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皇族姫  作者: 春香秋灯
嫌われ者の皇族姫-運命の出会い-
293/353

両親に似ていないわたくし

 昔から、抜けている、とよく言われた。兄も姉も、きびきびと動くのに、わたくしは、少し遅れた感じで動くから、身内といえども、苛立たせる存在だった。

 そのせいか、母ネフティに嫌われた。

「わたくしにも、旦那様にも似ていないなんて。これでは、わたくしが不貞したみたいじゃない」

 そうそう、わたくしの顔、両親に似ていなから、さらに嫌われた。

 わたくしは、生まれた時から、両親に似ていなかった。それを気にした母ネフティは、ことあるごとに、不貞はしていない、と泣いて訴えるのだ。

 確かに、兄も姉も、両親のどちらかに似ている。わたくしだけが、似ていないのだ。

「赤ん坊の頃から、泣いてばかりだったな」

「母上が抱いても、泣き止まない赤ん坊だったな」

「まさか」

「そんな、なあ」

 そして、ある疑いを抱く兄たち姉たち。

 一時期、わたくしは使用人の誰かが我が子と取り替えたのでは、なんて噂が立ったのだ。あまりに似ていないし、赤ん坊の頃から母ネフティに懐いていないから、と疑念が持たれていた。

「いやいや、待て待て!! シーアは確かに、俺の血筋だ」

「では、どうして、似ていないのかしら」

「俺の祖母にそっくりだ!!」

 父は、どこからか、父の祖母の若い頃の姿絵を持ってきた。

 わたくしと、父の祖母、確かに似ていた。

「しかし、性格が」

「兄上の子どもの頃にそっくりだ。シーアは、将来、大物になるぞ」

 父の兄は、皇帝シオンだ。そんなことを言われてしまっては、誰も、わたくしを使用人の子、なんて言えなくなった。



 だけど、ここまで大騒ぎとなったので、同じ皇族の子どもたちは、わたくしのことを使用人の子、なんて蔑んだ。



「おい、お前、使用人の子のくせに、皇族の教育を受けるなんて、無礼だ!!」

「そうだそうだ!!」

「痛い!!」

 容赦なく、暴力だってふるってくる。わたくしは痛い目にあっても、逃げられない。前も、後ろも、わたくしを殴るのだ。

「こら、ガキども、何やってるんだ!!」

 それを止めてくれたのは、たまたま、通りかかった筆頭魔法使いナインだ。ナインは、皇族の子どもたちの首根っこをつかむなり、ぽいっとそこら辺に投げ捨てた。

「何するんだ!!」

「筆頭魔法使いのくせに!!」

「まだ、皇族未満のクソガキのくせに、俺様にそんな口をきくとはな」

「全くだ。か弱い女の子一人を集団でいじめるなんて、皇族として、情けない」

 さらに、皇帝シオンまでやってきた。さすがに皇帝相手に、皇族の子どもたちは生意気なことは言えない。

 皇帝シオンは、泣いているわたくしを抱き上げてくれた。

「可哀想に。ただでさえ、母親に血筋を疑われて、兄姉からも嫌われ、と家族の中でも辛い目にあっているのに、同じ子どもまで、シーアをいじめるなんて、情けない。お前たちの顔は覚えた。次の戦争には、絶対に参加させる」

「戦争くらい、行ってやる!!」

「そうだそうだ!!」

 戦争と聞いても、皇族の子どもたちは恐れない。それどころか、強気に出た。

「いつか、俺が皇帝になってやる。そして、お前を追放だ!!」

「そうだそうだ!!!」

「随分と大きく出たな。では、楽しみだ」

 子どもたちの話を穏やかに笑って受け止める皇帝シオン。



 そして、この後、大きな口をきいた子どもたちの親たちが、シオンに謝罪しに行ったが、聞き入れてもらえなかった。



 そんなふうに、家族の元でも、皇族の中でも、わたくしは低い立場となっていたため、使用人たちも、わたくしを蔑ろにした。

「忙しいのですから、自分のことは、自分でしてください」

「また、汚して!!」

「本当に、手がかかる」

 使用人にも怒られ、わたくしは、言われるままに従って、手がかからないように、と心がけていた。

 そんなわたくしのことを気にかけてくれたのは、伯父である皇帝シオンだ。

 年に一度の食事会の場で、わたくしは、皇帝シオンに抱き上げられた。

「シーアは、今日から、私の子にしよう」

「あ、兄上!!」

 父上は慌てた。止めようとしても、皇帝シオンは、わたくしを抱き上げ、そのまま、皇帝の席に座ったのだ。

 父はわたくしを膝に座らせて食事を続けようとする皇帝シオンの元に行った。

「兄上、ご冗談を」

「冗談ではない。お前の目が節穴だから、私が貰うことにした」

「節穴って」

「見てみなさい。シーアが着ている服は、シーアの体にあっていない。しかも、あちこち、汚れている。靴もそうだ。こんな靴を履いていたら、足も痛いだろうに」

「そ、それは、妻や使用人に任せてありますから。ネフティ、きちんと使用人を叱っておくように」

「私でさえ気づいているんだ。ネフティが気づかないはずがないだろう。気づいていて、こんな扱いなんだ」

「兄上、子育ては大変なんです。兄上には、妻がいないではないですか」

「私はね、子がいないから、お前の子を甥姪と見ている。皇帝ではあるが、大事な身内だ。何か足りないことはないか、と気にかけている。だから、目についた。ネフティはシーアがいらないようだ。ならば、私が貰おう。手続きを」

「この子が、これがいいと言ったんです!!」

 母ネフティが叫んだ。

「シーアったら、お母様の手をわずらわせて」

「我儘ばっかりだな」

「皆、忙しいんだぞ」

「まあ、使えない甥姪は可愛くはないがな」

「そ、そんな!?」

「末の妹相手に、そんなことをいうとは、一人で育ったつもりか? 誰かの手によって育ったことを忘れたようだな。そこまで頭が悪いお前たちは手遅れだ」

 わたくしの兄たち姉たちに辛辣なことをいう皇帝シオン。その間に、わたくしの口に食べやすいように切り分けられた食事が運ばれた。

 周囲はわたくしのことを睨むように見ているが、見上げる皇帝シオンは優しく笑いかけてくれる。

「年齢のわりに、小さく、軽いな。きちんと食べさせているのか? この後、シーアの身体検査だ。結果によっては、使用人は総入れ替えだな」

 食事会の場にいる使用人たちに緊張が走った。そこまで、大事になるとは、誰も思っていなかった。

「こんな小さい子ども一人、育てられないなんて、ネフティは心の病気なんだろう。そんな母親の元にシーアを置いておくのは危険だ。私が育てよう」

「ネフティは、産後、あまり状態が良くなかったので、手が抜けただけです。俺も、きちんと見ます」

「これまで見られなかったのに?」

「兄上は皇帝です。皇帝に親兄弟、家族はありません」

「私はね、次の皇帝を見繕わないといけないんだよ。なのに、どの子も、条件を満たさない。だから、私が育てようと思ったんだ。シーアは、私に似ているね。少し抜けているが、打たれ強い。今から、私が教育しよう」

「そこまで」

 皇帝シオンの暴走を止めたのは、筆頭魔法使いナインだ。ナインは、わたくしをシオンの膝から抱き上げた。

「そう言って、可愛がりたいだけだろう。お前は皇帝なんだから、そんなことは許されない」

「懐かしいね。昔は、ナインに、こうやって、食事をさせたものだよ」

「っ!?」

 ナインの顔が真っ赤になった。ナインは立派な大人だ。こういうことをされた過去を出されるのは、恥ずかしいことなんだろう。

 筆頭魔法使いナインは、わたくしを抱き上げたまま、じっと見つめた。

 筆頭魔法使いは、百年の才能の持ち主か、千年の才能の持ち主にしかなれないと言われている。

 百年の才能の持ち主は、百年に一人、生まれるかどうかの才能ある妖精憑きである。妖精憑きは、生まれた時から神の使いである妖精を憑けて誕生するため、才能もただの人以上である。そんな妖精憑きの中で、才能がずば抜けているため、帝国中にいる妖精憑きが束になっても勝てないという。

 千年の才能の持ち主は、千年に一人、必ず誕生する化け物である。才能がスバ抜けており、人の何倍も、妖精憑きの何倍も長生きだ。百年の才能の持ち主でさえ支配してしまえる、とんでもない妖精を憑けて誕生するという。

 百年の才能の持ち主は、千年の才能の持ち主が誕生するまでの、繋ぎの筆頭魔法使いだ。

 筆頭魔法使いナインは、千年の才能の持ち主である。正真正銘の筆頭魔法使いだ。

 妖精憑きは、力が強くなれば強くなるほど、その見た目は美しくなるという。百年の才能の持ち主だと、一目惚れするほどの美しさという話だ。

 千年の才能の持ち主の美貌は、男女関係なく、狂わせるほどの美貌だという。

 筆頭魔法使いナインは、その美貌を魔法で緩めているという話だ。ある程度の距離を保っていれば、その見た目は、まあまあの美男子だという。

 だけど、こんな至近距離で見る筆頭魔法使いナインの素顔は、とんでもない美しさだ。わたくしは、ナインの素顔に見惚れて、呼吸すら、瞬きすら忘れてしまう。

「ナイン、近い!!」

 見惚れるわたくしを再び、皇帝シオンが取り上げた。

「ほら、ナインの素顔に、すっかり惑わされてしまった」

 皇帝シオンだって、かなり綺麗だ。どっちにしても、近くで見るには、わたくしの顔は紅潮したままだ。

「お前は、シーアにばかり目をかけ過ぎだ!!」

「それで、どうなんだ?」

「成長はちょっと足りないな。着ている服だって、小さいが、体も小さいって、どんな養育してんだ? 同じ兄姉どもは、立派に育ってるってのにな」

 ナインは、わたくしの兄たち姉たちをジロジロと見て、笑う。

「成長が遅いだけだ!!」

「そうよ!!」

「それに、すぐ汚すから」

「まだ、皇族未満とはいえ、シーアには、予算が割り振られている。予算の使用先をしっかりと監査しよう。毎年、綺麗に使い切っているが、何に使われているのやら。こんな小さい子に、宝石なんていらないだろうに。現物も全て、今すぐ、確認する。案内はいらない」

 そして、その場で、筆頭魔法使いナインが動き出した。



 そして、わたくしの部屋を見て、わたくしの家族の部屋を見て、わたくしの予算によって買われた宝石や衣服などを食事会の場に広げられた。



「使用人の持ち物にもあったな。化粧品なんか、こんな小さい子どもは使わないというのに。今だって、使っていない」

「何年先の服だ? どう見ても、十年先のものだろう」

「何故、シーアの予算で買われた装身具が、他の部屋から出てきたんだ?」

「まさか、ネフティの部屋から出てくるとはな」

「ネフティ!!」

 とうとう、わたくしの父が怒って、母ネフティの顔を叩いた。

「お前たちも、なんて恥知らずなことをしたんだ!! 俺は、ネフティの不貞など疑っていない。言っただろう。シーアは、俺の祖母に似ていると」

「確かに、お祖母様に似ているな。お祖母様は、女傑で有名な方だ。孫だからと甘い対応なんてしない」

「性格は、兄上に似ているがな」

「そ、そうかな?」

「子どもの頃の兄上は、今のシーアのように、ちょっと抜けていた。それが、お祖母様を苛立たせたんだ。今の、ネフティたちのようにな。だが、お祖母様は、俺たち兄弟を分け隔てなく扱ってくれた。お前たちとは違う」

 とうとう、わたくしの父は怒りを爆発させ、わたくしの兄たち姉たちまで殴った。

「ち、父上」

「お父様!!」

「兄上、皇族付の使用人全ての入れ替えをお願いします。見せしめに、丁度いい。特に、我が家の使用人は全て、横領の罪で処刑にしてください。使用人の身内には、横領分の借金を全て支払ってもらう」

 飛び火は、使用人たちにまで及んだ。それには、我が家付の使用人たちが悲鳴をあげた。

「そ、そんな!! ネフティ様に言われた通りにしたのに!!」

「そうです!! ネフティ様が、そうしろと」

「だからといって、皇族の子を虐めていい理由にはならない。何故、俺に相談しなかった? 家長は俺だ。ネフティではない。今回のことで、俺の信用も落ちた。家庭のことすら、満足にこなせない、家族に見下されている男だ、と。いいか、ネフティだけが悪いわけではない。シーアを除く、俺の子たち全ても悪いんだ」

「どうか、やり直す機会を」

「もう二度と、間違ったことをしません!!」

「一度したのに? 立派に育った大人であるお前たちは、当然のことが出来なかったんだ。そんなお前たちを育てた親たち、同じ環境で育った兄弟たちもまた、同じ過ちを犯す。二度目なんて、ない」

 我が家の使用人たちは、その場で大泣きした。そして、飛び火で処分される、皇族付の他の使用人たちは、恨みをこめて、我が家の使用人たちを睨んだ。

 わたくしの身柄は、わたくしの父に戻された。父は、わたくしを腕に抱いて、驚いた。

「もっと、たくさん、抱き上げてやれば良かった」

「ありがとうございます、お父様」

 わたくしは、こうやって、父に抱き上げられて、喜んだ。記憶の中で、こんな風に、父に、抱き上げられたことがなかった。

「今日は、こんなにいっぱい、高い所から見下ろせるなんて、思ってもいませんでした」

 その場の空気なんて、子どものわくたしが読めるはずがない。ただ、初めて受けた行為に、わたくしは喜んだ。



 母ネフティは、皇族としての主張を前面に出した。

「今回のことで、旦那様がわたくしを信じていることがわかりました。ですが、シーアが、本当にわたくしの子なのか、確信が持てません」

「だから、私が引き取ろう」

「使用人の子かもしれない者を皇帝の養女にするわけにはいきません。皇族の儀式まで、わたくしの手元できちんと育てます」

「きちんと? どうやって? 我が子とは思えないというお前に、子育てを任せるわけにはいかない」

「一人の皇族として見ますから、心配いりません」

「使用人たちにはやり直しは許さなかった。使用人たちは口を揃えて言っていたぞ。ネフティに言われた通りにしただけだ、と」

「仕方ありません。我が子とは思えないのですから」

「………」

 冷たく見下ろす皇帝シオン。母ネフティは、真っ青になって、それでも、勝気に笑った。

 わたくしは、何かの商品のように、家族と皇帝の間に座らされた。どちらに行くのか、この時、まだ、決まっていなかった。

「兄上、俺が責任を持とう。俺の子どもたちに、俺の仕事をさせよう。使えなかったら、容赦なく、鞭打っていい」

「そ、そんな!?」

「ち、父上、そんな、いきなり」

「皇族の儀式を通過したんだから、もう、十分だろう。お前たちは、独り立ちしなさい。部屋も準備させる。ネフティも、世話が減って、暇になれば、落ち着くだろう。立派な皇族の姿を見せてもらおう」

 常に、皇帝の側で補佐をしていた父の言葉は重い。家庭を顧みなかったわけではない。父は、それだけ重要な役職に立っていたのだ。

 だから、我が家は、皇族の中では、かなり地位が高い。

 父は成り行きを見ているだけのわたくしを抱き上げた。

「シーア、今日からは、家族は減るが、俺がつきっきりだ」

「でも、お父様は、とても重要なお仕事をしていると聞いています」

 何事かあると、家族から、使用人たちから、父はすごいがお前は出来損ないだ、というやり取りに、父の立場を出された。

 邪魔をせず、息を潜めて生きろ、と皆に言われていた。だから、わたくしは、父の邪魔になって、父に嫌われるのではないか、と恐れた。

「こんな子どもが俺の立場を理解しているというのに、ネフティも、他の子どもたちも、俺の足を引っ張ってくれたな。シーアは、よく、我慢してくれた」

「我慢ではありません。当然のことです」

「………そうか」

 父は、ぎゅっとわたくしを強く抱きしめてくれた。

「兄上、悪いが、シーアは俺が責任をもって育てる。養女にはやらない」

「わかった。お前が抜けた穴は、お前の子どもたちに塞いでもらおう。全然、役に立たないがな」

 皇帝シオンは、わたくしの家族に酷いことを言いつつ、わたくしの頭を撫でた。

「シーア、覚えておきなさい。いざとなったら、皇帝である伯父は、シーアの味方だ」

「皇帝には、家族はないと聞いています」

「賢いな。そうだ。だから、私の足を引っ張らないように、立派な皇族になれ。そうすれば、私は味方になる」

「………はい」

 わたくしは、父の胸に顔を埋め、頷いた。

 父と皇帝を除く周囲は、わたくしに敵意を向けていた。兄たち姉たちでさえ、わたくしに憎悪をこめて見てきた。

 いくら、空気が読めない、鈍いわたくしでもわかる。もう、わたくしだけは、家族でない。

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