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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-王国の妖精憑き-
36/353

生徒会

 本当ならば、試験を受けなければならない。試験を受けて、クラスが決まるという。だけど、わたくしは試験なしで入学となったため、クラスは中間のところとなった。

 アランはというと、試験を受けていないのだけど、無理矢理、上級クラスに入れられた。アランはクラス編成の張り紙を見て、忌々しい、とばかりに舌打ちしていた。

 アランの手によって、わたくしは教室に連れていかれる。

「いいか、男は近づけるな。移動教室でも何でも、ラキスから離れないように」

「大丈夫ですよ。ほら、ぱっとしない見た目ですから」

 パリスにこれでもか、と命じる言葉に、わたくしは苦笑する。朝からずっと、同じやり取りだ。

 入学式も無事、終わり、あとは教室で簡単な説明を受けて、今日は終わりだという。

 アランはまだまだ心配とばかりに、わたくしの手を握る。

「ポーめ、王権を使って、クラス編成をいじりやがって。今日も負かしてやる」

 学校だからか、怒っているからか、アランはポー殿下のことを呼び捨てにする。本当は、アランとポー殿下は、もっと気楽な間柄なのだろう。

「アランも教室に行かないと」

「もう、ここでいい。どうせ、どのクラスでも、話すことは同じだ。教科書だって同じだ。だいたい、私に今更、あんな教科書の内容なんて、勉強する必要なんてないんだ。読み飽きるくらい読んだんだ」

「お陰で、わたくしは勉強になりました。ありがとうございます」

「………仕方がない。妖精姫のいう通りにしよう。帰りも迎えに来ます。動かないように」

 アランはやっとわたくしから離れて、教室を出ていった。

 アランは目立つので、教室中の視線がわたくしに集中していた。アランがいなくなると、やはり、気になるようで、近くの席の女子が話しかけてきた。

「初めまして、帝国の皇女様」

「………」

 ここが難しい。一応、わたくしのほうが立場が上なので、簡単に挨拶をしてはいけないのだ、とアランとパリスに注意された。

 わたくしは笑顔で首を傾げるしかない。相手の子は、貴族でもそれなりなのだろう。わたくしの態度に、すぐ、表情を歪める。

「外れ皇族のくせして、随分と偉そうね」

 あ、帝国の事情をものすごく知ってる子だ。

 わたくしは苦笑するしかない。王国だろうと、帝国だろうと、そういうふうに罵ってくる子はいる。男爵領では、それがなかったので、久しぶりなことに、思い出してしまう。

 わたくしに悪意を向けられたので、間にパリスが入る。パリスの威圧により、隣りに座る貴族は引き下がった。

 そうして、入学式後、教室にやってきたのは、眼帯をつけた教師である。体全体で危険なものを解き放っている教師に、教室はシーンと静かになる。

「俺はリスキス公爵の血縁シャデランだ。この学校の校長なのだが、今回、帝国の皇族を生徒と迎えることとなったため、このクラスを担当することとなった。帝国の皇族相手に問題を起こすようなことをした場合、覚悟するように」

 とんでもない大物が担任となった。

 リスキス公爵は王国では貴族の中の王族と言われるほどの高位貴族である。余った王族が貴族となるために作られたのがリスキス公爵家だ。だから、下手な王族よりも、王族としての血筋がしっかりしている。国王が間違いを犯した時は、リスキス公爵家が王位簒奪をすることとなっている。王族といえども、リスキス公爵の顔色を伺わなければならない。

 先ほど、わたくしを”外れ皇族”と罵ってしまった貴族の女の子は、途端、真っ青になった。わたくしが一言いえば、彼女は問題を起こした貴族として、晒し物だ。

 シャデランは、早速、わたくしを見て、告げ口を待っているようだ。そういうことが好きなのだろう。だけど、わたくしは平和に生きていきたいので、ここは沈黙である。頑張って笑って、口を閉ざした。

 それからは、よくある学校の説明と明日の授業内容でる。一通り、それが終わると、解散となった。

 アランには、待っているように言われているので、わたくしは大人しく座っていた。そこに、シャデランがやってきた。

「お声かけして良いかな?」

「もちろんです。貴族の中の王族であるあなたは、わたくしに許可なく話しかけられます」

「随分とアランから教えられたのだな。アランの父ロベルトは元気かな?」

「わたくし、会ったことがありません」

 アランの父のことを皆、知りたがっていた。まさか、シャデランまで知りたがるとは、驚いた。

「皆さん、アランのお父様のことを随分と気に掛けるのですね。こういってはなんですが、アランのお父様は、その、もう、身分も何もかもない方ですよ」

「そうなる以前は、リスキス公爵家の養子に入った子だ。とても優秀で、跡継ぎが出来た後は、国王の側近となる話まであった。それが、身分も何もかも捨て、今では生きているが、どうなっているかわからないという。リスキス公爵家の現当主が、ロベルトの義弟だ。ロベルトのことは、兄のように慕っていたから、聞いてきてほしい、と頼まれたんだ」

「そんな事情があったのですか。知りませんでした。お力になれず、すみません」

「距離が近い」

 わたくしとシャデランがアランの父のことで話しているだけなのに、何も知らないアランがシャデランの肩を押して、わたくしから離す。

「シャデラン、私の妖精姫です。あげません」

「お前は、昔からご執心だな。たった一度会っただけで、ここまで執着するのは、異常だぞ」

「あなたに言われたくありません。いまだにリリィのことを想っているくせに」

「………」

 微妙にシャデランは気まずい、みたいに視線を逸らした。何かあったのだろう。

 アランはシャデランの様子など気にせず、わたくしの前に立つ。

「何か御用ですか?」

「貴様の父は元気か、聞いただけだ」

「元気ですよ。子どもも孫も入れないぐらい、父上と母上は蜜月の毎日です」

「面会を願っても、許可が下りないと聞いたが」

「王族でさえ拒否しています。だいたい、たかが平民相手に、王族も貴族も、無理難題を言い過ぎです。もう、そっとしておいてください」

「………すまない」

 珍しく、アランは怒っている。シャデランは思い当たる事でもあるのだろう。大人しく引き下がった。

「ラキス、帰りましょう」

「はい」

 手を出されたので、わたくしは普通にアランの手を握る。手袋で隠されているが、アランの手はとてもがっしりして、傷等を感じられる。

 アランは肌は日に焼けて浅黒いが、かなりの美男子だ。どうしても、教室中の視線はアランに集中する。なのに、アランはわたくしを優しく見つめる。そのため、嫉妬の視線がわたくしに向けられる。

 そういう痛いものを受けながら、教室を出ると、今度は、王族のポー殿下と対面する。

「ラキス嬢、お久しぶりです」

「お久しぶりです、ポー殿下?」

 挨拶をしているのに、アランはさっさとわたくしの手をひいて、ポー殿下とは逆のほうへと歩いていく。

「ちょ、アラン!」

 ポー殿下が追いかけてくる。それを無視するアラン。

「アラン!!」

 結局、アランは力づくで止められる。忌々しい、というようにポー殿下を睨むアラン。

「聞いたぞ、あの妖精憑きを治してしまったと。とんだ害悪を解き放ったものだ」

「すみません。僕の失敗です」

「一度目の失敗だから、許してやる。二度目はない」

「そのことで、今後の相談をしたい」

「私の妖精姫を利用するな。お前だって、あの公国の姫君を利用されたら、イヤだろう」

「っ!?」

「その甘さが、今回の失敗だ。あの妖精憑きからは妖精を盗りあげ、きちんと罰を与えろ。帝国ではそうしている」

「しかし、妖精憑きの数が」

「そういう甘いことを言っていると、やらかすぞ。まあ、やらかした後の始末は、私がしてやってもいいがな。ただし、妖精憑きが人として壊れるな」

「どうにか、します」

 内容はよくわからないが、見ていて、ポー殿下のことが気の毒になってしまう。

 アランは解放されると、さっさとわたくしの手を引いて、その場を離れながらいう。

「他の男に目を向けるな。相手の男を殺したくなる」

「そんな、ただ、王族と皇族として、話しているだけです」

「ポーでは、妖精狩りは失敗する。私だけが頼りだと、しっかりと認識しろ」

「わかっています。だから、そんなに怒らないでください」

 頼るのはアランだけだ。アランがいなくなれば、わたくしは何も出来ない。

 アランはどこにも寄らず、まっすぐ、わたくしを寮に連れていく。ドアの前に立たせると、アランはわたくしを抱きしめる。

「どいつもこいつも、私の妖精姫に近づいてきて」

「アランが想像しているような、邪まなものはありません!!」

「私は邪まなものがあって、あなたに近づいた」

「その、妖精ですよね」

「………それもあります。今日は、大人しく部屋にいなさい。明日も、迎えに来ます」

「パリスがいますから、大丈夫です」

「あの妖精憑きは、また、悪さをする」

「でも、わたくしには高位の妖精がいます。大丈夫です」

「………わかった。何かあった時は、すぐ、駆けつけるから」

 そう言って、アランは部屋に入ることなく、転移してしまった。

 アランがいなくなってから、わたくしはその場に座り込んだ。遅れてきたパリスが駆け寄ってくる。

「どうかしましたか、奥方」

「ア、アランが、あんなこというから」

 まるで、愛の告白だ。アランの目的は、わたくしに近づいてくる悪い妖精だと言っているのに、わたくしに向けられる言葉はどれも、わたくしに愛を囁いているようにしか聞こえない。

 わたくしはアランの前では、どうにか平静を装っていたが、アランがいなくなると、もう、顔だけでなく、全身が熱くなった。

 しばらく、動けなかった。





次の日には、上級クラスにいるリスキス公爵家の末娘セイラ嬢がわざわざ、わたくしのところにやってきた。

「初めまして、帝国の皇族ラキス様」

 セイラ嬢はものすごく優雅な礼をとる。これには、わたくしは席を立って止める。

「学校では、身分というものは、実は平等のような話を聞きました。もう、やめてください!!」

「ですが、あなたは帝国の皇族。賓客です」

「今は、妖精男爵の養子アランの婚約者です。嫁いでしまえば、わたくしはあなたよりも下位になります」

「アランは、帝国に行けば皇族です。アランは、王国でもわたくしよりも上です」

「帝国では、外れ皇族と呼ばれています。もう、外れと言われてしまうほど、皇族教育の成績は酷いものでした」

「知らないのですか? 今、帝国では、皇族教育のやり直しで大変になっているという話を」

「すみません、男爵領では、そういう話は全て、教えてもらえません」

 セイラ嬢はわたくしの隣りの席に座って、教えてくれた。


 帝国の皇族教育を調べるために、それに詳しいと言われる子爵リッセルが子爵家にある過去の資料を持って行ったという。そこで、皇族教育が歪められていることが発覚する。あまりの歪みに、リッセルは女帝エリシーズに皇族教育の貴族たちに妖精の呪いの刑を進言した。

 妖精の呪いの刑は、つい最近、元外務大臣ゴランが執行されたばかりだ。ゴランに血筋的に一族とされる者たちは、罪状に関係ないというのに、妖精に呪われて、一族郎党、滅び去ったのだ。あまりの刑罰に、平民も貴族も恐れおののいたという。

 しかし、あまりにも重い刑罰であるため、女帝エリシーズは関わった貴族の家族までを処刑することですました。

 そして、子爵リッセルの主導のもと、皇族教育のやり直しが行われているという。


 驚いて、声も出せない。まさか、男爵領に行ってから、そんなこととなっているとは、知らなかった。

 そして、思い出す。アランは、わたくしに、皇族教育の試験を受けさせた。酷いと言ったのは、出来の悪さではなく、間違った教育を受けたことに気づいたからかもしれない。

 今日はまだ、アランに会っていない。朝はパリスと一緒に登校した。アランが側にいないからか、挨拶もしてもらえる。

 セイラ嬢も話しかけてくれて、わたくしは少し、嬉しくなる。

「教えてくださって、ありがとうございます」

「大したことはありません。良かったら、お昼もご一緒しませんか?」

「アランのお父様のこと、わたくしは何も知りませんよ」

「そうなの!?」

 やはり、セイラ嬢も、アランの父ロベルトの情報が目当てだった。セイラ嬢は、父親に頼まれたのだろう。

「シャデランにも言いましたが、伝わっていないようですね」

「わたくしも寮生活なので、情報の伝達がうまくいっていませんでした。でも、仲良くしたいのは本当です。まずは、一緒にお昼を食べましょう」

「わたくし、右も左もわかりません。色々と教えてください」

「おませあれ!」

 セイラ嬢は、貴族の中の王族の血筋だけど、末娘という立場は、気楽なのだろう。気安い話し方となる。

 そうして、話していると、授業の時間となって、セイラ嬢は上位クラスの教室へと戻っていった。




 お昼ご飯時に、セイラ嬢は約束通り、やってきた。わたくしはパリスと一緒に食堂に行くと、あまりの人の数に、動けなくなる。

「わたくしたちは、こっち」

 セイラ嬢に引っ張られ、上のほうにある席に連れて行かれる。

 そこには、ポー殿下とどこか空気の違う数人の貴族がいた。そこの端にわたくしは座る。

「あの、アランは?」

 ポー殿下がいるので、アランがいるものと思っていた。

「アランはシャデランに捕まってた。後で来るから」

 ニコニコと笑って答えるポー殿下。何か、罠にはまってしまったような気分になる。

 ポー殿下を中心に、選ばれた者たちが食事をしているように見えた。わたくしは、パリスが作ったお弁当を広げる。

「ラキス様は、お弁当なのですか!?」

「わたくし、好き嫌いが多いので」

 帝国では、酷い扱いをされていました、なんて言えないので、誤魔化した。でも、パリスが作るお弁当は美味しい。

 そうして昼食をとっている所に、ポー殿下が声を話しかけてくる。

「ラキス嬢は、生徒会は、やはり、断りたいよね」

「アランには、断るように言われました」

 正直に答える。ポー殿下は困ったような顔をする。

「実は、高位貴族の人数が足りなくてね。名前だけでもいいから、所属してもらえると助かるのだけど」

「そういうものなのですか?」

「あまりにも下位ばかり集めると、貴族の権威を笠に着られてしまって、生徒会としては動きづらくなることがある。だから、二人一組で活動させる時は、一人は高位貴族にさせてるんだ」

「そうなのですか。ですが、わたくし、本当に右も左もわかりませんので、お役に立てませんよ。むしろ、アランのほうがいいでしょう。アランは、帝国ではわたくしと同じ皇族ですよ」

「王国では男爵の養子だから、そこが引っかかってしまうんだ。まあ、アランはそういうのを越えた存在だから、身分なんて紙屑だけどね」

 確かに。ポー殿下にさえ、説教をしてしまうアラン。校長であるシャデランも、アランには勝てない様子だ。

 でも、それはアランをよく知る者たちの間でのこと。知らない者は、権威を笠にきて、アランの頭をおさえつけるようなことをするだろう。

「アランと、相談してみます」

 でも、わたくし自身はあまり、強く出るのは苦手なので、返事を先送りにする。

「そんな、せっかく、高位貴族の女子を見つけたのに! 見てよ、ここ、男ばっかり。女子がいないのよ!!」

「セイラ嬢も生徒会に所属しているのですか。上位クラスですし、やはり、素晴らしいのですね!!」

 実力のあるセイラ嬢が生徒会に所属するのは、当然である。わたくしは素直に手を叩いて誉めてしまう。

「ご一緒したいですが、アランからは断るように言われています。まずは、アランを説得しないと」

「妖精男爵の養子は、そこまで束縛が強いのですか?」

「強いですよ」

 正直に答えると、セイラ嬢は物凄く驚く。

「その、否定、しない?」

「本当のことです。アランは昨日も、その、口には出来ないようなことを言ってきました」

「それって、気持ち悪くない? だって、ラキス嬢の考えとか、全て、無視しているようなことだって、されているようなものでしょう」

「帝国では、わたくしの存在は、外れ皇族です。アランは、そんなわたくしを必要としてくれます。だから、嫌われないようにしたい」

「………」

「大丈夫です、アランを説得しますから」

 セイラ嬢は黙り込んでしまったので、わたくしは安心させるように、前向きな返事をする。

 そうしていると、遅れてアランがやってくる。

「アラン!」

「どうしてここにラキスがいる!? ラキス、ここで食事をとってはいけない!!」

「どうしてですか? その、セイラ嬢と食事をとる約束をしていて」

「セイラ、嵌めたな。ポーまでも、こんなことして、ラキスを生徒会に無理矢理、入れようとするなんて」

 アランはわたくしの腕を力強くつかんで引き寄せた。食事の途中で席を立つことになるとは、かなりの無作法だけど、怒りの表情を見せるアランを見てしまうと、それを口にする勇気はない。

「ここで食事をとってしまったら、生徒会の一員になった、と噂されることは、わかっていただろう!! それを何も知らないラキスを連れてくるのは、卑怯なことだ」

「上位貴族が足りないんだ。あとは、実力のある生徒も足りない」

「………後で覚えていろよ、ポー」

 アランはポー殿下を睨み下ろす。ポー殿下は笑顔をたたえたまま、アランを見上げる。

「アラン、手伝ってくれ」

「ラキスが生徒会の一員となったら、イヤでも私は関わらないといけなくなる。昨日の今日で、私の妖精姫を利用することを覚えたな。立派な王族に一歩、近づいた。おめでとう」

 アランは嫌味を言って、わたくしの隣りに座る。わたくしは一度、席を立ったが、アランが座ったので、大人しく座って、食事を再開する。

 パリスが予見でもしていたのだろう。アランの分のお弁当を出した。アランは無言でわたくしと同じメニューのお弁当を物凄いはやさで完食する。

「で、他の生徒会役員の皆さまは、私が生徒会役員となることに、納得しているのか?」

 落ち着いたからか、アランはその場にいる面々を挑むように見回す。

 アランの話だと、このテーブルに座る生徒は、生徒会役員だという。見てみれば、疑うようにアランを見ている。

 ポー殿下がわざわざご指名といっても、アランはある意味、無名である。セイラ嬢のように親の代から知っている者はともかく、そうでない者は、アランの実力を疑っている。

 その一人が、アランに重むろに書類の束を渡す。

「学校の帰りまでに計算してみてください」

 中には、びっしりと数字と文字がいっぱいだ。この束を計算するって、わたくしでは無理だ。

 アランはパリスから筆記用具を受け取り、書類をパラパラとめくる。ただ、本を流し読みするような、そんな感じだ。簡単に、内容を確認しているのだろう、そう思っていた。

 ところが、アランは最後の一枚に、何やら書いて、渡してきた生徒に戻した。

 呆然とする生徒。最後の一枚を見て、驚愕する。

「これ、見たことがあるのですか!?」

「私とポーは、こういうものは秒で終わらせる。お前ら凡人と一緒にするな」

「ぼん、じん、だとっ」

「私は物心ついた頃から領地運営を手伝っている。父上は恐ろしい人だ。ちょっとした失敗も許してくれない。だから、今も忙しい。ポー、どうしても手におえない時だけだ。私を生徒会役員にはいれないように」

「ありがとう」

 役員ではないが、手伝ってもらえる、ということだけで、ポー殿下は肩の力を落として、喜んだ。ものすごく、緊張していたようだ。

「ラキス、せっかく出来た友達だ。今を楽しみなさい」

「怒らないのですか?」

 話を聞いてわかる。わたくしは、セイラ嬢に利用されたのだ。セイラ嬢は笑って誤魔化しているが、事実は変わらない。

「それも一つの良い経験だ。セイラ、私の妖精姫を利用するような真似はやめなさい。友達として仲良くするのはかまわない」

「ごめんなさい、ラキス様」

「少しずつ、仲良くなりましょう」

 受け身すぎて、失敗してしまった。だから、わたくしは改めて、セイラ嬢との距離感を見つめ直すことにした。

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