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皇族姫  作者: 春香秋灯
男装の皇族姫-外伝 凶星の申し子と妖精殺しの蜜月-
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 母アーシャの形見というと、一振りの短剣と、誰か宛に書かれた手紙だ。その手紙が膨大だ。読むと、母アーシャはとても面白い人だったと思った。

 聖人のように、復讐者のように、嫉妬に狂った女のように、色々な姿を手紙で見せてくれた。他人から聞く母アーシャの噂、嘘というわけではない。内面は、かなり無茶苦茶な人だったんだな、と思った。

「ティーレット、見てください!! 偽物の家族の手紙には、胸のことがいっぱい書いてますよ!!!」

「アーシャは、こう、胸に妄執を抱いてるトコがあったからなー」

「そうなんだー」

「なかったからな」

「え、母上、女ですよね」

「まれにいるんだ、そういう人。アーシャは、胸に対する執念はすごかったぞ。女帝陛下の胸を睨むように見ていたからな」

「立派なものを持っていますからね。確かに、母上の妄執は、一理あります」

 母アーシャは、ふくよかな胸がいかに価値があるか、ということを手紙で書き連ねていた。アホっぽい内容だが、持たざる者からいわせれば、それは、とんでもない宝なのだ。

 何度読んでも面白い母アーシャの手紙を僕は大事に扱った。一度は破り捨てられた手紙だけど、筆頭魔法使いティーレットの魔法で簡単に元通りです。

 僕は、目の前で拷問用の椅子に縛り付けられている犯罪奴隷リサを見た。あれ、僕が座っていて、リサも座っているって、身分的におかしいな。

 そういう私の考えを筆頭魔法使いティーレットが読んだのだろう。ティーレット魔法でリサが座っている椅子を倒した。椅子に縛り付けられたリサは無様な声をあげて、汚い石床に倒れた。

「ち、ちくしょー!! お前なんか、親を亡くして、皇族じゃないかもしれないのにねぇ!!!」

「残念ながら、僕は皇族なんだよね」

「アーサー、そんな、残念って言わないでよ!!」

「僕は貴族になりたかったんだけどなー。そのために、色々と準備をしたというのに」

 僕は生まれから、皇族でない可能性が高いから、わざわざ、貴族の学校を卒業したのだ。飛び級までしたんだ。そうしないと、皇族の儀式に間に合わなかったからね。皇族の儀式の前に、学校を卒業しておかなかったら、名目上、貴族になれないからね。

 いくら、女帝レオナが僕のことを可愛がっていたって、貴族たちは僕のことを気に入らない。むしろ、蹴落とそうと待っているのだ。だったら、順序を守って、僕は貴族になる準備をしたんだ。

 なのに、蓋を開けてみれば、僕は皇族だった。順序は最下位だけど、皇族は皇族だ。

「だって、皇族なんて詰まらないじゃないか!! 城の中で一生だよ。母上の、僕宛の手紙を読んでみると、外は楽しそうだ」

 母アーシャは、死後、僕のために、手紙を書いて残してくれた。誕生日の度に、手紙を見せてもらった。最初は、一歳の僕へ、だった。まだ、文字を読めない僕は読み聞かせてもらっていった。そして、母の手紙を読みたくて、その手紙で文字を覚えたのだ。その手紙は、母アーシャが生きた年齢までだ。それから先の手紙はなかった。

 もう、全ての手紙を読んだ後だ。僕は、それでは物足りなくて、他の人たち宛の手紙も読ませてもらった。大事にしているから、でも、いつでも読みたいから、と僕自身で書き写した。

 母の手紙のお陰で、読み書きは完璧だ。文字の綺麗さも、母の手紙で学んだ。

 母アーシャにとって、憎い相手であるリサ親子宛の手紙も、私にとっては大事な大事なものだ。これを読んで、母を感じた。

「でも、皇族になったから、彼女は僕と結婚してくれます。そういう約束です」

 僕の初恋の女性は、泣いている僕に言ったんだ。皇族なら結婚してくれる、と。だから、皇族になるためにも、頑張った。皇族の勉強もすぐ終わらせて、皇帝の勉強もして、と色々と頑張ったんだ。

「さて、今日も練習しないといけませんね。いつ、戦争が起こるかわかりませんから」

「アーサー、どうぞ」

 ティーレットは僕の手に鞭を渡してくれた。手を出せば、ティーレットは僕が欲しいもの何でも持ってきてくれる。

 僕が鞭を持って椅子から立ち上がると、犯罪奴隷リサは悲鳴をあげた。

「も、もう、やめておくれよ!! 痛いんだよ!!!」

「確か、片目が失明するほどのことをしたと書いてありました。母上、とても痛かったと書いてましたよ」

「その傷だって、すぐ、あの妖精憑きが治したよ!!!」

「そうです。だから、すぐ治してあげます。ティーレット、お願いしますね」

「わかった」

 犯罪奴隷リサは、無様に転がって、逃げようとするが、倒れた椅子に拘束されているのだが、ウジ虫みたいに、見苦しい。僕がゆっくり歩いても、すぐに捕まえられるよ。

 犯罪奴隷リサの顔を力いっぱい踏みしめてやった。

「い、痛いぃ!!」

「手紙には書かれていないことだけど、こうしないと、悪あがきしちゃうから。ほら、お前が愛用していた鞭だよ。大好きなんだよね、この鞭が」

「ひぃいいいーーーーー!!!」

 ばしんと打ってやるけど、うまくいかないな。手紙では、たまたま当たって、片目を失明した、と書いてあったな。一回二回ではないな。きっと、いっぱい、やったんだ。

「躾でやったんだろう。なら、これも躾だ。だって、お前、犯罪奴隷なんだから、存在自体が悪だ。躾しないといけないね」

 少し離れたところには、順番待ちで、犯罪奴隷リブロと犯罪奴隷エリザが、同じような拷問用の椅子に座らされていた。

「わ、わる、悪かった、そんなつもりじゃなかったんだ」

「お、お姉様、許してくださいぃ」

 一度は、喉を潰されたリブロとエリザは、魔法の治療によって、声を取り戻していた。声を取り戻した途端、無様に助けを呼んで、煩かったなー。静かに順番待ちが出来ないなんて、情けない奴らだ。

「そういえば、父上と関係を持った女、子、孫の声はどうなりましたか?」

 僕は、親子鑑定を元に、父キロンの子や孫を城に招待した。わざわざ作ったのだから、父キロンのことをよく知っているのだろう、と父の話をしてもらおうとしたのだ。

 ところが、親子鑑定を元に連れて来られた平民たちは皆、声が出せなくなっていた。薬を使って、喉を潰されていたのだ。

 喉が潰されても、魔法で簡単に治せるから、筆頭魔法使いティーレットに頼んだ。

「あれはダメだ。特殊な薬で潰されたみたいで、妖精の魔法が弾かれた。もう二度と、声は出ないな」

「そんなぁ。それじゃあ、父上の生々しい話が聞けないじゃないですか」

「アーシャが手紙でいっぱい書いてるじゃないか。あんな感じですよ」

「あれには、母上の妄想も入っています。母上は、父上のことを妄愛していましたから。実際、母上の話を彼らに聞いたら、悪評ばかり出てきましたよ」

「そっちが妄想だ。アーシャは、なんだかんだ言って、根は優しい女だ。手紙で散々、書いて、口で散々、言ったって、その根底は優しい女だ」

「そうなんだ。理解出来ないな」

「アーサーは理解しなくていい。そういうものだと、受け止めればいい」

 母アーシャの過去は気の毒だ。憐れでしかない。人を恨んだり、妬んだり、いっぱいしたはずだ。実際、手紙でも書いていた。だけど、母アーシャのことをよく知る人たちは皆、優しい人だという。

 僕は、残念なことに、母アーシャの望むような人にはなれなかった。母は、筆頭魔法使いティーレットのような残念な人になってほしい、と願っていた。だけど、私には、そういうのがわからなかった。だから、ティーレットの真似をして、体験してみたのだ。

 結果、僕は泣き虫アーサーと呼ばれている。泣きたくもないけど、泣かないといけないのは、大変なんだよ。この苦労のお陰で、僕は、初恋の女性と結婚してもらえるけどね。

「確かに、母上のいうことは正しい。僕のこの本性は、頑張って隠そう」

「ここでは、好きなだけ、出していいよ」

「戦争が起こったら、ここでの練習の成果を発揮しよう。魔法の加減が出来ないけど、そこは、僕の周囲を裏切者に固めれば、解決だ!!」

「僕の分も残しておいてね」

「わかってる。レオナ義母上みたいなこと、僕はしないよ。でも、帝国側の犠牲者は、同じくらい出しちゃうかもね」

「名誉の戦死だ!!」

「そうだね!!」

 気づいたら、犯罪奴隷リサが動かなくなっていた。打ちどころが悪かったみたいだ。足で転がしてみるが、片目は無事だ。

「ティーレット、治して」

「はい」

 まだ息が残っているから、すぐに、犯罪奴隷リサは生き返った。

こちら、年齢制限ありのほうで更新していましたが、内容をそれなりに削除して、こちらにアップしました。ちょっと短くなったり、皇族アーサーのところだけは、中途半端な一話となりました。タイトルも変えました。だいたいの内容は、同じようになったので、大丈夫だと思います。ここはちょっと、という内容を見つけたら、そこは、削除するように頑張ります。

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