皇族姫の血族貴族
一刻もはやく、アランは帝国はら離れなければならないという。なのに、アランは筆頭魔法使い二人と皇族ライアン、そしてわたくしを連れて、王都の聖域にやってきた。
わたくしは城を出ることなど、本当にない。城の隠し通路を通って、王都の聖域に出た時は、感動した。聖域自体、見たのが初めてだった。
「綺麗」
そういうしかない。そんなわたくしの傍らに、アランは穏やかな笑顔を浮かべてわたくしを見つめる。それに気づくと、恥ずかしくなった。
「すみません、他に言葉が見つからなくて」
「思ったことを口にしたほうがいい。なんでも、人の命は短いから、綺麗と感じるものは一つでも多く見たほうがいい、という」
「いい話ですね」
「………」
何故か、じっとわたくしの顔を見つめる。わたくしの顔に何かついているのか、触ってみるが、わからない。
「それで、わざわざ、ここに連れて来たのは、どうしてだ?」
ライアンは、わたくしの感動が落ち着くのを待っていてくれたようで、良いタイミングで声をかけてきてくれた。
「クソジジイが言っていたんだが、二人の筆頭魔法使いは、聖域の行き来がイマイチだったんだってな」
「クソジジイって、まさかっ!?」
「魔法使いアラン様のことか!!?」
「私もアランだ。この際、魔法使いアランはクソジジイでいいだろう」
「そんな、恐ろしいことを」
「呼べない」
「私だけだ、そう呼んで許されるのは。お前らは普通にアラン様と呼べばいい。私のことは呼び捨てでいい。王国に戻れば、男爵の養子だ。身分的には低い。
では、クソジジイに代わって、見届けよう。ここから海の聖域に飛べ」
今更、みたいな顔をする筆頭魔法使い二人。彼らが筆頭魔法使いとなってから、もう一年は経っている。わたくしは知らないが、彼らはそれなりに立派に筆頭魔法使いの役割をこなしているようだ。
ライアンは、その光景を面白いものとして見ている。
そうして、筆頭魔法使い二人は、それぞれ、アラン、わたくし、ライアンを連れて、聖域を飛ぶ。
本当に一瞬のことだ。瞬きをしている間に、海の聖域だ。海の聖域は海にある洞窟らしき所にあるという。海の水が流れているそこも、綺麗だ。
わたくしは声もなく感動しているのを、アランは時間が差し迫っているというのに、黙って見守ってくれた。
「すみません、つい」
しばらくして、わたくしは我に返る。
「綺麗と感じるものには、時間をかける価値がある。大丈夫、魔法使いが失敗しなければ、すぐだ。次は、子爵領だ。ほら、魔道具」
「妖精男爵は、どうして、こんなに魔法具や魔道具を持っているんだ?」
ライアンは、アランが帝国でも皇帝の持ち物とされる魔法具や魔道具を王国の一貴族が持っていることに疑問を口にする。
「これからわかる。ほら、さっさとしろ」
「子爵領といっても、広いんだが」
「邸宅の前だ。まさか、行ったことがないのか?」
「あるにはあるが、飛ぶのは自信がない」
「一度行ったことがあるくせに、飛べないのか。なるほど、クソジジイが及第点を出すはずだ。もういい、私がやる」
アランは魔道具を取り上げ、さっさと作動させる。
本当に一瞬だ。今度は、見たことがない邸宅の前に到達する。
「本当に、妖精憑きじゃないのか!?」
目の前で魔道具を作動させたアランにライアンは改めてきく。魔道具を使えるのは、妖精憑きだけだ。そういうものなのだ。
「まずは、子爵に挨拶をしよう。それから、少しずつ、話そう。聞きたいだろう、ライアン。クソジジイのことも含めて、全て」
「あ、ああ」
ライアンははやく聞きたいが、我慢する。焦ったところで、話すのは、アランだけだ。
アランは近くにいる平民に声をかける。すると、子爵邸に走り去っていく。しばらくして、中から貴族らしき男が二人の従者を引き連れて出てきた。
「アラン、連絡なく来るなんて珍しいな」
「突然、すまん、リッセル。こちら、皇族ライアンと、皇族ラキスだ」
「………ラキス、初めまして!」
貴族らしき男リッセルがわたくしの手を握って、笑顔で挨拶をしてくる。
「あの、子爵、ですか?」
「手紙でのやり取りばかりで、こうして会うのは初めてですね。そうです、子爵ですよ。良かった、元気………まあ、生きているな」
わたくしの姿を見て、リッセルはもう一人の皇族ライアンをぎろりと睨む。ライアンは気まずい、みたいに顔を背ける。
「俺は皇族に色々と便宜をはかったのは、もう一つの血族であるラキスのためだ。それが、こんな姿となっているとはな。悪いが、今後、皇族にも帝国にも一切、支援しない」
「すまない」
「皇族が謝るな。まずは、二度と、こんなことをしないことだ。もう、ラキスを城には戻さない。ほら、入りなさい。足りないものは全て、こちらで揃えよう」
「待て待て、妖精姫は私が連れて帰ることとなっている!」
わたくしを邸宅に引っ張っていくリッセルをアランは止める。
「そうだろうが、こんな姿では可哀想だ。もっと綺麗にしてから、そちらに送ろう」
「私自らが育てる楽しみを奪うな」
「うわ、こんな若い内から、おじさんみたいなこと言ってるよ。ラキス、気を付けなよ。こいつ、本当に危ないから」
「城から出せるようにしたのは私だ。皇族に憑いた妖精も狩ってきたんだ。私のものだ」
「はいはい、わかりました。わざわざ、皇族と筆頭魔法使いを連れてきた、ということは、例の部屋に連れて行くんだろう。掃除はしっかりしてある。どうぞ」
リッセルはわたくしの身柄をアランに渡し、邸宅に招き入れる。
わけがわからないままに、わたくしたちは、リッセルの後に続く。
「初めまして、ラキス様。サラムと申します」
「初めまして、ガラムと申します」
何故か、わたくしの両側にリッセルの従者がやってくる。にこにこと笑っている二人に、わたくしも笑顔を返す。
「初めまして、よろしくお願いします」
「よろしくされましたよ。リッセル様、ラキス様について行っていいですか?」
「行きたいですー」
「ダメに決まってるだろう。王国にお前らみたいな危険な奴、行かせない。ここで大人しくしてろ」
「妖精殺してあげるのに」
「ぶっろこしてやるのになー」
「だからダメなんだろう」
とんでもない話をするサラムとガラムに、リッセルは平然としている。会話の内容は、かなりおかしい。普通の人が妖精殺すなんて。
でも、アランは妖精を素手で捕まえたりしていた。実は、サラムとガラムもすごいのかもしれない。
そうして、邸宅の一室に案内される。そこに入れば、二つくらいの部屋を抜いたような広さだった。中には、いくつかの肖像画と、何か意味があるのかどうかわからない物がいくつか、そして、奥には夥しい量の本がおさめられた本棚が部屋の半分を占めていた。アランは、そこから一冊を出して、ライアンに手渡す。
「これは、クソジジイが一生をかけて見つけた聖域の秘密だ」
「これが、アランが書いた、本」
ライアンは泣きそうな顔をしながら、本を抱きしめる。たった一冊の本だが、ライアンにとっては、最高の宝物なのだろう。
そうして、ライアンが感動を噛みしめている横で、アランは筆頭魔法使い二人を引っ張っていく。
「そして、ここにある全ては、過去、焚書として失われた聖域、魔法、魔道具、魔法具関係の本の写しだ」
「………は?」
「………え?」
「………どういうことだ!?」
ライアンはアランにつかみかかった。
それはそうだ。大昔、皇族、貴族、教会が焼き払ってしまったのだ。それの写しが、子爵邸の一室にあるというのだ。
「子爵、どういうことだ!? まさか、隠し持っていたのか!!」
「いやいや、その本は全て、アランが持ち込んだものだ。この男、無茶苦茶なんだ。本を保管する部屋を寄越せ、というから、ここを明け渡したら、とんでもない量の本を持ち込んできて、大変だったんだぞ。文句があるなら、アランに言え」
被害者、みたいな顔でいうリッセル。確かに、この量の本を持ってこられては、誰だって文句をいいたくなるだろう。
「これでも、選抜したんだぞ。もっとあるんだ、男爵邸には。あそこは、魔法で空間を捻じ曲げられているから、ゴミみたいな本まである。あれ全部読まされた私は、悪夢だったな」
「これは、どういうことだ!?」
「愛に生きた皇女アリエッタだ。我が家の先祖なんだ。アリエッタは、戯曲通り、王国に渡ったんだ。そして、アリエッタの手によって、男爵領が作られた」
「………まさか、そんなことが」
「アリエッタはかなり優秀だ。帝国が傾き、貴重な本が焚書となるとわかって、妖精に命じて、全てすり替えさせたんだ。そして、いつか、帝国の誰かが男爵領に来た時、本を全て返そう、と決めていた。それは、子々孫々、言い伝えられていた」
「だったら、帝国にそう、手紙一つでもくれれば」
「王国と帝国は一度、国交を断絶している。血のマリィを毒殺し、聖女エリカを聖域の穢れで死なせてしまった。たかが男爵家が口出し出来ることではない。だから、待つしかなかったんだ」
ライアンは、目の前にある蔵書と手の中にある本を見る。
「確かに、これを見たら、アランは泣くしかないな」
アランは一生をかけて見つけたものが、男爵領にあったのだ。しかも、それ以上のものがひっそりと保管されていたのだ。
「本当は、原本を、という話もあったんだ。しかし、一度、過ちを犯した過去があるから、写しを渡すこととなった。この本は全て、父上が写した。もう、使われていない古代文字も現代に訳しなおしてあるから、誰でも読めるだろう。
これと妖精姫を交換だ」
本は無償ではなかった。わたくしの身柄のために、魔法使いアランが欲しがった本全てを交換するという。
「いや、価値がっ」
「妖精姫の価値をこれで上げてやるんだ。そうして、妖精姫をバカにしていた皇族ども全てに恥をかかせてやる!!」
アランは笑った。ライアンは蔵書を呆然と見上げる。
「お前にとって、ラキスは、これほどの価値なのか? これを見て、アランは悔しくて泣いたんだろう」
「バカか、この程度なわけないだろう!! 私に妖精狩りの口実をくれる女だぞ!!! もっとだ!!!!」
アランはわたくしを軽々と抱き上げる。
「お前に手を出す妖精全て、狩りとってやる!! そうして、お前とリッセルの子々孫々、もう二度と、寿命を盗れなくしてやる!!! 楽しい遊びだ!!!!」
アランはこれからのことを想像したのか、とても楽しそうに目をキラキラと輝かせる。
言われている内容は酷い。わたくしを囮にして、妖精をおびき寄せるのだ。守ると言っているが、わたくしを狙う妖精をおびき寄せての守りである。
「おやおや、不満か、妖精姫。だったら、子爵のとこで安穏と暮らすか。ここなら、悪い妖精も近寄れないしな」
「そうしろそうしろ」
「急に自由になったんだ。しばらく考える時間が必要だろう。では、私は聖域を使って、王国に帰る。今日中に移動しないと、妖精が帝国を滅ぼしに来るからな」
アランはあっさりとわたくしを手放した。子爵リッセルはわたくしを抱きしめて、アランに手を振った。
だけど、わたくしはアランの腕をつかんだ。
「どうした? ここならば、安全だ。道具を使えば、すぐ、会いに来る」
「あなたと一緒に行きます!」
ここで離れたら、また、会えなくなるような気がする。この手を離してはいけない。
それに、ずっと文通だけど、アランのことを想っていた。実際に会ってみれば、わけのわからない男だった。想像とは違う、というか、想像すら出来ないような男だ。
アランはわたくしが掴んで離さない手をじっと見る。
「こう言ってはなんだが、私は相当、危険な男だ。生まれからして、危険だから、と男爵領から出ることが一生許されない存在だ」
「そうなのですか!? 手紙には、そんなこと」
「書く内容じゃない。手紙には、日常的なことしか書かなかったからな。私はリリィによって作られた人だ。だから、妖精憑きではないが、魔法が使える。本当は、帝国にとっても危険なんだ」
「そうだな」
ライアンだけではない。リッセルまで深く頷く。確かに、アランを取り返しに妖精が襲ってくるというのだ。危険ではある。
「たぶん、ライアンが想像している危険じゃない。まず、私の生まれを説明しよう。私は本来、生まれても死ぬ運命の赤ん坊だった」
アランの母エリカは六人目の妊娠だった。無事、生まれるものと思っていたが、エリカは妖精憑きの力を使って調べると、お腹に宿った赤ん坊には魂がなかったという。生まれても、魂がないので、死んでしまうのだ。
妖精に聞いたことをエリカは黙っていた。心配をかけたくなかった。そうして、笑顔を見せつつも、心では泣く毎日を過ごしていたある日、夢に妖精憑きリリィが出てきた。
『私、男爵領のことが心配なの。また、私みたいな失敗をして、爵位返上になんてなったら、と思うと、心配で、心配で』
『大丈夫ですよ。夫のロベルトがとっても優秀なんです』
『でも、妖精憑きではないでしょう?』
『私は妖精憑きですよ』
『でも、あなたが死んだら、妖精憑きがいない………そうだ、あなたが妖精憑きを産めばいいのよ!』
『ごめんなさい。このお腹の子、生まれても死んでしまう運命なの』
『そうなの? だったら、お祈りしてあげる。強い妖精憑きになれますようにって』
『だったら、ロベルトみたいな特別な力もあるといいわ。かっこいいの』
『わかったわ、毎日、お祈りするわね』
そんな夢だったという。
おかしな夢だったが、エリカは気にせず、死ぬ運命の赤ん坊が生まれるのを待った。
そして、生まれた赤ん坊は、何故か死ななかった。とても元気に動いて、成長していったという。
エリカはリリィの夢を思い出す。だが、この夢のことは黙っていた。大したことがないと思ったからだ。
だが、父ロベルトは、子が五歳になる頃に、おかしいことに気づき、エリカを問い詰めた。そして、子がただの人でないことが明らかとなったのだ。
「母からその話をされてすぐ、私は男爵の養子となった。私は、リリィが作り出した人だとわかって、男爵領から決して出してはいけないこととなった。
男爵は過去、リリィを男爵領から出したことで、伯爵一族を領地ごと呪わせる、という災事を起こしてしまった。その反省から、妖精憑きや、それに近い存在は決して、男爵領から出さない、と決めていたんだ。父上もそうだ。父上も普通ではないから、男爵領から生涯、出されない」
「どうして、出さないのですか? ここにいても、アランは悪事を働くわけではないですよね?」
「妖精憑きリリィが最悪たらしめたのは、リリィに妖精憑きとしての自覚がなかったからだ。妖精憑きであるのに、妖精憑きだとリリィは知らなかった。妖精の姿が見えず、声も聞こえない。だけど、心の底から願えば、全て叶えられてしまうほど、強力な妖精憑きだったという。そういう力は、人の手に余る。だったら、幸福だけを詰め込まれた男爵領に閉じ込め、幸福の内に寿命を全うさせればいい。
私も、父上も、母上も、男爵領で人並の幸福に囲まれ、寿命を全うさせられる運命だ。別に、そこに不満はない。
だけど、ラキスには、もっと違う未来を選べる。寿命を盗るような悪さをする妖精全てを私が狩り取れば、ラキスもリッセルも、本当の自由だ。少し、考えたほうがいい」
アランはわたくしの手を離そうとする。だけど、わたくしはアランから手を放したくなくて、力をこめる。
「わたくしがいれば、妖精、狩り放題なんですよね」
「まあ、確かに。だけど、覚悟がいるぞ。ちょっと前にも、リッセル使って、妖精狩りしたんだが、あれはすごかったぞ」
「酷い目にあった。ラキス、囮は実は、お前じゃなくていいんだ。最初はラキスしかいないと思っていたから、アランはラキスに婚約を申し込んだんだ。それも、俺という存在を見つけて、どっちでもよくなったんだよな」
「囮にするなら、女より男だよな。ほら、失敗しても、心の傷が小さい」
「酷いな!!」
アランはリッセルに対しては容赦がない。
でも、わたくしはどうしてもアランから離れたくない。
「まあ、男爵領のほうが、ここよりも守りが強いけどな。けど、男爵といっても、貧乏だから、自分のことは全て、自分でやらないといけないぞ」
「やってみせます!」
「………せっかく、手放してやろうとしてたのに、後悔するぞ」
「でも、行きます!」
わたくしは言ってしまう。出来るかどうかはわからない。アランは、城では、茶を出したり、料理だってしていた。そんなこと、わたくしは全て、使用人タバサがやってくれていた。
「そういうことは、こちらから、使用人を送ろう」
「甘いな、お前は」
「可愛い血族だ。そうなる。俺はまだまだ長生きだからな。帝国の今後を見ながら、色々と考えるよ」
「リッセルのために、いっぱい、妖精狩りしてやるよ」
「はいはい」
うんざりした顔でリッセルは頷く。二人の間でしかわからない内容だ。
結局、リッセルから、使用人が送られることとなった。きっと、タバサが来るだろう。
「では、ライアン、そのうち、会えるといいな」
「おい、まだ、教えてもらってないことがある。どうして、お前は皇族なんだ!?」
立ち去ろうとするアランをライアンは止める。そういえば、その話はまだされていない。
アランはなんとも言えない顔をする。
「ここだけの話にしてくれ。私の母上は、女帝エリシーズの死んだはずの双子の姉妹だ」
「まさか、しかし、あれほどの穢れを受けて、生きているはずがないだろう。穢れで死んだから燃やした、と報告を受けている」
「父上が助けたんだ。母上が受けた穢れ全てを父上が片腕に封じたんだ。本当は、その片腕を斬り落とすこととなっていたんだが、クソジジイが穢れを肩代わりしたことで、父上も五体満足無事だった。結果、二人とも生き残り、私が生まれたわけだ。
父上の血筋はもとをたどれば皇族だ。そして、母上は女帝エリシーズに負けず劣らずの皇族だ。結果、私も皇族となったわけだ。
これで、納得はいったか?」
「エリシーズめ、黙っていたのか」
「話したくないだろう。双子の姉妹だが、二人とも嫌い合っている。母上は、エリシーズのことを嫌っている。そして、エリシーズは妖精憑きである母上のことを嫌っている。そりゃ、誰にも話したくもなくなる。エリシーズはさらに、妖精憑きでない、という劣等感がある。妖精憑きの方の皇女が生きているなんて知られたら、また言われる。一生、胸に秘めておきたいさ」
「………そうだな」
黙っていたことに怒りを覚えるも、アランの説明に、ライアンはすぐ肩を落として落ち込む。なにか、過去に、思い当たることでもあったのだろう。
「結局、お前は何者なんだ? 妖精憑きリリィに作られた人だというが、妖精憑きではないという。なのに、魔法が使える。妖精を捕まえて、使役も出来るようだしな」
「そうだな。何者か、というと、それに近い存在が過去の一人だけいた。賢者ハガルだ。才能の化け物と呼ばれた賢者ハガルは、その才能で手に入れたが、私は生まれつきだ。これ以上は言えない。帝国は、賢者ハガルのことを調べるんだな。どうせ、皇帝の日記とかに書かれているだろう」
「なんで、皇帝の日記の存在を知ってるんだ!?」
「男爵領にもあるんだよ。過去の皇帝の日記。いらん知識まで埋め込まれた。あれを代々の皇帝は読むんだよ。エリシーズは読んだのか? 筆頭魔法使いの役割はクソジジイより後は途切れている。皇帝殺しをしてから、クソジジイもそれなりに連絡をとっていたと思いたいが、どうなんだろうな。わからないことがあれば、私に……いや、リッセルに聞け、だな」
ニヤリと笑うアラン。リッセルはイヤそうな顔を見せる。
「何故、リッセルなんだ? 確かに、リッセルは、皇族に連なる血筋だが、それだけだろう。アランは魔法使いアランから全ての教育を受けたんだから、聞くなら、アランだろう」
「暴露していいなら、暴露するぞ」
「やめろ!!」
リッセルはアランの口を両手で塞ぐ。
「お前、もう、王国に帰れ! ライアン様、皇族教育の教師役で良ければ、そちらに行きます。ただし、我が家のことは不問としてくれ」
「良かったな、ライアン。最強の教師だぞ。何代かに一回は貴族どもは皇族教育を歪めることがある。それも、リッセルはない」
「ちくしょー!! せっかく、領地に引き籠ってたのに。覚えてろよ、アラン」
「お前にとって、人の生なんて、瞬きだろう。暇つぶししてろ」
リッセルが恨みがましくアランを睨む。アランはこれっぽっちも気にせず、手を振って、わたくしの手を握る。
「妖精姫、では、行きましょう」
「ご迷惑をおかけします」
「それもまた、醍醐味だよ、ラキス」
そう言って、アランはわたくしを軽々と抱き上げ、頬に軽く口付けする。
そうして、わたくしは帝国を出た。




