー殿下は失敗続きなので、口出しできないのだろう。
「ポー、実際、あの妖精憑きの実力はどうなんだ? 一度、妖精を盗ったよね。その後は試験してみた?」
「ごめん、何もしてない」
「クソジジイから聞いた話だが、あまりにも酷い行いをした妖精憑きは、妖精に見放されることがあるそうだ。実際に、帝国の魔法使いでもあったという記録を見たんだって。その記録、一例、二例、という少数ではなく、膨大な資料が残っていて、きちんと分析されて、その後は見習い魔法使いに必ず、教えることとなっている。あの妖精憑きは、もしかすると、妖精憑きでなくなっている可能性が高い。きちんと、調べたほうがいい」
「もし、妖精憑きでなくなっていたら、どうしよう」
「自業自得だ。身の程をわきまえないことをすれば、神に見放される。その実例として、表に出すんだな。これで、あの妖精憑きも役に立つというものだ」
「………」
ポー殿下は、アンティを見放すことが出来ない。それはそうだ。ポー殿下が手を下すのだ。アランはただ、正しいことを言っているだけだ。手を下す人の気持ちを考えていない。
「ポー、王族なんだから、しっかりしろ。誰かが手を下さなければならない。妖精憑きを相手どれるのは、妖精憑きだけだ」
さらに、アランはポー殿下を追い詰めた。




