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皇族姫  作者: 春香秋灯
嫌われ者の皇族姫-戦争準備-
301/353

女帝をやめたい

 今日は、初めての貴族議会です。一応、暫定的ではありますが、女帝となりましたので、帝国の運営を円滑にするためにも、きちんと参加しなければなりません。どうせ、わたくしは、お飾りですから。

「帝国民は、親殺しをした女帝を恐れています。いくら、女として甘く見下されるからと、このような情報操作はやり過ぎです」

 議会の場に、たくさんの新聞がどんと積み上げられた。それは、議会に参加する貴族議員の皆さん分です。もちろん、わたくしと筆頭魔法使いナインの分もあります。

 若く、有能そうな貴族議員は、最上段に座るわたくしを睨んだ。

「確かに、女帝とは名ばかりと、バカにされてしまいそうなほど、お若い」

「そうなんです!!」

 わたくしは、席を立った。ナインが止めるけど、無視です。

「わたくしも、女帝なんて、面倒なお仕事、イヤなんです。わたくしの夢は、素敵なお嫁さんです。女帝では、お嫁さんではなく、お婿さんを貰う立場です。女ですもの、嫁ぎたいではないですか。結婚も、細やかに、二人っきりでいいです。女帝だと、それなりに見栄をはらないといけないから、わたくしの夢とは真逆の結婚となります」

「では、まずは、我々に任せて、女帝陛下は、理想を追い求めてください。大丈夫、我々、貴族議員が、女帝陛下をお支えします」

「わたくしの理想の結婚に、浮気は許しません。浮気者の言葉は信じない」

「ですが、皇族は、子を為すことが仕事ですよ」

「皇族は、そうですね。ですが、貴族は違うでしょう。お前、愛人を何人、抱えていますか? この場にいる貴族議員全員、身綺麗と言えますか?」

「娼館に通うことも許さないと」

「許しますよ。下手くそな男に操を捧げたくはありません。愛があれば、なんて言葉は幻想です。初めては、上手な男がいいですね。ですが、わたくしの操を捧げたのです。その男は夫となり、結婚してからは、浮気も、娼館通いも許しません。それが、わたくしの理想の結婚です。

「………」

「今は、わたくし、そういう人がいません。未婚の男性は、好き勝手にしてください。ですが、浮気者の言葉は信じない。まず、わたくしを従わせたいのなら、身綺麗になってからにしなさい。だいたい、わたくしがやってもいない親殺しが新聞で喧伝されるなんて、お前たちの失態でしょう。何故、止めなかったのですか?」

「そ、それは、今、調査中です」

「先帝が亡くなった混乱時に、皇族が指示したのですよ。その皇族は、処刑しました。そのことを今から、新聞で喧伝するように。次に進んでください」

 くっだらいない話は恐怖でねじ伏せ、議題を進めた。このくだらない議題を持ち込んだ貴族議員は真っ青になって、壇上からいなくなった。

「次に、女帝陛下のお披露目についてです」

「それについては、保留としてください。まず、皇帝としての儀式が終わっていません。お披露目を決めてしまって、皇帝の儀式が終わってない者を女帝として表に出すわけにはいきません」

「では、皇帝の儀式は、いつ頃、終わりそうですか?」

「未婚の、しかも、恋人もいないわたくしに、そんな質問をするなんて!!」

「その議題は、保留だ、保留!! 次!!!」

 わたくしの口を塞いだ筆頭魔法使いナインが叫んだ。








 貴族議会が終わって、わたくしは、筆頭魔法使いの屋敷の一室で一息ついていた。筆頭魔法使いナインのお茶、美味しい!!

「お前は、黙ってろ、と言っただろう!!!」

「だってぇ、あんなどうでもいい新聞を議題に出されたのですよ。やってもいないことを喧伝されて、わたくしがどれほど傷ついたことか。あの男、愛人を後妻にしている、浮気者ですよ!!」

「そういう、どうでもいい話はするな!!!」

「でも、議会はすぐ、終わりましたよ」

「ま、まあ、そうだな」

 議会はわたくしの独壇場となった。だいたい、議題に出すほどのことではないことばっかりだ。女帝の信用度なんて、帝国民はどうだっていいのだ。声を高く訴えている人が正しいように思えるが、そうではない。意外と、声を出さない人たちは、皇帝が男だろうと女だろうと、どうだっていい。平和に、平穏に生きていければいい。

 皇族間の問題もどうにか落ち着いたところで、貴族議会がわたくしの足を引っ張ろうとしていたけど、そういうことをした貴族議員は、翌日の新聞の一面に、私生活の醜態を書かれるのだ。そう、指示した。浮気者は滅びべばいいのよ。

 本来であれば、わたくしは、皇帝の執務室か、皇帝の私室に行っているものだけど、休みたいので、筆頭魔法使いの屋敷に逃げてきた。皇帝位についたばかりで、色々と大変なのに、仕事はいっぱい。それもこれも、皇族を処刑しすぎたから。筆頭魔法使いナインだけでなく、皇族の重鎮の皆さんにも叱られた。わたくし、悪くないのにー。

 わたくしは、机に投げ出した新聞を手にした。それは、皇帝シオンが亡くなった次の日に発行販売された新聞だ。全て、一面に、皇帝が実の娘に殺害された、みたいなことが書かれている。

「お父様って、やっぱり、有能だったのね」

 わたくしが父だったと思っていた人、叔父は、妻である皇族ネフティに傾倒しすぎていたが、仕事は出来る人だった。

 亡き皇帝シオンは、身内だから、と叔父を側に置いたわけではない。シオンはそこのところ、冷徹だ。シオンの身内はそれなりにいる。その身内の中で、皇帝として側に置いたのは叔父だけだ。

 わたくしの逃亡劇だって、叔父が見事、先回りして、失敗となった。

 叔父はわたくしのことを皇帝シオンの子だから、と嫌っていた。生かしておきたかったが、命を狙われることとなるので、仕方なく、処刑した。

 わたくしが家族だと思っていた父、母、兄、姉は、苦痛のない処刑となった。それは、生きたまま、餓死する処刑だ。

 城の皇族居住区の地下には、皇族専用の地下牢がある。あそこは、処刑のためにあるものだ。皇族を殺せるのは皇族のみ。だけど、いつも、そんな血なまぐさいことが出来る皇族がいるわけではない。人を殺せない皇族ばかりだった時のために、皇族を緩やかに殺せる魔法がかかった地下牢を作ったのだ。

 その地下牢では、食べることも、飲むことも、忘れる。まず、欲望がなくなるのだ。ただ、地下牢で日がな、呆然と過ごし、緩やかに餓死するのだ。

 食べない、飲まない、欲望がないので、何かしようとは考えない。一か月ほどで、立派な衰弱死の死体が出来上がる。

 この処刑を行われたのは、叔父家族のみ。それ以外の皇族は、皇族の手によって血なまぐさい処刑をされた。

 わたくしは、家族だと思っていた人たちがゆるやかにやせ細って、死んでいく様を見た。もっと、何かを感じるかと思った。だけど、長年、わたくしの存在は否定され、わたくしの存在自体が悪いと言われ続けたので、心の折り合いをつけるには、十分、時間があった。

 だから、叔父の死も、有能な皇族を亡くしたな、程度に感じているだけだ。母だと思っていた皇族ネフティが、わたくしを家族でない、と断じてから、わたくしは色々と諦めた。

 あの貴族議員、余計な議題を出してくれて。処刑した叔父家族のことを思い出してしまった。

「それ飲んだら、宰相と大臣との密談だ」

「もう、どうしてこう、出会いのない職場なの!!」

「お前なー」

「会う人会う人おじさんな上、既婚者ばっかり!! 文官も既婚者か、婚約者持ちですよ。だから、産みの母は使用人になったのよ!!!」

「お前の産みの母親、それでも、色恋一つ、なかったぞ」

「そういうところ、きっと、母親から引き継いじゃったのよ!!」

「そうだな」

「でも、わたくしには、運命と言ってくれるエンジがいます!!」

 そうそう、わたくしを憎む皇族たちに追われていた時に出会った、辺境の貧民街の支配者エンジが、わたくしのことを運命と言ってくれました。まさに、運命的な出会いです。

 なのに、筆頭魔法使いナインは、持っていた書類でわたくしの頭を叩いた。

「それ、けっこう分厚いから、痛いんですよ!!」

「エンジはダメだ」

「わたくしの運命なのにぃ」

「他にしろ」

「どうしてですか?」

「………」

 黙り込む筆頭魔法使いナイン。どうしても、ダメな理由を言えないのだ。

「エンジは、血のつながりはないとはいえ、捨てられた赤ん坊だったナインを拾って育てた人ですよ。行方不明になったナインをずっと、帝国中、探し回った、素晴らしい人ですよ」

「シーア、もっと頭を使え。妙な所で、お前は頭が悪いな。政治とか経済とかの処理は神がかっているのにな」

「そこは、教科書通りに処理しているだけですよ。シオンには、十歳の頃から、色々と読まされましたから」

 亡き皇帝シオンは、わたくしが実の娘と密に知ってから、わたくしに色々と英才教育を施したのだ。家族だと思っていた人たちは、わたくしのことを無視し、いないものとして扱ったし、家族に嫌われているわたくしを年頃が近い皇族たちは毛嫌いした。だから、何かと相手にしてくれる皇帝シオンが嬉しくて、わたくしはどんどんと学んでいった。

 今思えば、あれは、皇帝となるための、英才教育だ。さすが、皇帝シオン。身内といえども、容赦ない。

 思い出して、ずーんと落ち込むわたくし。誰か、わたくしに無償の愛をください。

「ほら、疲れただろう。シーアの好きな焼き菓子もあるぞ。宰相も大臣も、お前のこと、孫みたいに見てる。待ってるぞ」

「そうですね。皆さん、わたくしに、美味しいお菓子くれますね。行きましょう」

「………」

 人の好意に飢えているわたくしは、すぐに立ち上がった。残った冷めたお茶もぐっと一飲みした。

「お前は、もっと行儀よく」

「皇帝って、休む時間がないんです!! もっとこう、有能な皇族を選出しないと。絶対に手を抜いてる皇族がいます。見つけてやる」

「そこは、俺様にまかせろ。やっと、皇族の儀式も終わり、立派な皇族が増えたからな」

「でも、失格紋の儀式、随分とやっちゃいましたね」

「………」

 あまりにも処刑候補を出すから、若者は見逃せ、と言われたのだ。だけど、ただ見逃しても、わたくしのことを恨んでいるので、失格紋の儀式を強硬した。そのせいで、新しく皇族となった人たちの半数は、失格紋持ちである。わたくし、嫌われすぎだ。

「あーん、女帝やめたーいー」

 泣いた。







 宰相と大臣たちにも、女帝のお披露目について責められた。

「保留は、まずいですよ」

「そうそう。こんな可愛らしい女帝をお披露目しないなんて、勿体ない」

「しましょう」

「しません!!」

 おだてたって、わたくしは却下します。女帝のお披露目したら、わたくし、正式に女帝になちゃうじゃないですか。

 わたくしがふくれていると、宰相と大臣たちが、これまた、色々と持ってきて、迫って来る。

「こちらは、今、王都で人気の菓子です。美味しいですよ」

「そんなのでは誤魔化されません!!」

 やばい、美味しそう!! 見た目も可愛らしいし、香りもいいときている。食べたい!!

「こちらは、辺境から取り寄せましたよ。縁結びの品だそうです」

「それ、わたくし、いっぱい持っています」

 元婚約者メフノフといいご縁であれば、と毎年、取り寄せたのだけど、浮気されました。

「男を惑わす香水なんてものがあります」

「わたくし、香水は、頭が痛くなるの」

 そのせいで、年頃の近い皇族の女の子に近づけなかったなー。裏切った皇族の友達ティッシーは、わたくしの側に来る時は、香水つけてなかったけど、他の皇族の前では香水、ばんばん、振り撒いてたなー。

「どうでしょう、貴族から婿をとってみては。ほら、釣り書きがこんなに」

「いえいえ、わたくし、女帝として残るつもりはないですから」

『なんでーーーーーー!!!』

 宰相と大臣たちが大声で叫んでくれた。そんな、わたくしの側で、唾まで吐き出して叫ばなくてもいいのにぃ。耳が痛い。

「勿体ないですぞ」

「女帝陛下は、あの冷酷無慈悲な先帝の英才教育を全うした、たった一人の皇族です」

「あなたこそ、帝国の頂点である女帝に相応しい!!」

「わたくし、貴族や平民になる時に役立つから、と言われて、学んだだけなのにぃ」

 亡き先帝シオンにそう言われて、英才教育を受けたなー。途中、何度も我に返って、これおかしい、と気づいたけど、シオンの口先三寸で騙されたのだ。本当は、わたくし、頭弱い子なんですぅ。

「随分と、詳しいですね」

 ふと、宰相と大臣たちが、わたくしが亡き先帝シオンから教育を受けていた過去を知っていることを疑問に思った。まさか、わたくしが亡き先帝シオンの実子だと知っていたりして。

「女帝陛下の母君のことは、本当に残念でした」

「わしの息子を紹介すれば良かったなー」

「本当に、惜しいことをした」

「優秀だったのになー」

「女帝陛下は、立派に、両親の優秀さを引き継いでおります!!」

 知ってた!! しかも、わたくしの産みの母のこと、詳しい。

「産みの母とは、お知り合いなのですか?」

「そりゃ、我々は、彼女の元上司ですからね」

「そ、そうですね」

 わたくしの産みの母は、元は優秀な文官だったという。そういえば、文官だった母を文官の上司たちは可愛がっていたと、亡き先帝シオンが言っていた。

 つまり、そういうことだ。目の前にいる宰相と大臣たちは、本当に優秀な人たちなのだ。

「女帝陛下、さあさあ、派手で立派なお披露目をしましょう。帝国全土でお祭りです」

「こういう祝い事は、帝国民も待っていますよ」

「でも、皇帝の儀式、終わってないしぃ」

 わたくしは、机の木目なんか見てしまう。そう、わたくしは、皇帝の儀式を頑なに拒んでいる。

 宰相と大臣たちは、じっと筆頭魔法使いナインを見た。ナインは、気まずい、みたいにそっぽ向く。

皇帝の儀式は、わたくし一人では出来ない。皇帝と筆頭魔法使いの共同作業である。

「あのなぁ、俺様とシオンは、教科書通りの皇帝の儀式はしてないぞ」

「そうなの!?」

「まあ、色々とあるんだ」

「そりゃそうだよね。ナインだって、男同士の閨事なんて、したくないよね」

「お前、そういうことを簡単に口にするな!!」

「だってぇ」

 また、筆頭魔法使いナインに、分厚い書類で叩かれた。

 皇帝の儀式とは、密室で、皇帝と筆頭魔法使いが閨事することだ。ほら、男同士で閨事なんて、普通にイヤだろう。それをあえて、皇帝が筆頭魔法使いに命じて、無理矢理、するのだ。筆頭魔法使いに閨の強要まで出来るほどの血の濃さを持つことも、皇帝として必須なのだ。

「まあ、単純に、筆頭魔法使いがやりたくなことを命じればいいんだ。シオンは、それで誤魔化した」

「えー、ナインがやりたくないことって、何ですか? 教えてください」

「言わない」

「でも、わたくし、皇族の血筋としては最底辺ですから、不可能ですけどね」

 わたくしが筆頭魔法使いナインに命じれるのは、跪かせることだけである。それ以上のことは、不可能だった。

「ということは、やっぱり、わたくし、女帝としては不合格です。ちゃっちゃと、それなりの皇族を見繕いましょう」

「血筋は良くても、能力が足りないんだよ!!」

「そこは、優秀な皆さんが支えればいいではないですか。それこそ、傀儡政治にしましょう」

「それで、何度、帝国は滅びそうになったことか。却下だ」

「えー」

 血筋だけでなく、能力も必要なんて、皇帝選びは大変だ。だから、皇族はいっぱいいるのだ。あんなにいっぱいいれば、一人くらいは有能な皇帝になれるだろう、という伝統である。そこまでして、筆頭魔法使いを皇族が支配しなければならないのだ。

 十歳くらいまで貧民として育った筆頭魔法使いナインは、とても、ガラが悪い。だけど、千年に一人、必ず誕生する化け物なだけあって、優秀だ。しかも、帝国中にいる妖精憑きが束になっても、ナインには勝てないという。こんな化け物を野放しにしてはいけないから、それを縛り付けるために、神さまは皇族を作ったのだ。皇族は、正確には、妖精憑きの支配者だ。神の使いである妖精を使役する妖精憑きを支配出来るから、皇族は、城の奥深くで守られ、政治の中枢にいるのだ。

 だけど、わたくしは、皇族としては最底辺。筆頭魔法使いナインの足枷でしかない。

「逃げちゃおうかな」

「我々を見捨てないでぇ!!」

「女帝陛下の好みの男性、見つけてきますからぁ!!!」

「そうだ、茶会か夜会しましょう!! 出会いはそういう所にあります」

 宰相と大臣たちが、逃がすものか、とひっしとわたくしに抱きついてきた。うーん、ときめかないなー。

 あんなにドキドキしたのは、辺境の貧民街の支配者エンジに抱きしめられた時だけだ。あの時は、最高潮に、ドキドキした。

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