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皇族姫  作者: 春香秋灯
嫌われ者の皇族姫-気弱な魔法使い-
329/353

告白

 シーアは、家族からも蔑まれるようになった。とうとう、シーアのことを母と兄姉は、皇族失格者となる、なんて言い出したのだ。

 ネフティは、シーアを使用人の子と取り換えられた、なんて言い出した。

 シーアが両親に似ていないから、誰もが信じた。

「だったら、弟が使用人と浮気したのか」

「そんなことしない!!」

「だったら、シーアが祖母にそっくりなのは、説明がつかない。明らかに、僕たちと血の繋がりがあるぞ」

「兄上が手をつけたんじゃ」

「僕の周囲には、まず、使用人すらいない。僕の世話はナインが行っている」

 まず、シオンの身の回りは、全て、僕がこなしている。シオンは僕の皇帝だ。他の者の手がつくのを僕が嫌う。

 こんな狂言を言い出すから、とうとう、シオンの我慢の限界となった。

 皇族全てが集まる食事会で、シオンはシーアの身なりに口出しした。僕から見ても、シーアの身なりは酷いものだ。僕だったら、こんなこと許さないな。

 シオンはいつかは改善されるだろう、と見守っていたのだ。だが、我慢して、我慢して、とうとう、我慢できなくなった。

「シーアは、皇族だな」

 僕がシーアが皇族だと告げたからだ。

 皇族とわかった途端、シオンは我慢をやめた。皇族失格者となる、なんて戯言に怒り、シーアの酷い扱いに怒り、養女にすると宣言した。

 結局、シオンの弟が、子育てに参加する、というので、シオンは引き下がった。どうしても、シオンは弟には甘かった。

 だけど、シオンは、もう、遠慮せず、シーアを私室に招き入れ、色々と手をかけた。

 皇族となったからか、それとも、昔の怪我の影響がなくなったからか、シーアはよく喋った。

「シオン、ナインの素顔って、とっても綺麗!!」

「ナインにそんな顔を近づけるんじゃない」

「そうしないと、ナインの素顔が見えないんだもの」

「離れなさい」

「もっと見たい!!」

 シーアは、何故か、僕の素顔に夢中になった。

 シオンは、私室の出入りをシーアには特別に許可していた。だから、シーアは、シオンがいなくても、シオンの私室に出入りしていた。

 そして、シオンと一緒に僕がシオンの私室に入れば、笑顔で向かってきた。

 もう、あの気持ち悪い笑顔ではないシーア。綺麗に笑うシーアに、僕は安堵した。良かった、治ったんだ。

 あまりにもシーアが僕にくっつくから、シオンが叱った。

「男に不用意に近づかないように、適度ある距離をとりなさい」

「シオンにも?」

「僕は君の伯父だから、そういうのには当てはまらない」

「ふーん、そう」

 面白くなさそうな顔をして、シーアはシオンと距離をとる。それに、シオンはとても絶望した顔を見せる。

 あまりにシーアだけ可愛がるから、同じシオンの甥姪たちが文句を言った。

「伯父上、シーアばかり甘やかさないでください!!」

「そうですよ!!」

「シーアはそれを笠に、我儘放題なんですから」

 いわれのない悪評をシオンにいう、シオンの甥姪たち。

「シーアは相変わらず、体にあわない服を着ているが、どういうことだ?」

「そ、それは、まだ着れるものだから」

「シーアが好きで着ているだけですよ」

「そうそう!!」

 まだ、シーアの待遇改善はされていない。油断すると、シーアは汚れたままの衣服を身に着けていることもある。

 シーアはというと、そんな待遇でも、平然としている。

「皇族失格となるかもしれませんから、もっと、色々と出来るようにならないといけませんね。まずは、料理とか。あ、洗濯も出来るようにならないといけませんね」

 家族から酷いことを言われているのに、シーアは笑顔で受け止めている。それどころか、将来のことを前向きに受け入れるのだ。

 本当は、シーアは皇族だ。しかし、皇族の儀式は十年に一度と決まっている。まだ、シーアは皇族の儀式を受けていないから、皇族と知らないのだ。

「貴族の学校を飛び級で卒業すれば、皇族の儀式の頃には、貴族になれますね」

 笑顔で、将来のことを計画するシーア。家族の前で言えないから、僕とシオンの前で口にして、計画に漏れがないかどうか、気にしているようで、伺うように見てくる。

「では、試験勉強しないとね。いくら皇族といえども、試験に合格しないといけないよ」

「皇族教育では、足りないのですか?」

 シーアはすでに、皇族教育を終えていた。

「貴族と皇族は別だ。貴族は貴族の教育がある。教科書を取り寄せておくから、読んでみなさい」

 シオンは可愛い姪の願いを叶えるために、色々と手助けした。






 貴族の学校の試験に首席合格の結果が出た頃、皇帝シオンは皇族エッセンとその孫メフノフを呼び出した。

 シーアはいつもの通り、シオンの私室に遊びに来ていた。シーアを見て、エッセンとメフノフはイヤそうな顔を見せる。

 皇族エッセン、最初はシーアのこと、そこまで気にしていなかった。シーアのせいで、孫のメフノフが将来起こる戦争に出征することになっても、シーアのことを嫌わなかったのだ。

 だが、たった一度行われた、盤上遊戯の大会で、シーアがエッセンを負かしてから、エッセンはシーアを嫌うようになった。

 メフノフは、シーアに負けてばかりなので、子どもらしくシーアを嫌っていただけだ。

 対するシーアは、笑顔である。あまりにも嫌われ過ぎているので、シーア、感覚がおかしくなっていたのだおる。それが普通と思っているのだ。だから、常に笑顔である。

 綺麗に笑うシーアに、何故か驚く皇族エッセン。たぶん、エッセンの記憶の中のシーアは、あの不気味な笑顔を貼り付けたシーアで止まっているのだろう。

 それは、メフノフもだ。嫌っているから、シーアのこと、これっぽっちも見ていなかった。

「シオン、お客様なんて、珍しいですね」

「シーア、こちらに座りなさい」

 皇帝シオンは、シーアを隣りに座らせた。その向かいに、エッセンとメフノフが座った。

「シーア、今日から、メフノフが婚約者だ」

「でも、わたくし、皇族失格になるかもしれませんよ。婚約者なんて、無駄です」

 シーアは冷静に問題点を突きつける。シーアは、皇族失格になると信じている。

「どうなるか、それは、皇族の儀式を行うまで、わからないじゃないか」

「家族だって言っているんです。皇族失格となりますよ」

「それでも、シーアの年頃で婚約者がいるのは、普通だ。婚約して結婚するかどうかは、わからないけどね。ただ、皇族は結婚して子を為して血筋を残すことが大事だ。感情に任せて、いつまでも結婚出来なかったなんてことになったら困るから、一応、婚約しておくものだよ」

「そういうことは、お父様とお母様が決めることでしょう。シオンは伯父ですよ」

「君の両親がいつまでも婚約者を決めないから、僕が決めるんだ」

「でも、わたくしの婚約者だなんて、メフノフが可哀想ですよ」

 笑顔でいうシーア。自らを卑下するシーアだが、これっぽっちも気にしていない。

 突然のことに、皇族エッセンとその孫メフノフは言葉もない。ただ、目の前で繰り広げられる笑顔の口舌を眺めていた。

「い、いや、待て待て待て!! ワシは何も聞いておらんぞ!!!」

 やっと頭が動き出したようで、エッセンは机をばんと叩いた。

「今言った」

「まさか、何も話していないなんて、皇帝だからって、やっていいことではありませんよ」

「どうせ、受けるしかない」

 シーアがエッセンに味方しても、シオンの態度は横柄である。確かに、皇帝だから、この程度のこと、許されるだろう。

「ふざけるな!! この女のせいで、僕は、どれだけイヤな気分にさせられたか。こんな女と婚約だなんて、絶対にイヤだ!!」

「戦争への出征、免除してやる」

「本当か!!」

 まだ、何か叫ぼうとするメフノフをエッセンが遮った。

「メフノフの出征命令を撤回してくれるのか」

「シーアの婚約者になってくれれば、だ。イヤなら、他の男をあてがおう。戦争に出征したくない男はいくらだっている」

 シーアを虐めたことで、強制的に戦争への出征を決められた者たちはそれなりにいる。

「そんな、戦争の出征をイヤがるなんて、情けない」

 その条件に、シーアは呆れた。

「お前は戦争に出ないから!!」

「皇族であれば、筆頭魔法使いの妖精が守ってくれます。どうせ、最後は筆頭魔法使いの魔法で敵を一掃するのですよ。そんなのを怖がるなんて、情けない」

 皇族教育を終えたシーアにとって、戦争への出征を拒む皇族が理解出来ない。

「戦争に出れば、人を殺すんじゃぞ。ワシだって、皇帝だって、たくさんの人を殺した」

「それが、皇族としての免罪符でしょう。手が汚れたから、どうかしましたか。人は、生き物を殺して、それを食べて、生きています。営みに弊害が出る罪人は処刑します。生き物を殺して、人を殺して、平穏を得ているのです。何を甘いことを言っているのか」

 笑顔で悍ましいことをいうシーア。

 その場がしーんと静まり返った。シオンでさえ、驚いて、声もない。

 シーアは見回して、苦笑した。

「また、間違えてしまいましたね。学んだ通りのことを言っただけなのに、嫌われてばかりです。ごめんなさい」

「い、いや、シーアは悪くない。正しいことを言っている」

「でも、シオン、笑ってくれない」

「驚いただけだ!! こんなに立派なことを言えるようになっているなんて、驚いてしまって」

「本当に?」

「そうだ。驚いてしまった。すごいな、シーア。女帝になれるよ」

「わたくしが女帝になったら、皆さん、笑顔になりますか?」

「うーん、皇帝女帝は、嫌われることをしなければならないからね」

「じゃあ、女帝にはなりません」

 シーアの健気さに、僕は泣きそうになった。

 シーア、常に笑顔だった。最初は、あの不気味な笑顔だったのは、シーアなりの努力だ。きっと、笑っていれば、いつかは愛される、とシーアなりに学んだのだ。その学びのきっかけが、皇帝シオンだ。

 シーアは、最初、シオンの真似をした。シオンが皇族ネフティに好かれているとわかっているから、シオンの真似を一生懸命したのだろう。あの不気味な笑顔がそれだ。

 そうして、どんどんとシオンの真似をするために、皇帝の私室に入り浸ったのだ。

 そうすれば、いつか、皆、笑顔になってくれる。

 そんな健気な願いのために、シーアは笑い続けた。








 もう、僕は黙っていられなくなった。僕は、土下座して、シオンにほとんど告白した。シーアが生まれながらの妖精殺しだということだけは、黙っていた。

 その日、わざと、僕はシオンに酒を勧めた。

 シオンは、最後まで、僕の懺悔を聞いてくれた。手が白くなるほど握りしめ、憎悪をこめて僕を見下ろしていた。

「それで終わりか?」

「それが、全てです。ううう」

「泣くな!!」

 シオンは容赦なく、僕の蹴った。シオンは皇位簒奪されないために、今も鍛えている。その脚力は僕を蹴り飛ばすほどのものだ。

 だけど、僕は起き上がったりしない。抵抗もしない。また、土下座する。

「どうしても、どうしても、というから、ネフティを生かしてやったというのに、あいつ、よりによって、彼女を殺すなんて!!!」

 シオンは弟の所業に怒り狂った。手あたり次第に物を落とし、殴り、時には、僕に投げつけた。

「僕の娘に大怪我させて、狂人にしたてるなんて、あの家族全て、殺してやる」

 もう、シオンは、血のつながりなどどうでもよくなった。理性を捨て、復讐のために剣を握った。

 とうとう、シオンの弟家族は破滅する。僕は密に笑った。

「ナインは、シーアのこと、どう思っている?」

 何故か、そこで、シオンが僕におかしな質問する。

 恐る恐ると僕は顔を上げてみれば、シオンは僕に剣の切っ先を突き付けながら、冷たく見下ろしていた。

「シオンの、子、と」

「それだけか?」

「それだけ、だけど」

「可哀想に」

 酒が足りなかったようだ。シオンは、剣を捨てて、また、椅子に座り込んだ。

「このまま、勢いで行ってしまったら、シーアが殺されてしまう」

 シオンは弟のことを警戒した。シオンの弟は、決して能力が低いわけではない。シオンが天才ならば、シオンの弟は秀才だ。皇族としては、そこそこ、仕事も出来るシオンの弟は、兄であるシオンのことをよく知っている。

 もし、勢いで弟家族の元へと乗り込んでいけば、シオンの弟はシーアを人質にする。そういうことが出来る男なのだ。

「エッセンを呼べ。シーアの安全のためには、エッセンの協力がいる」

 そして、シオンは皇族エッセンにシーアの秘密を全て話して、頭を下げた。

「だから、ネフティを処刑しろと言ったんじゃ!!」

 全て聞いて、皇族エッセンはシオンを責めた。

「恩を仇で返すような弟とは思っていなかった」

「ワシがやってやると言ったじゃろう。ネフティの処刑で復讐に出るようだったら、ワシがお前の弟を殺してやると」

「もう、容赦しない。あいつら家族全て、僕が殺す。そのために、シーアの安全を確保しなければならない」

「いいのか? シーアは、親兄弟を随分と慕っているようじゃぞ」

 偽物の親兄弟から、シーアは酷いことを言われていても、シーアは笑顔だ。使用人にさえ、酷い扱いを受けているのに、シーアは気にしない。

 皇族の儀式前で、家族に見捨てられた者は、立場が低くなる。シーアはまさにそうだ。家族が暮らす部屋でも、皇族が跋扈する外でも、シーアは蔑まれてばかりだ。

 だけど、シーアは気にしない。どうにか、好かれようと、笑顔を返す。いつか、笑顔を向けてもらえる、とシーアは信じているのだ。

 それは、偽物の家族にもだ。シーアは、兄姉たちを敬い、逆らったりしない。人前で罵られても、笑顔で頭を下げるだけだ。

「わたくしが至らなくて、申し訳ございません」

 そう謝るシーア。

「真実を伝えればいい。堂々と、シーアを僕の娘として迎え入れよう。もう、誰にもシーアを悪く言わせない」

「シオンは、シーアに恨まれる覚悟はあるか?」

「あんな奴らよりも、僕のほうが、シーアには優しい家族だ!! 誰だって、そう思うだろう!!!」

「シーアは、頭を大怪我して、障害があるのじゃろう。狂人の考えは、我々では計り知れんぞ。シーアに寝込みを襲われた時、お主はシーアを殺せるか?」

「そ、そんな、こと、あるはず、ない………」

 せっかくの酒も抜けて、冷静となったシオンは、エッセンの話に、頭を抱えた。

 誰が見ても、シオンはシーアのことを可愛がっている。最初は、憐憫からだろう。どんどんと成長して、人らしくなっていったシーアを作ったのはシオンだ。シオンが手塩にかけて、今のシーアを作った。

 シオンは、弟を切り捨てられなかった。シーアも、切り捨てられない。シオンは、シーアに殺されるだろう。

「お前の跡継ぎはいるのか?」

「一番、才能があるのは、シーアだ。僕が殺されたら、シーアを女帝にすればいい。そうだ、そうしよう」

「あれは繋ぎの女帝になれるが、平穏の世では、災いしか呼ばん」

「だったら、皇妃にすればいい。メフノフを表の皇帝にして、政務等はシーアにやらせよう」

「それが、お前が考える、娘の幸福か」

「っ!?」

 エッセンに言われ、シオンは真っ青になった。

 誰が聞いても、シオンは皇帝としての采配をしている。そこに、シーアの幸福はない。

「あれらの処刑は、いつでも出来る。シーアが皇族だと儀式で証明された時、ネフティの企みも失敗するじゃろう」

「企み?」

「どう見ても、皇族失格となったシーアをネフティは殺すつもりじゃろう。だから、シーアを皇族失格になる、なんて公言しておるんじゃ」

「クソ女が」

「お主も、身内が関わると、頭が悪くなるのぉ」

 こうして、シオンとエッセンが協力関係となった。

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