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皇族姫  作者: 春香秋灯
妖精男爵の皇族姫-外れ皇族姫-
32/353

毒殺未遂の犯人

 翌日、大変なことになっていた。女帝エリシーズの食事に毒を盛られたのだ。毒見の段階で、毒が混入していることがわかり、そこから、捜査となった。

 皇族の料理に毒物を混入させるのは難しい。誰が、という取り調べをしつつ、毒物が隠されている場所を探すため、城全ての部屋を捜索された。

 そして、王国の客人である王族ザクトの部屋で、毒物が発見されたのだ。

 その場で、ザクトは捕縛されるも、取り調べをすることが困難となった。

 王族ザクトには、悋気の強い妻がいる。見目麗しく、見る人全てを魅了する女性だが、ただの人ではない。父親は人、母親は妖精を持つ、妖精の子である。ザクトの身に何かあったことに気づいた妻は、妖精の力を使って、ザクトの側に立ち、帝国の騎士や兵士たちを妖精の力で吹き飛ばしたのだ。

「ザクトに何てことをするの!? ザクト、ザクト!!」

「アイリス、ほら、落ち着いて。怪我はしていないから」

「縄で縛られている!! 優しいザクトになんてことするの!? アランはどこにいるの!! アラン!!」

「呼ばないでぇ!! 俺の胃が!!!!」

「アラン、また、ザクトに心配かけたの!? ポーだけでなく、アランまで、ザクトに苦労かけるなんて!!」

「可愛いアイリス、ほら、怒らない。笑顔を見せてくれれば、痛いのもどこかにいってしまう。ほら、笑って」

「ザクト!!」

 べたべたなザクトとアイリスのやり取りを中心に、周りは散々な光景だったという。騎士や兵士たちはアイリスの力によって、血みどろになっていたのだ。

 ザクトに手を出そうものなら、アイリスを敵に回すこととなってしまう。しかし、ザクトをそのままにしておけないため、大臣たちは責任の譲り合いである。

「いつまでも、王国にでかい顔をさせておくからだ」

 そう言って、出てきたのが、まだ外務大臣を罷免されていないゴランである。相手は王国側と下に見ているのだ。

「貴様、さっさと罪を認めて、帝国にそれなりの賠償をしろ!!」

「あんな毒物、知らない! だったら、妖精の契約で俺を調べればいいだろう。簡単だ」

「その妖精がいては、出来ないだろう!?」

「アイリス、離れなさい。俺は、王国のためにも、潔白を証明しなければならない」

「イヤ!! すぐ帰るって言ってたのに、帰ってこない!!!」

「今日には帝国出るんだから、すぐじゃないか!!」

「三日も待った!!」

「あー、うん、三日かー。一週間くらいって話したよね」

「三日も待ったの!!! 長いの!!!!」

「………すまないが、アランにまかせる。アイリス、この部屋を掃除しなさい。ほら、ゆっくり休もう」

「うん!」

 妖精の子アイリスの願いを無下に出来ないザクトは、その後を全て、アランに放り投げた。

 ちなみに、凄惨となった部屋は、アイリスの力により一掃される。怪我した騎士と兵士たちは、城の外に放り出されたという。ついでに、まだ外務大臣のゴランもだ。

 ザクトがいる部屋は、誰も入ることが出来なくなった。





 という説明をアランはわたくしの部屋で朝食をとりながらまだ外務大臣のゴランから聞いていた。ちなみに、朝食は、アランが作ったものだ。材料、どうやって手に入れたのか、わけがわからない料理である。

 同じく、朝食を食べている皇族ライアンは、蔑むようにゴランを睨み上げていた。

「勝手なことをしてくれたな。はやく罷免の書類を出すべきだったな。ゴラン、もう、動くな。妖精の子を怒らせたお前をこれ以上、自由にさせるわけにはいかない」

「妖精の子など、帝国の魔法使い全てには敵いませんよ!」

「妖精の子を虐待して、海の聖域が穢れたんだぞ!? 妖精の子を虐待した街だけでなく、そこの住人全てが、妖精の怒りを買って、いまだに貧しい生活をしている。穢れた聖域をどうにかするのに、どれだけの魔法使いが死ぬだろうな。貴様一人の命では済まないことだ!!」

 ライアンはゴランの胸倉をつかんで怒鳴った。

「ひ、筆頭魔法使い二人であれば」

「あの筆頭魔法使いは仮だ。魔法使いアランからは及第点を貰っただけだ。アランだったら、過去最悪と呼ばれた帝国全土の穢れを受け止めても平気だったろうな。しかし、貴様のような愚か者がのさばっているからか、帝国では力の強い妖精憑きがどんどんと生まれにくくなっているんだ。それをいつまでも過去の栄光とやらでふんぞり返りやがって!! だから、魔法使いアランは王国から戻って来なかったんだ!!」

 ライアンはゴランを力いっぱい、押し離した。ゴランはそのまま尻もちをついて、呆然とする。

「帝国は、本当に変わらないな。だから、愛に生きた皇女アリエッタも逃げたわけだ」

「随分と古い伝説を知っているな」

 アランはわたくしですら知らない皇女アリエッタを持ちだす。ライアンはそれを聞いて、少し、怒りをおさめた。

「皇族に生まれた最強の妖精憑き皇女アリエッタは、貧乏貴族の若者を愛した。しかし、貧乏貴族の若者はそのまま落ちぶれてしまい、行方知れずとなった。そんな男を皇女アリエッタは追いかけ、そのまま、いなくなったという。貧乏貴族と皇女アリエッタがその後、どうなったのか、誰も知らないが、戯曲では、海を渡った王国で幸せに暮らしました、となっているな」

「聞いたことがあります!!」

 戯曲と聞いて、わたくしは似たような話を思い出した。

「伝説ではない。本当にあった話だ。そして、戯曲では、こう続けられる。皇女アリエッタがいれば、帝国の政治も聖域も、乱れることも穢れることもなかっただろう、と。皇女アリエッタは、かなり優秀な為政者だった。次の皇帝はアリエッタだろう、と言われていたが、アリエッタが出奔してしまったため、次席の血筋だけの皇帝が立ったんだ。そのため、政治は貴族に言われたまま、教会も腐敗して、貴重な魔法関係の本も焚書されてしまった。筆頭魔法使いは皇族に逆らえなかったから、防ぐことが出来なかった。そして、血のマリィによる血祭りだ」

 そこからは、帝国民なら誰もが知っている話だ。

 大昔、皇族、貴族、教会が聖域を穢す行為をしたため、妖精憑きであり皇族であったマリィが、赤ワインに妖精の呪いをかけ、腐敗した皇族を皆殺しにしたのだ。その後も、マリィは姉を女帝とし、罪ある貴族に妖精の呪いがかかっている赤ワインを飲ませ、粛清し続けた。こうして、帝国の聖域を真っ白にし、腐敗した全てを皆殺しにした。

 帝国を救った皇女であるが、あまりにも血を流し過ぎたため、血のマリィ、と今も恐れられている。マリィのせいで、赤ワインは帝国ではいまだに忌避な飲み物だ。

 ゴランは、ここにきて、間違いにやっと気づいた。しかし、怒りはアランへと向けられる。

「貴様ら王国が毒物なんぞを持ち込むからだ!!」

「毒物なんぞなくても、女帝を殺す方法なんていくらだってある。何より、あのお飾り筆頭魔法使いでは、ポー殿下には勝てないんだぞ。ポー殿下の妖精使えば、一発だ」

「やはり、暗殺しようと」

「出来るけど、やってないだろう。いいか、魔法使いアランが筆頭魔法使いだった時代では、王族キリト様が最強の妖精憑きだったのに、お前ら皇族同士で皇位簒奪してただけだろう。だいたい、焚書した本が残っていれば、王国が帝国を乗っ取るはずがない、と最初からわかっていたことだがな。お前ら貴族の先祖がやらかして、今がある。まずは、先祖を恨むんだな」

「わけのわからないことを!!」

 アランはただ怒りをぶつけるゴランを蹴り倒し、胸の上を踏みつける。

「魔法使いアランは、帝国のために、自力で聖域の謎を解いたんだぞ!! 一生をかけてだ!!! 答えはすぐそこにあった。それを知った時、魔法使いアランは泣いた。一生をかけて見つけた答えが、とんでもなく近い所に妖精が導いていたことに気づいてだ。それをわけのかわらないこと、と言い捨てるのだからな。そりゃ、魔法使いアランも帝国を見捨てるさ!!」

「どういうことなんだ!? アランは、アランはっ」

「いいか、私は今日中には帝国を出ないといけない。もし、明日になっても私が帝国で拘束されていれば、帝国全土を妖精が総攻撃する。妖精は単純だ。この城だけ、なんて考えない。帝国全土を攻撃すればいいだろう、というのが妖精の考え方だ」

 ライアンは絶望的な目をアランに向ける。昨日も同じようなことを言っていたが、冗談と思っていたのだろう。

 しかし、思い返せば、アランは不思議な力を使っている。最強最悪の妖精憑きと呼ばれるポー殿下をどうにか対処できるという。

「あの、わたくしが王国に行けばいいのですよね。そうすれば」

「妖精狩りが終わっていない。妖精姫を手に入れるには、妖精狩りだ。あなたが王国に来た時も、随分と妖精狩りをした」

「そんなこと、言って、いましたね」

 初めて、アランと出会った時、アランは妖精狩りをする、とよくわからない言葉を言って、少しだけ、離れていた。貴族がよく使う隠語だろう、と当時は思った。

「さっさと立て、このデブが!!」

 アランはゴランを力いっぱい蹴った。あまりに力いっぱいで、ゴランは苦痛でのたうち回っている。

「私を敵に回したことを後悔させてやる。この怒りは、あのどうしようもないポー殿下を相手にして以来だ」

 そう言って、苦痛で立てないゴランの腕を無理矢理引っ張り、部屋から引きずり出した。




 皇族が一同に集められた。そこに、宰相、大臣たち、筆頭魔法使い、皇族の使用人たちまで集められたのだ。

 集めたのは女帝エリシーズだが、その傍らには、昨日、皇族と認められたばかりのアランが尊大な態度で立っていた。全てを蔑むように見下ろす。

「ここに、王国の賓客が過ごす部屋で見つかった毒物がある。まず、言いたいのは、案内された部屋に毒物があるという時点で、犯人は帝国側だろう。バカか、お前ら!! お陰で、妖精の子アイリスがお怒りだ。王族ザクトの部屋には誰も近づくなよ。どうせ、お楽しみの最中だ。邪魔したら、アイリスに消し炭にされるぞ」

 物凄く下品なことを言われた。誰もそれを突っ込まない。そういう空気ではないからだ。

「それでは、ここで、妖精の復讐をしてもらおう」

「おい、まさかっ」

 ライアンが止めようとするが、その前に、アランは毒物を一飲みしてしまう。

「証拠隠滅だ!!」

 まだ外務大臣のゴランがアランを指さして叫ぶ。それを筆頭魔法使いたちが冷たく見つめる。

「ああやって、皇族が毒物を飲むと、毒物を用意した関係者に復讐するんですよ。これから毒で死ぬ者たち全て、毒物の関係者ですよ、ゴラン」

「………は?」

 ゴランは呆然となる。その間に、とんでもないこととなっていた。

 皇族の使用人たちがどんどんと毒の症状で倒れ、死んでいくのだ。これには、身に覚えのある者たちは震える。そして、毒で死んでいく。

 どんどんと広がっていく死者は、なんと、集められた使用人の半数となる。とんでもない数に、皇族の使用人たちは怯えて震える。

「なんてことをしてくれたんだ。これでは、証言がとれないじゃないか!!」

 ライアンは、関係者が死んだことに怒っていた。

「大丈夫だ。死なない奴もいる。ほら」

 そう言って、アランは皇族を指さす。その先には、震える皇族エンラがいる。

 アランはわざわざエンラに近寄り、その手を引っ張る。

「ほら、呪われた。私には、筆頭魔法使いの妖精よりも高位の妖精が憑いている。憑いている妖精が高位であると、いくら筆頭魔法使いの妖精が守っていたって、負けるんだよ。力で負けて、こんなふうに、異形化が起こる」

 エンラの腕がおかしな形になっていた。それを見てしまった近くの皇族たちは、親であろうとも、エンラから距離をとる。

「エンラ、なんてことをしたんだ!? エリシーズに毒を盛ろうなんて、皇位簒奪じゃないか!!」

「違う! 言われた通りにしただけよ!!」

 エンラはきっと大臣たちのほうを睨む。

「あんたに言われた通りにしただけよ!! ゴラン!!!!」

「知らない!!」

 エンラの罪の告白に、ゴランは即否定する。

 エンラは妖精に復讐されているが、ゴランはまだ、復讐されていない。無事なのだ。

「これで、王族ザクト様は無実となった。さて、帝国としては、賓客を罪人扱いしてくれて、どうしてくれるかな?」

「わかりました。ラキスと婚約を許します。ですが、婚姻まで、ラキスは帝国にいてもらいます」

 女帝エリシーズはわたくしの身柄を王国に渡すことで、問題の解決をはかろうとした。ただ、即、身柄を渡すわけではない。

 それでも、前進したことに、わたくしは嬉しくなる。

 ところが、アランはこれっぽっちも嬉しそうではない。詰まらない、と短剣を弄んでいる。

「同じ血筋といっても、こうも違うと、気の毒だな」

「あなたの望み通りになりましたよ」

「エリシーズ、私の母上のことをどう思っている? 好きか? 嫌いか?」

「………何の話かしら」

 質問には答えず、エリシーズは歪んだ笑顔を返した。笑っているが、その目には憎悪で目が真っ黒だ。

 アランは憐れみをこめてエリシーズを見つめる。

「クソジジイは、本当に酷い親だったぞ。実の娘二人を道具にして、帝国を守ることしか考えてなかった。死ぬまで、帝国の禁則地の聖域を慰問し続けていた。よく、私も道連れにされたものだ。娘に会いに行け、と言ってやったら、殴られた。クソジジイは、娘二人に平等に、生涯、二回しか会わなかった。手助けも、二回だけだ」

「あなたには随分と会っていたではないですか!?」

「クソジジイにとって、私はこの日のための道具だ。やっと、見つけたぞ」

 アランはエリシーズに手を伸ばす。エリシーズは何かされると身構えるも、アランはそのままエリシーズの後ろの何かを掴むような動作をして、投げた。

 それまで何もなかったそこに、一人の美しい人の大きさをした妖精が倒れた。

「やっと釣れた、妖精!!」

 アランは持っていた短剣を視認化した妖精に投げつける。妖精は少しだけ不透明となったが、短剣に触れると、また視認化し、悲鳴をあげた。

「さてと、どれだけの寿命をため込んでいるかな」

 アランは妖精の首を乱暴につかみ、持ち上げた。妖精はアランの腕をつかんで抵抗するが、外れない。

 神をも恐れぬ所業に、恐怖しかない。神の遣いである妖精を素手で苦しめているのだ。天罰が下ってもおかしくない行為だ。

 そんな妖精を持ち上げ、わたくしに向かって掲げる。

「見ろ! お前の存在を歪めた妖精を捕まえたぞ!! こいつのせいで、お前の母も祖母も、酷い目にあってたんだ。本当に、酷い妖精だな」

「どういうことなんだ!?」

 わけがわからないことに、ライアンは声をあげる。毒殺未遂事件から、妖精視認化である。しかも、アランは妖精を素手で捕まえて笑っているのだ。


 話はこうだった。

 わたくしの一族は、神に溺愛される一族だという。あまりにも溺愛されすぎて、妖精が、はやく神の元に送ってやろう、と寿命を盗って、眠っているうちに死ぬようにして、魂を神の元に送っていたのだ。

 しかし、一族が滅びてしまうと、神が悲しんでしまう。そこで、跡継ぎが残るようにして、その他は全て、寿命を盗って、さっさと神の元に送ったのだ。

 ところが、わたくしの祖母の代、男子と女子の双子が生まれてしまった。どちらか片方を神の元に送らなければ、と妖精は考えた。

 男子は、皇族でなかったので、貴族となった。ところが、男子がいる領地は、一族の先祖が作ったと思われる、悪意ある妖精を近づけさせない魔道具が動いているため、男子には近づけなかった。

 女子は、皇族となったのだが、城の中には、強力な魔法が施されているため、寿命を盗ることが出来なかった。仕方なく、女子を皇族に殺させようと、妖精は働きかけたのだ。しかし、様々な要因で、女子は子をなした。どうにかしようとしたが、また、子をなされてしまった。そうして、様々な要因で子を為されてしまう。しかも、皇族の血筋であるため、城から出されない。

 妖精は、女子の子孫をどうにかして城から出そうとした。そして、王国への招待を利用して、女子の子孫であるラキスは一度、城から出たのだ。そのまま、王国でラキスは妖精から寿命を盗られ、そのまま眠るように死ぬはずだった。


「そこに、妖精にとっては運悪く。私があのポー殿下の婚約者のお披露目パーティにいたわけだ。嬉しかったよ。悪意ある妖精を狩れるんだからな。さすが妖精姫だ。私に素晴らしい贈り物をしてくれる」

 そう言って、視認化した妖精を叩き落とし、その足で踏みしめる。

「エリシーズ、どうですか?」

「わたくし、一体、どうして」

「この妖精に操られていたんですよ。皇族全て、どうにかして、妖精姫を排除したくなるようにね。この諸悪の根源が、こいつだ。あまりに高位の妖精だから、魔法使いアランも存在はわかっていたが、何も出来なかったんだよ。どうですか、妖精姫の身柄、王国にくれますか?」

「もちろんです! ここにいるよりも、あなたの元にいるほうが、ラキスのためです」

「どうかな。私は妖精姫に寄ってくる悪意ある妖精を狩りたいだけなんだが」

「でも、守るのでしょう」

「もちろん。きっかけはどうであれ、私の妖精姫だ。お前たち、妖精姫がうんと綺麗になって、後悔しろ。私の妖精姫は、物凄く美しくなるぞ!」

 アランはそう言って、視認化した妖精から足をどける。視認化した妖精は諦めたようにアランの前に跪く。

「これで、お前は私の妖精だ。これまで盗った寿命は、きっちり、あるべき所に返すんだな」

 妖精は頷くと、すっと消えた。

 わたくしは呆然となる。周りの視線が変わったかどうかはわからない。だけど、エリシーズが泣きながら抱きしめてきた。

「本当に、ごめんなさい。わたくしが妖精に操られたばかりに、こんな事になってしまって」

「いいんです、もう」

「終わってない。あのデブの首をいただいていない」

 感動的な場面に水をさすアラン。

 アランはまだ外務大臣のゴランの首をつかみ、引きずってくる。

「私は決めていた。この男の首を妖精の玩具にする、と。だから、妖精の復讐ではなく、罪の暴露にしたんだ。貴様は本当に愚かだな。私を敵に回して、無事ですむはずがないだろう。私に逆らえる妖精はいない」

「私は、何もやっていない!! 証明されただろう!!!」

「そうなのか?」

 アランは妖精の復讐によって手を変異されたエンラを見る。エンラは憎々しいとばかりにゴランを睨んだ。

「この男が毒物を持ってきて言ったのよ!! お前のせいで、わたくしは、全て終わりよ!!!」

「この通り、無事だ」

 だが、ゴランはなにも起こっていない自らを見せて、エンラを嘲笑う。妖精の復讐がされていない。

「そうだな。では、妖精の呪いの刑だ。今でこそ、出来る者はいなくて執行出来ない刑だが、私は出来る。何せ、高位の妖精をも支配下に置けるからな」

「やってみろ! そんな聞いたこともない刑、どうってことない!!」

 大笑いするゴラン。そのまま、貴賓用の牢屋へと連れて行かれる。

「あの、妖精の呪いの刑って、何ですか?」

 皇族教育が終わりきっていないからか、聞いたことがない刑は、不吉な響きである。わたくしは恐る恐るアランに聞いた。

「魔法使いアランでさえ、妖精の格が足りなくて出来なかった、最低最悪な刑ですよ。罪状を決めて妖精の呪いをかけるんです。無罪であれば、呪いは発動しません。しかし、有罪であった場合、一族郎党が呪われます。呪われると、手にする物全て腐ります。水でさえ腐ります。呪いを受けた者は領地をも呪いますから、追い出されます。結果、定住も出来ない、食べることも飲むことも出来ない、そうして、一族全てが滅びます。これが、妖精の呪いの刑です」

「一族全てが罪人なわけではないですよね」

「そうですよ。でも、これは、一族であるために、巻き込まれます。力ある妖精憑きが筆頭魔法使いとなった時は、見せしめとして、妖精の呪いの刑を発動するのですよ。そうして、皇族に、帝国に逆らってはいけない、と思い知らせるんです」

「………」

「神が裁くのです。一番、わかりやるいでしょう」

 笑顔でいうアラン。そこに、躊躇いも憐れみもない。

 見てみれば、妖精の呪いの刑を話の上で知っている者がいて、鎮痛な面持ちを見せる。皇族ライアンは知っているようだ。高笑いをし続けるゴランの背中を嘲笑うように見つめた。




 ゴランの妖精の呪いの刑は大々的に発表された。長いことされなかった刑であるため、帝国全土に触れが出されたほどだ。各地に口頭での説明もされ、妖精の呪いの刑に戦々恐々となる。

 結果、ゴランは有罪だった。ゴランの一族は全て呪われ、領地を追い出され、定住も出来ず、飲むことも食べることも出来ず、苦痛の中、滅んでいた。

 ゴランは有罪となると、一族の元に送られ、手ひどい暴力を受け、呪いではなく、一族の手によって殺された。

 その後、ゴランの一族は死に絶えると、燃やされた。不思議なことに、ゴランの首だけは見つからなかった。

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