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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-外れ皇族姫-
34/353

妖精男爵領

 男爵領に到着すると、即、わたくしは男爵の部屋に案内された。アランは、他に行くところがあると、席を外してしまい、わたくしと男爵、二人っきりにされた。

 身の回りは全て、自分自身で、と言われていたが、わたくしが皇族として育ったと説明された男爵は、身の回りの世話をする使用人をつけることとなった。

 とても優しい感じのする男爵は、アランの義父となる。アランの父親の兄だとか。

「皇族のように、という扱いは出来ないが、不便のないようにはしよう。聞いたよ、妖精に狙われているんだって」

「そうらしいです。ご迷惑をおかけします」

「ロベルトとアランがいる限り、悪い妖精は、この領地には入って来れないから、安心しなさい」

「どうしてですか?」

「………」

 笑顔だけで無言になる男爵。優しい顔立ちだが、やはり、男爵である。何かしらの教育を受けている。話してはいけないことをわたくしは聞いたようだ。

「すみません、聞いてはいけないことだとは知らなくて」

「いや、僕から話すことではないと判断したんだ。いつか、アランから話すこととなるだろう。それに、男爵を継ぐのはアランと決まっている。アランと結婚するのなら、知ることとなるだろう」

「っ!?」

 わたくしはかーと顔が真っ赤になるのを自覚する。婚約したのだから、将来は結婚するのだ。今更ながら、そのことを自覚した。

 そんな話をしていると、男爵に呼ばれた使用人が部屋に入ってきた。

 使用人は綺麗な女性だ。隙という隙がない。

「お呼びでしょうか、旦那様」

「すまないね。パリス、今から、ラキス嬢つきになってくれないかな。ラキス嬢は帝国の皇族だから、身の回りのことは何も出来ない」

「教えてくだされば、出来るようになります」

 少しでもはやく、男爵領に慣れたかった。そうすれば、アランから捨てられない、そう思った。

 パリスはわたくしを上から下まで見る。これほどの綺麗な使用人に品定めされるのだ。わたくしはついつい、小さくなってしまう。この、残念な見た目では、きっと、パリスのお眼鏡には敵わないだろう。

「こちらのお嬢様は、どういった関係の方ですか?」

「今日来たばかりだから、アランも話していないのか。アランの婚約者だよ」

「アラン様の奥方ですか!?」

「婚約者だよ」

「奥方!! 皆さん、アラン様の奥方ですよ!!!」

 男爵が訂正するけど、パリスはわたくしをアランの伴侶と言い張って、部屋から飛び出していく。

 わたくしは呆然とする。男爵は、というと、ただ、笑っているだけだ。

 そうしてしばらくすると、物凄い足音とともに、たくさんの使用人が部屋に入ってきた。

「とうとう、アラン様に奥方が!!」

「誠心誠意、お仕えせねば!!」

「これほどやせ細って、ご病気なのでは!?」

「滋養のよいものをすぐ用意しよう!!」

「アラン様の奥方の病気など、我々が完治してみせます!!」

 口々にわたくしをどうしよう、ああしよう、と話し合う使用人たち。あまりの歓待ぶりに、わたくしは驚くしかない。だって、これまで、こんなふうに温かく迎え入れられたことはなかった。

「こらこら、私の妖精姫を取り囲んで、勝手に話を進めるな」

 そこに、用事を終わらせただろうアランが、開けはなったままのドアを軽くノックしてから入ってきて、わたくしと使用人の間に立つ。

「若の奥方ですよ!!」

「誠心誠意、お仕えせねば!!」

「義父上、どうして、こうなったのですか。私から話すと言ったでしょう」

「パリスが暴走した」

「………人選は私に任せてほしかった」

 男爵が笑って頭を下げる。それを見て、頭が痛い、とばかりに額をおさえるアラン。帝国では、傍若無人のようなのに、男爵邸は苦労人のようだ。

「アランもロベルトも忙しいだろうから、少しでも楽にしようと。ごめんね」

「い、いえ、ありがとうございます、義父上。そういうお気持ちは嬉しいです」

 男爵の良かれ、という行為に、アランはお礼を述べる。男爵は、とても嬉しそうに笑っている。

 そこで、一息ついて、アランは集まってしまった使用人たちに向き合う。

「お前たち、さっさと出ていけ。パリスは義父上が決めた通り、私の妖精姫の身の回りを誠心誠意、お世話しなさい。一年かけて、外も中も磨いてくれ。一年後に、一度、帝国の皇族どもに見せびらかしに行く」

「お任せください!! 奥方は磨きがいのありますね。まずは、食事からです。良い香油もありますから、使いましょう」

「好きなだけ使え。足りなかったら、私が用意する」

「はい!」

 大喜びでパリスは部屋から出ていった。これから、色々と準備するようだ。

 一体、どうなるのかわからないわたくしは、ただ、座っているしかない。

「ロベルトにラキス嬢を会わせられそうか?」

 男爵がそういうので、今更ながら、アランの実の父親にまだ挨拶していないことに気づく。

 アランは男爵の養子となったが、実の父親は邸宅のどこかにいるという。だったら、わたくしは挨拶をしなければならない。

「今日はあまり調子が良くなさそうだ。すまないな、ラキス。父上は、長年の無理がたたって、今ではベッドから起き上がれない。お迎えが来る前に、一度でも父上にはラキスを会わせてやりたいんだがな」

「そこまで体が悪いのですか?」

「………はやく、お迎えが来たほうが、楽になるだろう」

「アラン、そんなこというものじゃない。ロベルトはまだまだ生きたがっている」

「父上が生きたがっているんじゃない。母上が縋っているからだ。あの二人は、子どもが六人いて、孫までいるというのに、若い頃そのままに愛し合っている。見ていて、子どもの入る隙がこれっぽっちもない」

 呆れたようにいうアラン。とても不幸な話で始まったのに、最後はなんだか、良い話で締めくくられている。

 話がひと段落したのか、アランはわたくしに手を差し出す。

「妖精姫の部屋の準備が出来ました。案内します」

「ありがとうございます」

「そうそう、ロベルトの郵便物があるけど、どうする?」

「私が処理します」

 アランはかなりの量の郵便物を片腕に抱え、わたくしの手を握って立たせて、と忙しそうだ。それでも、アランは苦ではない顔を見せる。むしろ、嬉しそうにわたくしに笑いかける。

「では、行きましょう」

 こうして、わたくしは男爵邸で過ごすこととなった。





 アランは忙しそうだ。わたくしの様子を逐一、見に来ては、すぐにどこかに行ってしまう。朝は綺麗なのに、夕方には泥だらけだ。領民たちと一緒に、外の作業をしているという。

 わたくしはというと、ずっと城で過ごしていただけなので、右も左もわからない。わたくし付きとなったパリスにどうすればいいか聞いてみると。

「まずは、体を中身から整えましょう。急な運動は良くありませんね」

「でも、何もしないというのも、悪いです。何かお手伝いでも」

「アラン様から聞きましたが、貴族の学校に通う手続きをされているそうです。少し、お勉強しましょう」

「………はい」

 わたくしよりもパリスのほうが、よくわかっている。というか、学校に通うことは、初めて聞いた。

 わたくしがパリスに言われるままに学校で使っているという教科書を見ているところに、アランが来たので、訊ねた。

「あの、貴族の学校に通うこととなっている、とパリスから聞きました」

「貴族の令息令嬢は全て、王都の学校に通うこととなっています。ポー殿下もいますから、丁度よい、とお願いしているところです。私は行きませんが」

「わたくし一人ですか!?」

 てっきり、アランも一緒に通うものと思っていた。アランは、養子だけど、今は貴族の令息だ。

「貴族になるためには、学校に通わなければならないです。逆に言えば、通わなければ、貴族にならなくてすむので、通わないことにしました」

 あれ、アランは将来、男爵になる、という話を初日に男爵から聞いた。あれは、聞き間違いだろうか。

 わたくしはあえて、その話を持ちだすのをやめた。その話はアランの前でされていないからだ。

 わたくしが無言なので、アランは訝しんだ。でも、わたくしが黙り込んだりするのは、帝国での扱いの悪さから、そういう癖なんだろう、とアランなりに考えているのだろう。アランは、帝国では悪ぶっていたが、男爵領では、とても優しい。きっと、この優しいアランが本当で、帝国で見せたアランは作ったものだ。

 アランは優しく笑って、わたくしの後ろから、読んでいる本を覗き見る。

「これは、義兄上が使っていたものだな。わからないところがあったら、聞きなさい」

「はい、お願いします」

「学校では、ポー殿下がいるから、心配することはないだろう。そうだ、生徒会は断りなさい」

「生徒会、とは?」

 知らない単語で、わたくしは振り返った。アランは苦虫を潰したような、とても嫌そうな顔を見せる。

「生徒の代表として、予算のやりくりやら、祭りの運営やら、と面倒事をやる所だ。学校はいわば、小さな領地や王国だ。将来は領主になる者や、王族、王国の政に関わる者たちが集められる。生徒会に所属することは、領主や国王、大臣の予行演習だ。将来は大物となる者がほとんどだな」

「そんな所、とてもわたくしでは」

 とても面倒臭そう以前に、わたくしの実力は底辺だから、足を引っ張りそうだ。アランがそんな顔をする気持ちもわかる。

「こういう所は、まず、王族や高位貴族に声がかかる。妖精姫は帝国の皇族だ。間違いなく、お誘いが来る。基本、任意だから、断ってもいいこととなっている。まあ、王族や高位貴族は強制的だな。ポー殿下は間違いなく、生徒会に所属となる。だが、帝国の皇族にはその縛りはない。あなたはいわば、高貴なお客様だ。一応、お声をかけるのは、王国側の礼儀だろう。だから、断ってかまわない」

「そういうことでしたら、しっかりとお断りします」

「そうしなさい」

 アランはわたくしの頭を優しくなでて、部屋を出ていった。


 こんな、穏やかな毎日が一カ月続いた後、アランは男爵邸を走ったのだ。


「父上ぇえええーーーー!?」

 アランの珍しい怒鳴り声に、ついつい、わたくしは廊下に出てしまう。わたくしに続いて、パリスも出てきた。

「アランが怒っていますね」

「ロベルト様の所に行きましたね」

「大丈夫なのですか? あまり、体調が良くない、とアランから聞きました」

「説明が難しいですね」

 男爵邸の使用人たちは、アランの父ロベルトの現状を知っているが、わたくしに上手に説明出来ないようだ。困ったような顔をする。

「ちょっと、行ってみていいですか? 盗み聞き」

「行きましょう」

 ちょっとした悪戯心だ。こういうこと、やったことがないので、わたくしはワクワクした。パリスは悪い事なのに、お付きあいしてくれる。

 パリスの案内で、ロベルトの部屋の前に立つ。わたくしはドアに耳をあててみる。

『どういうことですか!? 私は学校には行かないと言いましたよね!!』

 アランは、父ロベルトによって、学校に通う手続きをされていたのだ。その事実を今知って、アランは激怒していた。

 ロベルトの声は聞こえない。どういうやり取りをしているのだろうか、と頑張って耳をドアに押し付けてみるが、聞こえないのだ。

『もう、アラン、我儘を言わないの。ロベルトが決めたことは絶対ですよ』

『母上は黙っていてください!! 私は男爵になるつもりはない!!! 別に、男爵にならなくても、父上のように、縛られるようにすればいいでしょう』

『ロベルトが決めたことです。もう、出て行きなさい。やっと、ロベルトが落ち着いてきたというのに』

『私はポー殿下の側近にはなりませんよ。絶対にならない!!』

 そこで、パリスがわたくしの体を抱きかかえるようにして、ドアから離した。それと入れ替わりに、アランがドアに叩きつけられるように吹っ飛んで、ドアが開いたのだ。わたくしの目の前をドアから廊下に叩き出される。そして、ドアはまるで意思があるように閉じられた。

 背中を強く打ち付けて、アランはしばらく、苦痛で動けなかった。

「アラン、大丈夫ですか!?」

 我に返ったわたくしは、アランに駆け寄る。アランはわたくしがいることに気づいて、慌てて立ち上がる。

「聞いてましたか」

「わたくしと一緒に学校に行くのですよね。わたくしと学校に行くのがイヤなのですか? それとも、学校がイヤなのですか?」

「………貴族になるのがイヤなんです」

 アランはわたくしに背中を向けて、階下に歩いていく。わたくしは慌ててついていく。

「どうしてですか? アランはとても優秀ではありませんか」

「義父にだって子どもがいます。次の男爵だ、と育てられた人です。それを押しのけて男爵になれ、なんて滅茶苦茶だ」

「そう言えばいいではないですか」

「言いましたよ! だけど、義父上も、義兄上も、笑顔でいうんです。『アランが男爵になればいい』と。善人の塊だから、世の中の見方が通じないんですよ!! だったら、貴族になれないようにすればいい、とわざわざ学校の手続きをしなかったら、父上がやったんです。普段から、私が全てやっていたというのに、油断しました」

「アランのお父様は、アランよりも優秀なんですね」

「とても優秀なんです。本当は、国王の側近になるような人でした。それも、母上のために全て捨てたんです」

 父親のことが大好きなんだろう。わたくしが誉めると、アランは嬉しそうにいう。だけど、その内容はすごい。

「アランのお父様って、本当にすごい人なのですね!?」

「そうだ、父上は素晴らしい人だ。そして、愛に生きた皇女アリエッタの血筋だ。将来の栄光を捨てて、母上を選んだ」

「………」

「ラキスは、きちんと考えなさい。今は惰性で過ごしていればいいが、学校に行けば、色々と経験して、考えなければならなくなる。妖精狩りは、そう時間がかからない」

 まだ、わたくしの寿命を狙う妖精はいるが、アランは着々と、妖精を狩っているようだ。





 しばらくは、アランとロベルトとの口論らしき口論は続いた。決まって、アランは部屋の外に吹っ飛ばされる。一体、どんなことがロベルトがいる部屋で起きているのやら、想像が出来ない。

 そうしている間に、皇族であるわたくしがいつの間にか男爵領にいる、という事実が王族の耳に入ることとなり、高貴な来客を男爵は受け入れることとなった。

「随分とお久しぶりですね、ラキス嬢」

 男爵領に来たのは、貴族となったポー殿下である。わたくしは男爵に呼ばれて来て、驚いた。

「お久しぶりです、ポー殿下。アランとの文通では、大変お世話になりました」

「丁度良かったんだよ。あれのお陰で、帝国からの縁談攻撃がなくなったから、お互い様ですよ」

「あの、わたくしが王国に行った後、その、帝国はどうなったのですか?」

 アランに聞いても教えてもらえない帝国のことをポー殿下に訊ねた。

 わたくしは、本当に着の身着のままで王国に来たのだけど、帝国では大変だったはずだ。わたくし一人がいなくなったのは、大したことではないだろう。それよりも、王国の賓客である王族ザクトを毒殺未遂の犯人にしたことは、国家間問題となったはずだ。

 男爵領では、外の情報は一切、入ってこない様子だ。手紙も全て、アランが管理している。わたくし自身は長年の不摂生がたたって、体が弱く、邸宅の外に出るに出られない生活が続いた。結果、どうなったのか、気になった。

 ポー殿下は笑顔で教えてくれた。

「毒殺未遂事件は表沙汰にはなりました。ただ、犯人は、あの外務大臣となっています。外務大臣は妖精の呪いの刑で、一族郎党、破滅しました」

「ザクト様の冤罪はどうなりましたか?」

「王国も帝国も仲良くしたいですからね。そこはなかったことにされました。お互い、良い関係になるために、あなたの身柄が妖精男爵の元に渡ったことは公表されています。ついでに、アランが王国の中に発現した皇族となったことも公表されました」

「その、アランが皇族であることは、公表して良いことなのですか?」

 アランは、色々と隠そうとしている。わたくしと婚約したというのに、男爵領の秘密はこれっぽっちも教えてくれない。その内、手放すつもりなのかもしれない。

 そういうアランの思惑とは逆のように事は進んでいる。男爵になりたくないから貴族の学校に行かないことにしたのに、父ロベルトによって強制的に学校に通うこととなっている。きっと、皇族という立場も公表したくないだろう。

 そんな心配をしているわたくしに対して、ポー殿下は笑顔である。

「アランの実の父ロベルトから許可はとっている。アランはね、絶対、父親には勝てないんだよ」

「そのようですね。つい昨日も、アランは吹き飛ばされていました」

「ロベルトは元気なのですね。一度でいいから、会ってみたいのですが、いまだに会う許可が貰えないんですよ」

「会ったことがないのですか!?」

 てっきり、ポー殿下はアランの父ロベルトに会ったことがあると思っていた。色々と聞きたかった質問がまた、答えがないままに降り積もっていく。

「妖精憑きの力を使って調べようとしましたが、全て、弾かれました。お祖父様は一度二度ほど会ったことがあるそうですが、それ以上は面会を拒否されています。子どもが六人もいるほどなので、病気とかではないと思いますが、謎が多い人です」

「怖い人ですか?」

「お祖父様がいうには、とても苦労人な感じだとか。妖精男爵の血筋らしく、善人の塊で、一度二度会った時も、手におえない問題の相談に乗ってもらいました。その中には、誰もが手に負えなかった呪われた伯爵一族の呪いの封じ込めもありました。ロベルトはその相談は断ったのですが、結局、彼の手によって呪いは封じ込められました」

「わたくし、王国のことは不勉強なので、呪われた伯爵一族のことは知りません。ですが、妖精憑きリリィは力ある妖精憑きだということは、わかります。アランのお父様は、すごい方なのですね」

「今日も会えるかな、と頼んでみたんだけど、ダメでした」

「わたくし、ここに随分いますが、いまだに挨拶もしていません。一度でいいから、会って、きちんとご挨拶したいです」

「ラキス嬢でさえ会っていないのは、驚きですね。実は、ロベルトのことを聞きたかったんですが」

「わたくしも、ポー殿下からアランのお父様のことを聞きたかったのです」

 お互い、空振りである。その事実に、ついつい、笑ってしまう。

 そうやって、笑い合っている所に、アランが人数分のお茶を持って入ってきた。

「私の妖精姫と、随分と仲良くしていますね。あげませんよ」

 アランがとても不機嫌な顔を見せて、ポー殿下の前に乱暴に茶器を置く。

「ロベルトの話をしていただけだよ。ラキス嬢から聞こうとしたのに、会ったことがないという。一緒に暮らしている婚約者に、いまだに会わせてないのは、どうなんだろうね」

「王族の面会も拒否してるから、いいんですよ。どうにかしたいなら、力づくでやってみればいいでしょう。どうせ、父上にはポー殿下だって勝てないんだから」

「今日も弾かれました」

 目に見えない戦いがポー殿下とロベルトの間で繰り広げられているらしい。ポー殿下は負けず嫌いのようで、悔しそうな顔をする。

 アランはわたくしの隣りに座って、どっかりと脱力する。

「学校行きたいない!」

「あれ、行くつもりで手続きしてたんじゃないの? 僕は国王から手続きの話を聞いたんだけど」

「父上が勝手に進めただけだ。ポー殿下の側近には絶対になりませんよ」

「その打診をしに来たんだけど。アランはいいなー。婚約者と一緒に学校生活だよ。僕の婚約者は、かなり年上だから、そういうことが出来ない。羨ましいなー」

「妖精憑きリリィの二の舞になるといけないから、と私は男爵領からの通いだよ。毎日、魔法具で移動だ! 学校なんか通ってたら、妖精狩りの時間がとれなくなる。そこに、ポー殿下の側近なんぞしていたら、私の時間は忙殺ですよ」

「そんなこというなよ。僕は、アランとの学校生活は楽しみだよ。君には、随分と世話になったからね。今の僕があるのも、君のお陰だ」

「………面倒事を押し付けられるのは、血筋だな。もう、あなたは立派な王族だ。私など必要ないでしょう。学校では、良い側近を見つけて、上手に育てなさい。そういう段階に入っています。

 本当は、学校の手続きを無効にしてもらおう、と頼みたかったのですが、もういいです。これも、あるがままでしょう」

 アランはポー殿下と少し話して、心変わりをした。学校に行きたくない、と体全てで訴えていたというのに、諦めたのだ。

 アランは姿勢をよくすると、わたくしをじっと見つめる。

「妖精姫、学校では、余所見をしないように。あなたは私の妖精姫だ」

「わたくしは大丈夫です。それよりも、アランはきっと、女性にもてるでしょうね」

 ポー殿下とアランを見てわかる。ポー殿下もかなり顔立ちが整っているが、血筋の良い感じだ。アランは野性味と血筋の良い二つが備わっている。

 対して、わたくしはまだ、やせ細っている。一カ月で、わたくしの見た目はそう変わるものではない。むしろ、わたくしのほうが捨てられそうだ。

 だから、わたくしは疑うようにアランを見上げてしまう。

「王族からの縁談、まだ来てますよね」

 そこに爆弾を落とすのがポー殿下である。ポー殿下、それ、知らない情報です!!

「来たって、どうなんですか。男爵領に入れもしれない王族だと表沙汰になったら、恥をかくのは王族でしょう。来れるものなら、来てみろ」

 アランは挑むようにポー殿下を睨み返す。ポー殿下は気まずい、みたいに視線を泳がせる。わたくしはわからないけど、ポー殿下はアランにも負かされていた。

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