王国の妖精憑き
学校に行くための準備というと、特にない。話を聞いてみると、全寮制だから、入学前には学校の寮にいないといけない。だけど、妖精男爵の養子アランは、男爵領から絶対に離してはいけない存在なので、特例として認められている。
だったら、帝国の一皇族であるわたくしは、寮生活かな、なんて思って聞いてみたら。
「いけません!! 奥方がアラン様と離れて暮らすなんて!?」
わたくし付きの使用人パリスがそんなことを言ってきた。
「でも、わたくしは男爵領から通う必要はありませんし」
「一年で奥方の外見も中身も完璧にしろ、というご命令です。アラン様のご命令は絶対です。使用人一同、誠心誠意、ラキス様を磨くためには、寮に入ることは許されません」
そういえば、そういうこと、アランが命じていた。
男爵領に来て、来て、三カ月が過ぎた。最初は、消化のよいものから食べて、どんどんと食べられる種類を増やしていった。体を動かすことも、男爵領を見て回る程度、出来るようになってきた。そうして、体のほうは健康に近づいてきた。それでも、外見はまだ、痩せすぎだ。まだ、細いな、なんて見てしまう。
中身は………変わったのかどうか、わからない。皇族教育を受けていた身だけど、改めて、アランが最初から指導をしてもらって、よくわかっていないことに気づかされる。右から左に聞き流していたこともあるけど、間違って覚えていることも多かった。
一度、アランお手製の試験をして、酷い点数をとってしまった。それを見たアランは。
「男爵領では、皇族教育なんて、意味ないがな。それにしても、酷いな」
泣きたくなった。
というわけで、中身も磨きなおしである。そうなると、使用人たちは、わたくしもアランと同じように男爵領からの通いを希望するのだ。
そこのところをアランに聞いてみると。
「私一人でも、妖精姫と二人でも、労力は同じだからな。ただ、寮生活は、良い経験となるだろう。せっかく、逃げ道もあるのだから、両方とも、体験するといい」
さすがアランは、相談すれば、そく、解決だ。わたくしだけ、寮も通いも出来るように、手続きをとってくれた。
というわけで、わたくしは入学前に寮へ移動となったのだが。
「私が行きます!!」
「いえ、私が」
「完璧にこなしてみせます!!」
「ラキス様のことは、私のほうがわかっています!!」
男爵がつけてきれたわたくし付きの使用人パリスと、帝国の子爵から派遣された使用人タバサが激しく争うこととなった。
寮には、ある程度以上の爵位であれば、使用人を連れていってよいこととなっている。わたくしは男爵領でお世話になっている。男爵位では、使用人を連れていくことは出来ない。だけど、帝国に行けば皇族である。そうなると、扱いは王族と同じだ。王族はそれなりの人数を寮に連れていってよいこととなっている。
それでは、帝国の皇族だと、どれくらいなんだろう?
わたくし自身は、手のかからない皇族だ。手抜きをされても気にならない。だから、一人でいっか、なんて考えて、そう口にしたところ、パリスとタバサの争いが起こったのだ。
「ラキス様、ぜひ、私を連れて行ってください!!」
「いえいえ、奥方、私を連れて行ってください!!」
とうとう、わたくしに判断させよう、と迫ってくる。
「煩いな。私の妖精姫に迫るんじゃない。女といえども、許さん」
いつもの様子見に来てくれたアランが、間に入ってきた。また、平民と一緒に汚れる仕事をしていたようで、全身がすごいこととなっている。
「アラン様、そのような恰好で奥方に近づいてはなりません!!」
「だったら、私の妖精姫に迫るな。私のものだ」
物凄い勘違いが始まった。アラン、女同士だというのに、相手がパリスでも、タバサでも、近いと嫉妬するのだ。
アランの嫉妬深さに、パリスとタバサはわたくしから距離をとる。
アランは寮に行くための荷物を一瞥する。
「少ないな」
「帝国でも、それほど物がありませんでしたから」
「勉学の道具や制服は全て、王国持ちだが、女性としては、もっと荷物があってもいいものだが。足りないものがあったら、言いなさい。すぐに用意させる」
「そんな、これで十分です!! あとは、その、使用人をどうするか」
「二人では少ないだろうが、パリスが一緒だからな」
「え、使用人は一人だけだと。ほら、妖精憑きリリィは使用人一人がついただけだと、聞きました」
「王族はもっとつける。ポー殿下は、あれだ、魔法使いの修行をしているから、一人だけだがな。王族も皇族も、身の回りは基本、側近や使用人まかせだ。教科書一つも持ち歩くことは許されない。学校での移動は、パリスを連れていくといい。護衛にもなる。タバサは、部屋の中のこと、他の貴族の使用人との交流をしてもらいたい。余計なことをする者はいないと思うが、逐一、私に報告しなさい」
こうして、使用人の人数は二人に増やされた。
学校の寮への移動はアランの力を使った。アランは魔法具や魔道具を使えるので、ひとっとびだ。
どこか適当な所に転移して、わたくしの荷物をパリス、タバサ、そしてアランが持って移動する。
「そんな、わたくしが持ちます!」
「妖精姫の荷物をそこらの人に任せたくない。触らせないようにしなさい」
どこまでも、アランは束縛をする。その束縛するまでの価値がわたくしにはあるようでないのだけど。
アランは目立つ。体はがっしりして、肌は浅黒く、見た目がとてもよい。女子寮に向かっているので、どんどんと女性が多くなってきて、視線がアランに集中する。
見上げてみれば、アランはまわりなど見ていない。わたくしを笑顔で見下ろしている。わたくしは慌てて俯いて歩く。
まだ、アランのこういう行動には慣れない。
そうして、寮の前に到着すると、騒動が起こっていた。
「どうしてですか!? アタシの部屋だと決まっていたではないですか!!」
「さらに上位の方が入学されることが決まりました」
「アタシよりも上位って、誰なの!?」
「帝国の皇族です」
「帝国の皇族? そんなのよりも、アタシが下だっていうの!?」
わたくしが関わることとなる騒動だった。わたくしは足を止める。この騒動をどうにか避けたい。
だけど、そういうものに突き進んでいくのが、アランだ。アランはわたくしの荷物を持ったまま、受付で困っている教師たちの所に行く。
「帝国の皇族姫を連れてきた。部屋の案内を頼む」
「ちょっと、アタシが先よ!!」
話し方はともかく、とても綺麗な女の子だ。アラン相手にも噛みつく。
アランはこの騒動を起こしている女の子を一瞥する。
「その程度の妖精憑きが、偉そうにするな。歴史が浅いと、勘違いが出るな。痛い目を見ることとなるぞ」
「アタシが妖精憑きだと知っていて、そういう態度をとるの。妖精憑きは、すごいのよ。神様が選んだんだから」
この女の子は、妖精憑きだという。アランが一目見て、そういうのだから、そうなんだろう。本人もそれを口にして、とても偉そうだ。
帝国では、妖精憑きは皇族の下だ。それは、筆頭魔法使いがいるからだ。筆頭魔法使いは帝国にいる妖精憑き全てを支配出来てしまうほど力が強い。その筆頭魔法使いを契約で縛っているのが皇族だ。
だけど、王国は違うようだ。妖精憑きの女の子を皆、遠巻きに見て、恐れている。
アランはどちらでもない。煩い何かがいる、程度にしか見ていない。
「私の妖精姫の部屋に案内してくれ。私は忙しい」
「で、ですが」
教師たちは、妖精憑きの女の子を恐れていた。それを見て、勝ち誇ったように笑う妖精憑きの女の子。
「この寮の一番豪華で広い部屋は、アタシが使うの! 後からきた帝国の皇族なんかに使わせない!!」
「お前の妖精では、帝国の筆頭魔法使いの妖精には勝てないぞ。逆に呪われるから、やめておきなさい」
「なんですって!?」
アランがはっきり言えば、妖精憑きの女の子は怒り狂った。何かが起きたのだ。
悲鳴があがる。何もないのに、アランの腕や顔に傷が出来る。
妖精憑きの女の子はニヤリと笑う。
「アタシに逆らうと、怪我するんだから」
「何をやってるんだーーーーー!!!」
騒ぎで呼ばれたのか、王族のポー殿下がやってきた。妖精憑きの女の子を容赦なくゲンコツで殴る。
「い、いたっ、ポ、ポー殿下!?」
妖精憑きの女の子は仕返ししようとして、相手が王族であり、最強の妖精憑きであるポー殿下だとわかり、怯える。
ポー殿下は、妖精憑きの女の子の態度など無視して、アランの傷を見る。
「なんてことしたんだ、君は!? よりによって、妖精男爵の血縁に怪我をさせるなんて!! しかも、アランに!!!」
ポー殿下は恐怖に震え、真っ青になる。対するアランは怪我なんて気にしていない。それよりも、わたくしの荷物が無事かどうか、確かめている。
「アラン、本当にすまない」
「妖精憑きを受け入れる一期生なんだろう。王国は教育が出来ていないから、仕方がない。ほら、治して」
「う、うん」
アランの怪我はポー殿下の手によって一瞬で治された。
こういう事をわたくしも初めて見た。妖精憑きって、本当にすごい。
妖精憑きの女の子は、不貞腐れた顔をして、そっぽを向く。
「アンティ、アランに謝りなさい」
「その男が、その、暴力を」
「アランが本気になれば、僕だって勝てないほど強いのにか? 強者は、簡単に力を見せない。それに比べて、アンティはすぐ感情的に妖精を使う。だから小物だと言われるんだ」
「っ!?」
ポー殿下に言われて、羞恥で真っ赤になる妖精憑きアンティ。また、妖精を使うのか、と周りの貴族の令嬢たちや教師たちは身構えてしまう。
「私の妖精姫の荷物は無事だからいい。さっさと、部屋の案内をしてくれ。私はすぐ、領地に戻らなければならない」
「そういうわけには」
「妖精憑きの矯正は、お前の時で、散々だった。もうやりたくない。あまり酷いようなら、妖精を盗って、罰を与えるんだな。それでも直らないのなら、それまでだ」
「アラン、ちょっとでいいから」
「断る」
アランとポー殿下の間で、何かあったようだ。話を聞いていると、ポー殿下はアランに何か頼み事をしているようだ。それをアランは頑なに拒否している。
「案内を」
「こ、こちらです」
ポー殿下まで来てしまったので、妖精憑きアンティはもう、文句を言わない。
だけど、彼女の前を通るわたくしを睨んでくる。アンティに顔を覚えられてしまったので、今後は、何かと言ってきそうだ。
案内された部屋は、確かに広くて豪華だ。部屋というよりも、ちょっとした別邸である。寮とは別の所に建てられた別邸だ。
「ここまで豪華な所はちょっと」
これほどの寮だというのに、荷物は少ない。普通に寮でもいい感じだ。
「わかっていないな。これは、王国側のためだ。妖精姫に妙なことをすると、筆頭魔法使いの妖精が復讐する。そういう被害にあわせないために、あえて、王族用にしたんだ」
「そうなのですか」
「そういう危険性がなくなったら、あちらに移動できるようにしよう」
アランなりに考えてのことだった。
荷物を置いて、一息つくように、アランはわたくしをソファに座らせる。それと入れ替わりにパリスが茶を持ってきた。タバサは荷物を開けている。
「男爵邸と、変わりませんね」
何一つ、わたくしはやっていない。全て、アラン、パリス、タバサがやってくれている。本当にお荷物だな、なんて思ってしまう。
「その体がしっかりしてきたら、どこまで才能があるか、確かめよう。才能がなくてもいい。私やパリスが身の回りをやろう」
「でも、それでは、本当にお荷物です」
「笑っているだけでいい」
アランはわたくしの前に跪き、わたくしの手をとって微笑みかけてくる。
笑顔はまだ練習中だ。貴族なのだから、作り笑いぐらいは、とやってみるが、出来ない。それでも笑ってみると、アランは嬉しそうに笑う。
「今は、側に置いて、こうやって、触れられるだけで幸せだ」
「その、妖精狩り、は」
「エサはもうまいた。近い内にくるだろう」
「………」
やはり、わたくしは妖精をおびき寄せるためのエサなのね。わたくしは苦笑するしかない。それは、簡単に出来てしまう。
勘違いしてはいけない。アランはわたくしを悪い妖精をおびきよせるために求婚までしたのだ。悪い妖精がいなくなったら、きっと、捨てられる。思いあがってはいけない。
わたくしはお茶を飲んで一息ついた。その間に、アランの力で、部屋はさっさと整えられる。瞬きを数度するだけで、タバサの仕事はなくなる。
「アランは、本当に妖精憑きではないのですか?」
ついつい、確認のために聞いてしまう。妖精を使っているのだ。これで妖精憑きではない、というのはおかしい。
アランはわたくしの向かいに座り、小さいけど、たくさん詰まれたお菓子を出した。それをお皿にいくつか置く。
「本来は、妖精憑きというのは、妖精を憑けて生まれた者のことをいう」
お皿に大きなお菓子一つと小さなお菓子をざらざらと置く。大きなお菓子が人で、小さなお菓子は妖精のことだ。
「私は、こうだ」
大きなお菓子を一つお皿に置いて、別のお皿に小さなお菓子を山のように積む。
「この小さなお菓子がリリィの妖精だ。私は、この妖精たちを使役出来るにすぎない」
「リリィの妖精って、いっぱいいるのですか?」
「そうだ。王国中に散らばっている。この学校の敷地にもいる。それを全て、私は使役出来る」
「そんなにすごい妖精憑きなのに、その、人に殺されてしまうなんて」
妖精憑きリリィのことを男爵領にいる間に聞いてみれば、皆、隠すことなく教えてくれた。
妖精のことを視認出来ないリリィ。男爵領で望むのは、幼い頃から側にいる使用人ダンと結婚することだけ。それだけを望み、それ除く幸福はただ、祈る程度の、心優しい女の子。決して、人を傷つけたり、死を望んだり、そんな恐ろしいことを祈ることも望むこともしないように、男爵家は教育していたという。
リリィが簡単に人に殺されてしまったのは、この男爵家の教育のためだろう、と言われている。心優しく、他人の幸福のみを祈るリリィは、不幸な村人たちの見当違いな怒りを受け止め、簡単に殺されてしまった。
「男爵領より外は、優しくない世界だ。リリィは男爵領での生き方のまま、外に出てしまった。人を恨むなんて知らない彼女だからこそ、殺されてしまったんだ。殺されても、リリィは恨むことなく、仕方がない、と思ったのだろう。だから、リリィは妖精に今も愛されている」
目に見えない何かをアランは見ている。きっと、この部屋にも、リリィの妖精がいるのだろう。
アランはそうそうに帰っていった。転移なので、部屋からぽんと消えていなくなってしまった。
わたくしはいつもの通り、本を読んだり、別邸を歩き回ったりとしていると、ドアを激しくノックされて、驚いた。ノックというよりも、蹴られているような気がするけど、そんなことはないと思いたい。
今日、入寮したばかりで、知り合いなんて一人もいない。わたくしはただ、パリスに椅子に座るように促される。
相手は待てないようで、ドアを叩く。ここは広いので、なかなか出られないのだけど、待たせるのは、よくない。
わたくしが椅子に座ってから、やっとパリスはドアを開ける。途端、妖精憑きアンティが中に入ろうとする。それをパリスが腕をつかんで止める。
「痛いじゃない!!」
「入る許可は与えられていません。出ていきなさい」
「使用人のくせに、口答えするの。今日から、ここで、あんたと一緒に暮らしてあげるのよ」
アンティはパリスの制止を妖精の力で振り切ってしまう。パリスは見えない何かに吹き飛ばされる。それでも、倒れたりしないのは、すごい。
アンティはわたくしの向かいに座る。
「本当は、一人で使いたいけど、特別に、許してあげるわ」
「出ていってください」
パリスに何かしたことに、わたくしは怒りを覚える。このまま、見逃してはいけない。
「まさか、アタシに言ってるの? 妖精憑きのアタシに? たかが帝国の皇族が?」
「妖精の力を私利私欲で使うような人を許してはいけません。出ていきなさい」
体が震えるのを耐えて、わたくしは告げる。まっすぐ、アンティを睨む。
アンティはわたくしを見て嘲笑う。
「王族と同じくらい偉い人だっていうけど、ものすごくみすぼらしい。実は、不貞の子だったりして」
「ラキス様は、れっきとした皇族です!! きちんと儀式も通った方に、なんて無礼な!!」
「うるさい!!」
タバサが口を挟むと、アンティはまた、妖精の力でタバサを吹き飛ばす。さすがにタバサは倒れてしまう。
「タバサっ!」
わたくしはタバサを助け起こした。酷く打ち付けたようで、とても痛そうだ。
「こんなことをするなんて。ポー殿下に訴えます!!」
「そんなことしたら、アンタたちをもっと酷い目にあわせてやるんだから」
目に見えない妖精の力で脅すアンティ。それには、わたくしは恐怖ですくんでしまう。
「ちょっと、痛い目にあってみな!」
アンティはわたくしに妖精を差し向けた。わたくしは吹き飛ばされるだろう、と覚悟して目を閉じた。
「いやあああーーーーーー!!!」
ところが、アンティが悲鳴をあげた。見てみれば、アンティの腕や顔が異形化したのだ。
この異形化をわたくしは見たことがある。アランの妖精に復讐された皇族エンラだ。エンラにも、筆頭魔法使いの妖精がついているのだが、アランについていた高位の妖精によって、力負けして、手が異形化してしまったのだ。
アンティは、わたくしについている筆頭魔法使いの妖精に負けて、復讐されたのだ。
「アンタ、妖精憑きね!!」
「違います。わたくしたち皇族には、筆頭魔法使いの妖精がついています。アランが言っていたではないですか。あなたの妖精では、筆頭魔法使いの妖精には勝てないって」
「ちくしょー、騙したな!!」
とんでもない憎悪の形相でわたくしを睨み、アンティは出ていった。
アンティがいなくなってすぐ、パリスはまだ立てないタバサをソファに座らせた。
「ここまで酷い妖精憑きに育てるなんて、教育がなっていませんね」
「仕方のないことです。王国は歴史が浅いのですから」
王国はもともと、妖精憑きを見出す儀式自体、存在しない。大昔に、なくしてしまったのだ。それを皇女エリカの身柄と引き換えに、帝国が王国に授けたのだ。
王国は、妖精憑きを見出す手段がなかったため、それまでは、聖域の番人を無垢な少女五人に押し付けていた。そのお陰か、それとも、王国民の心意気が良かったのか、聖域は綺麗なままだったという。しかし、いつまでも、無垢な少女で聖域を綺麗に保てるはずもない、とわかっていた王国は、帝国から妖精憑きを見出す儀式の手法を手に入れたのだ。
帝国では、大昔から妖精憑きを魔法使いと呼び、教育し、聖域の穢れを浄化させていた。それを王国でも行おうとしたのだが、肝心の教育の部分が抜けてしまっていた。
結果、アンティのような妖精憑きが誕生してしまったのだろう。
手がつけられない王国の妖精憑きをどうにか出来ているのは、王族ポー殿下のお陰だ。最強最悪の妖精憑きと言われるポー殿下の前では、さすがの王国の妖精憑きも逆らうことが出来なかったという。
でも、隠れて、こんなふうに妖精憑きの力を悪用されてしまうと、いくらポー殿下でも、防ぎようがないだろう。
今回は、たまたま、わたくしが王族で、アンティよりも高位の妖精に守られていたが、そうでない貴族や平民のほうが多い。ポー殿下といえども、守り切ることは不可能だ。
それでも、今回のことは、ポー殿下に報告しなければならない。
「紙とペンを準備してください。ポー殿下に手紙を出します」
わたくしの意図を理解したパリスとタバサは、すぐに手紙を書く準備をしてくれた。
わたくしの手紙が届くよりも先に、アンティはポー殿下に泣きついた。なにせ、顔と腕が異形化してしまったのだ。
アンティは嘘ばかり言って、ポー殿下に異形化した部分を治してもらった。その後に、わたくしの手紙を受け取り、ポー殿下は酷く、後悔した。
アンティは罰らしい罰を受けることなく、そのまま、学校に残ってしまった。




