秘密の部屋
一通りの試験は良好に終わった。五年で、ラインハルトを中心であるが、筆頭魔法使いとしての役割はこなせそうである。書類仕事なんか、ラインハルト一人で秒で片づけるけどな。本当に才能の化け物だ。
そういう完璧な姿を見せれば見せるほど、皇族の祖先を持つレッティルは、ラインハルトに対抗心を持ってしまう。
「レッティル、ほら、ライオネル様から貰ったお菓子、一緒に食べようよ」
「もう、やめとけやめとけ」
ラインハルトがレッティルに声をかけるが、無視されるのはわかっているので、他の五人の魔法使いたちは、諦めるようにいう。
「そうか、レッティルはこういうお菓子、食べ馴れているから、飽きたんだ」
言い方があれだな、ラインハルト。
レッティルはくわっと睨む。ラインハルトとしては、いい受け止め方をするが、レッティルはどうしても気に食わないのだ。
「ラインは皇帝陛下のこと、名前で呼ぶんだな」
「ハガル様のが移ったんだよ」
途中、癖が出てしまうラインハルトは、そう誤魔化す。そうだよな、人前で、名前を呼ぶこと許していないな。
ちょっと墓穴を掘っても、ラインハルトは上手に埋めていくのだ。
「そうか、名前で呼びたいのか。では、特別に許してやろう」
ついでに、私はこの場でラインハルトに許可をおろしてやる。
「ありがとうございます、ライオネル様。お菓子も、美味しいです」
「スイーズがぜひに、と持たせてきた」
「スイーズ様はお元気ですか?」
「相変わらず、皇位簒奪のために、体を鍛えているぞ」
「そうですか、もう少し、こう、剣の握りを」
「そういうことは教えるな。私が殺される」
「そうですか」
悪戯っこみたいに笑うラインハルト。お前、どっちの味方だ?
そういう軽い話をしていると、ハガルがやってきた。
「今日は最終試験だ。王都の聖域から、他の聖域に転移しよう」
「やったー!!」
「ライン、転移だって」
「………」
「どうかしたのか?」
ラインハルトだけ無言だ。何かもの言いたげに、ハガルを見ている。
「どうした、ライン。転移は私とよくやっているだろう」
「イヤな予感がします。転移はもう、ハガル様で感覚をつかめていますから、その先を進めたほうがいいでしょう」
珍しく、ハガルの決め事を曲げるラインハルト。この勘という曖昧な理由に、レッティルが怒った。
「いい加減にしろよ!! 貴様のようなただの人の、ただの貧民が、ハガル様の決めたことを曲げるなんて、無礼だ!!」
「………」
何故か、ラインハルトは、レッティルのことも、もの言いたげに見ている。ラインハルトは、レッティルに、何かを感じているようだが、黙っている。
「体調が悪いのなら、今日は中止するが」
「体調は悪くありません。徹夜してもいいくらいですよ」
意味ありげに私を見るラインハルト。お前、今日も来るのか。本当にやめろ。
勘というものは言い訳にしかならないので、結局、ハガルの決めた流れで進むこととなる。
一度、王都の聖域に行くと、そこから、ラインハルトが、一人ずつ、妖精を借りて、あちこちの聖域を移動することとなった。
そうして、五人を円満に終わらせた。残る一人は皇族を祖先とするレッティルである。
「では、王都の聖域に戻ろう」
ハガルがそう指示する。
ラインハルトは、レッティルに近づくのを躊躇う。他五人の魔法使いたちには、手をとったりしていたというのに、レッティルには近づかない。
「レッティル、妖精は人を騙す」
「私の妖精を侮辱するのか!?」
「父上、やはり、レッティルは、妖精と契約している!!」
「なんだと!?」
ラインハルトがそう叫んだ途端、レッティルの胸の辺りが真っ黒となった。途端、聖域が真っ赤に輝きだす。なにかが起きたのだ。
レッティルはそんな状態だというのに、ラインハルトの腕をつかんだ。
「やめろ、レッティル!!」
「お前なんかが、お前なんかが!!」
レッティルの胸から、大量の妖精が飛び出した。それが、ラインハルトを襲ったのだ。
「ラインハルト!!」
それを見たハガルは、若返った。妖精をおさえこんでいる場合ではなくなったのだ。ハガルが体でも妖精でもラインハルトの体にへばりついた妖精を払った。
ハガルの力で払われた妖精たちは笑っている。
『みぃーつけた』
『小さいハガル、やっと、みつけたー』
『あと、半分』
『ばいばーい』
そう言って、妖精たちは赤く輝く聖域へと消えていく。
そして、いつもの聖域に戻った。
ラインハルトは、ハガルの腕の中で意識を失ったまま、目を覚まさなかった。
その場で、レッティルは妖精をハガルに盗られ、私の手で捕縛となった。
ラインハルトは、念のためと、ハガルは筆頭魔法使いの屋敷の、秘密の部屋に閉じ込めた。そこは、絶対に悪意ある妖精すら入り込むことが出来ないようになっていた。
目撃した五人の魔法使いたちは、そのまま帰すわけにもいかず、筆頭魔法使いの屋敷に厳重に隔離されることとなった。筆頭魔法使いの屋敷自体には、かなり強力な魔法が施されている上、ハガルの妖精の監視があるため、部屋から一歩も出られない状態となっていた。
曰くありの地下に、レッティルは連れていかれた。そこでは、拷問器具やらなにやら、勢ぞろいである。そこに、恐怖に震えるレッティルは拘束された。
誰もが魅了する姿となったハガルは、拷問道具を手にとっては眺めている。
「言いなさい。何故、妖精と契約したのですか」
「た、ただ、候補に残れる、と言われたんだ!! このままだと、私は、筆頭魔法使いの候補を外される!!! 私は、ラインに妖精を貸し与えるのがイヤだった。だから、妖精と契約したんだ!!」
話はこうだ。
レッティルよりも前に、ラインハルトに妖精が貸し与えられなくて、候補から外されていく見習い魔法使いを見て、レッティルは悩んでいた。悩んで、少し、気晴らしに、聖域に行ったのだ。
聖域で悩んでいると、そこから、それは美しい妖精が話しかけてきた。
『悩める妖精憑きよ、どうかしましたか?』
神の使いの妖精である。ついつい、レッティルはラインハルトのことを話した。
『では、あなたの妖精ではなく、私たちが代わりに貸し与えられてあげましょう。私たちであれば、大丈夫です』
そうして、契約をしたという。すると、レッティルの妖精は貸し与えていないのに、ラインハルトは妖精を借りている状態となったという。
そうして、レッティルは、筆頭魔法使い候補に残ったのだ。
「いつからですか」
「二年、前から、です」
「………ラインハルトは、気づいていましたね」
ギリギリと手を握りしめ、怒るハガル。
「まさか、ラインハルトは、妖精憑きではないぞ」
「妖精の目があります。私たち妖精憑きは、自らの力を過信しすぎています。あの妖精の目には、私たちでは見えない何かが見えていたはずです。ラインハルト、なんてことを。せっかく、ここまで守り通したというのに!?」
「一体、どうしたんだ、ハガル。ラインハルトは、強いだろう」
私は、何も知らなかった。ラインハルトは、妖精憑きを除く才能の化け物だ。守るところなど、どこにも見当たらない。
「ステラの一族は、妖精に命を狙われています。ラインハルトもまた、妖精に命を狙われているのです」
「………ラインハルトは、知っているのか?」
「教えていません。そんなこと、知らないで生きていけるように、妖精の目を与えたんです。あれがあれば、妖精を視認できますし、妖精を操れます。あとは、おかしな妖精が近づかないように、常に妖精除けを持たせていました。私が側にいる時は、高位の妖精も私には逆らえません。だから、私の側に置きたかったんです」
「だったら、何故、縁切りなんてした!! ラインハルトは、物凄く傷ついていたぞ!!!」
「ステラと約束させられたんです。ステラは、私のことをラインハルトから離したがっていました。私は、良い父親ではありませんから、当然でしょう。人として狂っています。ずっと、別れたがっていた。でも、私は今も、ステラを手放せない!!」
ハガルの執着は恐ろしい。ステラは亡くなっても、骨となって、今も筆頭魔法使いの屋敷に閉じ込められている。骨でも、ハガルは愛しているのだ。
「そんな、こと、知らなかったんです」
話を聞いていたレッティルは、ラインハルトの正体に気づいた。
まさか、ラインハルトが賢者ハガルの息子だとは思わなかったレッティルは恐怖に震える。それはそうだ。ハガルを怒らせて、無事であった者はいない。場合によっては、一族郎党、妖精の呪いの刑をかけられ、滅ぼされるのだ。
「こんなことなら、屋敷に閉じ込めてしまえばよかった。ラインハルトの寿命は、残り半分だ。見つかってしまったから、また、妖精はラインハルトの寿命を盗りに来るでしょう。そうだ、今からでも、閉じ込めてしまおう」
泣いていたハガルだが、すぐに笑顔になる。
レッティルの処遇は保留としたまま、ハガルはさっさと筆頭魔法使いの屋敷にある、秘密の部屋に向かう。
行ってみれば、通路の所で、ラインハルトが戦闘妖精のサラムとガラムに捕まっていた。
「若、ほら、戻りましょう」
「イヤだ!! こんなとこ、入りたくない!!!」
「もう、我儘言ってはいけません。また、妖精に寿命を盗られてしまいますよ」
「煩い。こんなとこに入ったら、おかしくなる!!!」
泣きながら抵抗するラインハルト。珍しい姿だ。
珍しい、といえば、部屋から出ていることだ。ハガルは戦闘妖精に命じて、ラインハルトを一度は秘密の部屋に閉じ込めたはずだ。それが、ラインハルトは出ている。
ラインハルトは私とハガルが来たことに気づく。
「父上、やめてください!! こんなのおかしい!!!」
「大人しく入りなさい。悪いようにはしません」
「こんなとこ、いやだ!!! 気持ち悪い!!!!」
「私の妖精がついたままですね。取り上げます。ほら、今です」
ハガルは容赦がない。抵抗する力を奪われたラインハルトは、泣き叫びながら、秘密の部屋に連行される。
しばらくは、中で、ラインハルトが叫んでいた。一体、どんなことが起きているのか、私は想像もつかない。
そうして、部屋が静かになった頃、戦闘妖精が出てきた。
「若、煩いので、ちょっと気絶してもらいました」
「ちょっとじゃないですけどね」
酷いな、こいつら。ステラの血族に絶対服従のはずなんだけど、製作者であるハガルには逆らえないんだな。
「あなたがたも、連れて行けばよかったですね。ラインハルトの寿命を持ってかれてしまいました」
「仕方がない。今度からは、連れて行ってください」
「妖精、殺してあげます」
「もうラインハルトは外に出しません」
「そんなぁ」
「つまらん」
ハガルの意思は固い。ラインハルトを一生、秘密の部屋に幽閉するつもりだ。
「もう、入っていいか?」
ラインハルトがわざわざ逃げ出したのだ。とても気になった。
「執着するものを二ついれているからでしょうね。うまく、ラインハルトに魔法がきいていません」
不安そうな顔を見せるハガル。入るのを躊躇っている。
そこには、ステラの思い出も入っているという。見せてもらったことが一度もない。見たいわけではない。ただ、ラインハルトのことは様子見したい。
躊躇いながらも、ハガルは中に入った。
思い出といっても、肖像画が数枚と、ステラが大事にしていた、という物がいくつか飾られていた。肖像画はハガルが描いたものだ。こいつ、どこまでも才能の化け物だな。
懐かしいもので、ラインハルトの幼い頃の姿まで見られた。ここには、ハガルの主観とかは全く反映されていない、ただ、見たままである。それが、良かった。
そういうものを通り過ぎ、寝所の辺りに行き、恐怖する。
ベッドには、ステラの遺骨が綺麗に並べられていた。人一人が横になっているようにだ。その横に、意識を失ったラインハルトが眠っている。
ハガルを見れば、家族二人が眠っている、そんなものを眺めるように、微笑んでいる。
これは、確かに狂気の沙汰だ。ラインハルトは、目が醒めたら、隣りに母親だった遺骨を見たのだろう。そして、妖精を使って、部屋を逃げ出したのだ。逃げたが、外で見張っていた戦闘妖精に捕まったところを私たちが来てしまった。
必死で訴えていたラインハルト。まともな人間なら、ここには居られない。ラインハルトはハガルの息子だが、ステラの息子でもある。いくら、貧民として生きていても、ラインハルトだって、まともな人間なんだ。
「ハガル、これはダメだ」
「何がダメですか。ここなら、絶対に安全です」
「安全かどうかじゃない!! ラインハルトがおかしくなるぞ!!!」
「大丈夫です。そうならないように、魔法が動きます。ここに馴れます」
「ハガル!!」
私はハガルにつかみかかった。これまで、ハガルに暴力など、一度だってふるったことがない。手合わせはしたことがあるが、全て空振りだ。
暴力をふるう理由が、ハガルにはなかった。ハガルは、結果的には正しいこととなるので、私は静観していた。
しかし、これは、静観出来ない。私はハガルの頬をはたいた。
「お前は、大事な息子が泣き叫んでいやがったことを笑ってするのか!?」
「何故ですか。外に出れば、寿命を盗られてしまいます!!」
「そういう問題じゃない。こんなとこ、狂気だろう。目が醒めたら、母親の遺骨だ。ラインハルトが言っていた。目が醒めたら、母親は死んでいたって。それから、眠るのが怖いって、私に話してた!!」
「私が添い寝する時は、そんなこと、言っていませんでした」
「お前は最強の魔法使いだ。何者からも守ってもらえるから、安心なんだろう。なのに、縁切りされた時は、絶望したと言っていたぞ」
「仕方がないじゃないですか! ステラとの約束です」
「それを、ラインハルトに言ったのか? 妖精に命を狙われていることも、話していないだろう!! それで、納得できるわけがないだろう。こんな、狂気の状態で!!!」
私はステラの遺骨をベッドから払い落した。こんなものを見て、ラインハルトは過去の恐怖を思い出してしまったのだ。
「ラインハルトは、口では立派なことを言っているが、まだまだ子どもだ。幼い頃から、英才教育を受けて、随分と大人な考えを植え付けられてはいたが、同じ年頃の魔法使いたちといる時は、肩の力を落として、笑っていた。もっと、いい守り方があっただろう」
「私は、また、間違えた」
顔を傷つけられたというのに、ハガルは怒らなかった。それどころか、物凄く落ち込んだ。
「これから、どうするか、ラインハルトとしっかり話し合うんだ。私は、ラインハルトの味方だ。この部屋を出たい、というのなら、私は出す」
「ライオネル様、一緒にいてください」
私は親子だけで話し合わせようとしたのだが、ハガルが縋ってくる。
「お前、こういう時は、びしっと父親をしなさい」
「見ているだけでいいんです。二人っきりにしないでください。きっと、ラインハルトの本音に、私は物凄く傷ついて、逃げたくなる。あなたがいれば、逃げません」
「わかった。見ているだけだ。きちんと、ラインハルトと向き合いなさい」
百年以上生きた化け物だというのに、実の息子と向き合うことが怖いとは、なんだかおかしな話だった。
しばらく見ていれば、ラインハルトは目を覚ました。そして、すぐ、隣りを確認する。隣りにステラの遺骨があったという恐怖を思い出して、顔が引き攣っていた。
ラインハルトが目覚める前に、ステラの遺骨は骨壺に片づけた。お陰で、綺麗なものだ。ラインハルトは心底、安堵して、ベッドの近くに頬を真っ赤に晴らしたハガルがいることに気づいた。
「父上、顔、腫れていますよ」
「ライオネルに叩かれました」
「治さないのですか?」
「ステラに叩かれた時も、治しませんでした。これは、私が受けるべき罰です。どうせ、妖精憑きは頑丈だから、すぐ綺麗に治ります」
恐る恐る、とハガルはラインハルトを見る。ラインハルトは、目覚めてすぐあったステラの遺骨がなくなっていたことで、随分と落ち着いていた。
「父上、レッティルに会わせてください」
ハガルは覚悟して身構えているというのに、ラインハルトは斜め上なお願いをしてきた。
てっきり、責める言葉でも吐き出すかと、私も予想していた。あれほど暴れて、嫌がっていたラインハルトは、恨み言くらいはハガルに吐き出すだろう、と思っていたのだ。
ところが、ラインハルトは、自らのことなど気にせず、妖精と契約するという間違いを犯したレッティルのことを気にしていた。
「あんな男に、会わせるわけがないでしょう!!」
ハガルはレッティルのことは許せない。だから、激怒して、拒否する。
「たかが寿命の半分をとられたくらいで、怒ることないでしょう。貧民だと、赤ん坊で死ぬことだってざらです。私は、長く生きています」
「人の力で歪められた寿命と一緒にしないでください。命は平等なんて、嘘です。命は不平等です。不平等だからこそ、あなたは守らなければならないのです!」
「人はいつかは死にます。そういうのを、いっぱい見てきたでしょう。それに、どうせ、私が死んだら、あなたはまた、皇帝ラインハルトとの過去に戻るんです。私のことは、どうでもいいでしょう」
とうとう、ラインハルトの本音が零れた。ラインハルトとしては、穏便に事を進めたいのだが、どうしても、父親のことを許せない所が出てくる。
どうしても許せないのは、ハガルが皇帝ラインハルトとの過去を引きずっていることだ。
「母上と私がいなくなれば、どうせ、その他の中に埋もれていく。あなたの一番は、皇帝ラインハルトだ。私も、母上も、狂皇帝も、皇帝アイオーンも、そして、初恋の女性スーリーンも、その他だ!!」
「そんなことはありません!! あなたとステラは特別です!!!」
「どこにそんな保障がありますか。今から死んでみれば、いいですか。そうして、ライオネル様に確かめてもらいましょう。結果は明らかですよ」
ラインハルトはハガルを嘲笑う。ラインハルトは、随分とハガルの過去を知っている。
「あの戦闘妖精、全て話したのだな!?」
「この屋敷の地下で篭絡した暗部の女を飼い殺しにしていたことも教えてもらいました。男も女も、その顔と声と言葉で、随分と篭絡して、それと同じ方法で、母上を篭絡したんですよね。最初は、母上もその他だ!!」
「きっかけはそうですが、ステラはやっと見つけた私の一番星です。閨事では、随分と可愛らしかった」
「他の暗部の女たちにも、同じことを言ったのでしょ!!」
「否定はしません。ですが、ステラが特別なのは事実です。ステラは、私にない物全てを持った、素晴らしい女性です。ステラだけだ。私を人にしてくれるのは」
「母上はもういません。次はどうするのですか? あなたは、何かに縋らないと生きていけない人だ。母上がいなくなったら、次は私でしょう。ですが、私は妖精に寿命を半分とられて、いつ死ぬかわからない。そうなると、次はライオネル様ですよね」
「もう、そういう生き方はしません」
「私はあなたの真似事をして、ライオネル様と閨事をしています」
「なっ、なにをっ」
ハガルは言葉に詰まる。どういう反応をしていいのか、わからなくなっているのだ。化け物のような頭脳で、ラインハルトへ答えるべき最適解を探しているのだろう。それは、物凄い速さで計算されている。
しかし、答えなど見つかるはずがない。ハガルは何も言えず、力なく、その場に座り込み、呆然となる。
「息子が、親と同じ所業をしていると知って、どう思いましたか? それが、答えです。疲れました。さっさと、レッティルを連れてきてください。彼と話があります」
「………連れて来るものか。ライオネル様、部屋から出ていってください。もう、お前には、誰にも会わせない!! お前が会えるのは、私だけだ!!!」
「絶対に、逃げ出してやる」
「妖精がいないお前に、何が出来るというのですか。外には、戦闘妖精がいますよ。いくら体術と剣術を身に着けていても、人間の限界を越えた力を持つ義体には勝てませんよ」
「だったら、滅茶苦茶にしてやる」
「そんなこと、出来ません」
ここに、親子喧嘩が、勃発した。




