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皇族姫  作者: 春香秋灯
嫌われ者の皇族姫-思い上がりの皇族-
333/353

自慢の孫

 皇族エッセンの孫の一人でしかなかった。だけど、祖父は僕のことをどの孫よりも目にかけてくれた。

「この子は、将来、皇帝になれる!!」

 そう言って、エッセンは僕を可愛がってくれた。

 僕は、だいたいのことは、人並以上に出来た。文字を覚えるのは、誰よりも早く、盤上遊戯だって、エッセンに仕込まれ、負け知らずだった。

「エッセン、すごい!!」

 僕の幼馴染みティッシーは、僕のやることを笑顔で誉めてくれた。僕が知っている歳の近い女の子の中では、ティッシーは一番の美人だ。

 将来は、ティッシーと結婚したい。生意気にも、そんなことを僕は考えていた。それは、ティッシーも同じだろう、と僕は信じていた。

「やだ、来たわ」

 年頃の近い者同士で話したりしていると、そこに、皇帝の姪シーアがやってきた。

 気持ち悪い笑顔を顔に貼り付けて歩くシーア。欠陥品と家族すら見捨るほど、シーアは、何もかも遅い。

 歩けるようになったのは、物心つく頃だったという。

 粗相をしなくなったのは、なんと、五歳になってからだという。

 ナイフとフォークがうまく使えず、手掴みで食事をとっている姿は、食欲をなくしてしまうものだった。

 だけど、皇帝シオンは、姪であるシーアのことを可愛がっていた。気をつけないと、どこからか皇帝シオンがやってくる。家族に見捨てられたシーアだが、皇帝シオンが愛情を注いでいた。

 気持ち悪い狂人シーアのこと、最初は、皆、虐めたのだ。こっちは避けているというのに、シーアから近づいてくるのだ。

 だから、転ばせたり、石をぶつけたり、とシーアにした。そうすれば、シーアも懲りて、近づくことも辞めると思ったのだ。

 ところが、シーアは痛みを感じないのか、全く懲りない。気持ち悪い笑顔で、ついてくるのだ。

 そして、運悪く、シーアを虐めている所を皇帝シオンに見られると、大変だ。シオンは、容赦なく、手を出してくる。見た目は温和そうなのに、誰よりも怒りっぽく、手が出るという。相手が子どもであろいうと、シオンは容赦しない。

 僕たちは、シーアから逃げた。走っていけば、シーアは追いつけない。シーア、走ることが出来ないからだ。

 そして、シーアを引き離した。

「シーア、ここに居たんだ」

「あー、シオンー、ナインー」

 運よく、皇帝シオンがシーアを見つけた。これで、シーアはもう、僕たちを追いかけてこない。

 僕たちが安心していると、シーアを抱き上げて歩く皇帝シオンがやってきた。

 シーアは、気持ち悪い笑顔を貼り付けて、シオンの後ろを歩く筆頭魔法使いナインに手を伸ばす。

「ナイン、だっこー」

「僕じゃダメなのか!!」

「ナインがいいー」

「ナイン、離れろ」

「はいはい」

 呆れた顔をして、筆頭魔法使いナインは、皇帝シオンから距離をとった。

 すると、シーアは泣きそうな顔になる。

「うう、ああああああーーーーーーーーー!!!!」

「ナイン、交代だ!!!」

 シーア、本当に泣いて、我儘を通した。シオンは、ナインにシーアを渡した。

「嘘泣きだ」

「子どもだというのに、嘘泣き出来るなんてー」

 シーアはまた、気持ち悪い笑顔を貼り付けて、ナインの腕の中で泣き止んだ。

 僕たちは、なるべく、シーアに視線をあわせないように、背中を向けた。大人の歩幅では、子どもは勝てない。

「メフノフじゃないか」

 よりによって、皇帝シオンは、背中を向ける僕に話しかけた。

「あー、エッセンの自慢の孫だ」

「神童なんて言ってるね」

「俺様に比べれば、凡人だよ、凡人」

 子ども相手に、筆頭魔法使いナインは大人げないことをいう。

「今は子どもですが、大人になったら、ナインに勝てるようになります!!」

 ついつい、僕は生意気なことを言った。

「おー、楽しみにしてるぞー」

 筆頭魔法使いナインは、僕の頭を乱暴に撫でた。

 整えた髪をぐちゃぐちゃにされた僕は、ティッシーの手で髪を整えられた。

 ふと、視線を感じて、見てみれば、ナインの腕に抱かれたシーアが、僕に冷たい視線を向けていた。

 普段、気持ち悪い笑顔を貼り付けているシーアだが、普通にしていれば、可愛らしい女の子だ。笑顔だけがダメなんだ。

 シーアは、ナインの服をつかんで、僕のことを睨んでたが、ナインの視線を感じると、すぐ、気持ち悪い笑顔を顔に貼り付けた。








 それなりの年齢になれば、皇族教育が始まる。僕は、教育が始まる前から、教科書を読み込んでいたから、今更だった。大人顔負けなほど、僕は学んでいた。試験だって、まあまあの点数だ。友達の成績を見れば、僕の成績は抜きんでていた。

「やはり、メフノフは天才じゃな」

「お祖父様、すぐに皇族教育を終わらせてみせます!!」

「まあ、そんなに急ぐもんじゃない。皇族教育が終わってしまうと、戦争に出征することとなってしまうからのぉ」

「皇族であれば、当然のことです。戦争に出て、皇帝となってみせます!!!」

「その時まで、ワシが生きておればいいんじゃがなぁ」

 戦争の話になると、皇族エッセンは、苦い顔となる。僕を戦争に行かせたくないようだった。

 皇族であれば、戦争に行ったって、死ぬことはない。だって、皇族には筆頭魔法使いの妖精が守ってくれる。攻撃を防ぎきれなくても、妖精が防いでくれるのだ。

 エッセンが、何を心配しているのか、僕はわからなかった。家族が反対しても、僕は戦争に行くつもりだった。

 幼馴染みティッシーは、年下だ。だから、少し遅れて、皇族教育を受けることとなった。

「もう、あのシーアも皇族教育を受けるんだって」

「えー、無理だろう」

 狂人シーアは、ティッシーと同い年だ。ティッシーは、シーアと一緒に皇族教育を受けることに、不安を感じた。

「どうせ、ついて行けなくて、遅れていくよ」

 皇族教育の進度は、人それぞれである。遅れる者は遅れる。

 シーアは、どうにか、最低限のことが出来るようにはなったが、それだけだ。家族からも、皇族失格になるだろう、と堂々と宣言され、見放されていた。

 実際、シーアは、身に着ける衣服も酷いものだった。シーアは蔑ろにされていて、衣服は誰かの着古したものだ。しかも、満足に洗濯されていないこともある。身だしなみも整えていないから、髪が乱れたままにして、人前に出ることも多かった。

 視界にもいれたくないシーアが皇族教育を受けるという。

 シーアが同い年頃の子どもたちを追いかける奇行はいつの間にかなくなっていた。それでも、シーアは目立つ。一人で、ふらふらと歩いている気持ち悪いシーアが近づくと、皆、どうしても見てしまう。

 それなりの年齢で、シーアもやっと気づいたのだろう。目があっても、近づいてこない。その横を普通に通り過ぎて、どこかに消えていった。

 何をやっているのか、誰も知らない、というか、興味がないシーアの行動。僕が知っているシーアは、成長していなかった。

 せいぜい、少し話せるようになった程度だろう。

 そう思っていた。だから、シーアのことなど、気にしなかった。

 だが、すぐに、シーアは注目されることとなった。

 皇族教育の試験は、どこまで解けるか、という進捗である。だから、皇族教育の最初かわ終わりまで、まとめて、問題を出される。制限時間がないので、解けるまで、解くのだ。

 僕は、まだ、半分程しか解けなかった。それでも、周囲を見れば、ほとんどの子どもたちが部屋から出ていた。

 シーアは残っていた。

 きっと、わからなくて、座って、落書きしているのだろう。僕はそう思った。

 それは、教師たちもだ。教師たちは、シーアに話しかける。だけど、シーアは真面目な顔を上げて、首を横に振るだけだ。

 あの気持ち悪い笑顔を貼り付けていないシーアの横を僕は通り過ぎるついでに、シーアの答案を見た。

 右肩上がりの綺麗な字が答案を埋めつくしていた。それは、僕が解いた所よりも進んだ所だ。

 適当なことを書いてるんだ。僕は、そう思った。ただ、ちらっと見ただけだから、シーアが何を書いているか、内容までは見えなかった。

 結局、シーアが部屋から出てきたのは、一番最後となった。

 いや、シーアが歩いて出てきたわけではない。筆頭魔法使いナインが、眠っているシーアを抱き上げて出てきたのだ。

「寝てたんだね」

「わからなかったんだよ」

「これで、狂人と同じ時間帯で皇族教育を受けなくて済むな」

 皆、シーアは何も解けず、飽きて眠ってしまったと思い込んだ。

 シーアの答案を盗み見てなかったら、僕も同じことを思っていた。

 文字すら書けないと思っていた。だけど、シーアは僕よりも綺麗な文字を書いていた。

 僕よりも年下のシーアは、僕よりも先を進んでいるようだった。それが悔しくて、だけど、誰にも言えなかった。



 そして、この試験で、シーアは皇族教育を終了と宣言された。



「そんなわけがない!!」

 皇族エッセンが、シーアの皇族教育終了に、抗議した。

 教師たちは困った。複数の教師で、シーアの解答を見て判断したという。

「ナイン、シーアを手助けしたな!!」

 そして、シーアの不正に筆頭魔法使いナインが手を貸したと疑った。

 呼び出された筆頭魔法使いナインは、面倒臭そうな顔をしていて、怒鳴り散らすエッセンの声が煩いようで、両耳を塞いでいた。

「俺様は若いんだから、そんなデカい声で言わなくても、聞こえるって」

「誤魔化すんじゃない!! 試験で寝たシーアをお前が連れて行った、と聞いたぞ。シーアに解答を教えておったんじゃろう!!!」

「そんなことして、俺様に得なんかない」

「シーアを可愛がっておるではないか」

「不正で皇族教育を終わらせたって、シーアのためにならないだろう。そんなこと、俺様もシオンもしない」

「皇族教育を終わらせられなければ、皇族にはなれんからな。それを危ぶんで、お前が不正をしたに決まっておる」

「してないって」

「シーアが満点をとれるわけがないじゃろう!!」

 どうしても納得いかないエッセン。それは、皇族全てがそうなのだ。

「あ、あの」

 そこに、教師が割って入ってきた。

「シーア様ですが、とても優秀でいらっしゃいます」

「いくら皇帝の姪だからと、そんなこと言わんでいい」

「いえ、本当です!!」

「シーア様は、宿題も完璧にこなしておられます」

「論文も、大人顔負けのものを提出されています」

「記述問題では、大人でも難しいものがありましたが、シーア様は、我々でも思いつかない解答を示されました」

 次から次へと、教師はシーアを褒め称えた。

 呆然となるエッセン。一体、どこの誰のことを言っているのやら、と首を傾げる。誰もが、耳を疑った。

「皇族教育を始める時、実力を見るために、簡単な試験を行います。シーア様は、全て、完璧に答えました」

「授業では、一切、発言はありませんが、時間外では質問をしに来て、こちらを唸らせるようなことを質問されることもあります」

「皇族教育とは関係のない、帝国での出来事を聞きに来ることもあります」

「新聞を読んでいるようですね」

「さすが、皇帝の姪と、驚かされました」

 教師は、狂人シーアのことを知らない。だから、皇族教育を受けているシーアが、教師が知るシーアだ。

 教師たちが絶賛している場に、遅れてやってきたシーアは、皇帝シオンと一緒にやってきた。

「シーアのことで苦情を出したのは、よりによって、エッセンか」

「誰もがシーアの成績を疑っておる!!」

「お前たちは、シーアの何を知ってるんだ?」

「何って、見た通り」

「シーアに近づきもせず、邪険にしているお前たちが、シーアの何を知っているというんだ」

「………」

 この場にいる者たちは、狂人と呼ばれるシーアしかしらない。優秀な皇族と呼ばれるエッセンでさえも、狂人のシーアしか知らなかった。

 シオンの横に立つシーアは、首を傾げて、エッセンと教師を見上げた。

「何かありましたか? 初めての試験ですから、解答がずれたりしていたでしょうか。きちんと見直したのですが」

「いえ、完璧な解答でした」

「良かったです!! わたくし、はやく皇族教育を終えて、貴族の学校に通わなければなりません」

「皇族教育と貴族の学校では、まるで違いますよ」

「そうなんですね。シオンから言われました。入学試験に受からないといけませんから、今から勉強しています。また、わからない所がありました、教えてください」

「ぜひ、来てください」

「ありがとうございます」

 綺麗な笑顔を見せるシーア。

 知らない女の子がそこにいた。僕が知る、狂人シーアではない。

 綺麗な笑顔で、シーアは、教師たちと会話している。そこに狂人の面影はない。

 シーアは、その場に皇帝シオンがいることに、首を傾げた。

「それで、どうして、シオンも来たのですか?」

「君の試験結果に、言いがかりをつける者がいると聞いたんだ」

「そうなのですか。わたくしは、本で読んだことをそのまま書いただけですから、間違っていると言われましたら、それは、わたくしが読んだ本ですね。後で、見てもらいましょう。時々、皇族教育は間違った方向に行くことがあるといいます」

「それはありません!!」

 慌てて、教師が弁明する。過去に、間違った皇族教育をした教師が処刑されることがあった。

 シーアは悪戯っ子みたいに笑う。

「冗談ですよ。わたくしが読んだ本は、過去の教科書です。配られた教科書とは、大した差異は見られませんでした。過去の教科書のほうが、表現が仰々しいですけどね」

「なるべく、わかりやすいように改定するようにしています」

「そうですね。昔の表現は、決してダメなわけではありませんよ。古い文献を読み解くためには、そういう知識は必要となります。いい勉強となりました」

「シーアは、普段、何をしておるんじゃ?」

 教師との会話に、皇族エッセンがどうにか割り込んだ。

 シーアは、皇族エッセンを見て、首を傾げる。

「この者は、エッセンという、とても優秀な皇族だ」

「そうなんですね」

 皇帝シオンが、シーアにエッセンを紹介する。

「初めまして、シーアと申します。皇帝シオンの姪になります。よろしくお願いします」

 シーアは、綺麗な礼をとって、お辞儀する。

 そして、エッセンは気づいた。シーアにとって、エッセンは見知らぬ誰かだということを。

 エッセンのことを知らない皇族はいないかと思われた。だが、誰からも避けられていたシーアは、エッセンからも避けられていたので、逆にエッセンのことを知らなかったのだ。

「は、初め、まして」

 エッセンは、羞恥で顔を真っ赤にした。まさか、狂人と下に見ていたシーアから、丁寧な自己紹介をされ、エッセンは後手となった。

 皇帝シオンは、皇族エッセンを蔑むように見下ろした。

「孫までいる大人が、子どものことに口を出すとは、情けない」

「っ!!」

 そして、一番、恥ずかしいことをしていると、エッセンは気づかされた。

「子ども同士の喧嘩でもありましたか? 可愛い孫でしたら、味方をしたくなるのは、仕方がありませんよ。孫を可愛がるおじいちゃんなんて、素敵ですね」

 シーアを責めようとしていた場だったが、何も知らないで呼び出されたシーアは、孫バカなエッセンを褒め称えた。

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