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皇族姫  作者: 春香秋灯
嫌われ者の皇族姫-戦争準備-
308/353

情けない男たち

 リスキス公爵の弟ベンゼの案内で、ヘイズの叔父が休む部屋に行った。

 ノックして入ってみれば、ヘイズの叔父の部屋なんだけど、テンペストとヘイズが一緒にいた。

「テンペストとヘイズの部屋は、別にありますよ」

「両親が死んだ理由を叔父さんに話していただけだ」

「あなたも、知りたかったのですか」

「この度は、甥が無礼なことをしてしまい、申し訳ございませんでした」

 ヘイズの叔父は、きちんとわきまえていて、わたくしの前で、膝をつき、深く頭を下げた。

「あなたもまた、皇族の暴虐の被害者です。今は王国側の人ですし、その無礼も仕方がありません」

「女帝陛下の慈悲、感謝いたします」

「さあさあ、堅苦しいのはやめましょう。あなたは、わたくしの従兄の叔父です。遠いですが、義理の身内みたいなものです。気楽にしてください」

「それでは、お言葉に甘えまして」

「ヘイズとテンペストは、席を外してください」

「どうして!?」

 身内で仲良く話すものと思っていたヘイズは驚いた。

「わたくしの産みの母の話なんて、ヘイズは聞き飽きたでしょう。明日は会談があるので、部屋に戻って、ゆっくり休んでください」

「俺も話したい」

「テンペストだって、ヘイズと二人だけの時間が欲しいでしょう」

「ヘイズ、部屋で休もう」

「ヘイズ、テンペスト様のことは頼む」

「………はい」

 結局、ヘイズはリスキス公爵の弟ベンゼには逆らえない。ヘイズはテンペストと一緒に、帝国が用意した部屋に戻っていった。

「あの二人、まさか、朝まで一緒ではないですよね?」

「………」

 無言で顔を背けるベンゼ。えー、まーさーかー。

 気になって、筆頭魔法使いナインを見た。ナインもわたくしから顔を背ける。ちょっと、あの二人が就寝まで一緒なの、普通のことなの!?

 妖精憑きの深い闇を垣間見たけど、そこは、これ以上、深追いしないことにした。それよりも、別のことに意識を向けよう。

「わたくしのことは、シーアと呼び捨てにしてください」

「いえいえ、女帝陛下と呼びます。公式の場で、間違って呼んでしまうと、大変なこととなりますから」

「うーん、わたくし、女帝やめたいので、それで固定されてしまうのはイヤなんですけど」

「亡き母親の復讐が終わったのですから、女帝でいる必要はないですよね」

「いえいえ、女帝となったのは、成り行きですよ。復讐なんて考えるほど、わたくし、産みの母に思い入れはありません。皇帝って、そんな感情に振り回されるような人がなれるわけではありませんよ」

「てっきり、復讐のためになったものと」

「シオンでさえ、真相を知りながら、復讐をしなかったのですよ。権力を使って復讐してしまうような人は、皇帝にはなれません」

「遊びで手をつけただけだからでしょう」

「産みの母から、どう聞いているのですか?」

 どうも、ヘイズの叔父は、わたくしとは違う認識を持っているように見えた。

 ヘイズの叔父の言い方には棘がある。だけど、先帝シオンからの話を思い出すと、世間一般では、そう見えるものだ。

 身分の高い男が、身分の低い女に手をつけたのである。しかも、そのまま、接触すらない。シオンは愛だ恋だといっていても、産みの母は同じ気持ちというわけではないのだ。シオンは、産みの母の気持ちを知らない。

 わたくしは、ある意味、当事者であるため、ヘイズの叔父は色々な思いをこめて、わたくしを見た。

「私は、彼女に手を出して、責任をとらなかった皇帝シオンのことは、最低な男だと思っている」

「父親が誰か、あなたは知っていたのですね。知っていて、ヘイズには隠していたのは、どうしてですか?」

「皇帝が手をつけたなんて、誰が信じる? 迂闊に教えて、ヘイズが誰かに話したら、大変なことになる。だから、知らないと嘘をついた」

「わたくしが生きているとは、考えませんでしたか?」

「考えなかった。屋敷は燃えたんだ。一緒に死んだと思うだろう」

 きちんと考えている大人だ。ヘイズの叔父は、帝国では子爵家を継いでいたという。移住した王国でも、立派な伯爵なのだろう。そう思う。

 ヘイズの叔父は、わたくしをずっと、見つめる。その目には、わたくしの見た目や言動から、何か見出そうとしている。

「わたくしは、両親には似ませんでした。シオンがいうには、曾祖母にそっくりだとか」

「確かに、彼女に似ていないな。正直、彼女の娘だとは、信じられない」

「わたくしだけは、無傷で誘拐するように命じたそうです。わたくしは片親は貴族ですから、皇族失格になるだろう、と予想して、シオンの前でわたくしを殺すことを計画されました。ですが、わたくしは、ちょっとだけ、皇族の血が濃くて、皇族の儀式を通過してしまいました。嘘だと思った首謀者は、シオンの前で全てぶちまけたんです。わたくし、ただ、シオンの目前で殺すためだけに誘拐され、育てられたんです」

「一応、大事に育てられたんだな」

「そうですね」

 わたくしの身の上は話さない。今更の話だ。だから、わたくしは笑顔で頷いた。

 ヘイズの叔父は、酒を口にして、深く息を吐き出した。その隣りで、リスキス公爵の弟ベンゼが心配そうに見守る。

「私は、このような場に立てるような立派な人間ではない。ただ、ヘイズを大人しくさせるために、この使者団に選ばれたんだ」

「そんなことはない!! まあ、元は帝国の貴族だから、その伝手が使えるかも、という下心はあったが」

「女帝陛下は、聡明だ。私の下心をわかっている」

「酒の飲みすぎだ」

 リスキス公爵の弟ベンゼがヘイズの叔父から酒瓶を取り上げるが、遅い。もう、随分と軽くなった酒瓶は、わたくしから見ても、残りはわずかだ。

「テンペストに甘言を囁いたのは、あなたですね」

「どうして、そう思いますか?」

「テンペストが帝国行を思いつくことはありません。まず、ヘイズを帝国に近づけたくないでしょう。それでも、帝国行を望んだのは、誰かが囁いたからです。ヘイズは言いません。何故って、ヘイズはリスキス公爵家から、そのことを言わないように命じられているはずです。わたくしなら、そうします」

 リスキス公爵の弟ベンゼを見れば、両手で顔を覆って俯いていた。

「テンペストの身近な人で、帝国行を望むのは、帝国から移住した、ヘイズか、あなたです。ヘイズが口にしないようなら、残るは、あなたです。あなたが、テンペストに帝国行を言ったのでしょう」

「そうです。テンペスト様は、ヘイズが喜ぶことを知りたい、といつも必死だ。ヘイズが赤ん坊のころから可愛がっている私のことをテンペスト様は頼った」

「テンペストは頭がいいので、敵国からの開戦要求は使えると読んだのですよね。それを利用して、王国の使者となり、帝国に来たわけです。でも、きっと、あなたは来る予定ではなかった。だから、テンペストに色々と吹き込んだのでしょう」

「さすが、彼女の娘だ!!」

 どんと机に拳をぶつけるヘイズの叔父。

「義兄の借金問題が解決したら、私は、彼女に結婚を申し込むつもりだった。戻ってきた彼女は、体調を崩したから、しばらく、様子見をしていたんだ。まさか、妊娠しているなんて。話を聞いたら、酒に酔った勢いだと!! しかも、いい思い出になった、なんて彼女は笑ってたんだ。父親になろう、と私から申し込んだが、一笑された。彼女は、私を弟のようにしか見ていなかった」

「もっと、強引にいけば良かったではないですか!!」

「何をバカなことを」

「そうやって、かっこつけているから、シオンも、あなたも、失敗するのですよ!! 情けない」

「シーア、もっと言葉を選べ」

 わたくしの口を塞ぐ筆頭魔法使いナイン。

 ヘイズの叔父は、わたくしを呆然と見た。ヘイズの叔父を悪いようにいうわたくしが信じられないのだ。

 わたくしは、ナインの足を蹴ってやる。さすがに痛いみたいで、ナインはわたくしの口から手を離した。

「待っているから、失敗するのですよ!! シオンは、次こそは、と待っていました。そして、次はなかった。あなたも同じです。次を待つから、失敗したんです。復讐したって意味がない。そんなことより、母を力づくで物にすれば良かったんです!!!」

「シーア、黙って」

「黙りません!! シオンにも、同じこと言ってやったら、泣きました」

「言ったのか!?」

 ナインが止めるけど、わたくしは止まらない。先帝シオン、わたくしに責められて、ボロボロと泣きました。

「バカバカしい。シオンもあなたも、何もやっていない。やった気になって、何もしていない。母は、結婚したくて、行動したけど、縁に恵まれませんでした。こんなに、近くに縁が転がっていたというのに、シオンもあなたもかっこつけて、行動しなかったから、母も気づかなかったんです!! そりゃ、シオン、遊ばれたと思われますよ!!!」

 これも言いました。シオン、胸をおさえて悶絶して苦しんでました。

 なんと、ヘイズの叔父も、過去のシオンみたいに、胸をおさえて苦悶の表情となった。男泣きもしている。

 わたくしが言いたい放題なのをリスキス公爵の弟ベンゼは驚いたように見ていた。そして、ヘイズの叔父を哀れみをこめて見た。

「この、どうでもいい男を惹き付けるのが母の魅力なのでしょうね。可哀想」

「ご、ごめん」

「可哀想!!」

「すみませんでした!!!」

 とうとう、ヘイズの叔父は、机に額をぶつけて謝った。その頭をわたくしは撫でてやる。

「でも、母のことを好きになる男性がシオンの他にもいて良かったです。シオンだけだと、母も気の毒です。ありがとうございます」

「う、うう」

 男泣きしている。机に突っ伏して、泣いている。お酒を飲み過ぎたのもあるのでしょう。

「女帝陛下、申し訳ございません!!」

 未遂ではあるが、ヘイズの叔父の企みを見破られて、リスキス公爵の弟ベンゼはまた、謝罪することとなった。

「謝罪だけでは済ましません。帝国は、テンペストの身柄を一時捕縛します。ナイン、テンペストの妖精を全て盗ってください」

「ご、ご容赦を!!」

「テンペストには、きちんとした教育が必要です。あれでは、子どものまま大きくなっただけです。帝国で、きっちり教育し直します。そのために、ヘイズは王国に戻します」

「それでは、テンペスト様が暴れます!!」

「ナイン、テンペストに負けますか?」

「あんなガキ、俺様でなくても勝てる」

「だそうです」

 リスキス公爵の弟ベンゼは、何も言えなくなった。

「テンペストは優秀ですから、すぐに王国に戻します。見たところ、随分と力の強い妖精憑きのようです。ですが、怖い物知らずなところは、帝国との関係を悪くします。王族である以上、心構えをしっかりと持つべきです。帝国の戦争が終わるまでは、テンペストは帝国預かりとします。いいですね」

「………わかり、ました」

「どいつもこいつも、情けない」

 もう、溜息しか出ない。わたくしは、明日の会談の問題をどうにか、この場で排除した。









 こまごまとした問題を排除すれば、王国と帝国の秘密会談は、通例通りに進んだ。

「では、王国側に派遣する魔法使いは、ラッセルでいいですね」

「筆頭魔法使い様ではないのですか?」

「筆頭魔法使いの活躍の場は、帝国の戦場です。王国の戦場には、それなりの才能持ちを派遣することとなっています。ラッセルも、かなり強い妖精憑きですよ。神さまとお話は出来ませんけど」

 筆頭魔法使いナインでないことに、王国側が不安になるが、心配ない。魔法使いラッセルは、帝国で二番目に強い妖精憑きである。

 そういう肝心なことを帝国は王国には言わない。二番目なんて言って、万が一、王国に魔法使いラッセルを口説かれてしまったら、帝国の損失だ。

 まず、ラッセルを王国に口説かれる心配はないけど。わたくしはちょっと目くばせすれば、筆頭魔法使いナインが部屋の一角から、何かを引っ張ってきた。

「こいつがラッセルだ。ほら、挨拶しろ!!」

「ひいいいいいーーーーーーーー!!!」

「相変わらずですね」

 悲鳴をあげて、フードを深くかぶってしゃがみこむ魔法使いラッセル。ラッセル、ちょっと対人関係が苦手なのだ。だから、いつも、魔法で隠れて、筆頭魔法使いナインの近くに控えている。

 魔法使いラッセルは、実は、百年の一人誕生するかどうかの才能ある妖精憑きだ。百年の妖精憑きは、千年の才能ある妖精憑きが誕生するまでは、繋ぎの筆頭魔法使いとなる。今回は、すでにナインという千年の才能ある妖精憑きが筆頭魔法使いとなっているので、百年の才能ある妖精憑きラッセルは、ナインが万が一死んだ時のための筆頭魔法使いの予備である。普段から、姿を隠して、ナインの側に控えているのだ。

 だけど、ラッセルは、人前に姿を見せるのが苦手なので、こうやって、無理矢理、引っ張り出すしかないのだ。しかも、見つけられるのはナインしかいない。わたくしでも、ラッセルがどこにいるのか、わからない。

 暴れて抵抗するラッセルのフードをナインは無理矢理、はがした。

「ひぃ!!」

「か、顔が!!」

 そして、ラッセルの素顔を見て、王国側も帝国側も悲鳴をあげる。ラッセル、魔法を強く操作しすぎて、素顔までのっぺりにするのだ。逆に怖いよ。

「ナイン、ラッセルの魔法を解いてください」

「や、やめてぇーーーー!!」

 悲鳴をあげて抵抗するラッセル。しかし、帝国最強の魔法使いであるナインの手にかかれば、その抵抗も無駄である。

 ラッセルの魔法が解かれれば、今度は、感嘆の声があがる。

 ラッセル、百年の才能ある妖精憑きなので、見た目だっていいのだ。妖精憑きあるあるである。だけど、その見た目で、色々とあったという。

「しかし、こんなに怯えられると、大丈夫なんですか?」

 人の視線に怯えるラッセルを見て、不安になるリスキス公爵の弟ベンゼ。

「帝国側からは、お目付け役として、もう一人、見習い魔法使いをつけます。ラッセル、あなたは大先輩なのですから、立派な姿を見せてください」

「は、はい」

 見習い魔法使いが一緒と聞いて、ラッセル、きりっと顔を引き締める。ラッセル、子どもの前では、立派な顔をするのよね。ほら、子どもは泣いて怖がるから、ラッセルなりに気をつけるのだ。見習い魔法使いの前では、ラッセルも、あの顔をのっぺりにすることはないだろう。

「ナインは、さっさと、契約解除の石を作ってください。王国側も、戦争を終わらせたいでしょう」

「早く戦争を終わらせよう!!」

 王弟テンペストがやる気だ。だって、戦争が終わるまで、テンペストの身柄は帝国預かりなのだ。

 表向きでは、魔法使いを返してもらうための人質として、テンペストは帝国に残ることになったのだ。わたくしの従兄ヘイズは、ナインによって、さっさと王国に帰された。いくらテンペストでも、ナインには勝てないので、大人しく従うしかない。

「テンペストには、これから、大事なお役目があります」

 だけど、ただ、テンペストを帝国に留めるわけではない。わたくしなりに、テンペストを利用するつもりだ。

 テンペストは、わたくしには逆らえない。だって、わたくしはヘイズと血のつながりがあるからだ。だから、ヘイズの叔父にもテンペストは言いなりとなってしまったのだ。

 ヘイズの叔父は、さっとわたくしから顔を背けた。昨夜、わたくしが言いたい放題したこと、覚えているようだ。あんなにお酒を飲んで、酔っぱらっても、覚えているのね。シオンは、酒を飲み過ぎて、母との閨事覚えてなかったというけど、それ、本当かしら。

 ヘイズの叔父が横から妙なことを言い出す前に、わたくしはテンペストの隣りに座った。テンペスト、王族の上、城に閉じ込められているから、世間知らずなのね。わたくしのこと、ニコニコと見ている。

「テンペストは、帝国では、わたくしの代理として、戦争に出てもらいます」

「ちょっと待て!!」

「女帝陛下、それはいけません!!」

 筆頭魔法使いナインとリスキス公爵の弟ベンゼが同時に叫んだ。

「どうしてですか? これほど、わたくしの代理に相応しい人はいませんよ」

「そいつは王国の奴だぞ。しかも、王族だ」

「皇族で、わたくしの代理になるいい感じの人がいないのですから、仕方がありません。帝国が魔法使いを王国に貸し与えているのですよ。その代償として、帝国で王族に働いてもらいましょう」

「王族を帝国の戦争に出すなんて、万が一、命を落とすことがあったら、大問題になります!!!」

「妖精憑きに敵国の攻撃が通じるわけがないでしょう。それに、筆頭魔法使いも行きます。最後は、筆頭魔法使いの魔法で消し炭です。テンペストも、ナインを見て、色々と覚えましょうね」

「私が参加すれば、きっと、早く戦争も終わるだろう。まかせなさい」

「頼りにしています」

 ちょろいな、この男。王弟テンペストは、少しでもはやく王国に戻るために、わたくしの代理で帝国の戦争に参加することとなった。

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